1000万pv 記念SS 僕のドラゴン
1000万pvの記念SSです。
いつも読んでくださりありがとうございます。
また前回募集させていただいたリクエストをしてくださったかたありがとうございます。いずれどこかで書かせていただきます。
ジリジリと暑い日差しが差し込む中、タマは麦わら帽子をかぶり楽し気に両手を大きく振りながら貴族街を歩いていく。
やがて目的地であるジャクブルグ侯爵別邸に辿り着くと門の両脇に立った門番へ首から下げている身分証をすっと差し出した。
「タマでしゅ。シャロンと遊びに来たでしゅ」
「今日も来たのか。暑いから倒れないように気をつけろよ」
「はいでしゅ」
すっかり顔なじみになった門番に声をかけられながらタマは別邸の門を潜り抜ける。
門から屋敷の玄関まで広い庭があり、その庭をタマが歩いていると屋敷の玄関がカチャリと開く。ずっとタマを待っていたシャロンがタマが来たことを窓から見つけて急いで出て来たのだ。
「タマ!おはよう」
シャロンは屋敷から飛び出て来ると自分より少し背の低いタマを見下ろして嬉しそうに笑う。
「おはようでしゅ。今日は何をして遊ぶでしゅか?」
「今日はお外で遊ぼう。明日はパーティで遊べるのは午前中だけだし、それに明後日にはもう帰らないといけないから……」
シャロンは寂しそうに少し俯いて答える。
次に別れたら次にいつタマと会えるか判らない。タマはいつも千夏達と旅を続けており、今度は南国諸島へと向かうらしい。
「お外でしゅか?お庭ではないでしゅか?」
「うん。最後にタマと一緒に王都を回ってみたいんだ。タマと一緒なら危険なんてないよね」
シャロンは小さな声でタマにそっと話しかける。
シャロンは今年5歳になったばかりだ。貴族の子息が供もなしに出歩く年齢ではない。でも竜であるタマと一緒なら危険はないとシャロンは思っている。もちろん表だってそう言ったら外に出してもらえないので、屋敷の裏庭からこっそり外に出るつもりなのだ。
「タマは強いから大丈夫だよね?」
「そうでしゅ。タマは強いでしゅ」
タマが胸を張って応えるとシャロンは「じゃあ行こう」とタマの小さな手を引いて裏庭へと向かっていく。ポケットには小さな金貨が1枚。食べ歩きするくらいなら十分なお金が入っている。
シャロンが案内した裏庭の生垣には30センチ程の小さな隙間があった。大人には通れないがシャロンとタマの小さな体なら余裕で通り抜けられる。二人で這いつくばってその隙間を抜け出ると無事脱走出来た事にシャロンは喜びの声を上げる。
「じゃあ、行こう」
「はいでしゅ」
二人は仲良く手を繋いで、貴族の屋敷が立ち並ぶ一角から中央広場へと歩いていく。
中央広場は先日の魔族襲撃の爪痕が色濃く残っていた。半壊した教会の瓦礫の撤去や近くの店の修理などに大勢の人が忙しく働いている。
「タマがいなかったら、魔族がもっと暴れたかもしれないんだよね。タマは凄いなぁ」
シャロンは足を止めて中央広場の無残な姿を目に焼き付ける。
「タマは凄いでしゅか?」
嬉しそうにタマがシャロンを見上げる。
「うん、凄い。でも相手が凄く強かったら無理しないでね。タマが傷つくと僕は悲しいから」
「大丈夫でしゅ。ちーちゃんがいるでしゅ。ちーちゃんはタマよりも強いでしゅ」
誇らしげに目をキラキラさせるタマにシャロンは「そうだね」と頷き返す。
シャロンは知らないのだが、中央広場に大きくできた巨大な穴は千夏の特級魔法のせいだ。タマはうっとりとあの時の魔法を思いだしその穴をじっと眺める。
「あ、あっちからいい匂いがする。行ってみよう」
「はいでしゅ」
シャロンは再びタマの手を繋ぎ、出店が沢山並んでいる方へと歩きだす。
「見ろよ。どうみてもいいところの坊ちゃんが供もなしに歩いているぜ」
ギトギトの油が乗った肉の串焼きを齧りながら、出店の間をうろちょろと歩くシャロンとタマの様子を眺めていた男が仲間の男に声をかける。
「本当だ。悪い奴らに誘拐されちゃうかもなぁ~」
きししと仲間の男が笑う。
「危ないなぁ。他の奴が目をつけるまえに俺たちが保護してやろう」
男は残りの串焼きの肉を口の中に放り込むとシャロンとタマの後をつけ始めた。
「美味しいね」
屋台で買った大きな肉まんをシャロンはタマと半分こにして食べ歩きをしている。
タマはもぎゅもぎゅともらった肉まんを一気に口の中に押し込む。リスの頬袋のようにぱんぱんとタマのほっぺが膨らむ。もちろんシャロンに向かって返事が出来ないのでコクコクと首を縦にタマは振る。
「タマは相変わらずだなぁ。いっぺんに口に入れたらだめだよ」
シャロンはポケットからハンカチを取り出すとタマの口の周りを拭いてあげる。こうやってタマの面倒を見るだけでもシャロンは嬉しい。
「それにしても人が多いね。僕はあまり街を歩いたことがないんだ。離れ離れにならないように手を繋ごう」
シャロンは再びタマと手を繋ぎ、メインストリートの人ごみを歩いていく。小さな二人は進みたい方向に進めず逆に押し戻されてなかなか先に進めない。
