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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
南国編

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226/247

怠惰の魔神

最近不定期更新で申し訳ありません。

「彼らが中央大陸の勇者じゃと?」

 さんさんと差し込む日差しが差し込み美しい南国の花が咲き乱れる王宮にある空中庭園に設置された東屋の前に千夏達は全員横一列で並んで立っていた。目の前にはかつて黄金色だった髪と耳が若干艶をなくし色素が薄くなった王の母親つまり皇太后陛下が千夏達の顔を胡乱気に眺めている。


 細い体の割に十分な貫録を纏った老女の言葉に別に好きで勇者になった訳ではない千夏は、老女が持つ杖に視線を固定化する。あの杖でどつかれたら結構痛そうだ。

 リルとセレナは体を小さくしておろおろと迫力ある老女を見つめている。竜達は至ってマイペースでタマは千夏に向かって「あの人誰でしゅ?」と小首を傾げて尋ねる。


「まぁ、婆さん。そんなことよりもさっさと妖精の石のありか探してくれ。会せたら探すって約束だろう?」

 とても王とは思えない気楽な服装に身を包んだこの国の国王が、ふわふわの黄金色をした耳に指を突っ込み耳をほじくりながら面倒くさそうにとりなす。

「お主は黙っておれ!」

 老婆は王を杖をダンと石畳に叩きつけて一喝する。


 老婆―――アルメリアは獣人国トルクが信仰する太陽の神に仕える巫女である。竜を連れた胡散臭い千夏達について昨晩占いをすませていた。占いの結果は『竜を従える怠惰な魔神』。まさかと思い何度も占ったが占いの結果は同じだった。

 よりにもよって『魔神』など、不吉極まりない結果にアルメリアは歯噛みする。取り込めればよいが、万が一敵対すればトルクにとって危険な存在である。『魔神』がひとたび力を振るえばトルクなど簡単に滅亡するという占いの結果に昨晩は不安で一睡もできず、気合を入れて対面してみれば、ちまちまと不揃いな少年少女達が眠たそうに欠伸をかみ殺して立っていた。


「魔法を使うのは誰じゃ?」

 油断なくアルメリアは千夏達をじっと見つめる。場馴れしたアルフォンスが代表して答える。

「チナツとリル。それとタマとレオンそれと那留ですね」

「――――竜は外せ」

「じゃあ、私とリルだね」

 眠い目をこすりながら千夏が答える。それから数度どのような魔法を使うのかをアルメリアに尋ねられて千夏は答えていく。


「――――なるほど。お主か。よく判った。要石については後で占って伝えよう」

 それだけ言ってアルメリアは空中庭園からさっさと去って行った。

「珍しいな。婆さんが大人しいのは」

 残った王が不思議そうに老婆の小さな後ろ姿を眺める。


「フェザーを呼べ!今すぐにじゃ」

 アルメリアは庭園を出た場所で自分の専属執事とメイドに向かって怒鳴り散らす。それを聞いたメイドは慌てて小走りで走り去っていく。


「お呼びでしょうか?お婆様」

 自分の執務室で朝の仕事をしていたフェザーはメイドに急き立てられ、アルメリアの部屋に入室する。この国では奔放な王ではなくアルメリアが実権を握っている。また無理難題を押し付けられるのではないかとフェザーは身構える。


「お前いくつになった?恋人はいるのか?」

 アルメリアはソファに座ったままカツカツと何度か杖をついて重々しくフェザーに問いかける。

「……21です。恋人はいませんよ」

 一体何の話だろうとフェザーは混乱する。


「そうか。ではあのチナツという魔女を落としてくるのじゃ!死ぬ気でやれ!」

「――――は?」

「あの魔女をお前の嫁にしろと言っているのじゃ!これを最優先事項とする。手を抜いたりしたらただではすまんと思え!」

 ガンと杖をついてアルメリアはフェザーに向かって怒鳴る。


「……一応理由を伺ってもいいですか?」

 たぶん何か占ってのことだろうが、フェザーは困惑したままアルメリアに尋ねる。

「国のためじゃ。あの魔女が滞在している間、この国を守る必要がある。占ったところ魔神……いや、あの魔女は食べ物に弱い。よいな、しっかりやるのじゃぞ!」

 アルメリアはそう答えると話は終わったとばかりにフェザーを部屋から追い出す。静まり返った部屋では執事が茶器を扱う小さな音だけが聞こえてくる。すっと静かに執事に差し出されたお茶にアルメリアは手を伸ばす。

