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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
四章.七不思議
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11.第五の七不思議

 続いて向かうのは部室棟らしい。一階まで下りてそのまま校舎内を横断して向かう。部室棟とは半屋外の渡り通路で繋がっているのだが、駒津は確か鍵は閉めてないと言っていたし大丈夫だろう。


「次で……、五つ目になるのね。次はどんな怪談?」


「聖、第六の七不思議だよ」


「コンダクターなら説明をしてくれてもいいんじゃないの? ……第六……、これか。『第六の不思議、悪魔の映る鏡』」


 長い廊下を歩いているだけと言うのも暇なのでおさらいをしておく。なんでも、部室棟一階の階段踊り場に掛けられている鏡に夜中悪魔が映るのだとか。


「また階段なんだね」


「そろそろネタ切れしてきた? 嵩原」


「さっきはついに完全なデマだったし、もうそろそろ息切れと言った所?」


「なんで俺が責められてるんだろう」


 この中で何故か美樹本を押し退けて嵩原が一番オカ研側に寄っているから仕方ない。女子組にもすっかりと浸透してしまったようで。


「主体はあくまで鏡だよ。部室棟の姿見って見たことないかな? あれは旧校舎の頃からこの学校にあったらしいんだ」


「え? 旧校舎ってもう三十年も前になくなってるよね? それ以前から?」


「そうなるね。旧校舎が解体される際、多くの備品はまだ使えるって今の校舎に引き継がれたみたいでさ、その中にあったものらしい。多くの生徒に利用してもらえるようにって部活棟の一階階段に設置されて、以降数十年ずっと同じ場所にあるんだって」


「あの部室棟の奥の方の階段ね。確かに鏡があったわ。あんまりそっちの方は利用しないからそう見掛けないけど」


「僕も知らない」


「俺もー。運動部って一階が部室だしな」


「私も……。美術部は準備室を使わせてもらってますし」


「俺はそもそも帰宅部だから部室棟に寄ることすらしない」


 そんな物あったんだなといった感想。確か去年当たり昼寝スポット探索でやって来た覚えはあるけど、部室棟は多数の人間が往来するから断念して以降、全く寄り付いてないので記憶に残ってない。


「旧校舎の頃から多くの生徒に利用され続けた鏡は、やがて年月と共に不思議な力が宿り、夜中に覗くことで異界の住人である悪魔を映すようになった、と言うのがこの怪談だね」


「悪魔か。なんでいきなり西欧圏の宗教観がねじ込まれてきたんだろ? 映るにしてもそこは幽霊とかじゃないんだ」


「仏教的意味合いでの悪魔かもしれないわよ? それならまだ馴染みがあるって言えるわ」


「仏教にも悪魔っていんの?」


「西欧の語る所の神の敵対者といったものとは違い、仏教の悪魔は修行者を堕落の道に誘う悪神なんだよ。頑張って解脱しようって修行を重ねる人たちの邪魔するのがお仕事」


「なんか碌でもなさそうだなー」


「悪魔って名の付く奴は大概碌でもないと思うぞ」


 そんな悪魔が映る鏡。映って、それで? さっきは殺されるというオチが付いていたが、今回はただ悪魔が出るだけなのか。


「怪談はそれだけか? 悪魔が映ってそのあとにもう一捻りとかないのか?」


「どうなの嵩原」


「聖、君の手の中にはちゃんと資料があるでしょ? もし悪魔が現れたら願いを一つだけ叶えてもらえるんだって。どんな願いでも叶うけど、代わりに対価を要求されるんだとか。だから多分出てくる悪魔は西欧圏の悪魔だよ」


 魔法の鏡かな? 我が国には付喪神といった逸話もあるんだし、どうせ寄るならそっち方向で寄ったらよかったのに。こんな地方の高校の鏡に悪魔宿られたって今一ピンとこないだろ。