シャロンはメインストリートを進むのをあきらめて横道に入り込む。
「もう少し先に大きなお風呂があるんだけど、真っ直ぐ進めないから横道から行こうか。そのお風呂はすごく大きくていっぺんに100人くらい入れるんだって。池じゃないけどそんな大きなお風呂で泳いでみたいよね」
「タマはあまり泳げないでしゅ」
しょぼんとタマが俯くとシャロンはタマの頭を撫でる。
「大丈夫だよ。池と違ってお風呂はそんなに深くないから立てるはずだよ。そこで練習すれば泳げるようになるよ。今度南国諸島に行くんだよね? あっちは海が多いから多少は泳げるようになったほうがいいと思うんだ」
「さすがシャロンでしゅ。タマは頑張るでしゅよ」
やる気満々になったタマの頭をシャロンはよしよしともう一度撫でる。自分に出来ることは殆どない。少しでもタマの役にシャロンは立ちたかった。
「お風呂~お風呂~」
千夏作成のお風呂の歌をタマが口ずさみながら二人は裏路地を歩いていく。
人影がまばらになったT字路を通り過ぎようとしたところで、小さな横道から横から飛び出して来た男にシャロンは体を抱え込まれ、そのまま男は横道へと後退する。
「!!」
繋いでいたシャロンとの手が引っ張られたことにより振りほどかれたタマは、シャロンの口許に手をあて抱きかかえた男をじっと見つめる。
シャロンを抱えた男は黒いローブをすっぽりと纏い、人相が良く見えない。背はエドと同じくらい高く、体つきはガッシリとしていた。シャロンはジタバタと手足を動かすが、大人の男の力で抑えつけられ殆ど動けない。その男の横にもう一人男がいてこちらも黒いローブで身元を隠している。
「こっちの坊主を痛い目に遭わせたくないなら大人しくしな」
シャロンを羽交い絞めにした男が低い声でシャロンに耳元で話しかける。シャロンは大人しく暴れるのをやめ、じっとタマを見つめる。
「坊主、お前も大人しくついてきな」
もう一人の男がタマを手招きする。
「悪い人でしゅか?」
タマはじっと黒いローブ姿の男達を見上げる。
「いい人ではないなぁ」
小馬鹿にしたような口調で男がタマに答える。
タマはしゅたっと片手を前に重心を低く構えると、目の前にいた手ぶらの男の懐に素早く飛び込むと鳩尾に一撃拳を打ち込む。
「ぐっ……」
男が前のめりに倒れ込む間にもタマはシャロンを抱えた男の腕を小さな腕でがしっと掴むと思いっきり捻りあげる。
「ガァァァァ!」
あまりの激痛に男は抱えていたシャロンから手を離す。シャロンはそのまま地面に放りだされるが、たいして高さがなかったのでかすり傷程度で済んだようだ。
ぼきりと骨が折れる音と男の絶叫が静かな裏路地に響き渡る。
「どうした!」
すぐ近くにいたのだろう。二人組の兵士が駆け寄ってくる。
タマは男から手を離し、地面に倒れたシャロンを助け起こす。
「大丈夫でしゅか?」
「うん。タマありがとう。タマが守ってくれると思ってたから怖くはなかったよ。やっぱりタマは強いね。格好よかったよ」
シャロンは笑顔でタマを見上げる。
「格好いいでしゅか?」
タマは褒められて嬉しそうだ。タマにとって「強い、凄い、格好いい」は最上級の褒め言葉だ。
「大丈夫か? 気にして後をつけていたんだが、少し離れすぎた」
兵士達は悶絶して倒れている男たちを一瞥してからタマ達に声をかける。彼らは中央広場でシャロンの姿を見つけてから少し離れて後をつけていたのだ。
「大丈夫です。タマが助けてくれました」
シャロンが誇らしげにそう答えるのを見てますますタマは嬉しそうに笑う。
でもさすがに騒動を起こしたので、屋敷へ強制連行されることになった。タマに泳ぎを教えることが出来なくてシャロンは少しだけ残念そうだった。
「しかし見事に骨が折れているな」
あらぬ方向に腕が曲がった男と気絶している男たちを見て兵士達は怪訝そうに眉をしかめる。
侯爵家の子息が言うにはあの幼児がこの男達を倒したらしいが、どう見ても怪力をもった大男でないなとこの状態にすることは難しい。
「まぁ特殊な魔法でも持っているだろう、深く考えても判らんものは判らん」
そう結論づけて一人の兵士は男たちを見張るために残り、もう一人はシャロンとタマを侯爵邸別邸まで送り届けることになった。
帰ったあとシャロンは散々執事と母親に怒られた。二人の説教が済むと城から戻ってきた父親に声をかけられる。
「シャロン、タマと一緒に王都を出歩いていたんだって?」
また怒られるのかと身をすくませたシャロンに侯爵は苦笑し、息子の頭に軽く手を置く。
「大分お説教されたみたいだから私はもう何も言わないよ。タマがシャロンの友達でよかった」
優しくそういわれてシャロンは顔を上げる。
「うん。タマは僕の友達なんだ」
強くて格好いいドラゴン。ご飯はうまくまだ食べられないけど、最高のドラゴンなんだよとシャロンは嬉しそうに話した。
評価とご感想ありがとうございます。
主役を誰にしようかと悩みましたが結局……。たまには彼を書くのもいいなぁと。
アルフォンスとは違った意味でタマLoveですね。




