表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/247

スローライフ

難産でした…説明回になります。

「山田太郎様。あなたは電車の脱線事故でお亡くなりになりました」

「はぁ…」

太郎は少し狭い応接室で、見知らぬ男からそう宣告された。

正直なんと答えたらいいのか言葉が詰まる。確か自分は先ほど最後の出社を終え、これから田舎に帰って第二の人生を送ろうと思っていたところだ。


最後まで会社の同期にはまだ若いのに、勿体ないと嘆かれていたことを思い出す。

山田太郎は今年で28歳。確かに男盛りの年だ。本来なら田舎に引きこもってしまうにはまだまだ若い。

「でも山田さんは農家に向いているんじゃないかな。縁側でのどかにお茶を飲んでいる姿が妙に似合いそう」

後輩の事務をやっている女の子が笑いながらそう言っていた。


太郎はよく言えば年の割に落ち着いている。悪く言えば年寄臭い。

お洒落なカフェなどにいったら、おしりがムズムズして落ち着いてお茶も飲めなかった。

彼女がいうとおり、縁側でせんべいとお茶のほうが自分にはお似合いだ。


「あの、話聞いてます?今後どうするかコースを選んで欲しいのですが」

目の前の男はぼけーっとしている太郎の目の前で何度か手を振って注意を自分へと向ける。

「ああ、すみません。ちょっと考え事していました。そういえば死ぬ前に走馬灯を見ると聞いていたけど、そんなことなかったなぁ。俺死んじゃったんだなぁ……」

呑気な太郎を置いてけぼりにして、男はもう一度コース説明をする。


ざっと聞いているだけでも、正直Cコース以外に選ぶ道はなさそうだ。

もともと第二の人生を始めようと考えていたのだから、それほど悪い状況ではないかもしれない。


「あの、異世界ってゲームと一緒って話でしたけど、つまり中世のヨーロッパに近いんですか?主産業は農業?」

「はい。科学は全く発展しておらず、魔法の世界ですが、そう思っていただいて結構です」


「俺は田舎に帰って親父の農家を継ぐつもりだったんです。向うで農業できますよね?」

正直、冒険者となって剣などで魔物を倒すなど太郎にできそうにもない。闘争心というものが太郎にはないのだ。


「農業ですか…農家を手伝うことは可能です。ですがあちらの世界の農民は貧しいですから、給料などもらえませんよ。食事くらいは出してくれるでしょうけど。その食事も生きていくうえで最低限のものだと思っていただいたほうがいいです」

なかなか世知辛い世界のようだ。

別に太郎は贅沢をしたいわけではないので、自分の食い扶持とたまに嗜好品を買えれば特に問題はない。


「ちなみに土地を手に入れることはできますか? やっぱりその世界でも土地は高いのでしょうか?」

男の人は「ちょっと待ってください」と太郎に声をかけると何もない空中からファイルを出現させる。

そのファイルには見たことがない文字で書かれていたが、なぜか太郎にも読める。

農業に関することがまとまっているファイルのようだ。


「お待たせしました。土地はお金を出せば借りることができます。基本的には買うことはできません。

向うの世界では土地は領主のものです。土地を借りて農民が働いていると理解してもらえれば結構です。

土地を購入する手段はひとつだけあります。町の敷地内の土地だったら売ってくれるようです。こちらで用意する初期費用だと、安い町なら(タタミ)一畳ほどの土地なら買うことができますよ。それ以上の土地を買うととすぐに生活に困ることになると思います」


「そうですか、どうもありがとうございました。まぁなんとか頑張ってみます」

ぽりぽりと太郎は頭をかきながら、親切に調べてくれた男に向かって頭を下げる。

その後、欲しいスキルを太郎は尋ねられ、どうせファンタジーの世界なんだからということで、ちょっと無茶を言ってみた。


「はい?? 植物と会話できるスキルですか?」

やっぱり無茶だったのか相手が不思議そうに太郎の顔をまじまじと眺める。

「駄目ですか? 一人だと寂しいので、知り合いができるまでの間、植物に話し相手になってもらうといいなぁと思ったんです。俺は農業するつもりですから、動物より植物のほうがいいのかなと」


太郎のスキルが欲しい理由を聞いて、余計に男は怪訝そうに太郎を見つめる。

「駄目ということはないですが…そんなものでいいんですか?」

「はい。是非お願いします」

「わかりました。スキルに制約を入れておきましょう。あなたが会話したいと望んだ時だけ植物の声が聞こえるようにします。そうしないとうるさくて寝れなくなりそうですからね」

男はそういうと手帳に太郎の取得スキルを書き込む。


こうして太郎は第二の人生をエッセルバッハの田舎町からスタートすることになった。

意外にも植物と会話できるスキルはとても役に立った。

冒険者ギルドでよく依頼に出されている薬草は育成が難しいため、自然に生えているものを冒険者に採取依頼として出している。太郎は薬草と話をすることで、薬草の状態や必要な肥料などの微調整をすることができた。


