表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
四章.七不思議
50/206

8.第二の七不思議

ちょっと長めです

 もう疲れたって空気が漂う中、嵩原が二つ目として案内したのは図書室。階段を下りて一階の端っこだ。これ移動だけでもそこそこ時間が掛かるのでは?


「図書室……だから、次は『第三の不思議、呪われた本』か」


 ペラペラ冊子を捲って該当怪談を突き止めた美樹本が呟く。呪い……、数ヶ月前がまざまざと思い出されますね。個人的にあんまり関わりたくない怪談だ。


「またベタな文言だね」


「の、呪いかぁ……」


「三花、どうし……。ああ、うん、ドンマイ」


 鼻白む美樹本の隣で能井さんが居心地悪げに呟く。彼女は、まぁ、無関係とも言えない訳で。二岡も瞬時に思い出したようで生温く激励なんぞ贈っている。呪いという文句に過敏に反応する人間が二人もいるぞ。


「時間が惜しいからさっさと内容も確認しちゃうよ。『呪われた本。上蔵高等学校特別棟一階の図書室には呪われた本が所蔵されている。呪いの言葉に溢れたこの本を手に取ると、漏れなく手にした者に呪いが降り掛かる』……。内容も思った以上にベタだった」


 図書室前にて確認。美樹本が読み上げている間に二岡が鍵を開けた。


「この怪談の検証って、つまりはその本を見付けないといけないんでしょうか?」


「そうなる、か? 図書室から一冊の本を探し出すって、また時間の掛かりそうな怪談だな」


 朝日の疑問に答えると同時に至った結論に途端に萎える。本の山から本を見付けろって正気か? これも嫌がらせに思えてくるぞ。


「そこはまぁ、考えがあるんだよね。ね、嵩原?」


 愚痴ってたら美樹本がニヤッと笑った。美少年にあるまじき悪辣な笑顔だが、向けられてるのは嵩原だし別にいいか。


「聖?」


「さっきの美術室での一件で把握した。君、七不思議の検証を一通り済ませているよね? 当然この怪談だって本は発見済みなんじゃないの?」


 不思議そうに名を呼ぶ嵩原にそう断言する。ああ、確かに。あの絵のギミックやその制作動機すらきちんと調べ上げていたからな。今期の七不思議を事前に調べたとは申告していたが、それはただ怪談の内容を把握しただけではなく、もう検証も済ませた上での『把握』なのかもしれないのか。


 俺たちに話が持ち込まれたのってほんの数日前のはずなのに。こんな短期間で七つの怪談の背後まで調べ上げるって、どれだけ本気で取り組んでんだ嵩原の奴。


「ね、嵩原。僕たちのサポートをして欲しいって会長も言ってたよね?」


「そう来るか……。んー、でもねぇ、皆には実際に体験してもらいたいし、俺が詳細を語ったって……」


「そこはちゃんと会長の指示に従うよ。要はどこにあるのかヒントが欲しいってこと。一から探し出すのはあまりに時間が掛かっちゃうから、探す場所を限定させて欲しいの」


「ああ。そう言うこと。それならいいかな。むしろ時短を考えれば手助けはしないと駄目だね」


 一発ゴールを決めるのかと思えばそこは真面目な美樹本のことだ、あくまでサポートの枠内での助けだけを求めた。

 本当に巻きで行きたいなら嵩原の経験談を聞いて終了としてしまうのが一番だろう。でも今回俺たちに求められているのは実際に七不思議を体験したその所感だしなぁ。あまりズルをするとリテイク食らう恐れもある。


「よし、了解したってことでいいね。ありがとう、嵩原。これで探索する手間も大分短縮されるよ」


「とは言え実は俺も発見は出来てないんだよね。怪談を調べてもどこに置いてあるってヒントもないから総浚いになっちゃってさ。本棚を端から調べて行くことになって、流石に時間が足りなかったんだ」


