畑の暴走族
村長の家から戻り昼食をとったあと、最低限のこれからやらなければいけないことをまとめることにする。
「本来であれば国境の設置ですね。ですが外敵がいるわけでもないので、後ででもよいでしょう」
エドが司会をしながら一同を見回す。
「まずは領地について知ることが必要です。開拓されているのはこの村くらいで、ほとんどが未開拓です。未開拓部分について調査が必要です」
エドは机の上にサーヴフルールの地図を取り出す。
フルール村はサーヴフルール地方の最北部にあり、領地のおよそ90%が未開発だった。南側には森が広がっており、その先に小さな湖がある。更にその先に草原があるらしい。竜の谷は南西の方向にある。
「走り込みついでに森の中の探検でもしてこよう」
アルフォンスが村から一番近い森を指さす。
「レゴンの大森林みたいになにか果物がいっぱいなっていればいいの」
セレナもアルフォンスの意見に賛成のようだ。
シルフィンがいるから森で迷うことはないだろう。
「それなら、この湖から先を僕が空から調べよう」
レオンが地図の草原地帯を指さす。
「レオンは土魔法が使えますよね?ついでに地質調査もお願いします。なにか鉱脈でもあればいいのですが」
エドが少し考えてから、レオンにそう依頼する。
「それなら、俺も一緒にいくよ。広いから地図にいろいろかき込んだほうがいいだろうし」
リルはテーブルに広げられた地図をくるくると丸める。
担当にあぶれた千夏たちを残して、アルフォンス達は部屋を出ていく。
「とりあえず、村の中でもまわってみようか」
「はいでしゅ」
「クー!」
千夏の言葉にタマとコムギが同意する。
ぶらぶらと村を歩いていると、村の西側に気が集まっていることに気が付く。
先程案内された場所から少し離れているので、何に集まっているのか千夏は興味を持つ。
しばらく歩くと川沿いに村人達が集まっているのが見える。
全員が鍬を握って、荒地に畑を作っているようだ。
「あ、領主どん」
千夏に気が付いた村人達が手を振ってくる。
そこにはニルソンもいたようで、慌てて千夏のもとへと駆け寄ってくる。
「ご視察ですか?」
ニルソンに尋ねられ千夏は曖昧に笑う。やることがないのでぶらぶらしていたというのは何となく答えずらい。
「新しく畑を作っているの?」
「ええ。せっかくご領主様がいらっしゃったので畑を広げることにしたんです」
千夏の言葉にニルソンが頷く。
「でも大きな岩があって、あれをどうにかできないかと相談していたところなんですよ」
村人達が集まっている中心に大きな岩があり、その周りを鍬で村人達が掘り返しているところだった。
「タマがどけるでしゅ」
くいくいと千夏の手をタマが引っ張る。確かにタマであれば、岩を砕くことができるだろう。
小さな子供たちも小さな石をどけるのを手伝っているのをみて、タマもお手伝いがしたくなったようだ。
「うん。お手伝いしてあげて」
千夏がそう答えるとすぐにタマは竜の姿に戻る。
パタパタと翼を動かし、タマは大岩のすぐそばに舞い降りる。
「みんなー、タマが岩を壊すから離れてー!」
千夏のかけ声で岩の周りにいた村人達がその場から離れた後、タマは岩に向かって数度鉤爪を叩きつける。ぼろぼろと岩が砕け散るをみて村人達は「さすが竜だな」と感心したようにそれを見学している。
タマは岩を砕いたあと、そのまま地面を掘り起こし始める。
どうやらそのまま畑つくりを手伝うつもりようだ。
コムギも負けじと、爪に気をまとわせ地面をボリボリと掘り起こし始める。
タマとコムギにしたら泥遊びとなんら変わらない。楽しげに地面をすごい勢いで掘り起こしていく。
「手伝ってくれるだか。ありがてぇ」
村人達は一心不乱に地面を掘り起こす二匹に感謝し、自分たちも鍬をつかって地面を掘り始める。
「どこまで畑を広げるの?」
千夏はニルソンに尋ねる。
「できるだけ広くしたいですね。今畑を作っておくと、冬になる前に芋が収穫できます」
芋は小麦と同様に主食として使える。食べ応えがあり日持ちもいい。
「じゃあ、私も手伝うか」
「え、領主様がですか?」
ニルソンは驚き千夏を見る。もちろん鍬で掘り起こす気は千夏にはない。
千夏は目をつぶって気でできた二本の腕を空中に浮かび上がらせる。
昔田舎でみた耕運機をイメージして気を捏ねまくる。
ラヘルのダンジョンでショベルカーを作れたのだ。作れるはずだ。
出来上がった耕運機を千夏は満足げに眺める。
もちろんニルソンには気が見えないので、千夏の作った耕運機は見えない。
「んじゃ、行きますか」
千夏はさっそく耕運機に乗り込む。