「フェザーを監視するのじゃ。よいな?」

「畏まりました」

 執事はアルメリアに向かって深々と一礼をする。


 本来は毛並のいい可愛らしい娘を孫に嫁がせたかったが、国のことを考えるなら魔神を取り込んだほうがよい。アルメリアはじっと静かに目を伏せる。

「くれぐれもしくじるなよ、フェザー」


 アルメリアの部屋を追い出されたフェザーは深い溜息をつく。祖母は言い出したら聞かない性格だ。本当にフェザーが意のままに動かないと何をされるか判ったものではない。フェザーは王宮の回廊を自分の執務室に向かって考え事をしながら歩いているとチラチラと祖母の専属執事がフェザーを窺っている事に気が付いた。あからさまな監視である。

 仕方なくフェザーはくるりと方向を変えてランスロットの離宮へと足を向けた。





 その頃千夏達はウイニーの人間界デビューとして王都見学でもしようかという話をしていた。まだ早いのではないかという風竜にタマも大丈夫だったから平気だよと千夏は答える。人に慣れるなら早いほうが良い。

 ウイニーはまだ人の言葉を話せないが言葉は判るらしく、好奇心旺盛にアルフォンスの頭に乗っかって翼を広げて「ニュー!」と興奮したように鳴いている。勿論アルフォンスも大興奮状態だ。何度もエドに向かって頭上のウイニーを誇らしげに自慢する。


 そこへ少し疲れた顔をしたフェザーが合流する。王都を見学するならぜひ案内すると彼が請け負ったので全員で外出することになった。

 まず一行が向かったのは王都の建物の中で一番立派な太陽神殿だ。この世界では貴重なガラスをふんだんに使った壮麗な建物で、青みがかったガラスがキラキラと日の光を浴びて光っている。

「キラキラでしゅ!」

「ニュー!」


 タマとウイニーが目を輝かせて建物をうっとりと眺める。他の竜達も目を細めて眩し気に建物を感心したように眺める。

「竜はガラスが好きなのですか?」

 その様子を観察していたランスロットがセレナに尋ねる。

「ガラスというよりもキラキラ光るものが好きなの。でも竜じゃなくてもこの建物は素敵なの」


 建物の中は信者でないと入れないため、しばらくの間青い宮殿のような神殿を眺めた後、一行は市場へと向かう。海に近いため魚の種類が豊富で、南国特有の果物が所狭しと並べられている。

 千夏はその中で出来立てのパンにリンゴのような果物をバターと一緒に煮込んだジャムをはさんだパンに興味をいただく。

「あそこに座って食べれるぞ」

 フェザーが露天スペースにあるテーブル席を指さす。

「じゃあ、タマ達は席を取っておいて。私はいろいろ買ってくるね」

「はいでしゅ」


 タマに風竜夫婦とアルフォンス達を任せて、千夏はセレナとリルそしてフェザーと一緒に目についた露店から様々なものを買い込む。魚のフライに複数の果物で作ったソースがかかっている甘辛そうな鳥の煮物、氷の魔法がかかったフローズンフルーツに最初に目をつけていたリンゴバタージャムのパンなど。両手いっぱいに抱えて千夏達はタマ達が待つパラソルが広げてある席に戻る。