「ええ? そうなの?」


 早速行動だと開いた扉を潜って図書室に一歩踏み込んだ所で嵩原が暴露する。これには美樹本も露骨に残念そうに語尾が下がった。


「まぁ、当然と言えば当然の話よね。本棚に置いてある数だけでも数千はいくでしょ? うちの学校、歴史だけはあるから数十年前に発刊した蔵書の類も普通に現存していたりするし」


「本好きの子からすれば、この図書室だけでもかなりの価値があるって言うよね。ネットで一万円を超えて取り引きされる古書が普通に置いてある!って喜んでたなぁ」


 真っ暗で月明かりが溢れる程度の室内を見回してそんな感想を漏らす。

 我が高校の図書室は教室二個分くらいの大きさがあってそこそこに広い。出入り口側に準備室に繋がる扉とカウンター、そしてテーブルや椅子が並んでいてあとのスペースは全て本棚で埋め尽くされている。


 入学当初からなんでここまで書籍が充実しているのかと疑問には思っていた。進学校として躍起に運営している訳でもなく、あくまで地方の一県立高校としてあるだけの我が校に書籍に充てる予算なんてあるのかなと。

 歴史があるという自慢から長い時間でちょこちょこ貯めたその結果かと納得していたけど、校長が編纂業務していると聞いてそれ系列で集まったものかと今は思う。生徒の部活動にまで影響が及んでいるんだ、ひょっとしたら書籍の収集も業務の内だったりするのかもしれない。


「んー、でも嵩原の探した所は外れって言えるから手間はいくらかは省けるか。君のことだし端から律儀に探したんでしょ?」


「そこの壁際の神話コーナーからまずは始めて、それで壁伝いに奥へ向かっていったんだ。総浚いをするならどこまで調べたのか把握出来ないとまずいしね。最初に壁際の本棚を制覇していって、それから中央へと移動したんだけど、一番前の棚を調べ終わった所でタイムアップになっちゃった。一人では無理だよ、これ」


 参った、なんて肩を竦めるが一人で全体の三分の一ほど調べたことになるぞ、それ。よくぞまぁ、そこまでの情熱を注いだな。


「だとすると該当の本は中央本棚にあるってことか。うわー……、それでも結構あるよ?」


 図書室中央に立ち並ぶ本棚群を眺めて、美樹本が実に嫌そうな声を上げる。よくぞ三分の一も調べた、しかしたかが三分の一である。残りを調べ切るのって土台無理じゃない?


「まぁ、調べるしかないでしょ。聖はメモを調べていて。ひょっとしたら何かヒントでも書いてあるかもしれない。あの会長さんが今夜一晩だけだって分かっていて、こんな時間の掛かる捜索をさせるとは思えないからね」


「ああ、うん、分かった。皆、ちょっと僕は調べに入るけど、その間捜索をお願いするね。今は時間が惜しいから、とにかく人海戦術で片っ端から本棚探って」


 あんまり気乗りはしないけども見付けない限りはどうしようもない。美樹本の音頭に返事を返し、六人で一気に本棚を調べる。


「呪われた本、とは言っても外観のヒントが何もないのに探せって……」


「あ、ごめん。怪談に続きあった。『他の本よりも存在感が薄く、また背表紙は空白のまま。如何にも妖しい装丁だけれども、しかし込められた呪いの力は本物』だって。とりあえず背表紙には何も印字はされてないってことかな?」


「分かり易い特徴だね。呪いの力が本物って言うのはちょっと怖いけど……」


「呪いなんて大体は嘘っぱちなんだから大丈夫よ。さっきの美術室を忘れたの? この七不思議は生徒と学校側の嫌がらせが生み出した虚構に間違いないわよ。絶対」


 不機嫌そうに吐き捨てる二岡だが、その言い分にも頷けるものがあるのでなんとも。


 とにかく背表紙に何も記載がない本を探して行く。電気はやはり目立つことを恐れてオフのまま、各自懐中電灯とスマホを頼りに本棚の間を練り歩く。ここでは女子に懐中電灯を渡した。その方が探索もし易いはずだ。

