月光草
そして太郎のターン!
「見つけた」
目を閉じたまま短く呟いたアンジーの言葉に千夏は目を瞠る。
すぐさま散り散りになっていた仲間に遠話で月光草が見つかったことを伝え、静かにそのありかをアンジーが語るのをじっと待つ。
どのみち全員戻ってくるまで移動は出来ないのだ。
アンジーが使っていた魔法を収束させていつもの大きさにふわりと戻り千夏の肩に止まるのをただ黙って千夏は見守っていた。
やがてバラバラに探し回っていたメンバが戻ってくる。
「見つかったっていうのは本当か?」
ひょいひょいと岩だらけの山道を飛び跳ねるように戻ってきたアルフォンスが尋ねる。その後ろに続く那留も苦も無く大岩がゴロゴロと転がる道を駆けて来る。
「うん。まだ場所を聞いていないんだけどね」
千夏は立ち上がり敷布をアイテムボックスにしまいながら答える。
「よかったな」
那留は立ち上がったタマを見下ろし頭を撫でる。
300年前竜達で探し回って見つからなかった月光草がこんなにも早く見つかるとは。
竜は機動力は高いが、小さなものを見つけるのは不得手だ。これも全て千夏が風の妖精王と出会い、契約を結べた幸運のたまものだ。
最後にタロスとフィーアと一緒にリルが戻りこれで全員そろったというところで黙っていたアンジーが口を開く。
「どこにあったと思う?」
「勿体ぶりますね」
エドはアンジーの質問に突っ込みを入れる。
「そういいたくなるほど、意外なところにあったからよ」
アンジーは苦笑しながら一同を見回す。
月光草を求めてアルフォンス達が何日もかけてこの山を少しずつ調べていったことを最初にアンジーは聞いていたのだ。
「それでどこにあるのです?」
フィーアは黙っていられずアンジーを促す。
例えどんなに遠くにあろうとも息子のためならばすぐさま駆け出して探して来るとばかりの勢いだった。
「タロウの畑よ」
いい加減勿体ぶるのをやめてアンジーが答える。
「太郎の?」
全員が顔を見合わせる。確かに盲点だった。
「最初は私も判らなかったわ。月光草は花が咲いている状態じゃないと他の草とあまり区別がつかないんですもの。でも太郎の畑を通ったときにやたらと大地の妖精王の加護を受けている草があってね。太郎に問い詰めたら月光草というじゃないの」
アンジーは肩をすくめておどけたように答える。
「まるで昔の童話のようだな。探し物はすぐ近くにあったってか」
那留がガシガシと髪をかき乱す。
「とりあえず戻ろう。フル-ル村に」
千夏はそういうと転移の魔法を発動させた。
太郎は妖精の集団からその草が千夏達が必死に探している物だという話を聞いていた。
正確にいうとその草の花がどうしても必要らしい。
だが蕾はまだ小さく花が咲くまでにまだまだ時間がかかりそうだった。試しに本人に聞いてみると花が咲くまであとひと月はかかるという。
「そんなに待っていられないわ」
と先程までの集団が一人の妖精に合体し腰に手を当てて少し不機嫌そうに答える。
そう言われても太郎は困ったようにしょげなく立ち尽くすことしか出来ない。
「うーん、困ったね」
太郎は月光草の前にしゃがみ込んでのんびりとそう呟く。
千夏達の世話になっているので出来れば協力してあげたいところではあるが、人の意志で大自然の摂理を変えることなどできやしない。
『困ってるの?タロウ』
月光草がさわさわと揺れながら太郎に尋ねる。
「すぐに君の花が欲しいらしいんだけど、どうにもならないことだしね」
素直に太郎が答えると月光草達は輪唱するように軽やかに揺れ始めた。
『すぐに?』
『すぐに?』
『タロウ、頼む』
『タロウ、頼む』
『妖精王に』
『妖精王に』
静かに月光草の歌を聞いていた太郎の目の前にアンジーの分身である妖精がぱたぱたと回り込んでくる。
「私には草が何を言っているのか、ところどころしか判らないけど、あなたが強い加護を与えられていることは判る。強く願ってごらんなさい」
「願う?」
太郎はじっと小さな妖精眺める。
「そう。強い加護持ちが願えば妖精が力を貸してくれるわ。私がチナツに力を貸しているようにね」
「そうなんだ。凄いね」
太郎はおっとりと答える。
そしておもむろに月光草に向かって手を2回パンパンと打ち鳴らし拝む。
願うといわれて田舎の神社でのやり方しか思いつかなかったからだ。
「花を咲かせてください」
手をあわせじっと祈る。だが特に月光草に変化はない。
やっぱり俺には無理かなと立ち上がったところで、その変化は現れた。
畑の端にもぐらが動き回っているようにボコボコと土が1メートルほど盛り上がる。
きゅぽんとその先から小さな影が飛び出してきた。
それは以前見た妖精だった。
「すまんな。奥深く潜って休んでおった」
妖精は4対の羽を広げて太郎の前に飛んでくる。
「お久しぶりね。ずっと下で寝てるかと思っていたわ」
