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嘘も方便?

チュザーレ山の麓にある小さなさびれた町クナ。

その町から少し離れた小高い丘の上に朽ちた元領主の館が不気味にただずんでいる。

館自体は石作りのためあちこちにひびが入り、長年放置されているのでコケが繁殖している。

割れた窓に退色したボロボロのカーテン。木製の家具は朽ちて辛うじて原型をとどめているが、少し触れれば瓦解する。


カタカタ……

風に煽られ、朽ちた窓枠が音を鳴らす。

ズルズルと誰もいない地下室から布を引きずる音が響く。廃墟に住み着いたネズミがその音を聞きつけカサカサと音を立てて逃げ出す。


『……れない。ここで朽ち果てるわけにはいかない…』

呪詛のような女の小さなうめき声が木霊する。

そろそろ完全に日が落ち、闇の者たちがうごめく時刻になる。

カタカタと骨を鳴らしながら屋敷の闇から、ぬっとスケルトンが姿を現す。その数はおよそ30。

別の場所からは体が腐りかかっている狼のような犬達がキシキシと歯を鳴らし、闇から生み出される。


『今宵は満月。……我が野望を叶えるとき…行け!下僕どもよ我が願いを叶えよ!』

女の声にカシャカシャと音を鳴らし、古びた剣を携えたスケルトンたちが動き出した。




「山頂までにどのくらいかかるんだ?」

馬車が山の中に入れたのはほんの10分ほどの距離で、すぐに徒歩へと切り替わる。

鬱蒼とした森林の中を案内をかってでたタータの指示通りに、傾斜のきつい道なき道を登り始める。

「私は中腹までしか登ったことはありません。そこまででも二日はかかります」

タータは汗をぬぐいながら必死にアルフォンス達の後を追う。


アルフォンス、セレナにエド。それに竜のレオンは十分なスタミナを持っているので、行軍速度が速い。

タータは置いて行かれないように追うだけで必死だった。

自然に呼吸が荒くなり、必死な形相でついてくるタータの様子をみかねたエドが一旦休憩を入れることを提案する。


「すみません、足手まといになってしまいました」

タータは太い木を背もたれにし、息も切れ切れに申し訳なさそうにアルフォンス達を見上げる。

「いや、俺たちが悪かった。ペースを落とそう」

エドが差し出したお茶をごくごくと飲み干すタータにばつが悪そうにアルフォンスは答える。

タータは普通の町娘だ。訓練で鍛えていた兵たちと違うことに今頃気がつくとは…


「20分くらいゆっくりやすむの」

セレナも申し訳なさそうにタータを見つめる。

山を登り始めてすでに1時間。しかも登山速度はタータが小走りになるほどの速さだった。

一度も後ろを振り向かなかったことが失敗だった。


ごそごそとレオンは休憩している場所の近くに生えていたキノコを採取している。

千夏にお土産を頼まれていたのだ。なにかいいものがないかを探しているようだ。

「そのキノコは毒があって食べれません。あっちに生えているキノコはスープにするとおいしいですよ」

「そうか」

タータの言葉にレオンは握っていたキノコをその場に落とし、食べられるといわれたキノコを採取するために移動する。


「今は秋なので木の実や野生の果物も取れます。ただ、それを狙う魔物もうろついているので、気を付けてください」

「まぁなんとかなるよ。タータが休憩している間になにかないか捜索してくる」

アルフォンスがそう声をかけてレオンと一緒に茂みの奥へとわけいっていく。


「昼前ですが、どうぞ」

エドがアイテムボックスからサンドイッチを取り出す。先ほどからタータのお腹がキュルルと鳴っていたのだ。

「白パン!こんな高価なものをいただいていいのですか?」

タータは差し出されたサンドイッチをまじまじと見つめる。


「気兼ねしないで食べて下さい。山登りはしっかり食べないとキツイですからね」

「すみません」

タータはありがたくいただくことにした。これ以上迷惑をかけないために食べた方がいい。朝食はいつもの豆のスープを飲んだだけだった。最悪途中でばてて倒れたら本末転倒だ。


初めて食べた白パンはとても柔らかく、はさんである濃厚なチーズとハムが絶品だった。こんなおいしいごはんを食べるのはいつ以来だろう。思わずぽろりと涙がこぼれる。

「失礼なことをお聞きしますが、あの町での生活は厳しいのですか?」

エドがハンカチをそっと差し出して尋ねる。


タータはハンカチを借りると、こぼれた涙を拭う。

「お恥ずかしい話ですが、近くに川がないので干ばつに強い作物を細々と作っているだけなのです。最近は黒パンですら手を出すことができない状態です。どこか別の場所に行こうにも生活のあてがないので動けないものばかりが町に残っているのです」