 折角六人もいることだし、六分割してローラー作戦と相成った。


「うへぇ、こりゃ大変だなー」


「俺は亨には期待してるんだけどね。理屈が通用しない時に物を言うのは勘だ。亨の野生の勘に期待してるよ」


「お? そうか勘かー。この分厚い硬そうな本とかそれっぽい!」


「ちゃんと背表紙見てるの?桧山君。題名書いてある奴は外れだからねー」


 声を掛け合いながら捜索を続ける。ただ背表紙を確認していっているだけなのにそこそこ時間が掛かる。何せ本棚は一つや二つではないのだ。ざっと見るだけでも手間だ。


 そうして五分ほど無心に収められた本を眺めて回ったが、未だ発見の声は上がらない。段々と焦りが募り出した。


「んー、タイトルなし、タイトルなし……。見付かんないよー」


「こっちもなし。おかしいわね? 空白の背表紙なんて凄く目立つでしょうに」


「幾つか経年劣化か文字が擦り切れているものもありましたけど、それを空白とは言わないですよね……?」


 疑問の声が上がる。今の所完全な空振りだ。まだ未調査の部分は残っているが、残りの部分にちゃんと本はあるのだろうか。


 少し気になったので嵩原を呼ぶ。


「なぁ、お前が探した箇所には本当に本はなかったのか? 見落としはしてないか?」


「如何にも怪しいって物は一々調べたし、それこそ背表紙が抜けてる本なんて見掛けたら直ぐ手に取ってるよ。間違いなく俺が探していた所には置いてなかったよ」


「そうか……。ちょっと考えたんだが、隣の準備室に実は保管されている、なんてことはないか? 七不思議として噂されるほどなんだ、誰かが人目を避ける目的で隔離した、なんてことは……」


「あ、そっちも調査済みだよ。そう言えば言ってなかったね。こっち調べるよりも準備室を探る方が面積的に楽だったからいの一番に調べにいったんだよね。結果は空振り。図書委員の子に手伝ってもらったけどそれらしい物は何も出なかったよ」


 残念と肩を竦める嵩原。あ、そうなんだ。ひょっとしてと気になったが、この程度は嵩原も予見するか。とすると、やはり本はこちらにあると。


「となると、美樹本の調査次第か。もうちょっとヒントが欲しいな」


「本のヒントはあの冊子を調べればきっと見付かるはずだ。会長さんは無茶振りはしても理不尽な要求はしないからね。きっとちょっとした推理で答えに辿り着けるような、そんな謎掛けがあの冊子にはあると思うんだ。多分、恐らく、きっと……」


「徐々に自信をなくしていくんじゃない」


 まぁ、この中であの冊子の次に七不思議に詳しい嵩原が言うんだ、俺たちが縋るべきは先輩からの指示以外にないのだろう。


 さて、それならまた探索を続けるかと自分の担当に戻ろうとした所で。


「うおっ!?」


「皆! それらしい会長の書き込みがあったよ!」


 美樹本の快哉の声と悲鳴が重なって聞こえた。それと共にドサドサと重い物が落ちる音も続く。美樹本はともかく他はなんだ? 声は桧山のものだった。


 嵩原と一瞬見合って桧山の元へ向かう。連なる本棚の列を幾つか通り過ぎれば、スマホ片手に固まる桧山の姿が見えた。足下には本が散乱している。


「どうしたの、桧山君!?」


 女子も反対側から現れた。いの一番に駆け寄る能井さんに、桧山も動きを再開させる。


「お、おう。ちょっと驚いただけだ」


「驚いたって、何があったの?」


「呪われた本を見付けたんですか?」


「いや、そうじゃないんだよなー……」


 歯切れの悪い答えを返す桧山に違和感を感じる。それは嵩原も一緒か、とにかく急いで傍まで行く。


「桧山君、大丈夫……?」


「あ、うん。問題はなんもないんだ。ただ……」


 そこまで言って桧山の視線が不意に本棚へ向かう。同時にライトを点灯させたスマホも動かす。女子の目も、同じように本棚へ吸い込まれるように向かった。


「……!?」


「ひっ……!」


「キャッ……!?」


 そして短い悲鳴が三つ同時に上がる。皆驚愕の表情を浮かべて固まってしまっている。なんだ? 桧山が驚いたそれか?


