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魔法記憶領域

気が付いたら700万pvです。皆さまのおかげです。


「珍しいな、討伐依頼書が張ってあるなんて」

新規転入者の身分証の所属国書き換えが終わったとギルドから報告があったので、ニルソンは彼らと伴に一緒にギルドへと向かった。

このギルドの依頼掲示板には薬草採取の依頼が一件ぽつんと張ってあるだけで、いつもは他に何も張られていない。討伐依頼は基本その国がギルドを通して冒険者に依頼するので、千夏が発行しない限りここに張られることがないのだ。


「ああ、その依頼ですか。発行元はエッセルバッハとハマールなんですよ。依頼先はカガーン教国の南部のBランク以上の魔物の退治だそうです。この依頼は全国に通達されているんですよ」

タナが珍しそうに依頼書を覗き込んでいるニルソンに気が付き依頼書の補足説明をする。

「カガーンが発行元ではなく、ハマールとエッセルバッハが?」

本来ありえない手順で発行された依頼書にニルソンは驚く。


「現在カガーンの聖都は魔物に落とされているんですよ。知りませんでした?」

いくらネバーランドが辺境の支店とはいえギルド全支店へ今回のカガーンでの騒動は通達されており、逆に同盟を結んでいるネバーランドの重鎮であるニルソンが知らないことにタナも驚く。


「カガーンが魔物にですか……」

思いがけない言葉にニルソンは一瞬言葉が詰まる。勇者達(こちら)に連絡がこないということは正規兵だけでなんとかしようとしているのだろうか。

ニルソンはタナが知っている現在のカガーンの状況についていろいろ教えてもらう。


「物騒な世の中になりましたよね。まさか一国が落とされるなんて……」

タナは深い溜息をつく。

「情報ありがとうございました。勇者様達にもお伝えしておきます」

ネバーランドとカガーンの間にはハマールの広大な山地がある。だがその山地には特に大きな砦はなく、こちらに攻め込もうと思えば押し入ってこれる。この国には自警団などはないのだ。早めに何か対策をうつべきだとニルソンは考えた。


ギルドからそのまま領主の館へと足を延ばしたニルソンは、居間でジャクブルグ侯爵夫妻と談笑しているアルフォンスとレオンを見つける。

「こんばんは。お話中失礼してもよろしいでしょうか?」

レオンと合流したいきさつを話していたアルフォンスは快く、ニルソンを迎え入れる。普段ニルソンは会話に割り込むことなどしないので、何か重要な案件があったのだと察したのだ。


ニルソンは勧められた席に座り、エドが差し出してきたお茶をありがたく頂く。

「実は……。」

ニルソンはギルドで聞いてきた話をアルフォンス達に説明する。

「領主様がいらっしゃらないので、最終的にどう決断してよいものかと思いまして……。ご相談させていただきました」

最後にそう付け加えてニルソンは周りの反応を待つ。


「……ついに一国が落とされたのか」

ニルソンの話を聞き終えたアルフォンスは顔をしかめて苦々しく答える。

侯爵夫人は顔色をなくし、夫である侯爵を見上げる。侯爵は夫人の肩を優しく抱き寄せる。


「ネバーランドに連絡がないということは、今のところハマール領より東は問題ないと判断されたんだろうね。だが早めに領地に戻った方がよさそうだ。シャロンには私から謝ろう」

