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宴会

遅くなりました。

宴会のメイン料理は千夏の希望により豚汁もどきになった。大量の野菜の皮をみんなでむき、王都で買い込んだ非常に大きな鍋でぐつぐつと煮こむ。味噌がないので醤油と香辛料で味を整える。


「まだかな」

シャロンはリルと一緒に巨大な木べらで楽しそうに鍋の中をかき混ぜる。タマと竜達は今は夕食の狩りに出かけている。彼らが戻ってくるまでにと慌ただしく宴会料理を村人達が作っている。シャロンがそれを興味深げに眺めていたところにリルが「一緒に作る?」と誘ったのだ。


シャロンはこんな大人数でご飯を食べたことはないし、料理を作る手伝いをしたのも初めてだ。さすがに包丁は危ないので持たせてもらえなかったが、いい匂いがする鍋をゆっくりとかき混ぜる。

「もう少しだべ」

料理の味を確認していた中年の女性がシャロンの問いに答え、更に調味料を鍋に継ぎ足す。


シャロンのすぐ傍でアルフォンス達が網の上で肉を焼いている。ときおりセレナに「生焼けなの!」とアルフォンスは叱られ頭を掻く。

侯爵夫妻も初めてのバーベキューを楽しんでいるようで、せっせと肉と野菜を楽しそうに焼いている。

香ばしい肉の匂いにシャロンのおなかがきゅうと鳴った。シャロンは恥ずかしそうに顔を赤くして、リルと一緒に鍋をかき混ぜる。


千夏はというと買ってきた果物をひたすらお酒に変えていた。酒樽はそれなりにそろえていたが、竜達は大酒のみだ。樽の中に果物を詰め込み水で浸し、ひたすら発酵の魔法を使う。

「凄い匂いね。飲まなくても匂いで酔いそう」

千夏に呼ばれた茜が布を鼻に当て、樽の中を覗き込む。作業中の千夏も簡易マスクを作って匂いを嗅がないようにしている。


「樽の底に発酵魔法をかける魔法陣を組み込んで貰えると私としては助かるんだけど」

千夏の言葉に茜は頷く。ヴァーゼ侯爵から従魔が届いたら早速森から果物の調達作業が始まる。それに先駆けて樽の改造を千夏は茜に頼む。そうすれば千夏がいなくても村人達だけで竜が飲む酒を造ることが出来るのだ。竜の労働力の対価はお金ではなくてお酒で支払われる。酒造作業は出来るだけ簡単に済ませたいところだ。


「明日から取り掛かるわ」

茜が応えたときに、夕日の光が巨大な何かに遮られ辺り一体が暗くなる。空には十数匹の竜が旋回して、その巨体の影が落ちてきたのだ。


「わぁ。凄い」

シャロンは目を丸くして空を舞う色とりどりの竜達を見上げる。普段は好きな時間に狩りに出かけるので村人達もこれほどの集団で空を舞う竜達を見たことがない。村人達も作業の手を止め、空を舞う竜達をうっとりと眺める。夕焼けの光に竜達の鱗が反射してキラキラと光る。この村でなければなかなか拝めない光景だ。


黒い巨大な竜を先頭に竜達はくるりと村人達の頭上を一周すると、少し先の開けた丘に着地していく。

「竜達が戻ってきたべ。急ぐだよ!」

村長が手を止めて魅入っていた村人達に大声で声をかける。その声に我にかえった村人達はせっせと働き始める。屋外の宴会場に焼き立てのパンや肉が運ばれ、シャロンも出来立ての豚汁を村人達に混ざって、お椀に注いていく。零さないように入れるのがなかなか難しい。


「タマも手伝うでしゅ」

シャロンを見つけタマが駆け寄って来る。

「じゃあ、タマはスープを運んでくれる?熱いから気を付けてね。零しちゃだめだよ」

リルに豚汁を注いだお椀を渡されタマは頷いて広場のほうへ運んでいく。

「僕も手伝う」

レオンはシャロンに手を差し出す。シャロンはなんとか零さずに注いだお椀をレオンにゆっくりと渡す。


「いい匂いだな。腹八分目にして来たから沢山食うぞ!」

上機嫌に那留はくんくんと匂いを嗅ぎながら広場に入ってくる。広場の中央には木材を積み上げた大きなたき火が置かれ、ぐるりとそれを囲むように円になってみんなで地べたに座り込む。全員にアツアツの豚汁と良く冷えた飲み物が行き届くといよいよ宴会の始まりだ。


「今日はみんな楽しめたかな?」

「「「「「おおおおおおおう!」」」」」

千夏の問いかけに、村人達や竜が腕を突き上げる。赤々とした炎に照らされた彼らの満足気な笑顔に千夏はにっこりと笑う。


「でもまだ今日は終わりじゃないよ。最後の締めくくりに飲んで食べて思いっきり騒ごう!乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

千夏の挨拶が終わり、宴会が始まる。


竜達は全員一樽の酒樽を抱え込み、ぐびぐびと酒を楽しそうに飲む。今日は無礼講なのでタマもお酒を嬉しそうに飲んでいる。シャロンも少しお酒に興味を示し、一口だけタマからもらう。

甘いのかと思ったのだが、酸味を感じシャロンは少し顔をしかめ、口直しにジュースをごくごくと飲み干す。まだ5歳のシャロンにはお酒は美味しく感じられなかった。


「一番セレナ、剣舞をするの!」

少し酔ったセレナが中央に出てきて妖精剣をすらりと抜き放つ。これはハマールにいたときに教え子から教えてもらった剣舞だ。なお、一発芸についても彼らから飲み会では必須事項と仕込まれた。


