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フルール村のクリスマス 前編

「とりあえず3割の人が王都にまた行きたいと書いてあったから、これはクリスマス当日に一緒に王都に行くことでいいと思うの」

屋敷の食堂で千夏が集計された紙を見て話し始める。

「一部の村人だけを連れていくのか?」

アルフォンスが手を上げて質問する。

「新規入植者の人は前回王都に行っていないから連れて行ってあげたいんだけど。全員で行くとしたら予算足りる?」

千夏はこの会議に参加しているマーカスに尋ねる。


「全員で行くとなると家畜の世話を頼まないといけないですよ。それの出費と今回は国境の出入りでのお金が必要になります」

マーカスが帳簿を眺めながら別の紙に全員で行った場合の大まかな費用の出費を計算し始める。

彼はさびれた町の以前町長をしていた人物で主にネバーランドの経理を担当している。

更に王都での食事代を追加しおよその今回の出費を算出する。


くりすますという特別イベントのための予算(宴会代、プレゼント代その他もろもろ)を合算し、マーカスはニルソンにそれを見せる。

宴会代はほとんど田畑や森でとれたものを使うつもりなのでそれほど経費はかかっていない。やはりプレゼント代がその予算の多くを占める。


新しく入った収入は連合国からの援助金、村の作物の収益に竜から渡された金、それに王都で売りさばいているレシピ代から派生する特許権とコーヒー、薬草だ。

今年は作物が順調に育ったため、村の懐は温かい。竜から渡された金だけでなんとかくりすますというイベント代をひねり出すことは可能だ。


マーカスはどんぶり勘定だったネバーランドの国費(村のお金)を整理するにあたり、領主用へ納める税収も村の資産として今まで扱われていることに疑問を感じていた。

今の領主である千夏は華美な服装や贅沢には頓着していないので、カガーンでの報酬も村の予算に献金している。でもそれでは次代の領主への遺産も残らないし、次代の領主が千夏と考え方が異なった場合に問題となる。できるだけ領主のお金に手を付けないで残す方針に彼は切り替えた。


じっとマーカスの計算が終わるのを全員が見守っていたことに気がつき、マーカスは軽く咳払いをしてから「予算的には問題ありません」と答える。

千夏はほっとしてクリスマス当日の予定をみんなと一緒に詰めていく。

村人達が王都で買い物している間に手分けしてクリスマスプレゼントの用意をすること。ルナ達はその間に宴会の準備を進めることが決まる。


問題は王都に行きたいと言っていた人のプレゼントだ。これはアルフォンスがまたタッカー達を総動員してその人達についてまわり欲しがっていたものをこっそり買うことで決着する。


「飲んで食うだけでもいいが、何かイベントはやらないのか?」

会議に参加していた那留がお行儀悪く椅子の前足を浮かせ、後ろ足でキイキイとイスをこぎながら質問する。

「昼には帰ってくるだろう?夜の宴会までは時間が空くと思うんだよな」

せっかくなのだから一日何か楽しめた方が得だと彼は考えているようだ。


「クリスマスで昼間のイベントね。何かあったっけ?」

千夏は首を傾げる。

「別に向うのクリスマスを意識しなくていいんじゃないか?俺としては旗獲り合戦のようになにか体を動かすことがしたいな」

「低予算のイベントなら特に私からは何もありませんよ」

マーカスが一応念を押しておく。


「狩猟祭だと村人は狩場を見れないし、時期も外れているなぁ」

アルフォンスはうーんと唸りながら腕を組む。

(つまりあれやろ?妖精の三本勝負みたいな何か盛り上がることしたんやろ?)

シルフィンが剣からにょきっと現れ、那留に尋ねる。

那留は妖精の三本勝負を知らなかったので、セレナからその情報を聞いて首を縦に振る。


竜と人とでは体力が違うので一緒に楽しめそうな運動イベントと言われて千夏は頭を悩ませる。

「運動会でやったものの中で借りもの競争くらいなら俺でも参加できそうかな」

太郎がのほほんとお茶をすすりながら提案する。

「借りもの競争か。いいんじゃね、それで。それなら村人も参加できるしな」

競争という名が付けば那留は何でもいいらしい。竜は闘争心が高い生き物だから競争は大好きだ。


確かに必要なのは紙くらいなものなのでそれほどお金はかからないし、借りものをすることによって竜と人の交流も更に深まるかもしれない。

千夏は太郎と那留以外のメンバに借りもの競争の説明をする。


「別にものじゃなくてもいいんだよね。例えば「好きな人」とか人でもいいのよ。好きな竜とか借りものに入れておくと竜の中で誰が一番人気なのか判るかもしれないね」

借りもの競争の場合順位よりも借りてきた内容を楽しむことが出来る。いっそのこと同じレースでは同じ内容を書いて出してみるのも一興だ。人によって違った反応が出るのも楽しいだろう。