「どうした? 何を見付けたんだ?」


 慌てて近寄って四人が見ている方向へ顔を向ける。桧山のスマホが照らす先はやはり本棚だった。幾つもの背表紙が並ぶそこは、だけど目の前の棚だけぽっかりと空白が出来ている。下に散乱している本が本来なら収められていたんだろう。数冊分の空きが出来たそこは、本棚の背板が見えるはずだった。


 しかし、明るいライトが照らすそこには、木目の代わりに誰かの顔があった。


「……!」


 心底ビックリした。アーモンド型の綺麗な黒目がこちらを見ている。すっと通った鼻筋にふっくらとした頬、サラサラと流れる黒髪の横には太字の『甲子』という文字が……?


 そこまで具に観察して漸く気が付いた。これポスターか何かだ。多分反対側の本棚の背にでも貼ってある奴が見えてるだけだな。


「……ああ。ポスターが貼ってあるんだね。この本棚、背板が下半分にしかないタイプだ。だから背面に貼られたポスターが見えてるんだよ」


 嵩原が冷静に解説する。瞬間はドキリとするもののタネが分かればどうってことない。


「え……、ほんと、だ。よく見たら写真だ……」


「ビックリした。なんだってこんなとこにポスターなんて貼ってあるのよ。誰が見るって言うの」


「……こ、怖かった……」


 言葉もなく驚いていた女子たちも嵩原の解説に冷静さを取り戻した。恐る恐ると本棚の奥を覗き込んでなんだと胸をなで下ろしている。


「これを見付けて桧山は叫んだのか?」


「おう。本の隙間からなんか見えると思って、引き抜いて出て来たのがそれだからすげービビった。ポスターかー。なんだってこんなとこにあんだろうな?」


「思うにこっちの本棚は後で追加された物で、それまで前の本棚は背面を空けたままで置いてあったんじゃないかな? で、丁度いいやって壁代わりにポスターを貼られたと。本棚を置く際に外し忘れて今日まで放って置かれてたんじゃない?」


「雑だなぁ。なんだって本棚に貼るんだ。壁に貼れ壁に」


「壁には本棚が並んでいるから貼れないって言う本末転倒やらかしたんじゃない?」


「それこそ本棚動かせば済む話だろ」


 考えれば考えるだけ頭痛くなってくる。さっさと本片付けて探索に戻ろう。


「皆どうしたの?って、本落としちゃ駄目だよ。荒らしたのバレたらあとが面倒だよ?」


 美樹本までやってきた。足下の本を見て早速と注意が飛ぶ。


「ああ。まぁ、ちょっとあってね。あ、聖、こっち来て。発見したよ」


「え! 本当!?」


 あ。止める間もなく桧山の隣まで呼ばれ、そしてスマホのライトが照らしたままの本棚奥を見させられて悲鳴上げた。桧山もなんでずっと照らしてるのか。


「何これ!?」


「昔の誰かの置き土産。ビックリするよね?」


「なんでわざわざ僕に見せるの!?」


 ご尤もな文句をぶつけてる。そいつ真性のSだから多分苛めたかっただけだぞ。


「仲間外れはどうかと思って。それで、聖も何か見付けたって言ってたね。ヒントあった?」


「覚えてろ嵩原……。怪談の文書とは別に会長の書き込みがあったんだよ。『呪いは本来人目を避けて刻々と積み上げられていくもの。日の光に照らされるとその本性が明らかにされてしまうから、闇の中で静かに息づく。呪いとは目に見えるようにして発現はしないもの』だって。怪しいでしょ?これ」


