↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/247

森の中で

「パーティ?」

千夏は移民団と一緒に届けられた手紙をみて、うんざりする。

手紙にはハマール、エッセルバッハそしてネバーランドの同盟を記念したパーティを開くと記されている。日時は一週間後。会場はエッセルバッハの王城らしい。


千夏はニルソンにその手紙を渡し、遠話のイヤリングのボタンを押す。

「パーティってなに?!」

『パーティはパーティよ。どうせチナツは暇なんでしょう?』

セラからすぐに返事がくる。


「暇って……それほど暇じゃないよ。今日なんて移民希望者が半分帰っちゃったんだから」

そう、移民の半分は竜におびえ自国へと戻ってしまった。残ったのはわずか20名ほどだ。それだけ残っただけでも大したものだとニルソンは言っていたが。


『ほとんどニルソンさんと村長が指揮をとっているでしょ?チナツは何が忙しいの?』

セラの鋭い突っ込みに千夏は一生懸命言い訳を考える。堅苦しい場所など行きたくない。

「竜のためにお酒作ったりとか……あ、お酒用の果物を森にとりにいかないといけないかも」

『一週間もあれば大量にお酒を作り置きできるでしょ。なにも無意味なパーティに出ろと言ってるわけじゃないのよ。同盟をきちんと発表することが目的なの。今回だけは出て欲しいのよ。ドレスはまたローズに借りればいいわ』

「……」


『美味しいものをたくさん用意して待っているわ。お土産にお酒をたっぷり持たせてあげるから、一週間後の昼くらいまでにローズのところに行ってね』

セラは言うだけ言って通話を切ってしまった。


面倒くさい。の一言で断りたいのだが、どうやら許してくれないらしい。

セラ達の支援で生活しているのだから、ある程度は譲歩が必要なことは千夏にもわかっている。

ここはおいしいものを食べにいくつもりで前向きにとらえようと、千夏は諦めた。


扉がかちゃりと音を立てて開く。移民を案内しに行ってた村長が戻ってきたようだ。

「村を一通り案内してきただ。今は宿屋で休憩してもらってるだよ。あと家畜は村人全員で捕まえて家畜小屋に移しただよ」

「そうですか、ご苦労様です」

千夏から手渡された手紙を読み終わったニルソンが、村長に労いの言葉をかける。


「途中で竜に会うたびに驚いてたべ。最後のほうは慣れたんだか落ち着いてた。あれなら大丈夫だべ。竜は働きもんだべ。なにが怖いんだかのぅ」

この村の住民は働き者はいい人(竜?)だと思っている。移住者の反応が不思議でたまらないのだ。


「それじゃ私はちょっと森にいってくる。後よろしくね」

千夏は村長の家を出ると、念話でタマを呼びだす。森には獣がいるので、一人で行くのは危険だと判断した。

タマは村の子供たちと一緒に遊んでいたようだ。楽しそうに遊んでいるようだったので、千夏は那留を連れていくことにした。那留の気はこの村で一番大きいのですぐに居場所が分かった。


那留は先日千夏とタマが掘り起こした畑のほうにいた。一人ではなく、誰かと話しているようだ。

相手はキラキラと輝く金髪を短く刈り込んでいる青年だ。村人達はハマール生まれなので全員が銀髪なので、移住者の一人だろう。


「おう!」

那留は近づいてきた千夏に気が付いて手を上げる。那留の隣にいた青年も千夏をみてぺこりと頭を下げる。

「佐藤さんですよね?山田太郎です。ここはいいところですね。畑がいっぱいあるし、好きにいじっていいと言われました。ただ、この土地にはあまり栄養がないようなので、肥料を大量に与えたほうがよさそうです」

太郎は再びしゃがみ込み、畑の土を握る。


『土まずい!』

『おなかすいたよ!』

ジャガイモやタマネギが不満の声を上げているのを聞き、太郎はどうしたものだろうと考えていた。


「そうです。佐藤です。この土地は荒地を掘り起こしたからね。確かに栄養不足かもしれないね。肥料ってどこで手にはいるの?」

同じ元日本人だとわかり、千夏もざっくばらんに話しかける。


「鳥のふんとか腐葉土とかを混ぜたらいいと思います。日本と同じ肥料はこちらにないですからね。さっき高橋さんから近くに森があると聞きました。そこから腐葉土を集めて持ってこようかと相談していたところなんです」


「この人面白いんだぜ、スキルが植物と会話する能力なんだってさ。ジャガイモが腹へったと騒いでるらしいぞ」

那留はニヤニヤと笑いながら、小さな芽をつけたジャガイモを眺める。


「へー。すごいスキルだね。丁度私も森に行こうと思ってたところなの。山田さんも那留もアイテムボックスがあるだろうから、3人で腐葉土と果物をとりに行こう」

「果物は酒用か?」

那留がにんまりと笑う。意外と千夏が作った酒もいい味が出て、美味しかったのを思い出したようだ。


「うん。竜は結構飲むからね。ストック作っておかないと。それと私のことは千夏でいいよ。みんなそう呼んでるから。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。俺も太郎と呼んでください」

