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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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23.飛び出た真

これで『鬼』完結です。最後までお付き合い頂きありがとうございました。

「……なんでここに」


「ふふ。秘密の話をするとなれば体育館裏という立地は鉄板であると言えるね。でも少々警戒心が薄いんじゃないかい? 部室棟からは丸見えだよ?」


「……ああ。確かに……」


 こっちから部室棟がよく見えるってならそれは反対もそうか。つまりは部室から俺たちが見えてちょっかい掛けに来たと、そう言うことか?


「……何かご用で?」


「そんな露骨に『面倒な』といった顔と態度を取らなくてもいいだろうに。仮にも私は先輩なんだが?」


 だって本当に面倒ですし。……どこから聞いてたんだろうな。頭っからってのは移動時間もあって無理だろうけど、なんかこの人ならそれも可能そうというか。


「ちなみにどこからお聞きになられていたんで?」


「ふむ、永野君がどうして照魔鏡を持ってきたのかと桧山君が疑問を呈した辺りかな?」


「大分最初の方じゃないですか」


 いつから隠れて見ていたこの先輩。


「いや何、私も驚いたよ。まさかこの状況下でぽっと鏡が出て来るとは思いもしなかった。私もね、ダウジングなどしてあとあと探そうかと計画をしていたのだよ。知っているかな? こう曲げた針金を両手に持って反応のある箇所を地道に探し出すという古風な方法があってだね」


「かなり怪しいので思い止まってください」


 美樹本がまた胃を悪くしちまう。探すとなったら同行を願い出るだろうからな。


「それはそれで実地検証する機会に恵まれたとも言えるのだが、まぁ、今回に限っては早急な回収が行われたようで何よりだよ。それになんでも鏡は割れていたと?」


「……そうですね。引き揚げた時にはもう割れてました。いつ割れたのかまでは分かりませんけど」


 その話も当然聞いてるよな。桧山とは怒られるかなって少々ビクついたりもしていたが、いざ目の当たりにした先輩はと言えばニュートラルな雰囲気で怒っているのかもよく分からん。


「うむ。また下手に鬼を映さないとも限らないんだ、割れてしまった方が誰にとってもいいだろう」


「……怒らないんですか?」


「怒る? このような危急な事態を引き起こした物品に執着すると思ったかな? 私としても厚顔にも無事な回収を要請したりなど出来やしないよ」


 意外にも本当にお叱りなどはないらしい。言ってしまえばオカ研のコレクションじゃないのか?


「驚いた、て顔をしているね。そんなに意外かな?」


「話だけ聞けば貴重な品に思えます。先輩も照魔鏡なんて曰くある物をそう簡単に手放したりしたくないんじゃないですか?」


 実際に人を鬼に変える力まであったんだ。オカルト好きからすればそれこそ喉から手が出るほどに欲しがるもんなんじゃないのかね。

 まぁ、そんな品をほいほい人に貸し出すなとは当然思うけど。


「うむ。尤もな意見だね。……そして安易にそんな品を貸し出したことについて思う所もあると」


 こちらの顔色を窺ったかと思えば正確に内心当ててくるのなんなの。観察眼がいいのか、それとも勘がいいのかなんなんだ。


「いえ、別に」


「いや、君ならばそう考えるだろう。七不思議の際にも私の不誠実な点を真正面から指摘してくれたんだ。桧山君のことを思えば痼りを感じるのも当然のことだよ」


 また懐かしい話を出してきたな。何? 今更やり返すの? 今考えると何もあそこで噛み付かなくてもと後悔してんだぞこっちは。


「言い訳に聞こえるかもしれないがね。私が貸し出した当初にはなんら問題などなかったんだよ。だってあの照魔鏡は本物などではない。実際は単なる手鏡だったんだよ」


「……え?」


 今日は、なんだか、驚かされてばかりな気がする。


「いや、いやいやいや。でも桧山は鬼を見て、それで本当に鬼になりましたよ?」


「そうだね。私も目の当たりにしている。確かに不可思議な現象は引き起こされたんだ。それに間違いはない。だが、誓って言おう。あの鏡はただの鏡だ。とある御仁の形見としてあったものを、因縁があるとしてオカルト研究同好会が預かりはしたが、調査の末にそれらは単なる思い込みだと解明してある。隠された真実など映すこともないそこらにある鏡でしかない。我がオカルト研究同好会の名に懸けて真実だと告げる」


 信頼性あるんだかないんだか分かんない懸け方をしないで欲しい。いやそうじゃなく。だったらなんだ? この鏡が元凶じゃないってのか?


「……先輩は桧山が嘘を吐いていると?」


「そうではないよ。私の見解としては、なんら力を持たない普遍的な鏡であったはずのそれがどうしてか照魔鏡に酷似した力を得た、と見ている。つまり桧山君に渡したその時から、鏡が変質したのではないかと思う」


 何を、言ってる? 鏡が変質? 普通の鏡が鬼を映すようになったって?