 冊子を開いて該当箇所を読み上げる。見せてもらうと七不思議の怪談とは少し間隔を空けて下の方に記載されている。確かに、先輩の所感みたいだな。


「人目を避ける、日光……」


「……これだけだとなんとも……」


 困惑した声が上がるが、しかし嵩原はああ、なんて得心したと一つ頷く。


「え? 意味が分かったの?」


「これ隠喩でもなんでもなくそのままの意味だよ。つまり、呪われた本は人目を避けて目に見えない所に置いてある。それってさ、あのポスターみたいじゃない?」


 すっと指差した先、まだチラ見えするポスターに全員の視線が集まる。


「ポスター。……それ、本の後ろにあるってこと?」


「そう。多分そう言うことなんだと思う」


 人目を避ける。目に付かない。条件を挙げていけば確かに合致はする。本の後ろに隠してあればそう簡単には見付かりはしないだろう。

 そうなるとこれからは本を一々取り出してその後ろを確認しないといけなくなる。当然捜索はやり直しだ。どうしよう、帰りたくなってきた。


「それとこの日の光云々ってのも場所のヒントじゃない? つまりは光が当たらない本棚、この場合は窓からの採光が届かない箇所にあるんじゃない?」


 軽い絶望に見舞われていると更に追撃の推理が嵩原の口からもたらされる。


「そうなると、……あの隅の?」


 列から出てくるりと見回した美樹本はそう言ってどこかを指す。追って指差す方を見れば、そこは図書室の角だ。

 入り口を正面に、横を側面として図書室は長方形の形をしているのだが、その長い辺である側面には窓が取り付けられている。幾つかはカーテンを引いて本棚を設置して潰しているのだが、美樹本が指差した角は窓自体がなく今でも一番暗く影が落ちている。


「あ、そう言えば昼間でも暗い場所だったね。あそこだと確かに日の光は当たらないと思う」


 続いて顔を覗かせた能井さんも納得顔だ。どうやら一番条件に合致する場所らしい。


「調べてみる価値はありそうね」


「どうせ他に心当たりもないんだし、可能性が高いって言うなら当たってみようか」


「なんだってこんな脱出ゲーム染みたヒント制にしたのかは気になるけどな」


「会長さんからしても苦肉の策のヒント制なのかもよ?」


 そう言うことで移動。角に置かれた棚は他よりほんのちょっと小さめのサイズだ。どうやら希少本、それも純文学ばかりを集めているらしい。


「こんな希少本の背後に呪われた本が……」


「これから取り出すんでしょ? 扱いは慎重に。中には装丁も傷んでいる物があるから下手に扱うと破れるわよ」


「桧山は待機していて」


「了解!」


「そ、それでいいの? 桧山君……」


 わいわいやりながら慎重に本を抜き出して奥を確かめる。繰り返すこと二段、真ん中の棚の左端奥、そこに薄青の装丁の本?が立て掛けられてあった。


「あ!」


「これか?」


 そっと美樹本が取り出す。本棚の奥から発掘されたのは本と言うか極普通の大学ノートだった。表題も何も付いてなくてただ少々草臥れた表紙が明るいライトの下にある。これが呪われた本?


「本じゃない」


「そうだね。これはノートだね。怪談とは別の物かな?」


「でも明らかに隠されていた物だし、これはこれで怪しいわよ?」


「とりあえず中身を確認してみる?」


 嵩原の提案に賛成し、まずは中身を確かめてからとページを捲った。

 一枚目、そこにはデカデカと『都市伝説を実現化する能力を使って異世界で最強になる。序でにハーレムも作る』と表題らしきものが殴り書きされていた。


「「「「「「……」」」」」」


「おっとこれは」


 誰も何も言えない中、嵩原だけは愉快だと口端に乗せて呟く。


 無言のまま美樹本がページを捲る。次からはプロットらしき簡易的なチャートが書かれ、それと共に様々な都市伝説の名称と簡略化した説明が続く。どの都市伝説の何を実現して物語に組み込むか。どんな効果を持たせるか。ハーレム要因にするのはどれか、などなど妄想は十ページを超えて刻まれていた。