「願いかー。俺新しいトレシュー欲しい。今使ってんのボロボロだからさー」


「俺は枕欲しい。完全個人オーダーの特注。熟睡出来るのか一度は試したい」


「君たちの願いはちゃんとお店にお金って対価払ったら叶うから。悪魔に頼むようなことじゃないから」


 そんなこんなで情報共有なんだか雑談なんだか分からない会話を繰り広げつつやってきた部室棟。通路は問題なく通過。

 夜も九時を過ぎて深夜に近付いている。通路から見える外はとっぷりと真っ黒な闇に覆われ、冷えた夜風が首筋を撫でていく。


 特別棟、本校舎と昼間とはまた違った趣があったが、ここ部室棟も夜に訪れると中々迫力があるな。

 部室棟も本校舎と同時期に建てられている。こちらは生徒の居心地がいいようにと木材が積極的に使用されているため、建物の古さと言うか時間の経過が一見しただけで簡単に察せられる。色褪せた床に薄汚れた壁紙、歩くだけでも軋む音が立つ廊下は影でこれが旧校舎、なんて噂されるほどだ。


 そんな部室棟の闇に沈んだ姿は、まるでホラー映画のセットのようであった。ちょっとだけ低い天井に吊り下げ型の蛍光灯。懐中電灯で照らせば木板の床が真っ直ぐに奥まで伸びて、先の方は遠く小さく裏口がどうにか見えるだけ。等間隔に並ぶ扉も、併設されている水道やトイレの出入り口も、まんまこのまま『怪談』をテーマにした映画が撮れそうなほどホラーな気配に溢れていた。


「うわ……、やっぱり木造って怖いね」


「う、うん。本校舎も怖かったけど、こっちは迫力があるって言うか……」


 渡り通路から扉だけ開けて覗き込んだ面々も腰が引けている。こっちは窓も少ないため外からの明かりが乏しい。完全な暗闇が廊下のそこここに凝り固まったようにある。


「これは充分注意して進まないと駄目ね。階段を上がる時は足下をきちんと確認しましょう」


「怪我も怖いけど、この雰囲気がなんとも……。これまでの校舎とは雲泥で雰囲気が凄い」


「ここにオカ研の部室もあるんだよな」


「止めてよ。オカ研が元凶みたいに言わないで」


 きちんと明かりで廊下を照らしつつ進む。これまでのあれやこれやによりフォーメーションもクソもなくなっていたのだが、流石に今は皆それぞれ当初の二人組を元に行動している。これならばはぐれるといった心配もないし、それぞれが自分たちの進む先を照らしているので足下の安全も確かだ。朝日に裾を抓まれつつ、ギシギシ鳴る床を無言で進んだ。


 やがて奥の階段まで辿り着いた。そっと懐中電灯を上に向けると木製の階段が右回りで二階まで続いている。

 そのまま踊り場の方まで照らせば、窓から溢れるぼんやりとした白光がライトの光をぼかす傍ら、ちかりと光が一瞬踊り場の奥の方で反射した。件の鏡だろう。


「えっと、今回は人数制限とか、階段を上がったら突き落とされるとかないよね?」


「だからね聖。君のそのメモはなんのために……。まぁいいけどさ」


 呆れ声の嵩原だが時間を思ってか素直に吐く。この七不思議は本当に悪魔が映る。それだけ。現れたからって突き落とされることもない。やることは鏡の前に立ちじっと見つめ続けること。夜の時間に一人っきりで。


「そう言えば、お前この怪談も検証したのか? 部室棟に忍び込むのは難しそうだが……」


「お察しの通り無理だった。本校舎は窓に仕込みをしといてどうにかなったけど、こっちにまで手を回すのは時間が足りなかった。通路は鍵がないと通れないし、以前に生徒が勝手に集会所代わりにしてたとかで戸締まりも厳しくなっててね。この怪談に関しては俺も完全初見です」


 気になって訊ねるとやはり事前の検証は無理だったか。となれば安全性は全く検討されてないのか。さっきの階段も、今から思えば嵩原がこうしてピンピンしているのが安全な何よりの証拠だったんだよな。こいつもある意味生け贄ポジなのかもしれない。


