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フルール村のクリスマス 後編

借り物競争も終わり、盛り上がっていたフルール村に静かな夜がやって来る。

夕食を終えた竜達が戻ってくる前に村の中央広場のいろいろな場所に置かれた小さな蝋燭に火が灯る。その炎はゆらゆらと軽く風に揺れながら宴が始まるのを待ちわびている村人達の顔を照らす。


竜達が戻ってくるとすぐにクリスマスという宴が始まる。

領主である千夏の乾杯の音頭を皮切りに飲めや歌えの大宴会。残念ながらホワイトクリスマスにはならなかったが、蝋燭に照らし出されたラッキーツリーの飾りの鈴がキラキラと光り幻想的な雰囲気を醸し出している。


宴会の最後に出てきた巨大なクリスマスケーキに千夏は目を輝かせる。一度思いっきりケーキをそのまま齧ってみたかったのだ。領主の千夏がおいしそうにケーキをそのまま齧るものだから、タマや子供たちがそれを真似をしてケーキに食らいつく。

鼻の上に白いクリームをべったりとつけて嬉しそうに笑うタマや子供達を眺め、エドはこれでは叱れないと溜息をつく。


楽しかった宴も終わり、最後に千夏がラッキーツリーの傍に近寄り場を締める。

「このツリーは月夜の晩にお願いごとをすると叶うかも?!と言われているそうです。最後にみんなでお願いごとをして今日のクリスマス会を終わりにしましょう」

千夏の言葉の後に村人達が口々に一斉にお願い事をラッキーツリーに声を出して伝える。

聞こえてきた感じではだいたい事前に書いた願い事と大差はないようだ。


タマもコムギもじっとラッキーツリーを仰ぎ見てお願いをする。

レオンも「願わくばみんなといつまでも一緒にいたい」と真摯にラッキーツリーに願いを伝える。


「では、よい夜を!」

千夏の解散の合図で村人達はそれぞれ家路を辿る。家までの短い道のりで今日の出来事を楽しそうに話す村人達を見送り、千夏は澄んだ夜空を見上げた。



「さて、これからプレゼント配りの分担をします」

千夏はアイテムボックスから村の地図を数枚取り出し、那留やパーティメンバに配っていく。

「トナカイの代わりに竜に乗って配ります。また煙突がないので、こっそりと気が付かれないように忍び込んでプレゼントを置いてきてください。でもまぁ見つかったときのようにサンタの衣装も用意しています」

千夏は真っ赤な服を取り出しプレゼント配り係を担当するアルフォンス達に渡す。


今回の「サンタクロースになって竜にまたがってプレゼントを配ろう」クエストは大人だけの参加となっている。

タマやコムギを一度寝かしつけてから千夏は参加しているのだ。当然レオンにも内緒である。

こっそり屋敷を抜け出してきた千夏とアルフォンス、セレナそしてエドとリル。それに付き合う那留を含めた竜が5匹。


村人達は家に鍵をかける習慣がない。なのでこっそり忍び込もうと思えばできてしまうのである。

ちなみに向こうの世界でのサンタクロースの逸話は以前村人達には伝えてある。忍び込んだのがばれたときにはサンタクロースを名乗るようにと千夏はアルフォンス達に指示を出す。