 設定集のあとはどうやら本文を書き出したようだ。それも冒頭の異世界転移をして、都市伝説が具現化するという件を書いただけで文が途切れている。一ページを越えたくらいの分量であとは白紙が続いた。


「……うわ」


 いや続きがあった。数ページ捲ったあとに唐突に乱れた字がノートの一面を荒らしている。乱れている上に重なってもいるから読み難いが、多分小説が書けないと嘆いているのだろう。展開が云々、キャラクターが云々。現代の都市伝説を異世界に持ち込んで実現なんて出来るか!なんて叫びもある。始める前に疑問に思え。そのあとはただ只管文章化出来ない己の想像力やら文章力やらへの呪いの言葉が続いた。


 なんと言うか。なんと言うかもう本当下らない。


「……これが呪われた本?」


 美樹本が震えた声で呟く。それは恐怖からではない。怒りからの震えだ。


「ある意味、そう、なのかな……? 最後は呪ってる訳だし」


「前半部分飛ばして後半だけ見ればちょっとは不気味にも思えるかもね」


 二年女子二人が答える。呪われたというハードルが実に低い。『都市伝説にタイプの子がいない!』なんて叫びもあるのだがそれ怖いか? 不気味ではあるけど。


「これが呪われた本なのかー。もっとドロドロした感じかと思ってた」


「これだってドロドロと不気味な念は込められてるよ? 己の欲望を叶えようと、ファンタジーに逃げた男の妄執が感じられる」


 それっぽいこと嘯くな嵩原。七不思議って大体心霊系の恐怖だろ。生きてる人間が怖い系はまたジャンルが違うんだよ。


「……えっと、これが正解でいい、んですか……?」


 戸惑いながら掛けられた問いに誰も何も言えない。呪われた本。手にする者を呪うという云われを持つそれは、まさかの個人の妄想を詰め込んだ痛小説ノートだった。


「認めたくはないけど会長のメモに当て嵌まるのはここだ。まさか偶然このノートがここにあったとは思えない」


「違っていたとしてもじゃあまた探しに行くの? 嫌よ。一気にやる気が目減りしたわ」


「俺もここ飽きた!」


 苦渋に満ちた声で判断を下す美樹本に次々賛同する声が上がる。俺も同意。美術室に続きなんかもう疲れた。


「一応、各種都市伝説の記載は読み応えがあるほど緻密には調べてある。また、後半の自分への呪詛も『呪い』を肯定するだけの不気味さはあるでしょ。これが七不思議で語られる所の『呪われた本』だとしてもそこまで外れてはいないと個人的には思うな」


「確かに気持ち悪いよね……」


 能井さんが酷い。不気味と気持ち悪いは等号ではないと思うんだが。嵩原のお墨付きも隠す辛辣な評価だ。


「それなら、もう次行こうか。僕嫌な予感してきたから早く終わらせて帰りたい」


 告げてさっさと撤収作業に入る。あ、ノートは元に戻すのな。このまま放置すればいずれ日の目を見ることもあるだろう。その時が作者にとっては本当の呪詛吐く日々の始まりかもしれない。


「なんでこんなとこに置いてあんだろ?」


「純文学に紛れてあるのが意味深だよね。ある意味これもまた、男の欲望に純な文学なのかもしれない」


「嵩原うるさいよー」


 退けていた本も戻し漁ったという痕跡を一切排除。終われば次に一通り図書室内を見て回り荒れていないかをチェック。ポスターの場所もちゃんと本が片付けられていた。いつの間に片付けたんだろ。


「さて、それじゃ次行こ次。なんだかんだ長居しちゃったから更に巻いていかないと」


「結局呪われた本は個人の妄想を詰め込んだ閲覧注意の痛ノートだったってこと? 手にした者が呪われるって件はなんだったのよ」


「今現在抱えている行き場のないモヤモヤ感が呪いなんじゃ? 多分数日は怪談って聞くだけであのノートの存在を思い浮かべるんじゃない?」


「しょーもない呪いもあったもんね!」


 プリプリ怒りながらもきちんと施錠をし、そして次の七不思議へと移動を開始した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