↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/247

呪い 後編

後編です。

コムギが他の竜から気を中継してタマの気を増やすことができることを再度実証してもらい、呪いによって減るだけだったタマの気を回復する手段があることを那留が全員に説明する。

「少なくてもタマはコムギがいる限りは大丈夫だ」

笑顔で答える那留の顔を見て千夏は張りつめていた気が抜け、危うく食堂の椅子からずり落ちそうになる。

後ろで控えていたエドが千夏の体を支え、落ちないように椅子に座らせる。


レオンも「よかった」と小さな声で呟く。テーブルの上で組んでいるレオンの両手がわずかに震えている。

あの呪いでもう誰も失いたくはなかった。

セレナは誇らしげに顔を上げてぶんぶんと尻尾を振るコムギを抱き上げる。

「毎日気の練習をしていた成果がでたの。ありがとうなの、コムギ」

どうやらコムギは気を自分の中で練り込むのは苦手のようだが、吸出し与えることは造作もないようだった。


状況を整理すべく一度全員で屋敷の食堂に移動し、那留の説明が先ほど終わったばかりだった。

緊急性が高い問題がなくなったことを理解したメルロウはさっさと自分の部屋へと引き上げていく。

フィーアはタマの手を何度もさする。タマは多少目の輝きが抑えられているくらいであとはいつも通りだった。


「それで完全に治すには月光草が必要なんだな?」

「その通り。この前途中まで探しにいったまんまだったよな。あの場所にあればいいんだが」

那留はアルフォンスの問いに答え、ライゼが差し出した夜食に手を伸ばす。

「私も一緒に行ってアンジーにも協力してもらえば早く見つかるかもしれないね」

千夏も安心しておなかがすいたのか夜食に手を伸ばす。


すっかり元通りにふるまう千夏を見てリルは嬉しそうに微笑む。

タマが倒れてからの千夏はとても見ていられなかった。

せめてタマを気絶から起こすことが自分で出来たのであれば……。リルは自分の治療師としての知識不足にしょぼんと落ち込む。


タマもライゼが置いた夜食に手を伸ばす。レオンと二匹で夕飯の狩り中に魔族に襲われたのだ。すっかり腹ペコ状態だったが、兄弟で食べ物を分け合うべきと考えているのでタマは笑顔でレオンにパンの半分を差し出す。

「レオン兄もおなかぺこぺこでしゅよね?食べるでしゅ」

レオンは礼を言ってからタマからパンを受け取る。もし自分がタマの立場なら受け取ってもらえないほうが悲しいのだ。兄弟だからよくわかる。


「そういえば狩りの途中で襲われたのでしたね。タマは今は竜に戻れないでしょうから普通の食事を大量に作りますか」

エドはそういうとライゼに声をかけて厨房へと入っていく。

すでに寝ている料理人を起こすのは忍びないので二人でフライパンを振るうことにしたのだ。


エドとライゼの力作をセレナと千夏が食堂へと運んでいき、タマとレオンはゆっくりと食事をとり腹を満たす。ただ食べるという動作でもタマの気が少し減ったのでコムギがフィーアから気をもらいタマに気を還元する。


