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フルール村のクリスマス 中編

遅くなりました。

村人達は王都で村では手に入らないちょっとしたものを買い、ほくほくと村へ戻ってくる。お昼に食べた魚料理もとても美味しく、今年はいい年だったと振り返る。

「領主どんが来てから楽しいべ」

「うんだな」

そんな声がちらほらと聞こえてきて、ニルソンは日々村のために駆け回っている苦労が報われた気がした。


「おなかいっぱい食べたら、次は運動会だべ」

カンカンとクリスマスツリーの下で村長がフライパンを叩く。

借りもの競争いや正確にいうと借りものリレーは6チームにわかれ、一位のチームには千夏特製味噌汁が夕飯に一品つくことになっている。味噌は太郎監修の元千夏が昨晩作り上げたものである。


「味噌汁飲みたいかぁぁ!」

「「「「おおぅ!」」」」

村長の叫びにノリのいい村人達や那留が腕を空に突き上げる。


スタートは村の広場から少し離れた家畜小屋でそこで借りるものがかかれた紙を拾い、その書いてある内容の物を借りて来る。ツリーの前で次の走者とたすきを交換して、次なる借りものを探してまた家畜小屋まで戻る。延々と往復を続けることになる。

参加走者は竜も合わせて60名。残りの村人達はどのチームが勝つかを予測し、そのチームの応援団となることで味噌汁権を獲得することになっている。


今回は千夏はニルソンや村長たちと審判係で競技には参加しない。チームは竜の種類に合わせて、火・水・風・土・闇・光の6チーム。

それぞれのリーダーは以下の通りである。

火チーム アルフォンス。

水チーム レオン。

風チーム セレナ。

土チーム リル。

闇チーム 那留。

光チーム タマ。


太郎は土チームでリーダーを任されて少し不安そうなリルのサポートをしている。

村人達がバラバラと優勝しそうなチームを選び応援席に座り込む。

第一走者は全て村人達でチームの特有の色をあしらったたすきをかけ、千夏の合図を今かいまかと待っている。千夏は観光で使った赤い旗を持ち、スタート地点で「よーい、どん!」と大きく旗を振り下ろす。


普段田畑で足腰を鍛えた村人達は千夏の合図で一斉に走り出す。

第一走者へのお題は「曲がっていないおたま」。

紙を拾い上げた村人達が一斉に村長に向かって走っていく。おたまと言えば村長ではあるが、彼が握っているのは曲がったおたまだ。途中でそれに気が付いた数人の村人達は自分達の家へと走っていく。


「母ちゃん、おたまどこだべさっ!」

家の中から顔を出した村人が応援席に向かって叫ぶ。呼ばれた奥さんは笑いながら家に向かって小走りする。その姿にどっと応援席から笑いが漏れる。他の第一走者の奥さんも気になったようで家に向かって走り出す。台所をひっちゃかめっちゃかに荒らされたらたまったものではない。


村長からおたまをかりて折り返し地点に向かった村人は「曲がっているから駄目です」とニルソンに駄目だしされて、慌てて家に走っていく。

「走れぇぇぇぇ!」

どうやら火チームだったようで、アルフォンスが腕をブンブンと振り回しながら叫んでいる。


その後「クワ」や「桶」など普通なものから「小さくてかわいいもの」など曖昧な表現なものが出始める。これは主観なので本人がそう思えばそうなのだろうだが、コムギを連れて走った村人はセーフだったが、タマネギを持って走った太郎に審判が首を傾げる。


「小さいけど可愛い?」

ニルソンが首を傾げると太郎はずっと玉ねぎをニルソンの前に突き出し、タマネギの可愛らしい曲線についてこんこんと説明を始める。

――――――――最後にはニルソンが根負けしてOKとなった。


自分の家の老婆を連れて行った村人もおり、ニルソンはそこに何とコメントしていいのか少し困って「問題なし」と告げる。

応援席の村人達は持ち寄ったものを審判に対する説明を聞きながら、大いに笑う。


「格好いいもの」では人気が竜に殺到し、那留やタマなどが手を引かれて連れていかれる。アルフォンスやセレナも村人に借りものとして頼まれたときにはとても嬉しそうに笑っていた。

アルフォンス達も剣士として村人達の憧れの存在なのだ。


次は「領主どんの好物」というお題だ。


「チナツなら食べ物なら何でもいいんじゃね」

応援席に相談に来た村人に那留はそうアドバイスする。単純だが間違ってはいない。

一度そのお題で駆り出されたものは使えないルールになっている。

セレナはジャガイモを運びこんだ。村人達は果物やパンを運び込む。


アルフォンスは館に飛び込み枕をかかえてくる。

レオンは紙を開くなりタマとコムギを連れて走り出した。

「ちーちゃん、タマを食べるでしゅか?」

好物と聞いて食べるものを連想したタマがきょとんとOKを出した千夏を見上げる。


村人達はタマのセリフを聞いて笑い出す。いくら領主どんでも竜は食べるまい。

「なんか食い意地が張っているように思われている気がするんだけど」

千夏はちょっと複雑そうにそのお題の審判を務める。


今のところトップは水チーム。続いて土、風、闇、光、火と続いている。

そして最終お題の「大好きな人(竜の場合は竜族から選択)」。

これを仕込んだニルソンは紙を見て固まっているリルをじっと眺める。

竜の場合は竜族から選択としたのはタマがこのお題に参加したときを考えてのことだ。


千夏の話ではクリスマスというのは恋人たちの記念日でもあるらしい。

赤い顔をして千夏を見ているリルにニルソンはヤキモキする。

領主には早く世継ぎの子供を作ってこの国を安定させてほしいとニルソンは思っている。千夏の周りにはアルフォンスやエドといったリルの他にも男性はいるが、この二人はエッセルバッハにいずれ戻ってしまう人達だ。