 全員で階段を上がる。ギシギシ廊下にも負けない軋み音を立てる段差を一歩一歩確実に踏み締め、そして踊り場に辿り着いた。


 窓から外の光が踊り場に漏れ出ている。窓の正面以外は暗闇に沈んでいる中、その闇の中、二階に繋がる階段側の壁に大きな姿見が掛けられていた。


 壁の中央に鎮座する、恐らくは一メートルを超える大きな鏡。高さは嵩原くらいか、目の前に立てば頭から太腿くらいが丁度映る。背の低い子だと腰より上になるか。姿見としてはそれでも充分だろう。


 一度に二人は映れるほどの幅もある鏡は多分高価な物だと思う。一体いつ頃この学校にやって来たのか知らないが、解体された旧校舎から引き継がれたと言うのも納得がいった。よくよく見れば枠も細かい飾りがなされていて手間と金が掛かっているように見受けられる。


「大きな鏡……」


「凄い……、アンティークみたい……」


 能井さんと朝日がほうとため息を吐きつつ鏡に魅入る。これほど大きく、また手入れされた鏡なんて一般家庭じゃまずお目に掛かれないだろうからな。女子は男子と比べても鏡を見る時間は長いとか聞くし。


「……」


「……二岡?」


 こいつもそうだろうと表情を窺うと、想像とは違って何故だか険しい顔をして鏡を見つめていた。見つめていた、と言うか最早睨み付けている。


「ん? どうかした?」


 二岡とペアを組んでいた嵩原が異変に気付いて振り返る。俺と嵩原の視線が集まる中、二岡はふうと息を吐いてふるふる頭を振ってなんでもないと答えた。


「何か、ちょっと嫌な感じがしただけ。悪魔を見たとかそう言うことはないから」


 突き放すように声が硬い。機嫌が悪いのか、あるいは調子が悪いようにも見えるが。どうしたのかと訊ねてもなんでもないとしか返されない。


「私のことなら気にしなくてもいいわ。大丈夫。本当にちょっと気分が悪くなっただけ」


 結局押し切られた。嵩原、遅れて気付いた美樹本と目を合わせ仕方なくこの場は流す。本人が大丈夫と言うならそれ以上はどうすることも出来ない。


 一先ずはさっさと検証してしまってこの場を離れよう。アイコンタクトで決めて、とっとと手順を確認する。


「とは言っても、鏡の前に立って暫くじっとしておくだけなんだよね。運が良ければ悪魔が出る」


「……メモにもそれくらいしか書いてない。複雑な手順なんかはなくて、ただ月明かりがどうこうってあるだけだね」


 美樹本も冊子開いて調べるが、本当に他に条件などはないらしい。


「……こう言うのは普通、夜中の何時何分とか指定されてないか?」


「あるね。四時四十四分とか零時丁度とか。この怪談にはないけど」


「あるとしたら夜中……。その夜中って言うのも範囲広いな。月明かりって言うのが関係しそうだけど、それだけだと具体的な数字にはならないし」


 うーんと首を傾げる。随分とお手軽な悪魔召喚儀式だが、さっきの階段のようにデマであるなら設定がぼやけていても仕方ない、か? 所詮学校の七不思議、更にこれまで全て『外れ』ときているしな。


「まぁ、やってみるしかないか。どうする? 誰からやろう?」


「それは志願制で行こうか? ……二岡さん、いける? なんなら休むかい?」


「……大丈夫よ。本当になんでもないの。心配掛けちゃって申し訳ないけど、でもそこまで過保護にしなくてもいいから」


 そっと嵩原が囁くのに、若干いつもの調子を取り戻して二岡は答える。ついさっきまでの硬質な雰囲気も柔らかくなっていた。これなら大丈夫、か?