「そうですか。実は私の知り合いが新しい国を興したのです。新興国ですが、ハマールとエッセルバッハが支援しているのでそれなりに資金はあります。ちょうど今住民を募集しています。食事も住む場所も提供されます。いまよりは食事情は改善されると思いますよ。私たちの用事が済んだら一度町に戻ります。もし移住されるのであれば、転移で一緒にその国まで移動することができます。ぜひ考えてみてください」


エドはもう一個サンドイッチをタータに握らせる。

確か今日から試験的に家畜の飼育を始めるはずだ。それに森にも手を広げたいと千夏は言っていた。人が多いほうがはかどるだろう。


「本当ですか?帰って父に相談してみます」

タータは真剣な表情でエドを見上げる。このままでは先細りの未来しかないことは町のみんなだって理解しているのだ。


タータがゆっくりと噛みしめてサンドイッチを食べ終わった頃に、怪しげな紫色のキノコをアルフォンスが持ち帰った。

「ああ、それはムラサキダケです。高級キノコなんですよ。街で売れば銀貨3枚もします。そちらのお方がもっているほうは笑いダケです。食べれません」

レオンは自分が摘んだ茶色のキノコをぽいっとそのまま捨てる。食べれるかとおもっていたのに…

どうもレオンには食材を見分ける目がないようだ。


そのあとタータの頑張りによってある程度山を登り、夕方前に引き上げることにする。目印に魔力を練り込んだ赤い布を木にしっかりと縛っておく。こうすると迷わないでここに転移することができるのである。


町の事情を聞いていたエドが、余分に多く持ってきていた米をつかって炊き出しをする。

いつもの調子で食料を詰め込んでいたのだが、千夏がいないのでかなりあまるのだ。

タータもセレナも協力して大量のおにぎりを作り上げる。

久しぶりに味がついた食べ物を食べた町の人たちは何度もアルフォンス達にお礼をいう。


「さて、そろそろ行こうか」

手についた米粒をついばんで綺麗に食べると、アルフォンスは立ち上がる。

ごくりと唾を飲み込んで怖気ついているセレナを、後片付けが終わったエドがひょいっと肩に担ぎあげる。


「やっぱり怖いのー!」

「あまり暴れるとアンデットの群れに投げ込みますよ」

バタバタと暴れるセレナの耳元でエドの楽しそうな声が聞こえてくる。ぴたりとセレナは暴れるのをやめる。


「…本気なの?」

「おや?私が冗談を言うとでも?」

「…………」

最近修行修行であまりエドと接していなかったセレナは、久しぶりにエドに逆らってはいけないということをはっきりと思い出す。


次第に辺りはだんだんと暗くなっていく。事前にタータに教えられた廃墟がまであと少しというところで、レオンがピタリと立ち止る。

カタカタ…カタカタ…

目の前から何かの物音が聞こえてくる。


(スケルトンや。おーおーぎょうさんおるな)

呑気そうなシルフィンの声が聞こえる。

「ひっ!」

ピクリとエドの背中のセレナがスケルトンという言葉に反応する。


「いいですか、あれは単なる骨が動いているだけです。接合部分を切れば崩れ落ちて動かなくなります。嫌いなら斬りまくればいいんですよ。では、健闘を祈ります」

エドは淡々とそういうと、背中に背負っていたセレナの襟首を捕まえるとスケルトンの集団の中心部に放り投げる。


「えっえええええええええええ!!!」

投げ出されたセレナは信じられないという顔つきで絶叫する。

すぐにアルフォンスも剣を抜き、凄まじいスピードでスケルトンの群れに突っ込んでいく。

セレナは空中で向きをかえ、なんとか地面に激突せずに着地に成功する。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

セレナはスケルトンが視界に入ると腰の剣を抜き、瞬く間に近くにいたスケルトンを斬り倒す。

「暴れたら投げるといってたが、さっきまでセレナは暴れていなかったぞ。」

絶叫を上げながら、次々とスケルトンに斬りつけるセレナを観察しているレオンがぼつりと漏らす。


「暴れたら投げるといっただけで、暴れなかったら投げないと私はいっていませんよ。」

すました顔でエドが答える。

「まぁ確かにな…」

素直なレオンは納得する。


スケルトンはCランクの魔物だ。それほど強くはない。あっというまに大量にいたスケルトンは全て倒され、地面には無数の骨が散乱している。

「はぁはぁはぁ…」

セレナは恐慌状態に陥って無駄に動き回ったせいで呼吸が乱れている。


「ただの骨でしょう?」

エドに言われて地面に散らばっている骨をセレナは見下ろす。

うん。骨だ。普段から獣をさばいたりしているのだ、骨は怖いものではない。


なんだ、思ったよりも怖くないかもしれない。

少しだけセレナは落ち着きを取り戻す。

でもそれは勘違いだということをこのあとセレナは痛感することになるのである。

評価と感想ありがとうございます。


レオンがさっぱり目立ちません・・・

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