魔女の城 (5)(改訂版)
全体的に修正しました。
茜は最後の魔法陣が次々と砕け散っていく様を信じられない気持ちで凝視していた。
この魔法陣で作られた魔道人形はゴーレム達など比べものにならないほど強さを秘めている。それが、次々と壊されていくのだ。
一体この城にやってきた人間達はどんな人間なのか。茜の純粋な探求心が刺激される。
そもそもなぜこの城にやってきた人達は、困難な罠をわざわざ突破して来たのだろうか。
茜は考える。
調査のためだろうか?
城の防衛機能を最大限に設定されていた。何人か人が死んだのかもしれない。意図して行ったことではないが、茜が動かさなければ人が死なずに済んだことだ。
それを考えると胸が痛む。
やがて全ての魔法陣が破壊され、城の防衛システムが沈黙する。
(私は処罰されるのだろうか……)
手に汗が滲む。
茜は覚悟を決め制御室を出る。隣の居間で来訪者を待つことにした。
アルフォンスは剣を構えたまま扉を開ける。そこは今までの階とは趣が異なり生活感が溢れている。右手には台所。正面の扉は開かれており、そこからは生い茂った草木が見える。
アルフォンスの後に続いて入ってきた那留は小さな気を感じ、左手にある扉を押し開ける。扉の先には少し広い居間があり、その中央に一人の女が立っていた。他に人の気は感じない。
「他に人はいないのか?」
アルフォンスはじっとこちらを見ている女に向かって話しかける。
「他にはおりません。私だけです」
女がそう答えると、那留もアルフォンスを見て頷く。それを確認してからアルフォンスは剣を鞘へと戻す。アルフォンスの様子をうかがっていた千夏達は問題がないと判断し、居間の中へと進む。
茜はぞろぞろと現れた千夏達を一瞥する。この国特有の赤い髪をしている人物は一人だけだが、獣人のようなのでこの国の人間ではないだろう。全員が他国の人間であることに茜は疑問を感じる。
「この城の魔法陣をいじっていたら、止まらなくなってしまいました。人が入り込まないように防御結界を展開したのですが……。城の防衛システムで何人亡くなったのですか?」
茜はぐっと手を握り、目の前のアルフォンスに尋ねる。
「誰も死んでいないわ。あなたが城を動かしていたの?」
千夏がアルフォンスの代わりに答え、そのまま前に進み出てくる。その両脇にはぴったりとタマとコムギが張り付く。
千夏の質問に茜は頷き、疑問に思ったことをそのまま口に出す。
「あの魔法陣で誰も亡くなっていないのですか? 魔法陣は発動しなかったのでしょうか?」
「魔法陣は発動したし、罠も動いた。けど、誰も死んでないよ。結構つらい罠だったけどね」
千夏は乗り越えてきた数々の罠を思い出して、げんなりとする。
「チナツたち以外の人が調査に来たのなら死人が出ていたでしょうね」
セラの言葉に茜の顔が強張る。
「でもあれはあくまで防衛装置。上に登らなければ被害に遭うこともないものよ。ここまで来たのはこの城の機能に興味があってきただけ。特に転移石にね。今回のことで私たちは別にあなたをどうこうするつもりはないわ」
セラの言葉を聞き、茜は安堵し大きく息を吐く。
「とりあえずこの城の制御室を見せてもらえないかしら?」
「はい。ですが中の物は動かさないでくださいね。バランスが崩れると大変なことになります」
茜はセラに注意すると、制御室に向かって歩き出す。セラとカトレアが茜について居間を出ていく。アルフォンスも興味を持ったのかそのあとをさらに追いかけていく。
千夏は少し疲れたので居間で休むことにした。エドが全員分のお茶を淹れる。
「千夏さん、そこの庭に転移石とそっくりなものがいっぱいありますよ」
キョロキョロと最上階を見学していた太郎が居間に戻ってくる。
「じゃあ、帰りは転移石で帰れそうね」
千夏はほっとしたように笑う。船旅はのんびりできるので千夏は好きだが、タマとアルフォンスが暇を持て余して毎回辛そうにしているのだ。
タマはコムギを抱えて千夏の膝にちょこんと座っている。以前リルが風邪を引いたとき同様に離れる気はないようだ。千夏はタマの頭を撫でながらエドが出してくれたクッキーをついばむ。
リルはリルでそんないつもの風景を見てにこにこと笑っている。
「そろそろおなかが空いたの。セラ達見てくるの」
セレナはそう言ってなかなか戻ってこないセラ達の様子見を見に行く。すぐにセレナの後に制御室へ向かった面々が戻ってくる。
「殆どの魔法陣が何を意味しているかわからかったけど、これは凄い発見ね。セキグチアカネさんが興味を持つのも頷けるわ。彼女はすごいわ。カトレアですら殆ど判らなかったのに」
セラが意味ありげに千夏に向かって微笑む。
「あ、元日本人なんだ」
「はい。あなたもですか?」
茜は千夏に向かって尋ねる。