侯爵は事変を聞き、帰国の意思を固める。予定ではあと4日程、ここに滞在する予定だったがそういう訳にもいかない。


「しばらくの間狩りの場所を西側のハマールの山野にするように、ここにいる竜達に伝えよう」

「そうしてもらえると助かる。他のみんなにも事情を説明しておいたほうがいいな」

レオンの提案にアルフォンスが頷く。


「村人達には伝えないでおこうと思います。状況がよくわからない状態で伝えるといらぬ不安を与えますからね。国境のほうはよろしくお願いします」

ニルソンはレオンに礼をを言い、宿屋へと戻っていった。

侯爵夫妻は子供達が遊んでいる部屋へと向かう。シャロンに明日帰ることを説明しなければならない。


アルフォンスは部屋にいるセレナ、リルとメルロウを呼ぶようにエドに指示を出す。

リルは薬草作りをしていたようで、すぐに居間に現れた。他の二人はすでに眠っていたらしい。少し遅れて寝ぼけ眼のセレナとメルロウが居間へと現れる。

「ふぁぁ。なんじゃこんな時間に」

メルロウが欠伸をかみ殺し、呼び出したアルフォンスを少し機嫌が悪そうに睨む。

早寝早起きのメルロウにとってはすでに就寝時間にはなっているが、まだ日が落ちてしばらく経ったくらいの時間だ。


「起こして悪かったな」

アルフォンスはそう前置きをしてから先ほどニルソンから聞いた話を三人に説明する。

「メルロウも呼んだのは、この国の西側に結界の構築を頼みたかったんだ。念のためにあったほうがいいだろう?」

「まぁそうじゃな。わしも自分の住処を荒らされたくないしのぅ。明日この村にいる全員を集めて、魔法をかけよう。それ以外のものが入ろうとするときに、結界が発動するようにしておけばいいじゃろう」

アルフォンスの提案にメルロウは少し考えて答える。


「そんなことも出来るのですか。さすがメルロウ様です」

リルは目を輝かせてメルロウを尊敬の念を込めて見下ろす。メルロウが小さいのでどうしても目線が下がってしまうのだ。

「何を感心している。わし一人でやるのもしんどいからお主も手伝うのじゃ。やり方は明日説明してやる。とりあえずわしはもう寝る。」

ふぁぁと大きな欠伸をしてメルロウは椅子からぴょこんと飛び降りると、ちょこちょこと小さな足を動かいて自分の部屋へと戻っていった。


「それだとチナツが入れなくなるんじゃないか?」

黙って話を聞いていたレオンが顎に指を置き、質問をする。

「帰ってくる前に一回連絡をもらえれば大丈夫じゃないですかね」

「入れなければ遠話で連絡するだろう」

アルフォンスとエドが同時に答える。

少し千夏がぶうたれて文句を言うだろうが、村人の安全のためには仕方がない。


「ネバーランドの対策はメルロウさんと竜達でなんとかなると思うの。私はギルドの募集に参加しようかと思うの」

魔物襲撃の話を聞いて目が覚めたセレナは少し考え自分の意見を付け加える。

毎日体を鍛えているのは強くなりたいということは勿論のことだが、大切なものたちを守りたいからだ。

セラやクロームから出動要請は出ていないが、一冒険者として手伝いができるなら参加したい。


(せやな。全国に依頼を出しとるってことはそれなりに緊急性が高いんやろうな)

セレナの意見にすぐにシルフィンが同意する。

「俺も参加する。何かあったときは緊急転移のマジックアイテムでなんとかなるだろう。だが出発は明日の昼過ぎにしないか?少なくともメルロウの魔法をかけてもらった後のほうがいい。村に入れなくなるしな。それに侯爵達の見送りもしたいしな。そこまでにチナツが戻ってくればいいんだが……」

アルフォンスの提案にセレナは頷く。セレナもシャロン達の見送りはしたいと思っていた。



「明日?!」

シャロンは部屋を訪れた両親に明日帰ることを伝えられ、がっくりと肩を下げる。

一緒に拾ってきた石に絵具で絵を描いて遊んでいたタマも寂しそうにシャロンをじっと見る。

「急用が入ってしまってね。済まない、シャロン」

侯爵はシャロンに合わせて体をかがめ、申し訳なさそうに息子へと頭を下げる。


「ううん。お父様は大切な仕事をしているんだもの」

シャロンはまだ小さいが貴族としての役割をしっかりと教育されているので、体をジタバタと暴れて文句を言わない。ただしょんぼりと俯いた。

「あら、素敵な石ね。お土産代わりに私になにか作ってくれるかしら?」

筆を止めてこちらもしょんぼりとしているタマに侯爵夫人が話しかける。


「はいでしゅ」

タマは気を取り直して、絵筆を動かす。侯爵夫人には今回お土産としてキラキラと光るタイピンをもらったのだ。何かお返しをしたいと考えていたタマは一生懸命に絵筆を動かす。

