魔女の城 (4)(改訂版)
全面的に修正しました。
『んー、それだったら空間を切り離せば、城に影響を出さないで済むわよ?』
アンジーは座り込んだ千夏の前に飛んでいき、パンと手を叩いて自分の思いつきに満足したように頷く。
「空間を切り離す?」
『ほら、私が妖精の谷の空間を切り離したのと同じ事をすればいいのよ。ただ難点はものすごい魔力が必要になることね。千夏に半分魔力をもらったとしても、空間を維持している間は私と千夏は魔力不足で戦闘はあまりできなくなるわね。千夏の残魔力がどの残るかよくわからないけど』
それでは那留一人で戦うってことになる。
(それはそれで厳しいような……やっぱり詰んでいる気がする)
千夏はそう結論づける。
那留も何も言わないということは、自分一人で戦う場合、全力で戦う必要がある。遊び気分ではすまない。
人間諦めが肝心だ。千夏の座右の銘である。
「お腹もすいただろうし、諦めて帰ろうか」
千夏がそう言い出すとアンジーが不思議そうに千夏を見つめる。
『帰るの?せっかく援軍が来ているっていうのに』
「援軍?」
そういわれて初めて千夏は少し離れた処に、タマや仲間達の気があることに気が付く。たった一日離れていただけなのだが、とても懐かしくて思わず笑みが零れる。
「……アルフォンスやレオン達も戻ってきちゃったんだ。なんか心配かけちゃったみたい」
千夏は遠話のイヤリングのボタンを押す。ノークに来て一度使ったが、遠すぎて全く通じなかった。同じ土地にいるのであれば動作するはずだ。
「みんな来てくれたんだ」
千夏は少し照れたようにそう話し始める。
『チナツ!無事なの?』
すぐにセレナからの応答が返ってくる。
『何か厄介事に巻き込まれていないでしょうね?』
今度は呆れたようなセラの声だ。
『おや、セラ様もいらっしゃったんですか』
『私がいた方が話が早いと思ってね』
意外そうなエドの声にセラはすまして答える。
「とりあえずここで待っているから。」
千夏はそう前置きして現状に至るところまで、みんなに説明を始める。
『……古の魔女の城ね。何が出て来るのかしら』
楽し気なセラの声が聞こえてくる。同様にアルフォンスの声は弾んでいる。
『300年前の勇者とバトルか!楽しそうだな』
相変わらず変わらないアルフォンスの言葉に千夏は苦笑する。
それから30分ほど経った頃、千夏は一日ぶりに無事パーティメンバーと合流を果す。
「ちーちゃん!」
タマは竜から人に変化すると千夏に向かって駆け出す。リルの腕の中にいたコムギもそこから抜け出し、千夏へと駆け寄っていく。
二匹に飛びつかれて、千夏はそのまま勢いに押されてどっと後ろに倒れ込む。
「チナツ大丈夫?」
すぐにリルが千夏に向かってヒールを飛ばす。
「なんとか」
千夏は2匹をしっかりと抱えたまま返事を返す。腕の中のタマを見ると目に涙を貯め、じっと千夏を見ている。コムギの金色の瞳もよくよく見ると潤んでいるように見える。千夏はしっかりと2匹をそのまま抱きしめる。
「ごめんね。心配かけて」
ゆっくりと身を起こし、千夏は二匹の顔を覗き込む。
「……タマは、タマは寂しかったでしゅ」
「クゥー!」
ぽろぽろと泣くタマの顔を千夏はタオルで拭い、コムギの頭を優しく撫でる。
「今度から出かけるときはちゃんとタマとコムギを連れていくから。だから泣き止んで」
「本当でしゅか?もうタマを置いていかないでしゅか?」
ぐしゅぐしゅと泣きながらタマは千夏を見上げる。コムギも、ポンポンと千夏の胸を前足で何度も叩く。
「うん、約束する」
千夏が微笑んでそう答えるとタマはこくんと頷き、千夏に抱き付く。竜や魔物といってもまだ生後数か月だ。育て親と少しでも離れると寂しくて仕方ない。
タロスは昨晩は泣き疲れて眠った息子をフィーアと一緒に、とても悲しい気持ちで見守ったのだ。無事千夏と会えたことに安堵する。
レオンも今朝のタマとコムギの姿に、母親を亡くしたばかりの幼い頃の自分を重ねていた。ぽろりと自然に落ちた涙を慌てて拭い、千夏達に背を向けて文句を言う。
「チナツは不用心すぎる。どれだけみんなに心配をかけたのかわかっているのか?」