一応すぐに千夏やアルフォンスだとわからないように、口元にはマスク、目元は黒縁の度なし眼鏡をかけている。実に怪しい人の出来上がりなのだが、千夏は満足そうだ。


村人が寝付くのを待ってからそれぞれがプレゼントが入った袋を背負い、竜に乗って空へと飛翔する。

千夏のトナカイ役は那留だ。地図に書かれた配達目標の家の前に那留に降りてもらうと、千夏はその家の前で耳を澄ます。


「寝てそうね」

千夏は人生初の不法侵入をすべく、ゆっくりと引き戸のドアを滑らせていく。

抜き足差し足忍び足。多少まごまごながらも、寝ている親子のそれぞれの枕元に小さな箱を置き千夏はそっとその家を去った。


運よく一軒目が無事に終わったので気を抜いたのがまずかった。二軒目で土間の敷居で蹴躓(けつまづ)いて、寝ていた老婆を起こしてしまった。

「おや、どこのどなたさんかい?」

眠そうに老婆が穏やかに千夏に尋ねる。泥棒などというものはこの村には縁がないものだった。


「サ、サンタのクロースなのです」

千夏は慌てて、どもりながら答える。

「ああ、領主どんが言ってた……。ご苦労さんだべ」

老婆は寝ぼけながらぺこりと千夏に向かって頭を下げる。千夏はそそくさとプレゼントを渡して、「ではっ!」と手を挙げてすたこらさっさとその家を後にした。

結構ドキドキして、なかなか心臓に悪い。


その後もなんとか見つからなかったり見つかったりを繰り返しながら千夏はプレゼントを配っていく。

「いやー、この村は本当に凄いわ」

見つかってしまった家では夜遅くなのにお茶を出してくれようとまでしてくれる人がいた。こんなにのん気でいいのだろうか。

それに変装しているとはいえ、一度も千夏であることがばれなかったことが不思議だ。


一応全員分配り終えると千夏は外で待っていた那留の背にのり屋敷へと戻っていく。

転移したほうが早くて安定感があるのだが、今日はサンタクロースなのだ。最後まで竜に乗るべきだと思っていた。

最後にパーティメンバに配るプレゼントのみが袋には残っている。

千夏はここまで運んでくれた那留をちょいちょいと手を動かして呼ぶ。


「ん?」

那留は人に変化して千夏に近寄ってくる。

千夏はすっと那留の前に手を差出し、「メリークリスマス」といってアイテムボックスからみそ汁が入った器を取り出す。

那留の闇チームは借り物リレーで優勝できなかったので夕飯でみそ汁を飲めなかったのだ。


「おっ、俺にくれるのか」

那留はほくほくとみそ汁を受け取り、ずずっとまず一口すする。

竜になって味覚がぼんやりとするようになったが、かつて日本で食べたわかめの味噌汁の味を那留は思い出す。


その間に千夏はテーブルとイスを一つ取り出して、テーブルの上に出し巻たまごと白いご飯そして焼き魚を取り出す。プレゼントがみそ汁だけだとなんかわびしいと思ったので日本食セットにしてみたのだ。もちろん作ったのは千夏だ。味はまぁ……竜ならおいしく食べられるだろう。


那留の夜食に付き合っている間にアルフォンス達が戻ってきた。

「どうだった?」

「誰も起こさずに無事完了した」

ぐっとアルフォンスが親指を突出し、ミッションコンプリートを宣言する。セレナもエドも千夏とは違い誰とも遭遇しないで済んだようだ。リルは千夏と同じく寝ている住民を起こしてしまったようだが、何とかサンタだと名乗って場を乗り切ったらしい。


「それじゃあ、メリークリスマス」

千夏は袋からプレゼントを取り出し、エドとセレナ、リルそしてアルフォンスへと配っていく。

「えっ、いいの?」

自分ももらえると思っていなかったセレナは嬉しそうにプレゼントの箱を受け取る。


「うん。開けてみて」

千夏に言われて4人は小さな木箱を開ける。

セレナへのプレゼントはつややかな淡いブルーのレースが付いたハンカチだった。

この世界ではレース付きのハンカチを持っているのは貴族くらいなので、セレナは驚き、それをじっと眺める。実際セレナの身分でレースのハンカチを持つことはおかしなことではないのだが、根っからの庶民であるセレナには恐れ多くて手を出せない一品だった。


「ありがとう、チナツ」

セレナは千夏をぎゅっと抱きしめてお礼を言う。


アルフォンスへのプレゼントは本だった。最近出たばかりの勇者と竜の物語の本なのでたぶんアルフォンスが持っていないものだと思って買ってきたのだ。

エドにはスカーフを。リルには魔法を保存できる小さなマジックアイテムがペンダントになったものを送った。男性陣にも千夏のプレゼントはなかなか好評だったようで、笑顔で千夏へお礼を言う。


「さて、那留も食べ終わったようだし解散しますか」

千夏は取り出したテーブル等をアイテムボックスに仕舞い込むと那留と別れて寝静まった屋敷の中へと入っていく。屋敷のメイドさん達にはすでにエドがプレゼントを配り終わっている。


千夏は自分の部屋に行く前にレオンの部屋へこっそりと忍びこむ。

「何だ?」

レオンは千夏の気配にすぐに気が付きがばりとベットから体を起こす。

(やっぱり、ばれるか……)

千夏はへらりと笑って、訝しげにこちらを見ているレオンにそのままプレゼントの箱を渡す。

「メリークリスマス!レオン」


レオンは口元をかすかに持ち上げてプレゼントの箱を見下ろし自然に微笑んでいる。

「チナツが僕にプレゼントをするのはお見通しなのだっ!」

そういいながらレオンはベットのサイドテーブルに置いておいた小さな皮袋を千夏へ放り投げる。

「―――とっと」

千夏はゆっくりと投げられた皮袋を受け取る。


「僕達兄弟からのプレゼントだ。受け取るがいい」

レオンが胸を張って得意げに言った。タマがよくやるポーズだ。

千夏はくすりと笑うと皮袋の中を開けてみる。皮袋の中には3つの小さな宝石がついた指輪が収まっていた。薄いオレンジ、赤、黄色。3匹の瞳の色と同じ色の石だ。


「これってオーダーメイド?」

「いや、タマが見つけた。本当はさっきまでタマもコムギも起きて待っていたんだが、チナツが帰ってくるのが遅くて寝てしまったんだぞ」

運よく瞳と同じ色の指輪を見つけるのは大変だっただろう。

レオンの文句を聞きながら千夏は笑う。


「リルも出資してくれたから礼を言っとくのだぞ」

笑い出した千夏にレオンは気難しげな表情を作る。

「うん。ありがとうね」

千夏は手を振ってレオンの部屋を出ていく。


「……ただいま」

ベットの上でぐっすりと眠りこんでいるタマとコムギを見下ろし、千夏は掛布団をそっとかけてやる。

育ちざかりの2匹はあまり夜遅くまで起きていることができない。

レオンの口ぶりだと結構頑張ったのだろう。二匹の幸せそうな寝顔を見て自然に千夏の頬が緩む。


それぞれの頭の近くにプレゼントの小箱を千夏は置いた。

サンタクロースが持ってきてくれたといったらタマとコムギは信じてくれるだろうか?

「メリークリスマス」

千夏はそう呟き、ゆらゆらと揺れる小さな明かりをふっと消した。

評価とご感想ありがとうございます。


いろいろなものが入りきらなかった後編でございます(汗

端折りまくりですが、書きたいところだけは書いたというところでしょうか……


明日は仕事納めでバタバタしていますので、たぶん投稿できないような気がします。


あと1話目の出だしを変えてみました。

前は王都の魔族との戦闘部分を書いていたところですが、今回はフルール村で昼寝をしている出だしにしてみました。

相変わらず迷走中です。

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