ハンドルを握り、アクセルを踏むとカタカタといいながら耕運機が動き始める。ボタンを押すと前面についたいくつもの鋭利な刃が地面にめり込み畑を耕していく。
「魔法だべか!」
村人達からみれば千夏は空中に座り、その下の地面が凄まじい勢いで耕されているようにしか見えない。
タマとコムギはすぐに千夏の耕運機に気が付く。
「タマもそれが欲しいでしゅ!」
千夏が耕運機を止めると、人の姿に戻ってタマが走り寄っていくる。
千夏から簡単に操縦の仕方を教わると、タマは更に自分の気を足してアクセルを思いっきり踏む。
耕運機が凄まじいスピードで走りながら次々と畑を耕していく。
コムギはタマの横に乗り込み、風を切って走る耕運機に興奮して「クー!」と鳴く。
千夏はもう一台耕運機を作ると、タマに負けじと土を掘り起こしていく。
「勝負でしゅよ!ちーちゃん!」
タマはそういうと、さらにスピードを上げて地面を掘り返していく。
「どっちが多く掘るかの勝負ね。いいわよ!」
千夏はアクセルをぎゅっと踏み、前面の複数の刃をフル回転させる。ブウンと音を立てて千夏の耕運機が暴走する。
村人達はあわてて鍬をもって千夏達から離れる。
バリバリバリと轟音を響かせ2台の耕運機が所狭しと荒地を駆け巡る。
「さすが領主様だべ」
あっという間に次々と耕されていく土地を見て、村人達は千夏達を尊敬のまなざしで見つめる。
耕運機の轟音に驚いて出てきたセラとエドは千夏達の姿を見て呆れる。
「相変わらずやることが無茶苦茶ね」
「同感です」
土魔法を使ってもあんな無茶苦茶なスピードで畑を作ることはできない。同じようにやろうとしたらすぐに魔力が枯渇してしまうだろう。
当初作る予定だった畑のサイズの何十倍もの畑をタマと千夏は作り上げ、村人達の姿が豆粒くらいの距離になったところで、やっと耕運機を止める。
「やりすぎたかな?まぁいいか。またこれ使うかもしれないから、家の庭に運んでおこう」
千夏はタマに声をかけると、そのまま屋敷へと耕運機を運転していく。
千夏とタマにしか運転ができないものだが、また役に立つときがくるかもしれない。
庭師のハンクに一言断わり、耕運機を庭の端っこへと止める。
再び、村人達のもとに戻ると今度は種をまくのを手伝う。
問題はこの広大になってしまった畑に水をまくのが面倒だということだった。
川からおけに水をくんだ村人達が柄杓で、水を畑にまいていく。
一番奥の畑まで川からおよそ10キロほど離れている。毎日水をまくだけでも大変な重労働だ。
スプリンクラーまたはホースがあればまだ楽だろうに。
だが、そんな道具を作る知識は千夏にはない。とりあえず、奥の畑まで水路を作ってため池でも作れば、水路から水をまくことで多少は楽になるはずだった。
タマとコムギに頼んで畑の横に水路を作ってもらうことにする。
楽しそうに穴掘りを始めた2匹を千夏は眺めた後、一番奥の畑まで転移する。
大型のショベルカーを一台、気で作り上げるとため池を作るためにに大きな穴を掘り始める。
本来ショベルカーを使うのには職人技が必要なのだが、千夏の想像で作っているものなのでわりと簡単に動作する。
それなりの大きなの穴を作った頃にはすでに夕暮れ時になっていた。
そのままショベルカーをそこにおいて、千夏はタマとコムギがいる場所まで戻ってくる。
2人の手を水魔法で洗ったあと、屋敷にもどって夕飯をとることにする。
「ごはん食べにいってくるでしゅ」
タマは竜の姿に戻るとそのまま南のほうへと飛び去っていく。
今日から朝ご飯と晩ご飯は狩りで取ることになっていた。タマを見送った後、コムギと二人で歩いて屋敷まで戻る。
途中で森から戻ってきたアルフォンスとセレナに遭遇する。
セレナの腕の中にはおいしそうな果物が山積みされていた。アルフォンスは背中に大きな猪を背負っている。
「おいしそうだね。果物は結構あった?」
「森の中央あたりにいっぱいなっていたの。りんごとぶどうとスィートベリーなの」
戦果の果物を千夏に向かって見せながらセレナがうれしそうに笑う。
「茸や山菜も結構あった。どれが食べれるのかわからないから一種類ずつとってきた。だけど、村人だけであそこまでいくのはキツイだろうな。結構獣がいたぞ。熊は持ってこれないから置いてきた」
アルフォンスが歩きながらそう答える。
「獣が多いならタマとレオンのご飯になるね。危ないのは2匹に間引いてもらおう」
千夏は二人の荷物をアイテムボックスに収容し、遠話の腕輪でタマとレオンに連絡をとる。
レオンはもうすぐ一旦リルを降ろしに戻ってくるようだ。
こうやってのんびり過ごすのも悪くはない。
千夏は手を振ってくる村人達に手を振りかえしてそう思った。