「はい。反省しています。ごめんね、みんな」
ぴたりとくっついて離れないタマとコムギの頭を撫でながら、千夏はここにいる全員に向かって頭を下げる。
「まぁ不慮の事故だったんだし。チナツも反省しているようだから、その話はここまでにしよう」
アルフォンスはアイアンゴーレムの残骸に座りながら、そっぽを向いたレオンに笑いかける。
「分かった。次はないからな」
レオンは仕方ないというような顔を作って頷く。
皆が納得して静かになったとたん、ぐるるるぅとタマのおなかが鳴る。それにつられたのか那留のおなかもぐぅと鳴った。
タマは昨晩から食事をとっていなかったし、那留も度重なる戦闘でおなかが空いていた。
エドはタマと那留を連れて一階下に降りると、アイテムボックスからダンジョンで倒した魔物を取り出しご飯を食べさせる。竜は雑食なので何でも食べるが、あまり人前で食べさせるのもどうかという配慮からだった。
二匹が満腹になった頃に後発のセラ達が到着する。
元気になって笑顔を見せている息子をみてフィーアも満足そうだ。
「途中見てきたけど、凄いわね。これほどの魔法防御システムがある城は魅力的だわ。魔法工学は300年前の大戦からあまり進歩していない分野なのよ。この国に埋もれさせておくには勿体ないわ」
セラは足元に転がるアイアンゴーレムの残骸に目を落とす。
「そうなんだ。まぁ確かにあの長距離転移が汎用的に使えれば、ネバーランドに商人が来やすくなるよね」
ネバーランドはのんびりした田舎で過ごしやすいが、やはり月に2回だけの行商だけでは欲しい物が手に入りにくい。
『あの転移石はまだ膨大な魔力を持つものしか使えないわ。改善しないと気軽に誰でもっていう訳にはいかないと思うわよ』
「そうですね。私でも動かせませんでしたから。でも、この城を動かした人なら将来的になんとかできるのではないでしょうか?一月前まで城が普通であったということであれば、誰かがこの城の防御システムを動かしたと考えられるでしょう。」
アンジーの言葉に頷きながらカトレアは奥にある上に続く階段に目を移す。
「でも、なんで止めないの。人が中に入ってきているのは動かした人はわからないの? チナツ達だから無事だったけど、普通の人が紛れ込んで来たら死んでいるの」
「セレナさん。普通の人であれば、あの強固な物理結界を解くことはできませんよ」
セレナの疑問にカトレアが笑う。
「こちらを試しているのか、なにか事故でも起きたのか……上に辿りつけばどちらか判るでしょう。頑張ってね」
セラは千夏を振り返る。
「じゃあ、攻略しよう。私はたぶんあまり戦力にならないから、みんなよろしくね!」
千夏は頼もしいいつものメンバーと竜達を見回す。
「おう。俺たちが暴れまくってもびくともしない空間作りに精力を注いでくれ」
那留はそういって階段に向かって歩き始める。
「返し技は任せるの!」
セレナは力強く頷く。
「タロスさん達もいるし、支援は任せてね」
リルはポーチの中の魔力回復剤の在庫を確認し、千夏に向き直る。
「僕がいるからには負けるわけがない」
レオンはそう言うと那留の後を追う。
千夏はピッタリとそばにくっついているタマとコムギを見下ろす。
「じゃあ、行こうか」
「はいでしゅ」
「クー!」
アルフォンスとセレナに続いて全員が、上のフロアに足を進める。
先程と同様にブンっと耳障りな大きな音が部屋の奥から響いてきた。
千夏の肩に乗っていたアンジーがすぅっと空に浮かび、千夏の魔力を吸い上げながら長い詠唱を始める。リルは魔法と物理の結界を張り巡らせる。
いつでもリフレクションブレイクを発動できるように、先頭に立ったアルフォンスとセレナは剣を構える。
奥の空間が揺れ二人の人影が形成される。先程と同様に剣士が剣を横に滑らせた。待ち構えていたアルフォンスがタイミングを合わせて剣を高速に動かし、リフレクションブレイクを発動させる。
風の斬撃がそのまま剣士押し返されるが、剣士も大きな盾でその衝撃を受け止める。
(ほんまにレイバーンそっくりや。セレナ、あれがおいらの元の持ち主の偽物やで。遠慮なく叩きのめしたれ!)
