さびれた町にて
少し短めです。
「準備はいいか?」
アルフォンスは朝食が終わった後、自分の身支度を終えエドに話しかける。久しぶりの冒険でわくわくしていることが隠せないほど上機嫌だ。
アルフォンスは小さいときから冒険者に憧れていた。もちろん父の後をついで立派な領主になるつもりでいる。
最後の冒険のチャンスということで、繰り出した王都までの冒険でよい仲間と巡り合うことができた。その冒険で物語によく出ていた妖精や竜に会うこともできたし、ダンジョンにも行くことができた。
父やエドには悪いが、もうしばらくの間この夢の冒険生活を続けていきたい。
「問題ありません」
アルフォンスの冒険の大好きに若干あきらめが入っているエドが答える。
せっかく領主の勉強ができるのに、出かけるとは……。まぁ、一週間程度でこの村が大きく変わることはないだろう。帰ってからじっくりと勉強させればいい。
「レオン、タマとコムギは連れていけませんよ。チナツさんの許可が出ていませんから」
エドの言葉にレオンは名残惜しそうに、抱き上げていたタマとコムギを手放す。めずらしくレオンに抱き上げられていたタマは、床に下ろされるとレオンをきょとんと見上げる。
すでにクロームが手配してくれた現地までの転送してくれる人が待機している。あとはもう出かけるだけだった。
「んじゃ、気を付けていってきてね。お土産もよろしく!」
遅く起きてきた千夏は朝食をとりながら、アルフォンス達に手を振る。
「なにかあったら連絡して。気をつけてね」
出会ってから初めて別れわかれになる。リルは心配そうに手を振った。
千夏達に手をふり、アルフォンス達一行はその場からさっそくチェザーレ山に近い町の近くに転移する。
見渡す限りの草原の奥に少し険しそうな山が見える。その山の手前にぽつんと小さな町がただずんでいた。
「ここは昔鉱山があって栄えたんですが、鉄を堀尽くしてしまってすたれた町なんですよ。チェザーレ山は町を抜けてこのまま真っ直ぐ行くとたどり着きますよ」
案内人が目の前の町の入口を指さし、簡単に説明をしてくれる。彼は案内料の金貨1枚を受け取るとそのまま転移でその場から消える。
「しかし、本当にさびれた町ですね」
入口に警備兵など立っておらず、朽ちた門をくぐると活気のないレンガつくりの家が寒々そうに立っている。町のメイン通りなのだが、人がぽつぽつと見えるくらいで露店商も開かれていない。この分ではフルール村同様なにも買い物はできないだろう。
エドはさびれた町を眺めたあと、アイテムボックスから馬車を取り出す。馬たちを馬車につないでるときに、背後からおそろおそるといった口調で声をかけられた。
「あのぅ、冒険者さんですか?」
少し痩せ細った若い銀色の髪の女性が、少し離れたところからこちらを窺っている。
「そうだ」
アルフォンスは満面の笑みを浮かべる。
「よかった。もう誰も来てくれないかと思っていました。私は町長の娘でタータと申します。魔物退治に来てくださったのですよね?」
タータと名乗った線の細い娘は、嬉しそうにアルフォンス達に近寄ってくる。
「魔物退治?なんのことです?」
エドが怪訝そうに娘に尋ねる。
「え?違うんですか?そうですよね。あんな少ない依頼金で来てくれる冒険者さんはいないですよね」
がっかりと娘はうなだれ、「失礼しました」といって踵を返す。
「待て待て、魔物が出るのか?俺たちでよければ力になるぞ。冒険者といえば魔物退治だしな」
アルフォンスは慌てて娘を呼びとめる。
「え?倒していただけるのですか?」
娘はくるりと振り返り、目をぱちくりとさせる。
「もちろんだ。魔物と聞いて放っておくことはできない」
ぐっとアルフォンスが親指を笑顔で突き出す。エドは諦めたように眼鏡の位置をくいっと直す。
「とりあえずここではなんですし、どこか落ち着いた場所で話しませんか?」
「町の少しはずれに元領主様のお屋敷があるんです。昔この町は近くの山から鉄がとれたので大変栄えていました。そのときはこの町に領主様がいらっしゃったんです。でも年々鉄の出る量が減っていったので領主様の娘さんたちだけが残り、領主様は別の土地に移動してしまわれました。それが今から50年ほど前のことです」