「そうだよ。私は佐藤千夏。こっちは山田太郎で、そこでヤンキー座りしているのが高橋那留。元々バラバラだったんだけど、今は私の国にいるんだ」
「あなたの国?」
「そう。ネバーランド。今住民を募集しているんだ。よかったらこない?食事も出すし、露天風呂もあるんだよ」
露天風呂……茜はその言葉に心ひかれたようで、口の中でもごもごと繰り返す。こちらにきてから茜は一回もお風呂に入っていない。簡易魔法陣で体をきれいにする生活魔法を使っていただけだ。
「いいんじゃない?私としては日本人が集まってくれているほうが安心するし。あとこの城はこの国と交渉して買い入れる方向にするわ。そしてネバーランドに移築しましょう。うちに持ってくるとクロームが何かとうるさいしね。ネバーランドのほうが都合がいいわ」
セラの中でプランがもう出来上がっているようだ。千夏としても転移以外で長距離移動できるようになれば嬉しい。ぜひ茜には研究を続けて欲しいところだ。
夕飯はこの城の台所を借りてエドとリルが作ることになった。
千夏はご飯が出来る間に那留と太郎を連れて世話になった領主に挨拶に出かける。タマとコムギも千夏から離れたがらなかったので街の外まで一緒についてきている。
こんな大量に不法入国者を連れて街に戻るわけにもいかない。最初にこちらに来た3人とセラ以外は転移石で何事もなかったようにこっそり戻るつもりだからだ。
入国の手続きが完了した冒険者カードを領主から受け取り、千夏は礼を言う。
「いろいろありがとうございました」
「何もないところだが、また来てくれると嬉しい」
領主と握手を交わし、千夏は街を出てタマとコムギを拾うとそのまま魔女の城へと転移した。
次の日。また離れることを嫌がるタマとコムギを何度も言い含めて、千夏とセラはこの国の王都に来ていた。もちろん那留の送迎付きだ。今はタマとコムギと一緒に王都の外で那留と待っている。
「これはこれは。我が国へようこそ」
淡いブルーのドレスを纏ったセラは、目の前の国王に向かって優雅にお辞儀する。千夏はその隣で軽く会釈した。セラのようにドレスをアイテムボックスにに入れていないので、いつもの服装だ。
「今回は突然の来訪を快く受けて頂き誠にありがとうございます。彼女は私共の国になくてはならない勇者です。突然失踪したとの知らせを聞き、慌てて追いかけてまいりました」
「勇者殿の話はこの国にも伝わっている。突然の失踪となればエッセルバッハもハマールも騒然となることでしょう」
王は王座に座り、にこやかにセラに向かって笑いかける。エッセルバッハに比べれば弱小国でしかないノークだ。彼女の機嫌を損ねるわけにはいかない。
「これを機会にぜひ、ノーク王国と誼を深めさせていただきたく考えております。我が国からノーク王国の関税率を二割下げさせていただきます。ただし、そちらからの輸出税は今まで通りで問題はありません」
「二割もですか!」
セラの思いがけない一言に国王は声を上げる。
現在四割の輸入関税が半分に下がれば民の暮らしは随分と楽になる。ノークは北国であまり作物が育たない。食料の大半を輸入に頼っていた。
また輸出税はそのままでいいと言う。ノーク産の紅玉は質もよく高い値段でよく売れるのだ。こちらも合わせて下げろと言われると王家の実入りが少なくなってしまう。
一方的にノークに有利な条件過ぎる。
王はセラの真意を量ろうとじっと彼女を見つめる。セラはにこりと笑う。
「実はこちらの古の魔女の城をネバーランドの王がいたく気に入りまして。できればその城を譲っていただきたいのです」
「あの城ですか?ただの古い城ですぞ?」
王は千夏を訝しげに見つめる。千夏は黙ってそれを見返す。
何百年も前から建っている古びた岩城だ。何度も調査を行いあの城には何もないことが判っている。
「験担ぎです。彼女も同じ魔女。今回の魔王との戦いを前に是非あの城を手に入れたいそうなのです。ネバーランドは建国したばかりでまだ城はありませんしね」
セラは扇子で千夏側の自分の顔を塞ぎ、いかにもうちの勇者は我がままで困っていますという顔を作る。
「なるほど、古の魔女の験担ぎですか。あの城もきれいにすれば見栄えもいいですしな」
「それでは譲っていただけると?」
「構いません」
王が快く返答する。セラは嬉しそうに微笑む。
互いの約束した内容の書類を王とセラがやり取りしている姿を見て千夏は溜息をつく。
あれだけ堂々と嘘を突き通すセラに千夏は感心する。自分には絶対できない芸当だ。
その日のうちに早急にセラの分の入国手続きが終わり、夕刻にエッセルバッハ行の商船がノール王都の港を出ていく。
貸切された客室に乗客の姿はなかった。
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誤記を修正しました。