シルフィンの言葉にセレナは剣士が持つ剣を確認する。まさに妖精剣と同じ形状の剣だ。だが、あの偽物にはシルフィンはいない。負けるわけにはいかない。
『――空間創造!』
やっとアンジーの長い詠唱が終わり、この部屋が別空間に移動される。
それを待っていた那留とレオン、そしてタマは竜に戻り一斉に二人の勇者に攻撃を仕掛ける。
漆黒の闇、氷、虹。3種類のドラゴンブレスが一気に放たれる。
レイバーンがリフレクションブレイクを放つが、全てのブレスを押し返すことはできなかった。
タマの虹のブレスが押し返され、こちらに向かってくる。
タロスとフィーアが魔法防御をさらに固め、ブレスは防御結界と相殺された。すぐにリルが魔法結界を再度展開しなおす。
レオンのブレスは更にレイバーンの水竜の盾に阻まれたが、那留の漆黒のブレスが届きピシピシと水竜の盾が崩壊し始める。
(もう一発ブレスかましたれ!盾で耐えてとる間はリフレクションブレイクは放てん!)
偽物なのだからなのか、シルフィンは全く遠慮などせずに元持ち主の隙をすぐに看破して攻撃指示を出す。
クリスは杖を高々と掲げ、那留に向かってフリーズの魔法を放つ。那留の下半身がみるみると氷化していくが、すぐにレオンがその氷を水に溶かす。
タマは羽を羽ばたかせ、上空からブレスをレイバーンに向けて吐き出す。虹色の強烈な光がレイバーンを包んでいく。
「行く!」
セレナはそう叫ぶと、大きく迂回しながら後方にいるクリスに向かって走り出した。すぐにクリスがファイヤーランスを撃ってくるが、それを紙一重で避けながら更にセレナは接近する。偽物だと思っているセレナは全く容赦せずクリスを縦横無尽に切り裂いていく。
『ブレスが直撃しても人じゃないからすぐには倒れないけど……やっぱり本物と比べると全然弱いわね。本物のクリスなら特級魔法を使うだろうけど、城の防衛を第一にしているみたいで、大きいのは使ってこないようね。過剰戦力過ぎたかしら。彼らを構成している魔法陣がみるみる壊れていくわ』
「そりゃ、竜が5匹もいるんだから。しかし、これだけブレス攻撃してよくこの床とか壊れないないね……おっと」
苦し紛れにレイバーンがリフレクションブレイクをこちらに向かって放ち、またもや防御結界が打ち破られる。
コムギもただ黙って見て入れなくなったのか、セレナに続いて奥に向かって駆け出した。
「この国の軍隊くらいなら楽に倒せるくらいの強さはありますよ。3匹の竜相手に一人であれだけ立ち回れるんですからね」
エドも出番がないようで、千夏達の会話に加わる。
クリスのフローズンバレッドの氷の雨が無数にセレナの体を打ちのめす。セレナの体がぐらりと傾く。
「あっ!」
千夏は立ち上がり、すぐにセレナとクリスの間にファイヤーウォールを張る。
リルがハイヒールを急いでセレナにかける。血だらけのセレナの傷が瞬時に跡形もなく消える。セレナはゆっくりと立ち上がると、こちらに向いて笑顔を見せる。千夏は安堵し、再び床に座り込む。
コムギがセレナと合流し、二方向からクリスを追い詰めていく。
数分後。圧倒的火力により、ついに二つの人影を構築する全ての魔法陣が砕け散った。
ご感想と評価ありがとうございます。
竜の数が間違っていました。
★前話との差分
佐藤千夏
Lv 183
生命力 18,300(335,480)★-200
魔力 21,840(217,020)★-200,100
気力 50(1,100)
持久力 400(13,570)
Str 193(6,172)
Vit(DEF) 193(+防具10)
Dex 374
Int 556
Agi 356
Luk 44