「シャロンも記念になるように何か作ってごらん?」

侯爵に言われてシャロンも絵筆を動かし始める。ずっとしょんぼりしていたらあっという間に明日になってしまう。今は遊べるだけタマと遊ぶほうを選んだ。


シャロンとタマは夢中で石に鮮やかな絵具で絵を描いていく。ときおり絵具が跳ねて顔につく。

「シャロン、顔が青いでしゅよ」

タマがシャロンの顔についた絵具を見て笑う。

「タマはほっぺが更に赤くなっているよ」

そういわれてタマは緑の絵具がついた手で頬を触わる。余計に顔に絵具がついたのでシャロンはタオルで綺麗にタマの顔を拭いてあげる。


最後にコムギの手形を石の裏に絵具でつけると、侯爵と一緒に露天風呂へと出かける。

「今日はタマ達と一緒に寝ていい?」

シャロンはごしごしとタマの背中を洗いながら侯爵に尋ねる。

「いいよ」

チナツもまだ戻ってきていないし、タマもコムギも寂しいだろう。侯爵は息子のお願いに笑顔で答える。

タマは絵具で汚れたコムギの肉球を洗いながら嬉しそうに笑った。




その頃千夏はまだ記憶の間を歩いていた。

ここに入り込んでからどのくらい時間が経ったのかすらわからない。チナツの腹時計は溜めるというスキルをとってからは鳴ったことがないので、当てにならない。


やがてずっと追い続けていた紅い光が不意に動かなくなる。

「ん?行き止まり?」

千夏は停滞した紅い光の奥に向かって手を伸ばす。何か見えない壁があるようで、伸ばした腕がずぼりと

埋まっていく。

多分目的地がこの奥にあるのだろう。千夏はそう判断すると目の前の壁に無理やり自分の体を沈めていく。


「ぷっふぁっ!」

ジェルのような壁を無理やり突き抜けて千夏は、止めていた息を吐き出す。

壁の向う側は先程の青白い空間ではなく広い草原になっていた。草原の横には海があり、空は不思議なことに太陽と月が輝いている。

「これがインナースペースなのかな?」

カトレアの話によるとこれが広ければ広いほど魔法を覚えられると言っていた。


そよそよと吹く風に手を差し出すと、今まで覚えた風魔法が次々と頭の中に浮かんでくる。

「もしかして……」

千夏は海に向かって走り始める。波打ち際に辿り着くと、押し寄せる波の中に手を差し入れる。

「やっぱり」

大量の水魔法が千夏の目の前にリスト形式で表示される。風魔法は3つくらいしか覚えていなかったが、水魔法はレオンに教わった分と彼の母親が知っていた魔法全てが表示されたのでかなりの量がある。


「となると火の魔法は……あれか」

千夏は空に輝く太陽に向かってジャンプする。自然に体が浮かび上がり、みるみると巨大な太陽に近づいていく。

火傷をしないかと心配しながら、手を太陽の中へと差し出す。太陽はとても暖かかった。

こちらも千夏が知らない火竜の記憶にあった火魔法がリストアップされる。


「土魔法は地面で光魔法は多分あの月ね。両方とも適正はないから無理か。時空はどれなんだろう」

うろうろと時空魔法を格納している書庫もどきを千夏は探す。

しばらくうろつくと、すっぽりと暗闇に包まれている森が見えてきた。こちらから見ると木々がぐにゃりと歪んでいるように見える。


「これか」

手を差し出すと転移魔法などの時空魔法リストが浮かび上がってきた。後は生活魔法だが、この森を見つける前に途中にあった小さな家がそれにあたるだろうと千夏は推測する。


この広い世界はどこまでも続いているように見えて出口が判らない。

「それでどうやったら帰れるのかな?」

千夏がそう声に出すと目の前に小さな扉が浮かび上がる。千夏は躊躇なくその扉を開いた。



ぼんやりと千夏は薄暗い部屋の中で目を覚ます。闇に目が慣れるとここがマーサ婆ちゃんの店の台所であることが判った。魔法をかけてもらった時と同じく千夏は椅子に座っていた。