「やはり言い訳に聞こえるかな? でもね、そうとしか考えられないのだよ。私の元にあった時にはあれは単なる古い手鏡だった。それがどうしてか桧山君の手に渡って大きく実態に変化が生じた。人の心にある感情の一部を鬼として映し出し、そしてその図を当人に被せる。正に、これがお前の真実の姿だと言わんばかりにね。いやはや、話に聞く照魔鏡とも見劣りしない立派な魔鏡に変じてくれたものだよ」


 やれやれと首を振る。つまり、何か? 先輩は端からなんら変哲のない鏡を桧山に渡していたと。そこは桧山を元気付けるためとか理由も想像出来るから別に深く突っ込んだりもしないが、でも、だとしたらなんで? どうして単なる鏡がそんな異常にも程がある力を宿すってんだ。


「信じ難いかな? だが、こんな諺を君も耳にしたことがあるだろう。『嘘から出た実』って。今回は正にこの諺通りのことが引き起こされたような気がして仕方ないんだよ」


 ふぅと思わしげに息を吐く。とんでも理論なはずなのに、先輩が淀みなく語り続けるものだから頭から否定する気も起きない。本当にそんなことが有り得るのか? いや、それ言ったら鬼自体が有り得ない存在なんだけども。


「多数の鬼が生じた理由付けにはもう少し考察は必要かもしれないがね。池に落としたそのあとは、恐らく池が鏡としての役割を果たしてきたと考えることが出来る。流石に池の中に沈む鏡をピンポイントで見て鬼に変じたとは思えない。それならば鏡の力が池全体に広がったと考える方が自然だ。明ヶ池は公園となる前から水面が酷く凪ぐ池であったらしいからな。我々もまるで巨大な鏡であるかのように夜空を映し出している様をこの目にしている。案外、その明ヶ池の特異な性質こそが鏡の力を増幅させた要因であるのかもしれない」


「あの」


 とんでもない暴露話にオーバーヒート起こしてるこっちを無視してつらつら考察語ってる先輩を思わず止める。ん?と顔を上げた先輩を真っ直ぐに見つめながら問い掛けた。


「悪いですけど、そんな語られても俺は意見なんて言えません。事前知識もそもそもの頭の出来だって良くはないですから。本格的な考察をお求めなら美樹本か嵩原に語って聞かせた方がいいんじゃないですか?」


 鏡の真実とか、鬼に変じたその絡繰りだとか、そんなの俺に聞かせられても言えることなんて何もない。目の前で生き生きと語られた所で困る。


「ああ、いや失礼。また自分の世界に入ってしまったか。どうにも一度考え出すと止まらないんだ。確証のない話をしてしまってすまないね」


「いえ」


「私もね、ここまで君に、いや、誰かにこの件の考察を話すつもりはなかったんだ。確証がないこともさることながら、実は鏡にはなんの力もなかったなどと桧山君に聞かせる訳にはいかないからね。流石に彼も怒るかもしれないし、事の真相が解明されるまではどうか秘密にしておいてもらえないかい?」


「それはまぁ、別にいいですが」


「うん。ありがとう。優しい後輩ばかりに恵まれて私も嬉しいよ。……うん、つい君に語り過ぎてしまったのは、君が桧山君に充てて告げた言葉に感心したから、かな?」


「え……」


「桧山君が鬼から人へと戻る切欠となった言葉だよ。鏡は一部の面しか映さない、だったか。あの一言に、私も甚く感心と納得を得たんだ。だからかな? つい君には真実を語りたくなってしまった」


「あれは、でも、元々は先輩が言っていたことで……」


「そう言っていたね。だがあの場面で、あの解釈で、そして君自身がそれが真だと信じたからこその説得力というものは確かにあったはずだ。そうでなければあんなにも頑なに、自分は鬼だと信じ込んでいた桧山君の心を動かすことなど出来なかったはずだよ。あの時、あの場面において、恐らくは君の一言は他のどんな諸現象の何よりも真実を語っていたのだと私は思っている。いや、そう感じたんだ。だからそんな君に私も真実を告げたかったのかもしれないな。自分のことながら不確かで申し訳ないがね」


 先輩は苦笑を浮かべた。先輩自身もよく分からない勢いで俺に語っただけなのかもしれない。俺が真実どうこうも、ただの言葉遊びか、あるいは単なる感想に過ぎないのかもしれない。とても正気で対応出来そうにない出来事ばかりが起こっていたから、先輩の中でも整理したい欲求があったのかも。


「さて、長々と詰まらない話をしてしまって申し訳ない。私が声を掛けたのはただ鏡を見付けてくれたそのお礼が言いたかっただけなのだよ。おかげで心配事の半分は片付いた。あとは池の方に力が残っていないかの確認さえ取れれば一先ずは解決と見ていいだろう。本当に助かったよ、永野君」


「……はぁ……」


「それでは、今回の噂について纏めなければならないことがたくさんあるのでね。私はこれで失礼させてもらうよ。君も気を付けて帰るんだよ。そろそろ日暮れも早くなってくる頃だからね」


 軽い挨拶を交わしたあと、先輩は凛と背筋を伸ばして部室棟の方へと帰っていった。部室で一人情報の整理などするんだろうな。そう予想を立てながら遠ざかる背中をただ黙って見送った。


「……」


 真実。多分なんの気なしの表現であったんだろうな。でも、その言葉は、俺の心に深々と突き刺さって抜けない。

 贈られてもなんら嬉しくない言葉を頭の中で反芻し、暫く体育館の影が落ちる中、一人他に誰もいないここで立ち尽くした。




 後日、蘆屋先輩から池の異変は完全に収まったと報告がされた。鬼の噂の沈静に従い公園への立ち入り禁止も解除されたその矢先のことだ。

 数回に渡る調査結果によりもう鬼が生み出されることはないと判断が下され、こうして一時期沸き立った鬼の噂も完全消滅と相成った。結局何故鬼が生じたか、照魔鏡へと変性したその理由も明らかにならないままの不完全さであるが、それでもこれで今回の噂に決着は付いたのだった。



次章、『第七章.黄昏時』は20日、日曜日から連載開始予定です。また読んで頂ければ幸いです。

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