剣を振りながらセレナは軽やかに舞い踊る。シルフィンが茶目っ気を出したのか剣からは緑色の光が放たれ、剣が動くたびに残像のように光が走る。幻想的な剣の舞に村人達はうっとりと静かにそれを見守る。

最後にぴたりと正眼の姿勢でセレナが止まると、惜しみない拍手が村人達から送られた。


「では二番アルフォンス。竜について語ります!」

セレナよりも更に酔ったアルフォンスが続いて広場に中央に進み出て来る。愛里が嫌という程聞かされた竜への愛の言葉を延々とアルフォンスが語り始める。


ふんふんと村人達は頷きアルフォンスの言葉に耳を傾けているが、竜達は少し苦笑いだ。千夏はいつも通りにアルフォンスの話をスルーして、モグモグと目の前の料理を片づけている。5分ほどアルフォンスが熱く語ったところで、エドがずるずると酔っ払いの主を引きずり強制退場させる。


一発芸もここで終わりかと思いきや、リルとタマが中央に進み出て来る。

「三番、俺とタマでマジックショーをやります」

リルが夜空に向かって以前夏祭りで見せた光の魔法を次々と描いていく。光のイリュージョンに村人達はもちろんのこと竜達も喜んで手を叩いている。


タマがリルが描いた絵の横に花火を打ち上げていく。今回は千夏からの魔法贈与がない分大人しくなるはずだが、タロスとフィーアがタマの魔法を真似て夜空に花火を打ち上げはじめた。レオンが更に夜空にきめ細かいアイスダストを打ち上げる。小さな氷の粒がキラキラと花火の光に照らされ光り輝く。


今日は王都で買い物をして、旗獲り合戦で盛り上がり最後にはこんな綺麗なものまで見せてもらった。村人達はとても幸せだった。まるで夢のような一日は夜遅くまで続いた。




「―――――――頭が痛い」

昨日飲み過ぎたアルフォンス、セレナは朝食の席で頭を抱えていた。そもそも竜達のペースに合わせて一緒に飲む事が間違っている。リルが差し出した二日酔いに効く苦い薬を二人は飲み干し、テーブルに顔をつけて撃沈している。


「いいですか、こういう大人になってはいけませんよ」

アルフォンス達に冷たい水を差出しながら、エドはタマとシャロンを振り返る。シャロンとタマはこくこくと頷く。


「今日は城が到着する予定になっています。それと昨日の収支ですが……」

のんびりと朝食を食べている千夏にニルソンが今日の予定と昨日のお金関係を報告する。正直お金のことはチンプンカンプンだ。賞金で出たお金で宴会分はとりあえず足りたことだけは判った。


魔女の城のほうは千夏達が破壊したままになっているので、普通に城の中に入るのに苦労することになる。地竜達に頼んで少なくてもエントランスホールの大穴は埋めてもらわないと茜たちが中に入れない。


それと午後あたりにアルフォンス達が月光草を探しに行った先で立ち寄った町からの移住者が来ることになっている。前回移住してきた人達の家もまだ全て建てていないので、魔女の城を簡易宿舎にする予定だ。そのためには大掃除が必要だった。


「村人達は昨日のお礼にと張り切っています。掃除の指揮はライゼさんにお任せしてあります。家具は昨日王都で発注しましたから、夕方には届くでしょう」

「掃除は使うところだけにしよう。後は追々ね。あの城広いから今日一日だけじゃ追いつかないよ」

ニルソンの報告を聞いて、少しだけ面倒くさそうに千夏が答える。千夏も瓦礫の撤去係りとして清掃に加わる予定になっている。


「はぁ……。自動掃除機があればいいんだけどねぇ。魔女はどうやってあの広い城を掃除していたのかなぁ。何かあるかもしれないから先に茜さんに聞いておいたほうがいいかな」

千夏は朝食を終えると、茜が住んでいる宿屋へと足を向ける。

千夏が部屋を訪ねると茜は部屋で昨日話していた酒樽の魔法陣をキューイと相談しながら組み立てていた処だった。


「掃除ねぇ。そういえば自動人形(オートマター)の魔法陣を見かけた気がしたわ。それでしていたのかも」

茜は城の魔法陣を思い出しながらそう答える。

自動人形(オートマター)? 実在するのか?」

キューイが茜の発言に食いつく。

魔法陣の研究者であるキューイにとって自動人形(オートマター)はまさに究極の浪漫だ。


「そういえばゴーレムも魔法陣で動かしてたんだっけ。ゴーレムと自動人形(オートマター)は別物?」

千夏は首を傾げて質問する。


自動人形(オートマター)は文字の通りに人の形をしたものよ。制御室の奥に何体か起動停止されているものがあったわ。あれが動けば掃除も楽かもね」

「それは素晴らしい。ぜひ見てみたいものだ。城は何時に到着するんだ?」

「確か10時くらいと聞いているけど」


少し興奮気味のキューイに千夏は朝ニルソンから聞いた時間を教える。よくわからないがその自動人形(オートマター)が掃除してくれるなら楽が出来そうだ。面倒な掃除が必要なくなるかも?と千夏は期待に胸を膨らませた。


評価とご感想ありがとうございます。


次は何を書こうと考えたのですが頭の中が真っ白で進みませんでした。

なので、無心でとりあえず書いてみようと思って書き始めたらこんなことに。

相変わらずノープランです(汗

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