「今いつなんだろう。夜だってことは判るけど……」

千夏は椅子から立ち上がり、かすかに明かりがある方向へと歩き出す。薄暗い中を歩いたため、途中で何度か物に当たって、ぶつけた向う脛が痛い。


「おや、起きたのかい。意外と早かったね」

小さな蝋燭が置かれた居間で老婆が魚をつまみに酒を飲んでいた。いつものよう老婆が隣の椅子をコンコンと杖で叩く。千夏は椅子に座ると傷んでいた足に水の回復魔法をかける。


「あれからどのくらい経ったのかな?」

「あんたが依頼をした日の晩じゃな。まだ一日は経っとらん」

くいくいと杯の酒を飲みほし、ぷふぁーと老婆が酒臭い息を千夏に吐き掛ける。千夏はうっと服の袖で鼻を覆う。


「ところでちゃんと見えるようになったか試してみるのじゃ。わしの頭に手を置いて、そうさのぅ「転写 ウォーター」とでも唱えてみろ」

千夏はそう言われて立ち上がり、老婆の頭に手を置く。

「転写 ウォーター!」

そう唱えるとそよそよと流れる小川が見えてきた。赤い光が小川に向かって飛んでいくが、川にはじかれぱちんと消える。


「失敗した?」

あれだけ時間をかけたのにと千夏はがっくりと肩を落とす。

「そりゃ当たり前じゃ。わしが覚えている魔法じゃからの」

老婆はかっかかと笑う。


「それより、わしの魔法記憶領域は見えたか?」

「えっと、小川が見えた」

「なら問題はなさそうじゃ」

老婆はアイテムボックスから杯をもう一つ取り出すと、それに酒を注いで千夏へと渡す。

千夏は杯に口をつけると顔をしかめる。普段飲んでいるワインのようなさわやかなものではなく、アルコール度が高くきつい酒だった。


「小娘にはまだ早かったか」

顔をしかめた千夏をみて老婆は笑う。

「そんなこというと美味しいのわけてあげないよ!」

千夏はアイテムボックスからため込んでいた食料を次々に取り出し、おいしそうに老婆の目の前で食べ始める。


老婆はくんくんと匂いを嗅いで、千夏が取り出した「テリヤキチキン」の包みを杖でくいくいと引っ張る。が、千夏が手でそれを遮る。

「ふっふっふ」

千夏が不敵に笑うとすかさず老婆が杖を持ち替えて逆方向から食べ物を狙う。

「わきが甘い!」

ずるずると食べ物を自分のほうに引き寄せ老婆はにやりと笑う。


しばらく老婆と攻防を続けた後、千夏は笑って食料をテーブルの真ん中へと広げた。

やはり食事は一緒に食べたほうがおいしいのだ。

「婆ちゃんは一体いくつなの?」

はむはむと肉を噛み千切りながら千夏が尋ねる。老婆は年寄とは思えないほど異様に物を食べる。


「お前さんよりちいとばかり上なだけじゃの。上手い飯を食い、うまい酒を飲む。人生はまだまだこれからじゃの」

老婆はにやりと笑うと手についた米粒をきれいに平らげた。


評価とご感想ありがとうございました。


切りが悪くていつもより1.5倍増しです。


感想欄でもちょっと書いたのですが、寝起きに小説に使えそうなネタの夢を見たのですが、トイレに行ったらすっかり忘れてしまいました。

未だに思い出せません。なんかすごく惜しい気が……。


200話で何か記念なるものを書いてみたいと思うのですが、今のところ何にも思いつきません。活動報告のほうにリクエストをいただけると嬉しいです。

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