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呪い 前編

原因不明で目を覚まさないタマを連れ千夏達は転移を繰り返しネバーランドまで飛ぶ。

タマの両親である光竜またはメルロウにタマを見てもらうためだ。


カガーンは現在国として成り立っていないため、出入国の規制はない。カガーンからハマールの山道を経由しハマールに入ると一気にネバーランドとの国境まで飛ぶ。カガーンとハマールの山間部を警備している竜騎士団への通知はクロームを経由して行っており、ハマールの山間部では多くのワイバーンに囲まれたが、正直気にしていられない。


ネバーランドに辿り着いた頃には日はとっぷりと暮れ、辺りは真っ黒だった。

フルール村を見下ろす魔女の城の前までたどり着くと、千夏はセレナ達にタマをまかせて屋敷にいるはずのメルロウを探す。


「領主様? おかえりなさいませ」

出かけたはずの領主が突然屋敷に戻ったことにライゼは驚き丁寧な挨拶をする。だが余裕がない千夏はそれを無視して、メルロウに割り当てた部屋へと直進する。

メルロウは早寝早起きだ。この時間なら自室にいる可能性が高い。


「メルロウいる?!」

千夏はノックをする手間も惜しみ、メルロウの部屋のドアを勢いよく開けると中に駆けこむ。

部屋の中は薄暗く、ベットは人が寝ているらしくこんもりと盛り上がっている。

「起きて!」

千夏は気持ちよさそうに眠るメルロウを激しく揺さぶり起こす。


「うう……。なんじゃっ!」

メルロウはガバリと起きると機嫌悪そうに千夏を睨む。千夏はメルロウの体を掴むと有無を言わさず魔女の城前まで転移する。

突然の転移に巻き込まれたメルロウは目をぱちぱちと瞬かせ、草むらに横たわる幼竜を見上げる。

焦りのあまり青白い千夏の顔と目の前の幼竜を見て、メルロウは軽く溜息をつく。


「外傷はないわ。でも起きないの。一度魔族に体当たりされて、空中から落下したそうなの。それと魔族がなにか黒い球体のような魔法を使っていたことくらいしかわからない」

千夏は早口で現在知っていることを全てメルロウに報告する。

メルロウはタマの体に触れると状態異常を確認する《コンディション》の魔法を唱える。

魔法の結果、タマの状態は気絶そして呪い状態であることが判る。


「カココ草とパタル草を持っているか?」

メルロウは自分の力のなさに打ちひしがれているリルの頭をぽかりと殴るとそうに尋ねる。

「あ、あるはずですっ!」

リルは背負っていたカバンを下ろし、中から次々と薬草を取り出し目当ての薬草を取り出す。

カココ草は滋養の薬として、パタル草は毒消しの原料として使われる。


「両方別々にすりつぶして、1:3の割合で混ぜろ。混ぜると強烈な匂いが発生するから鼻と口を布で覆うのを忘れるな」

地面に乳鉢を置いて一心不乱に薬草を擦るリルを一瞥した後、メルロウはもう一つの状態異常を確認する。

魔族にかけられた呪いなのだろうが、メルロウが見たことがない呪いだ。


メルロウの頭の中にはいろいろな呪いの魔法陣の情報が詰まっている。

だが、タマにかけられた呪いは魔法陣として刻まれておらず、ぼんやりとタマの周りをくすんだ黒いオーラが取り囲んでいるだけだ。


「薬を混ぜます」

リルはポーチから大きな布を取り出し鼻と口を覆うように布で縛り付ける。その後カココ草とパタル草をメルロウが言った割合で混ぜ合わせる。混ぜている最中に強烈な匂いが発生する。この匂いが気つけ薬となり気絶状態から復活できるのだ。