町長は溜息をつきながら不景気な顔で話し始めた。町長といっても町に今住んでいる人数は50人ほどで、町とは名ばかりだ。山の幸の収穫と細々と畑を作ってそれで食いつないでいっている。
ずずっと出がらしの茶を啜り、一息ついてから村長は続きを話し出した。
「残られた娘さんたち一家も流行り病で亡くなられて、それっきり町はずれの領主様の屋敷は放置されているのですが、ここ最近魔物達が住み着くようになってしまって……。たまに夜中に屋敷から魔物が出てきて町の中を徘徊するんです。今のところはみんなでじっと夜は閉じこもっているので難を逃れていますが、そのうち大変なことになりそうで、退治してくださる方をお待ちしていたのです」
「なるほど。それはお困りだろう。安心して任せるがいい」
うんうんと腕を組んでアルフォンスは頷きながら笑顔で答える。
「夜になると徘徊するの?それってもしや……」
セレナが少し緊張したように村長に尋ねる。
「ええ、住み着いた魔物はアンデットです。町を徘徊しているのは、主にスケルトンとアンデットハウンドです。屋敷跡のほうは踏み入れていないのでどういう魔物がいるのかは皆目わかりませんが」
「やっぱりなのぉー!」
村長の言葉にセレナはペタリと耳を垂らし、尻尾を丸める。
セレナはお化けが嫌いだ。子供のころに怖い話を近所の男の子にたっぷりと聞かされた影響がいまだに残っている。その男の子は怖がるセレナが可愛くて、趣味のように怖いお化けの物語を大人たちから蒐集していた。
少し涙目になってアルフォンスを見るが、アルフォンスは依頼を受ける気満々だ。
「私今回は不参加なの」
セレナがおずおずとそう言い出すと、不思議そうにアルフォンスが見返してくる。
「お化け嫌いなの」
「お化けじゃないぞ。アンデットだ。それに嫌いならさっさとやっつけたほうがいいぞ。一人で村に残るほうが怖く感じるんじゃないか?」
珍しく正論をアルフォンスが説く。
「魔族もネクロマンシーの魔法を使うものがいると聞きます。慣れていた方がいいのでは?いざというときに動けなくなるほうが問題です」
スパルタ教育者のエドもアルフォンスに同意する。
「うう……」
セレナはみんなを見上げて唸る。怖いものは怖い。でも魔族との戦闘で怖いからといって逃げるのは嫌だった。
(妖精も見えないもんには怖がられる。お化けと変わらへん。目にはっきり見えるんなら怖くないやろ)
シルフィンが呆れたように笑う。
「……頑張るの」
ここには繊細な乙女心を理解してくれるものは誰もいない。というか千夏がいてももわかってくれなさそうだ。わかってくれるのはリルだけかもしれない。セレナは涙目で覚悟を決めた。
「といっても、アンデットは昼間現れません。魔物退治は夜になりますね。その間に少しでも山を登っておきましょう。夜に転移で戻ってくればいいですし」
「そうだな。まだ朝だし、登れるところまで山に登っておくか」
エドの提案にアルフォンスは頷く。
「それでしたら、私が案内します。チェザーレ山ですよね?あの山はあまり道がないので迷いやすいんです。途中まで馬車でいけますが、中腹より先は徒歩になります」
タータが案内を買って出てくれたので、遠慮なくお願いすることにした。
先程から黙り込んでいたレオンが話が一段落ついたところを見計らって質問する。
「アンデットって何だ?」
「死霊といわれる魔物の総称です。人や動物が死んだあとに死霊としてよみがえることがあるそうです。主に闇属性で、光の浄化魔法にとても弱いです」
「きゃぅん!」
エドの説明で死霊という言葉が出てきたときに、セレナが頭上の耳を手で押さえてテーブルの下に潜り込む。ガタガタと震えてテーブルの下で体を小さくしてうずくまっている。
意外と根深いトラウマのようだ。
(おいおい、しっかりせいや)
シルフィンはブルブル震えるセレナの背中をつつく。
「まぁ、一旦放り込んでしまえば、なるようになるでしょう」
キラリと光る眼鏡を指で押さえ、エドは口元を少しだけ吊り上げる。
お化けより怖い男がここにおるで。シルフィンは複雑そうにエドを見上げた。
誤記を修正しました。
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