「明日はコムギとタマを除いた全員で月光草を探しにいくか」

アルフォンスは少し眠くなった目をこすりそういって席を立つ。

「タマも行くでしゅよ」

置いて行かれると知ったタマが軽く首を振る。


「でもタマは今は疲れやすいからここでフィーアさんたちと一緒に待っててもらったほうがいいと思うの」

千夏はタマの頭を撫でてアルフォンスの意見を後押しする。

月光草を探して山の中を歩きまわるのだ。それにもし魔物がいて戦闘になったとしてもタマを戦わせるわけにはいかない。

お留守番してもらっていたほうが一番いいのだ。


「嫌でしゅ。タマが病気なのは判ってるでしゅ。でもタマはちーちゃんとずっと一緒にいると決めたんでしゅ」

うるうると目を潤ませタマが千夏にしがみつく。

一度千夏と離れてからタマはもう離れないと決めたのだ。その結果竜として長く生きられなくても構わない。今一緒にいることがタマにとっては大事なのだ。


「クゥー!」

コムギがぽんぽんと千夏の足を軽く前足で叩く。

どうやら自分が何とかすると言っているように千夏は感じた。


千夏は近くに座っているタロスとフィーアに視線を移す。

「竜は一度決めたことをどんなことがあっても覆しません。連れて行ってあげてください。コムギ、タマをお願いするよ」

タロスは真っ直ぐに千夏を見た後に足元のコムギに声をかける。

フィーアも黙ったままきゅっとスカートを握り締める。もちろん息子が心配でたまらない。だからフィーアは自分も一緒に明日出かけるつもりでいた。


「判った。一緒に行こう」

千夏がそう答えるとタマは嬉しそうににっこりと笑う。

早くタマが本当に心から笑顔になれるように月光草を探そうと千夏は心に固く誓った。


食事を終えて2匹と一緒にベットに潜り込むとぴったりと千夏にくっ付いてくるタマに千夏は尋ねる。

「どこか痛いとか調子はどうなの?」

タマはこつんと千夏とおでこを合わせ軽く首を振る。

「ちょっと力が出ないだけでしゅ。痛くないでしゅよ」


二人の間にもそもそと割り込んできたコムギを見てタマは笑う。

「コムギのおかげでしゅ。自慢の弟でしゅよ」

「クゥー」

コムギはぺろぺろとタマの頬を舐めて目を細める。

しばらくするとコムギはピクンと耳をたてのそりと起き上がり、じっとドアのほうを見つめる。

誰か廊下にいるようだ。


千夏はピンときてすぐに起き上がると足音を立てないようにこっそりとドアに近づき一気にドアを開ける。

「!!」

廊下には突然開いたドアに驚いた顔をしているレオンが立っていた。かなり驚いたのだろう。一房だけ長くなっている茶色の髪が大きく揺れる。

「さぁさぁ入って入って」

千夏はレオンの手を握ると室内へと連れて行く。


「いや、僕は別に……」

言い訳を始めるレオンに「ドア、寒いから閉めて」と千夏が短く指示する。レオンは素直にドアを閉めて困ったようにベットから起き上がっているタマとコムギを見下ろす。

「レオンはタマの隣ね。寒いからさっさと入る!」

強気に千夏がそういうとレオンはぎこちなく頷いてタマの隣に入り込む。


大きなベットなので3匹と一緒に寝てもまだまだ広い。

千夏はふっと蝋燭の炎を消し去る。

レオンもタマがかかった呪いに心底不安なのだろう。千夏もレオンの母親である水竜の記憶を持っている。レオンは弱っていった母親を最後まで見守ったのだ。竜の呪いに一番敏感になって当たり前だ。


千夏は大きく手を横に伸ばして、レオン、タマ、そしてコムギの感触を確かめる。

(大丈夫、みんな居る)

暖かい手触りに千夏はゆっくりと瞼を閉じた。




翌日。

魔女の城で朝食をとると千夏達は以前アルフォンス達が登ったチェザーレ山の山頂近くに転移した。

パーティ《トンコツショウユ》以外に光竜夫婦と那留が付き添っている。

千夏は早速アイテムボックスから翡翠の指輪を取り出すとアンジーを召喚する。


アンジーは召喚されるとすこし目元が腫れぼったいタマの周りをくるりと回り「元気そうでよかったわ」と一声かける。

アンジーも昨日タマが倒れていたのを気にしていたのだ。

「アンジー、月光草を一緒に探して。出来れば風の妖精も手分けして探してほしいの。ここを中心に見つかるまで探すのを手伝って欲しいの」

千夏はアンジーに向かって頭を下げる。他の竜達も探してくれると言ってはいるが世界は広い。風の妖精にもう一度くまなく探してもらったほうが早い。


「手伝ってもいいけど、大地の妖精に頼んだほうが早いわよ。といっても大地の妖精王は地中に引っ込んじゃっているから、なかなか会えないのよね。それに千夏は大地の加護持ちじゃないから、呼び出せないわね。……とりあえず風の妖精(みんな)に頼んでみるわ。その代り千夏の魔力ごっそり使うわよ?」