メルロウそして千夏達は鼻をつまんでリルの傍から離れる。目から涙が出るほど刺激的な匂いだ。

リル小瓶に素早く混ぜ合わせた薬を入れ、ふたを閉める。強烈な匂いにより目にあふれる涙を拭いてから、リルは小瓶を持ちタマの鼻の下で開封する。


強烈な気つけ薬の匂いに刺激されたのか、タマがピクピクと体を震わせる。

タマがやがてゆっくりと目を開けるとリルは急いで小瓶にふたを閉める。

「臭いでしゅ」

ケホケホとせき込み目を覚ましたタマは竜身から人の姿をとり、涙目で鼻を押さえる。竜の姿のままだと鼻を摘まむことができないからだ。


千夏とコムギはすぐにタマに駆け寄り、千夏はぎゅっとタマを抱きしめる。

「よかった。なかなか起きないから心配したんだよ」

「クゥー!」

千夏は少し涙声だった。コムギはペロペロと千夏の腕の隙間から覗くタマの頬を舐め上げる。


ぴくりとも動かなかったタマが意識を取り戻したのだ。

セレナとレオンも大きく胸をなで下ろし、強張っていた顔を笑顔に変える。

リルはメルロウ腕をとって目じりに涙を浮かべ何度も何度も頭を下げる。

「メルロウ様、ありがとうございます。ありがとうございます」

アルフォンスとエドはというと那留を探しに村の中を駆けまわっているためにここにはいない。


タマから体を離すと千夏はタマの顔をゆっくりと覗き込む。

普段は桃のようなほっぺでくりくりとした赤い目を輝かせて千夏を見上げるタマなのだが、顔色がまだ青白く目は少し虚ろだ。

「まだどこか悪いの?」

千夏はメルロウを振り返って尋ねる。


メルロウは額に皺を寄せ、じっとタマの状態を見つめて答えた。

「―――呪いにかかっておる。わしの知らない呪いだから解呪は出来ん」

「呪いだって?!」

千夏が反応するよりも先に駆け込んできた那留が声を上げる。

「とりあえず何があったのか話せ」

那留は真剣な表情でタマと千夏を見下ろす。


千夏達が説明している間に那留から少し遅れてアルフォンスとエド、そしてタロスとフィーアが駆け寄ってくる。

タマが起きていることに気が付くと二人と2匹はほっと胸をなでおろし顔をほころばせる。

だが那留の表情は暗い。レオンと千夏から説明を聞き終えると那留はちっと舌を打つ。

「例の竜に効く呪いだ。300年前に見た状況と同じだ」


那留の言葉に一番愕然としたのはレオンだ。

自分の両親がかかった呪い。最後を知っているのは母親だけだったが、気が回復せずにどんどんと小さくなり身動きできなくなりしまいには死に至る。

弱っていく母親を鮮烈に思い出し、目の前のタマと姿を重ねたレオンは絶望のあまり目の前が暗くなる。

よろりと倒れ込んだレオンをセレナが慌てて支える。


メルロウはレオンの状態を一応確認する。戦場にいた竜は二匹。レオンも呪いにかかっている可能性があるからだ。

「―――ふむ。お前さんは大丈夫だ」

メルロウは小さな手でポンとレオンの腰を叩く。

自分だけ大丈夫と言われてもレオンの顔色は変わらない。

「何で、僕の家族を奪っていくんだっ!」

レオンは普段見せない激しい感情を地面に叩きつける。


那留はレオンをそして光竜夫婦を最後に千夏を見てゆっくりと話し始める。

「この呪いはまず気力が回復しなくなる。気は生きている者の生命力だと思えばいい。気を使って生き物は動き力を振るうことができる。普段は休憩をとることにより気は回復するが、この呪いにかかったものは休憩をとっても回復することがない。

タマは魔族との戦いでブレスを使ったといったな。その分気力がいつもより下がっている。とりあえずしばらくは竜に戻るな。人でいるほうが気力を使う量が少ない」


フィーアは那留の話を聞き終えるとタマを縋り付くように抱きしめる。

「ガーシャ様、何とかならないのですか?呪いを私に移すとか出来ないのですか?まだこんな小さいのにあんまりです!」

フィーアの絶望的な叫びにタロスも目をつぶり額に手を当てる。

千夏は茫然とフィーアに抱きしめられているタマを見つめる。激しい混乱で状況がつかめなくなっていたのだ。


「タマはどこか悪いのでしゅか?」

タマは少し悲しそうに尋ねる。

自分のことはよく判らないが、フィーアがタマを抱きしめたまま泣きじゃくっているのだ。その悲しみにつられてタマも悲しくなり、ぽろりと涙をこぼす。

「私の気を分け与えることが出来れば……」

フィーアの肩に顎を乗せたタマの頭を撫でながら悔しそうにタロスが呻く。


「クゥ!」

コムギはタロスの言葉を聞きつけ、タロスに近寄るとぐんぐんと気を吸い始める。

コムギはある程度気を吸い取ると、タマに向かってまた一声鳴く。

「手でしゅか?」

タマはコムギに乞われてフィーアの腕の中で身じろぎして手をコムギに向けて差し出す。

コムギはタマの手を軽く噛むとタロスから吸い上げた気をそのままタマの体に戻していく。


タマの青白い顔に少しずつ赤みがさしていく。呪い状態のため完全に元に戻ったわけではないが、先ほどより体が楽になったことにタマは気が付き目を丸くする。コムギは気を吸うだけではなく他へ移動させることが出来るようだ。

タロスは唖然と自分の気がわずかではあるがタマに気に追加出来たことに目を見張る。

那留はコムギを抱き上げるとにんまりと笑う。

「すごいぞ、お前!」

「クー!」

ぶんぶんとコムギは尻尾を振る。


「とりあえず、コムギが居ればタマはしばらく大丈夫だ。その間に月光草だ。月光草を見つけよう。エド、この前の場所まだ探索していなかったな」

那留はエドに向きなおる。

コムギがタマの気を他の竜から補充していけるのであれば時間は稼げる。


コムギとタロスそして那留以外は状況をうまく掴めていない。

笑みをこぼして笑う那留とタロスにレオンとフィーアは不思議そうに顔を上げる。

千夏はいまだに混乱中だ。


「しばらくの間大丈夫ということであれば、とりあえず一度状況をきちんと整理しましょう。私たちも途中から話を聞いているだけで状況を理解できていません」

エドは混沌とした現状を冷静に見下ろしてそう述べた。


ご感想とブックマークありがとうございます。


予告通りにさっくりと終わらせる予定です。

後編は連続投稿します。


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