 まぁ、無理はしないようにと言い含めて検証開始。トップバッターは美樹本。


「……僕からなんだ」


「一応、聖は主催側の代表でしょ? トップでやり方を示してねー」


 否応ない流れに美樹本は渋々従って鏡の前に立つ。俺たちは鏡に映らないよう脇に退く。ライトはオフだ。月明かりだけで鏡を照らさなければいけない。


「……」


 待つこと暫し。階段側にて待機しているので見えるのは美樹本の横顔だけだ。じっと真正面を睨み付けたままで変化なし。


 一分くらい続き、そしてパッとこちらを見た。


「何も映らない。多分失敗だこれ」


 そう言って鏡から離れる。まず一人目は不発と。


「じゃあ、次誰行く? 迷うのも時間の無駄だから早い者勝ちだよ」


「はいはい! 俺やりたい! トレシュー欲しい!」


「まだ叶えてもらうの諦めてなかったか」


 次は桧山になった。イキイキと鏡の前に立つ。


「亨、ライトはオフ。鏡の正面に立って一分くらい待機ね。運が良ければ悪魔が願いを叶えてくれるから」


「おうよ!」


 軽くエコー掛かるくらい嬉々とした返事するけど、悪魔召喚ってこんな期待に胸膨らませてやるもんじゃないだろ。

 桧山は言われた通りじっと不動の体勢で待ち、そして一分過ぎてもなんら変化は起きなかった。


「亨も悪魔召喚失敗!」


「ちぇ、願い叶えてもらえなかった」


「方向性が完全に変わってる」


「次は真人行く? 先に女の子立たせるのもどうかと思うよ?」


「別にやらないって言ってないのに人の好感度下げようとすんな」


 乗せられた形で三番手は俺。ライト切って鏡の前に。一瞬で辺りが暗くなるが、背後からの月明かりとちょっと漏れてる待機組のライトで夜目が利くくらいの明るさはある。


 目の前の鏡に注目する。前面にシャドーが掛かっているように真っ暗だが、それでも俺の体の輪郭はなんとか見て取れた。ワイシャツの白ばかりが浮いていて他は暗闇の中に埋没しているけど、窓からの明かりでどうにか背景と自分の違いくらいは識別出来る。どんな風に悪魔が現れるのかは知らないが、これなら出現を見逃すといったことはなさそう。


 暫し待機。三十秒経ち、一分。じっと鏡を見ていたが何も映らない。ずっと自分と踊り場が鏡の中で微動だにしなかった。


「俺も失敗だ。なんにも出てこない」


「真人もか。これも単なる噂でしかないのかな? それじゃ、次は俺が行かせてもらうけど、いいかな?」


「う、うん。いい? 二人共?」


「いいわよ」


「はい。お先にどうぞ」


 次は嵩原がちゃっちゃと立つ。そして一分。やはり何も起こらなかった。


「俺も駄目だったよ。男はお気に召さない?」


「君じゃあるまいし。女子はどんな順番で行こうか? 立候補してもらえると助かるんだけど」


「え、えっと……」


 訊ねるがやはり我こそはと剛毅には行かない。もだもだと互いに顔を見合わせる。こんな時は二岡が率先して一番手を引き受けていたのだが、やはり何か気掛かりなのか複雑そうな顔をして前に出ようとしない。


「うーん。まぁ尻込みしちゃうか。ねぇ、嵩原。悪魔って出て来ても被害与えたりしないんだよね?」


「悪魔が直接何かするってことはないみたいだね。願いを叶えるその対価によって破滅するなんてことも言われてるけど、まぁそこは悪魔相手なら周知の事実って奴で。ただ」


 女子の怯えを軽くするために話を振った美樹本に、嵩原が意気揚々と太鼓判を押そうとしたのだが。変に台詞を途中で止めた嵩原はそこで小さい間をこさえたあと再度話し出す。


「この鏡ね、一昔前には恋愛成就のシンボルみたいに扱われていたみたいなんだよ。鏡の前に立って思い人の姿を思い浮かべる。そうするとその当人の後ろ姿が鏡面に浮かび上がって、そして両思いなら振り向いてもらえるってジンクスが」