千夏は押し付けられた結婚をするタイプではない。早く世継ぎをといっても政略結婚に聞く耳を持たないであることは短い付き合いのニルソンにも判っている。それならばと養子を拾ってきそうだ。

さすがに彼女も人の国の跡継ぎにタマを指名することはあるまい。


唯一千夏に近い男性陣の中でリルは千夏に好意を抱いている。それは誰が見ても間違うことがない程判りやすい。二人を恋人として想像するのは少し難しいが、家族として考えるのであれば理想的な家族になりそうなきがする。千夏が恋愛感情という女性的な考えがあるかどうかは甚だ疑問ではあるが、出来るならうまく行ってほしいものである。


(頑張れっ!)

ニルソンは思わずぎゅっと手を握りしめる。

それに後押しされたのか判らないがリルが思い切って顔を上げて千夏へと近づいていく。


「あ、あの……」

真っ赤な顔をしたリルは手にした紙を千夏に差出し、もう片方の腕を伸ばす。

千夏はリルに差し出された紙の「大好きな人(竜の場合は竜族から選択)」を見てふと考えてからにっこりと笑う。


リルが普段から親しい人になると自分かセレナのニ択になる。

アルフォンスやエドはさすがに選ばないだろう。さすがに大好きな人を男に選ぶ度胸はリルにはないと思われる。

セレナは一度別のお題の借り物で呼ばれたので、一回もまだ借り物として呼ばれていない自分を選んだんだろうなと千夏は推測した。残念ながらリルの気持ちは千夏には伝わっていなかった。


リルもさすがに千夏の表情を見れば自分の気持ちが伝わっていないことが判り、がっくりとうなだれる。

精一杯男の子力を使ったのに……。


いや、ここでくじけてどうするのだ。

再びリルは項垂れた頭を起こし、千夏の手をぎゅっと握りしめる。

「千夏は俺の一番大好きな人です!誰よりも大好きです」

真っ直ぐに千夏の目を見てリルはきっぱりと言い切る。だがすぐに顔が茹でたタコのようにかぁっと赤くなってしまい締まらなかったが……。


だが悪くはない。

真っ赤に染まりまくったリルの顔色で千夏はリルが言っていることをやっと理解したのだから。

千夏も少し赤くなって何を言っていいのか判らなくなる。面と向かって真っ直ぐに告白されたのは初めてのことなのだ。


千夏もリルのことは大好きだ。異性としてどうかといわれるといままで考えたことがなかったので、すぐに答えはでない。恋愛事など他人事の世界だと思っていたのだ。


わぁっと村人達が突然のリルの告白に盛り上がる。

千夏の隣にいた村長がそっと千夏の手をとり、リルの差し出した手の上に重ね、ぽんと二人の背中を押す。とりあえずゴールしてからゆっくりと二人で話すべきだ。


「……行こうか」

「……そうだね」

千夏の手を引いてリルはゴールを目指す。


「やっとスタートラインですか」

リルの恋心に気が付いていたエドは二人を見送りながらそっと呟く。鈍い千夏がスタートラインにやっと乗っただけでも大したものだ。だが先は結構長そうなきがする。まずは異性としてリルをこれから見ていくことになるのだから。

二人のことよりもチームの勝敗を気にして応援しているアルフォンスにエドはちらりと視線を移す。

「うちの主は当分先のことですかね。もう少し成長してもいい気がしますが……」


すぐ隣にタロスとフィーアに手を引かれたタマが赤い顔をしている二人を不思議そうに見上げる。

「ちーちゃん」

タマが話しかけようとするのをタロスがそっと遮る。

「タマ、こういうときはそっとしてあげるんだよ」

「?? そうなんでしゅか?」

「そういうものよ」

フィーアにもそういわれてタマは素直に頷く。千夏が気になったがタマは二匹に手を引かれてゴールをくぐる。


「はい。確かに「大好きな人」ですね」

ニルソンはリルから渡された紙を読み上げ満足そうに笑う。

二人は恥ずかしいのか互いに別々の方向に顔を動かす。

とても20歳を過ぎた大人のようには二人共見えなかった。

12/25 リルの決めセリフ周りを変更しました。

借り物の「大好きな人(同種族限定)」⇒「大好きな人(竜の場合は竜族から選択)」に変更しました。


評価とご感想ありがとうございます。


本当に恋愛は書けません。なので中学生日記並になりそうです。

意識し始めたってところでしょうか。

二人とも初心者だからね(といってごまかす)

実際にどうなっていくのかは時折書いては行こうと思いますが、恋愛メインではどうもかけそうにないです。ごめんなさい。

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