はじめは鉢植えで薬草を育てていたが、自家製薬草の収入で今は町で小さな土地を買い、薬草とジャガイモを育てている。

『早く食え、今が食べごろだ』

太郎が畑に入ると一斉にジャガイモたちが声をそろえて、そうしゃべり始める。

植物と話してみて初めて知ったのだが、彼らは自分たちが動物に食べられるのを自然の摂理として受け止めている。できればおいしく食べてもらいたいそうだ。


「ちょっと待って。順番だから」

太郎は一斉にしゃべるジャガイモをなだめて端から採取を始める。

この世界のジャガイモは太郎が知っているジャガイモと異なり、異様に成長が早い。

『タロウ、水ほしい』

ジャガイモたちの声に混ざって、小屋で飼育している薬草たちが騒ぎ始める。

薬草はそのままむき出しで植えると盗られる可能性が高いので、小屋の中で育てている。


ジャガイモたちの声が騒々しいので、ジャガイモたちとの会話をカットしてから薬草たちに水をまく。

一通り薬草たちに水をまいた後、再び太郎はジャガイモの収穫を始める。

「ああ、大きな畑が欲しいなぁ。そうしたらもっといろいろ育てられるのに」

冒険者としての身分証明を作ることはできたが、近くの村の農地はあまり収穫がないようで太郎は雇ってもらうことができない。


そんなときだった。太郎が冒険者ギルドでネバーランドの広告を見つけたのは…





「すごいね、ちゃんとお風呂になっているよ」

ここはフルール村の中心から少し外れた場所にできた共同浴場だ。女湯だけでも一度に50人くらいは入れるでスペースがある。

湯船は土を岩にかえて濾水しないように作り上げており、大きな浴槽は2つ。男湯と女湯だ。

千夏は広々としたお風呂をにんまりと眺める。

昨日千夏達が買い物に出かけている間に、地竜が地下の源泉を掘り出し温泉を作ってくれたのだ。


昨晩酒をたらふく飲んだ後に竜達が、この温泉につかってまったりしていたらしい。

もちろん人に姿を変えてだ。さすがに竜のまま何匹も同時に入れるスペースはない。


「あとは湯船の前面に体を洗うスペースの床を岩にして、雨が降っても入れるように岩屋にしてしまったほうがいいだろうな。あ、体洗うときの椅子も作ってくれ」

那留は温泉を作り上げた地竜2匹に新たな指示を出す。地竜達は機嫌よくそれに頷く。

働いた分、夜にうまい酒がだしてもらえると知っているからだ。


「それだったら脱衣所スペースも必要じゃない?」

「そうだった。服を脱ぐ場所と風呂場とは部屋を区切って作ってくれ。床の岩はできるだけ滑らかな岩にしてくれよ。ごつごつしてると痛そうだからな」

千夏の意見も取り入れて、那留がそう指示すると竜達は土魔法を使って荒れた土地を岩状に変えていく。


「竜さんたちすごいわ。もしかして家も作れたりするの?」

千夏と那留は竜達の作業の邪魔にならないように、少し離れた場所まで移動する。


「作れるぜ。簡単な岩作成(ストーンクリエイト)なら俺もつかえるから、積み上げれば家になるだろう」

「そのうちお願いするかも。そのときはお願いね。さてと、次は村長の家か」

今日の午後から新しい入植者がくることになっている。それと試験的に飼育する家畜もだ。エッセルバッハからは家畜の飼育を教えてくれる人も一緒にくることになっている。


基本はニルソンと村長で新しい人の作業分配をしてくれることになっているが、千夏も立ち会うことにしていた。もしかしたら日本人がいるかもしれない。農業の知識がある人がいればいいのだが。

千夏はできればお米を作りたいと考えていた。もちろん定期的にお米を食べたいからだ。

作らず輸入に頼ると、エッセルバッハ経由で南国諸島から仕入れるのに多少値がはるのだ。

でも水田のつくり方がわからない。最悪は南国諸島の米作をしている人を講師としてしばらく雇い入れる方向になるだろう。


「領主どん」

村長の家に向かってあぜ道を歩いている途中で、畑作をしている村人達が千夏に気が付き、手を振ってくる。千夏も村人達に向かって手を振り返す。

この前耕運機で大量に掘り起こした畑にぽつぽつと小さな芽が芽吹いている。

ジャガイモだけだと勿体ないのでタマネギや根菜なども植えている。早く食べれるようになればいいなぁと千夏はのんびりと畑を眺めた。




「共同浴場は今日の夜から入れそうだよ」

「そりゃ、楽しみだ。風呂なんて生まれてこのかた入ったことないだよ」

千夏の報告に村長は顔をほころばせる。

「面倒でも毎日入りにいくようにみんなに伝えてね。温泉だから疲れもとれるし、体もきれいになって病気にかかりにくくなるし」

千夏は村長夫人が出しくれた干しイモをモグモグと齧りながら、村長に念を押す。


「そろそろ移住希望者が来るころです」

ニルソンは2人の会話を聞きながら、懐中時計を取り出し時間を確認する。


移住希望者だけではなく、ついでにエッセルバッハから家畜も届く手筈になっている。

今日はやることが沢山あって頭が痛い。

ニルソンは側頭をやわやわと揉む。


なによりもこの村に何匹もいる竜について移住希望者への説明が一番面倒くさい。

このあたりは領主が引き受けてくれればいいのだが…

ニルソンはお茶をのんびりと啜っている千夏に視線を向ける。


「「「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」

外から突然、大勢の悲鳴が聞こえてくる。

何事かとニルソンは窓に向かって走った。


窓の外に見慣れない大勢の人々が、のしのしと歩く火竜を見て腰を抜かしている姿が見える。

その周りをニワトリがバタバタと羽をちらしながら逃げまどい、牛もすごい勢いでバラバラに逃げていくのが見える。


「あー、牛とかニワトリとか捕まえるの大変そうだね」

ニルソンの隣で千夏は面倒くさそうにつぶやいた。


ご感想、評価ありがとうございます。

太郎の姓をかえました

太郎のように冒険者をしていない人は結構います。

本当は太郎の話をもう少し詳細に書きたかったのですが、主人公がでてこなさすぎるのでやめました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