「そ、それ本当!?」


「詳しくお願いします!」


 めっちゃ食い付いた。能井さんと朝日がぐいぐい嵩原に迫って詳細聞き出そうと躍起になってる。嵩原目当てじゃなく縋り付かれるなんてそうないだろうな。


 そして情報を搾り上げた女子二人は我先にと鏡の前に立つ。熱意が凄い。代わりに少々撚れた嵩原がこっちに戻ってきた。


「あの話本当なの?」


「噂は本当。二十年以上前までは結構ポピュラーなジンクスだったみたいで資料漁ると簡単に出てくる。次第に廃れて現在は悪魔が出る云々になっちゃったんだよね」


「思い人と悪魔って全く違うのになんでそんな変わっちゃったんだろう」


「さあ? でもまぁ、恋愛成就のお願いをするんだし、次第に願いの幅が拡がったとしてもおかしくはないんじゃない? 悪魔は願いを叶えてくれる一番連想し易いキャラクターってことでさ」


 考察に捗るが、その後ろでは見事玉砕した二人が肩落として鏡から退避している。本旨をちゃんと覚えてるか? まぁ、悪魔が出ていたらきちんと驚いてはくれるだろ。


「あ、二人共お疲れ。悪魔は出た?」


「……何も出なかった……」


「同じくです……」


「ああ、うん。残念だったね。えっと、それじゃあとは二岡さんなんだけど」


「そうね。さっさと終わらせるわ」


 一人乗らなかった二岡がスタスタと鏡の前に立った。迅速な反応にこちらも慌ててスタンバイする。とは言え、ただ鏡の前から退いてライトを下に向けるだけなのだが。


「……」


 一分があっという間に経過する。二岡でも特に変化はないらしい。じっと真面目な顔で鏡を見つめたまま、驚きも何もなく終了と相成った。


「……私も失敗ね」


「お疲れ様。結局皆悪魔なんて出なかったね。階段から続いてこれもデマ?」


「なんでも願い叶えてもらえないのか? なんだよー。期待して損したー」


「……ジンクスは本当であって欲しかったです」


「そうだよね……」


 各々好き勝手感想を漏らして早くも撤収の空気が流れる。まぁ、ここに来るだけでも時間がそれなりに掛かっているから素早く済ませられるのはいいんだが。


「七不思議の三つは物理現象もしくは嫌がらせ、そして二つはデマ。こうして纏めるともう七不思議に勝利はないな」


「七不思議の勝利って何? 不服なのは分かるよ、真人。なんたって俺は先行して知った口だからね」


 そう言えばそうだ。こいつこの茶番を一人で確認して回ったんだよな。執拗に全員参加を促すのも、変に演出するのもその鬱憤払いかこいつ。俺たちに当たるんじゃねぇ。


「はい、それじゃ次行こうか。七不思議はあと二つ。さっさと終わらせちゃおう」


「美樹本なんか元気出てきたか?」


「どうせあと二つも全くオカルトとは無縁なんだろうって予測が立った。もう怖くないから手早く終わらせる」


「美樹本君の目が据わってる……」


「……まぁ無理もないわね」


 こっちはこっちで荒んだ気配が漂う。踵を返して階段に向かう美樹本のあとに皆続いた。最初はあんなに及び腰だったと言うのに、こんなに逞しく自棄になって。


 置いて行かれないようにと進む。二歩ほど歩いて、そこでふと鏡に振り返った。今度は皆ライトを自由に点灯させているので周囲は明るい。鏡に映る像も輪郭だけでなく顔やシャツの細かい部分まで見えた。


 こうして見ると本当に曇りの一つもない綺麗な鏡だ。丁寧に扱われているんだろうなと思いつつ、鏡に映る背後の階段に目を向ける。一人がすっと階段を下りて行き、そのあとに美樹本が続いた。


 ……え? 慌てて振り返る。美樹本を先頭にぞろぞろ皆が歩いていた。抜けは、ない。


「? どうかしましたか? 先輩?」


 朝日が振り向いて声を掛けてくる。俺が続かないのに気付いたようだ。さっき見たものを思わず告げようとして、しかし思い止まる。一瞬しか見えなかったし、多分あれは見間違い。気の所為のはずだ。


「いや、なんでもない……」


 確証もないことで皆を怖がらせるべきじゃない。そう思い、とにかく見たものを首を振って頭から追い出し階段を下りていく皆のあとに続いた。





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