アンジーは笑いながらその妖精に声をかける。
「まぁ大体は寝てる。だが植物達が一斉に歌いだしたので起きた。聞こえるか?一斉に歌っている」
そういって土の妖精王は一面の畑を眺める。
太郎は他の植物達の声をカットしていたので聞こえていなかったのだが、太郎の願いに合わせて畑一面の植物が歌を歌っていたのだ。普段の感謝を込めて。
太郎は妖精王にそう言われて畑全体の声を拾う。確かに彼らは歌っている。
『タロウの願いを聞いて』と。
「ずいぶん育ったな」
月光草を土の妖精王は見下ろす。彼が種を与えてから10日程しかたっていない。
土の妖精の加護が程よく効いて急成長していたのだ。
アンジーは土の妖精王に事情を説明する。竜の呪いを解くためにどうしても月光草の花が欲しいということを。
太郎は千夏達がなぜ欲しがっているかをそこで理解する。この村では今では竜ときってもきれない縁が出来ている。太郎も竜達の世話になっているし、出来れば竜を助けてあげたい。助け合うのが当たり前なのだ。
「まぁよかろう。竜にはこの前災害を止めてもらった恩がある」
土の妖精王は月光草に向かって育成促進の魔法をかける。すると固い蕾が徐々に大きくなり開花直前の白い花の蕾へと成長する。
『もうすぐ花が咲くよ~』
月光草達はさわさわと陽気に歌いだす。
「月光草の花は夜に開花する。今は咲かないが夜には花開くだろう。それとこの花の効能は竜の体を正常に戻す役割を持っている。一度煎じて飲めばそれが竜の体に残り同じ呪いにはかからなくなるだろう。他の竜も心配なら事前に飲ませておけ。絶滅した花ではあるが、お前なら増やすことが出来るだろう」
土の妖精王は白い蕾をついっと撫でたあと太郎を見上げた。
「ありがとうございます」
太郎は心からのお礼を告げる。
土の妖精王は鷹揚に頷くと、「では戻る」と言って飛び出してきた穴へと飛び込んでいった。
太郎は嬉しそうに白い蕾を眺める。魔女の城では何も役にたたなかったが、自分でも誰かの役にたてて嬉しかった。
そんな太郎の機微を悟ったのか月光草が歌う。
『タロウは凄いよ、とても凄い』
畑の植物も歌いだす。
『タロウはかゆいところに手が届く。とてもいい農夫だ』
『タロウ、水頂戴』
ついでとばかりににさわさわと植物がおねだりを始める。
太郎は褒め言葉に少し照れたように頭をかいた後、おねだりに負けて水をまき始める。
千夏達が畑に到着したのはそんな時だった。
アンジーに土の妖精王とのやり取りを聞いた千夏は太郎に向かって頭を下げる。
「ありがとう、太郎」
太郎は慌てて手をばたばたと振り千夏に頭を上げさせる。
「この種は一緒に那留さん達が手伝ってくれたおかげで手に入ったものだよ。俺だけじゃないから。それに畑のみんなが妖精王を呼んでくれたんだよ。よかったね」
「じゃあ、お水をあげるのを手伝うよ」
千夏はアイテムボックスから桶を取り出し、太郎の手伝いを始める。
今夜にも月光草の花が咲くこと。呪いにかかっていない竜にも効能があること。そしてすでに絶滅してここにしか生息しないこと。その月光草がわさわさと生い茂っている。
村に住む竜達だけではなく竜の谷全部の竜にも分け与えることができる分量がある。
300年前は絶望でしかなかったものが今は確かなものとして目の前にある。那留は静かに笑みを浮かべる。
千夏がこの村の領主になっていなかったら。
太郎がこの村に移民してこなかったら。
竜達がこの村におとずれていなかったら。
バッタ退治をしなかったら。
レオンも感慨深く月光草を見つめていた。父親が探し求めていたもの。
絶滅したのであれば探すことなど最初から不可能であった。
両親がこの草花を見つけることが出来なかったことは悲しいことだ。
でもこれがあれば新たな家族を救うことができる。もう同じ悲しみに暮れる必要はないのだ。
「レオンも手伝ってよ」
千夏が桶をえっちらおっちらと運びながら、静かに月光草を見つめているレオンに声をかける。
アルフォンス達も太郎を手伝っているがいかんせん畑は広大だ。
「ああ。もちろんだ」
レオンは月光草から視線を仲間達へと移す。誰もが笑顔で楽しそうに畑に水をまいている。
今ある目の前の幸せをレオンは噛みしめた。
ご感想とブックマークありがとうございます。
ご感想にもありましたが、有名な童話からこのストーリーの落ちを決めて章をスタートさせていました。
結果だけみると太郎も大概チートだなぁと思うのですが、能力云々よりもフルール村という「ほんわかほのぼの不思議村」をうまく書けたらいいなぁと思っています。
あとはクリスマスイベントですね。
あと余談ですが、「とある幼児の生活2」をアップしました。
単純なドタバタコメディなのでファンタジーじゃありません。
かなりお暇なときに暇つぶしでご覧ください。