千夏の説明にほぅとニルソンが声を上げる。イベントとして告白も兼ねることが出来るというのか。

もしかしたらこのイベントがいいきっかけになるやもしれない。

ニルソンはちらりと千夏の説明を笑顔で聞いているリルに視線を向ける。


最後に那留が懐から大きな金塊を取り出してテーブルの上に置く。

「俺たちも宴会でかなり食べるからな。このくらいは出しておくぜ」

マーカスはありがたく那留からの金塊を手に取った。




ついにクリスマスの日がやってきた。

さすがに今日は千夏も早起きする。

朝から手配していた家畜の世話をしてくれる人達がやってくると、さっそく王都に向かって転移する。

アルフォンスの別邸の執事たちが手伝ってくれることになっているので今回もエッセルバッハの王都だ。

不公平をなくすために次回の機会があればハマールの王都に行こうと千夏は思っている。


前回と同様に赤い旗が振られ、村人達は楽しそうに街の中を探索する。

王都は活気に包まれ、見たことがない装飾品や食べ物のなどが数多く並んでいる。

それを見ているだけでも十分に楽しい。


村人達をタッカー達に任せて、千夏達は換金所で金をお金にかえた後、早速買い物リストを片手にアルフォンス達とバラバラに行動する。

問題はタマとコムギが千夏にべったりしていることだ。

二匹のプレゼントをこっそり買うことが出来ない。


リルはそれに気が付いてタマとコムギにこっそりと耳打ちする。

2匹は嬉しそうにこくんと頷くと千夏の元から離れ、リルと一緒に買い物に出かけていった。

千夏は残ったレオンと一緒にとりあえず先にメモに書かれたものを片っ端から買い求めアイテムボックスに収納していく。


大方買い物が済むと千夏はレオンに金貨を数枚渡す。

「これでレオンがプレゼントしたい人に何か買っておいでよ。くれぐれも騒ぎは起こさないようにね」

念のため注意も言い添えると、レオンは「僕は子供じゃない」と少しむくれる。

だがふくれっ面も長くは続かず、先程見て回った店で目星をつけていたのだろう。いそいそとレオンは買い物へと出かけていった。


千夏もパーティメンバ全員のプレゼントを買いに街の中を走る。後は今回お世話になった太郎用に暖かそうな上着を一枚買う。畑仕事で汚れても目立たない色の上着だ。

レオンに何を買ったらいいのかが一番悩んだのだが、一緒に村人達の買い物をしていたときにレオンが何度か手にとっていたものを選ぶことにした。


こちらの世界ではあまりプレゼントの習慣がないようで、プレゼント用の包装をしてもらえなかったが、雑貨屋でプレゼントを入れる大小の木箱を大量に買い込むことでそれを解消する。


チョロチョロと王都の中を()()旗獲り合戦で有名になったネバーランドの領主が駆けまわっていたが、王都の住民は全くそれに気が付かなかった。領主とは古着を着て露店を覗き見るようなものではないからだ。御用商人を屋敷へ呼びつけて買い物のが一般的な貴族だ。


途中で露店から香ばしい肉の焼ける匂いに小腹が刺激されたが、すでに集合時間まで残りわずかだ。

買い食いしている暇など……うん。歩きながら食べればいいやと千夏は串にささった肉を三本程買い求めると嬉しそうにそれを頬張る。これから昼ご飯を食べる予定だが、買い食いは別腹なのだ。


集合場所の王城前に辿り着くと千夏が一番遅かったらしく、村人達が近づいていく千夏に向かって手を振ってくる。これから裕子が交渉してくれた食堂を貸切ってのお昼ごはんが待っているのだ。

二度目の王都を楽しんだもの、初めて王都に来て目を爛々と輝かせているもの。とりあえずみんな楽しんでいるようなのを千夏は確認し、満足そうに笑った。


裕子が貸し切ったお店では魚料理が美味しいと有名なお店で、村人の大半は初めて食べる魚料理に「おいしいべ」と顔をほころばせる。


タマはレオンと一緒に初めてのおつかいで食べた海鮮丼を食べている。

あのときくちゅくちゅした不思議なタコとイカの味わいが忘れられなかったからだ。

「やっぱり変なかんじでしゅ」

タマは一生懸命タコを噛みしめごくりと飲み込む。


千夏は自分の丼に盛られたイクラをスプーンですくい、タマの口元へと持っていく。

タマはあーんと大きく口を開け、今度はプツプツと潰れるイクラの触感に驚く。

「ぷちぷちするでしゅ」

口を両手で押さえながらタマは千夏を見上げる。


竜はあまり食べ物を楽しんで食べる生き物ではない。空腹を満たすために食事をする。雑食なうえ味もよくわからないのだ。

コムギは食べ物の味が判るが、タマにはご飯の味があまりわからない。

少しでもタマがご飯を美味しいものだと思ってくれればいいなぁと千夏は思っている。

今のところタマが気に入っているのはブドウ味のアイスキャンディーとお酒くらいだろうか。


千夏はタマが驚くがの面白くてイクラを何度もタマに食べさせていたら、コムギから自分にも寄越せとポンポンと足をつつかれる。

2匹にほとんどイクラ丼のイクラを上げてしまったので千夏はご飯だけになった丼を少し悲しそうに見つめた。それに気が付いたアルフォンス達が自分の丼から少しずつ魚の切り身を分けてくれる。

千夏はありがたく海鮮丼となった自分の丼を嬉しそうに食べた。

ご感想と評価ありがとうございます。

書いていたらおなかがすいてきました。


やっとどんぶり勘定のネバーランドの財務担当が出来ました。

ニルソンも少しは楽になったかな?

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