 さりげなく千夏の隣の席をキープしたフェザーがちらりと露天の影に隠れるようにこちらを覗き込んでいる執事を見つけて軽く溜息をつく。


「チナツ達は妖精の石を見つけたらネバーランドに戻るんだよな?」

 フェザーの質問に千夏はハフハフと口の中にいっぱいに魚のあつあつのフライを頬張ったまま頷く。

「そこで相談なのだが、この国にいる間だけでいい。俺の恋人のふりをしてくれないか?」

「!!」

 フェザーの一言にリルは口に入れていたパンを飲み込み、ぐっと喉を詰まらせて苦しそうに呻く。慌ててセレナが買ってきたお茶をリルに手渡し、リルはお茶を一気に喉に流し込む。千夏はというと食べる手を休めないまま胡乱気にフェザーを眺める。


「実はお婆様がチナツをいたく気に入ったらしい。どうしても嫁にしてこいと無理難題を吹っかけてきた。一度言い出したら後には絶対にあの人は引かない。チナツを恋人にするまで俺は自分の仕事ですら手を付けることができなくなる。お婆様はやると言ったらやる。平気で仕事にも割り込んでくるし、執務室から無理やり叩き出される。今も監視がつけられているんだ。あくまで恋人のフリでいいんだ。頼む」

 真剣に自分を見つめるフェザーに千夏は眉をしかめる。皇太子の仕事の邪魔をする前皇后。何の冗談だ。千夏は手についたリンゴバタージャムを舐めとり考え込む。


「恋人のフリだから、手くらいは握るだろうが誓って他には手を出さない。監視がいる前だけ親しいフリをしてくれればいい。そうだな、仕事のようなものだと思ってくれればいい。報酬はそのりんごバタージャムの製造方法や王家秘伝のタレの製造方法などはどうだ?うちの国の特産料理も毎日つける」


 王家秘伝のタレという言葉に千夏はぴくりと体を反応させる。リルはその姿にあうあうと口をぱくぱくと動かす。タマはきょとんとしたままフェザーを見上げる。「恋人のフリ」という意味がよくわからなかったからだ。

 エドは隣のテーブルから聞こえていくる会話に耳を済ませながら「なかなかいいところをついてきますね」と感心したように呟く。千夏は食べ物に弱い。手を繋ぐくらいであれば気にならないことだろう。


「本当に困っているんだ。助けてくれ」

「……そんなに困っているなら、まぁちょっとの間ならいいよ」

 千夏の返事にリルががくんと肩を落とす。

「さぁ食べ終わったから次に行こう!」

 ウイニーを頭に乗せたアルフォンスが隣のテーブルのいざこざを知らずに元気に声をかける。その後闘技場や公園などを周り今日の分の観光は終わる。帰りの道すがら千夏は片手にフェザーと逆の手でタマと手を繋ぎながらランスロットの離宮へと戻る。


 離宮に戻ると一旦離れた監視の目に気が付いたフェザーは涙目になっているリルに「すまんな。フリだけだから」と一声かけてから自分の執務室へと戻っていった。

 自分の恋心をすぐに見抜かれたリルは顔を赤くして恥ずかしそうに顔を伏せる。あくまで恋人のフリなのにやきもきしている自分が情けなくなった。もう少しどっしりと落ち着いた大人の男にならなくては……。ぐっと拳を握りしめてリルは顔を上げた。


 次の日の朝、監視に追い立てられるようにまた現れたフェザーが千夏とテラスで二人でお茶を飲んでいた。

「チナツ、斜め右後ろの茂みに監視有」

「了解」

 そっと千夏の手をとりながらフェザーは監視に声が聞こえていないことを理解しながら言葉を紡ぐ。

「さて何を話そうか」

「うーん、特にないなぁ。しりとりでもする?タコ」

「……子猫」

「コウモリ」


 いい年した男女の会話ではない。食い気と剣にしか興味がない二人は色恋とは程遠いところにいた。だがそれを知らないアルメリアの監視としてついていた執事には二人の声が聞こえないので、たまにフェザーが千夏とつないだ手を持ち上げる度、睦言を言い合いイチャイチャしているようにしか見えなかった。


評価とご感想ありがとうございます。


色気より食い気…。リルがちょっと不憫かも?

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