太郎もにこにこと微笑みながら答える。


 太郎は最初田舎町へ飛ばされたので、元日本人と会うのは二人が初めてだった。

「俺も那留でいいぞ。森は獣が出るから俺の後ろをついてくればいいぞ」


こうして3人は千夏の転移で森の前に移動すると、腐葉土と果物を求め森の中に入っていった。




「あ、キノコ。これ食べれるかな?」

千夏は木の下に群生しているキノコを見つけ、嬉しそうに近寄っていく。

「君は食べられるのかい?」

太郎はキノコに向かって話しかける。


『食べたら痺れるぜ。いっぱい食べたらイチコロだ』

どうやら毒キノコらしい。

太郎から毒キノコだということを聞いて、千夏は残念そうにキノコを眺める。


「太郎はサバイバルしても生きていけそうだな」

那留は感心したように太郎を見る。

「そうだね。おなかがすいたら、食べれそうなものが生えているところを、植物に聞けば教えてくれる。この世界に来たばかりのころは、そうやってご飯を食べていたしね。魔物が近づいてくるのも教えてくれるし結構便利だよ」

のほほんと太郎は答える。


「でも植物ばっかりじゃ腹が膨れんだろう。ん?なんだ?あっちに魔力を感じる」

那留はガサガサと生い茂る草木をかき分けながら、ドンドンと奥に進んでいく。

千夏と太郎も那留に置いて行かれないように、必死に後を追いかける。

千夏は那留の進行方向に目を向けるが、特に大きな気を感じられない。魔物がいるわけではないようだ。


しばらく深い森を進むと、何個かの細長い岩が3つ草木に覆われた状態で立っている。

形が不自然で自然にできたもののように見えない。

「ここから微弱な魔力を感じる。なんだこれ?」

那留は怪訝そうに岩に手をあてる。


「なんだろうね」

千夏は3つの岩に囲まれた中央に置かれた、一メートルほどの平べったい石を覗き込む。

「魔力はこの中央の岩から出ているが……」

那留はそういって中央に岩に手をおく。すると岩が青白く光り、岩に置いた那留の手が吸い込まれていく。


「なっ!」

那留は急いで手を抜き出そうとするが、竜の力をもってしても引きずる力に抗うことができない。

千夏と太郎は残っている那留の腕を慌ててつかみ引っ張る。

光はより一層強くなり、那留はもちろんのこと千夏も太郎もその光に飲み込まれた。




「ちーちゃん?」

タマは村の子供たちとかくれんぼうをして遊んでいた。今は鬼で子供たちを探しているところだった。

先程まで感じていた千夏の気がふっと掻き消えた。

転移でどこかに買い物にでもでかけたのかもしれない。タマはじっと千夏の気配が消えた森をしばらく眺めた。


「タマ、どうしたんだべ?」

一緒に鬼をやっている子供が突然立ち止ったタマを不思議そうに眺めてる。

「なんでもないでしゅ。探すでしゅよ」

タマは森から子供にすぐに視線を移し、急いでその後を追いかける。

結局その日、千夏は帰ってこなかった。




『パーティが嫌で逃げ出したということはないわよね』

セラが遠話でイライラしながらそう告げる。

『いくらチナツでもそれはないだろう』

『そうですよ。逃げるのも面倒くさいといいそうです』

アルフォンスの言葉にエドが同意する。


「遠話でも応答がないなんて……チナツどこにいったんだろう……」

リルが不安そうにそう呟く。

タマは黙って食堂の椅子に座っている。コムギもタマの腕の中でじっとしている。

こんなに長時間千夏が不在になったことは初めてだった。いままでは街へ買い物にいったとしても夜には戻ってきていた。


タマはうるうると目をうるませ、じっとしている。

どこに千夏を探しにいったらいいのかわからない。

「大丈夫、すぐ見つかるよ」

リルはタマをぎゅっと抱きしめる。タマ達を不安にさせるようなことを言ってしまった。


『ちょっと待って。今カトレアに居場所の探知をしてもらっているから』

『俺たちも一回戻った方がいいか?』

『そうしましょう。目印をつけておけばまたここまでこれますし』

しばらくすると、アルフォンスとセレナ、レオンそしてエドが食堂に現れる。


「森に出かけたっきり帰ってこないって聞いたが、何時頃に出かけたんだ?」

アルフォンスはリルに質問する。

「お昼過ぎくらいに出かけたって。村人達のはなしでは、那留ともう一人と畑で話していたのが最後の目撃情報なんだ。竜達に聞いたら那留の気も消えているそうだよ」


朝から竜達に頼んで森を一斉捜索してもらっている。でも気を感じないと竜達がいっているので、森にはいないのだろう。


『……かなりまずいわね。カトレアに探してもらったけど、わからないそうよ。一体どうやって消えたのよ!』

苦々しそうなセラの声が聞こえてくる。


「ちーちゃん……ちーちゃん……どこに行ったのでしゅか?」

タマはぽろりと涙をこぼす。

タマの問いに答えられるものは誰もいなかった。



評価とご感想ありがとうございます。


何編も次どうしようか悩んだのですが、内政チートは諦めました。

千夏が内政チートできる想像が全くできなく、何度書いても途中で止まってしまいました。


次回 タマの千夏を探して三千里!(嘘です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。