「うん、問題ない。お願い」

千夏はもう一度アンジーに向かって頭を下げる。


アンジーは羽を羽ばたかせパタパタと千夏の正面に周り込むとぐいぐいと千夏から魔力を吸い上げる。アンジーは千夏の肩に止まれる小さな妖精タイプから初めの頃に出会った13歳くらいの少女の姿へと変化していく。

下から吹き上げる緑色の風をまとい美しい少女は目を閉じる。

「全ての風の妖精に告げる。我が名は風の妖精王アンジェリーナ。この地から全ての風を使い『月光草』を捜索せよ!」

アンジーがそう唱えた瞬間下から吹き荒れた風が無数の小さな妖精に変わり、四方八方に飛び去っていく。


唖然と千夏はその様子を見上げる。何万何千万と風の妖精達が広がっていく様はまさに圧巻であった。

「この辺りにはないみたい」

アンジーが目を閉じたままぽつりと呟く。

アンジーは今無数の妖精の目を通して世界中を探索している最中だった。


この辺りにないと言われ、がっくりと千夏は肩を落とす。以前風の妖精がこの山で見たことがあると言っていたので一番最有力候補だったのだ。

(風が入り込めんところも探したほうがええ。手分けして探そうや)

シルフィンがそう言われて全員が散らばっていく。千夏はアンジーに魔力を供給中であるうえにタマのこともある。そのまま移動せずにアイテムボックスから敷布を取り出すと地面に敷いて座り込む。タマとコムギも敷布の上にちょこんと座り千夏と一緒に捜索中のアンジーの横顔をじっと見上げている。




その頃、畑で雑草駆除をしていた太郎がぽとりと小さなスコップを取り落した。

突然西南の方角から小さな妖精が集団で飛来してきたからだ。その数は以前退治したバッタの大群に引けを取らない。

「なっ!」

太郎は顔をかばうように両腕を横に並べて突出し、隙間から妖精が通り過ぎていくのを見守った。

バッタ達とはもちろん違うので特に痛みはないし、畑の状態も変わっていない。


太郎は後ろを振り返って妖精達の大集団が去っていくのを見ていたのだが、妖精達はギュンと急カーブを描きまた太郎の前に凄まじい勢いで突っ込んでくる。

「!!」

太郎はまた身を伏せる。今度は通り過ぎるのではなく無数の妖精が太郎を円形に囲んでいるのだ。

正直数が数だけに太郎は恐ろしかった。


「ねぇ、太郎?あれは何?」

妖精達がびしっと太郎の畑の一角を指さす。

そこには蝗害騒ぎのときにもらった紅い種を植えた場所だ。数日前から草からつぼみが出来て花が咲きそうな状態まで育っている。

「ねぇねぇ、あれは何?」

ちょっとだけ目が怖い。何度も妖精達に尋ねられるので太郎は困り果てて、妖精達が指し示す植物の前へと移動する。


「えっと君はなんて草なの?」

太郎がおっとりと植物に尋ねる。

「私たちは月光草。月夜の晩に花が咲くのぉ」

歌うように草がさわさわと揺れる。


―――探し物は身近なところにあった。


たぶんみなさんがご想像通りの展開になっているかと?!

太郎がもらった種は月光草でした。


呪いにかかったタマを書くぞと始めた章でしたが、タマが不幸だと周りが大変になるので早く治さないとだめですね。

最初から決めていたご都合主義ストーリーですが、ご勘弁を…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。