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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
ハマール編
126/247

牢屋にて

「コムギ、おなかすいたでしゅね」

「クー」

タマは座ったまま、ぐるぐるとなるおなかを押さえる。

長距離を走ったので、タマもコムギもおなかがぺこぺこだ。


「牢屋じゃあ、昼飯なんか出てこないよ」

薄汚れた服をまとった女がごろりと寝転がったまま、タマを見つめる。

タマ達が押し込められた牢屋には先客がいたらしい。


「あんた小さいのに何をやったの?」

「タマもコムギも何もしてないでしゅよ」

女の問いかけに素直にタマは答える。タマの答えはどうやらお気に召したようだ。女は面白そうににやりと笑う。


「あたしも何もしてないさ。勝手に貴族の財布があたしの懐にはいってただけさ」

どうやらスリのようである。

静かな牢屋の中でタマのおなかの音が豪快に鳴る。

女はケタケタと笑い出すと、タマに向かって近寄ってきた。


「腹の足しにならないだろうけど、これでもお食べ」

女は小さな黒パンの固まりをタマに手渡しする。

「ありがとうでしゅ」

タマは素直に受け取るとパンをコムギに向かって差し出す。

「クー」

「食べていいんでしゅよ。タマはお兄さんでしゅよ」

コムギはじっとタマを見つめたあと、差し出されたパンを食べ始める。


タマはポケットの中をごそごそと漁り、それを女に向かって差し出した。

「お礼でしゅ」

タマが女に渡したのは金貨だった。

「金貨じゃないか。そんなものもらえるわけがないだろう!」

女は憤慨したように、タマを怒鳴りつける。金がほしくてパンを譲ったわけではない。


「でもタマは今これしかもってないのでしゅ。ちーちゃんがおなかが空いたときにご飯をくれた人を大事にしなさいといってたでしゅ」

叱られたタマはしょんぼりと俯く。


女は溜息をつくと、タマから金貨を受け取る。

「あんたの気持ちはもらったよ。金貨があれば、すぐに保釈金が払える。あんたを外に出してあげるよ。どうせ大したことやっちゃいないんだろ?

おーい、看守こっちに来な!おーい!」

女は鉄格子をつかんで外に向かって叫びはじめる。


「おいおい、うるせぇな。静かにしろよ」

槍をもった牢番が牢に近寄ってくる。

「この子の保釈金はいくらいだい?」

「なんだ金でも持っているのか?こいつは王城に侵入したんだ。侵入罪で金貨5枚だな」

「ばかいうな、入っただけで何もしてないんだろ。そんな高いわけないんだろう!」

女は牢番に文句をつける。


「うるせぇな、俺が金貨5枚といったら5枚なんだよ」

牢番はうんざりしたように女をにらみつける。

「じゃあ、食事をおくれよ。この子、おなかをすかせてるんだ。金を払うからさ」

「先に金を渡せば考えてやってもいい」

「だめだね、食事が先だ」

女と牢番が問答を続けている。牢の奥でタマは大人しくそれを眺めていたが、千夏の気配が近づいてきていることに気が付き、鉄格子のほうに近寄ってくる。コムギもタマの後を追う。


「もうちょいまってな、こいつがメシを運んできてくれるから」

女は近寄ってきたタマに気付き声をかける。

「大丈夫でしゅよ。ちーちゃんが来たでしゅ」

タマが笑顔でそう答える。


牢の入口のほうからバタバタと走る複数の足音が聞こえてくる。

怪訝そうに女と牢番は足音がする方に視線を向ける。

走ってきたのは複数の兵たちだ。顔色が真っ蒼になっている。

「一体どうしたんだ?」

女と交渉をしていた牢番が兵士の顔色を見て尋ねる。


「いいから、さっさとこの牢を開けろ!」

「何でだ?」

「いいから、鍵をよこせ!」

「早く開けろ!」

後からきた兵が焦れたように叫びだす。とりあえず、牢番は腰に束ねた鍵を取り出し牢の鍵を開ける。


「「「申し訳ございませんでした」」」

兵士達が一斉にタマに向かって頭を下げる。

女と牢番は唖然と成り行きを見守る。


「まだ牢から出していないのか」

クロームが足早に牢の前までやってくる。

「皇太子殿下!」

牢番は慌てて、膝をつく。なぜ皇太子が牢屋なんかにくるんだ。牢番は上目づかいに皇太子を見上げる。

クロームの後ろには千夏、レオン、リルが立っていた。

タマとコムギは牢から出て、千夏に飛びつく。


「ちーちゃん!」

さすがに二匹から体当たりのように突撃されて、千夏はそのまま後ろにのけぞる。

レオンが千夏の背を支えてくれていなかったら、床に倒れていたかもしれない。

「タマ、コムギ。怪我はない?」

千夏は腰をかがめて2匹を抱きしめる。


「タマもコムギも元気でしゅよ。おなかがすいたでしゅ」

ぐるるとまたもやタマのおなかが鳴り響く。

「あ、そうでしゅ。あの人いい人なんでしゅ。パンをくれたででしゅ。タマ達にご飯を出すように交渉してくれたんでしゅよ」

にこにことタマは牢屋の中の女を指さす。


牢屋に入っている人が自分の分のパンを渡す。なかなかできないことだ。

千夏は叩頭している兵たちをよけて牢屋に近づく。

「ありがとう。とても感謝します」

千夏は女の手をとるとぎゅっと握りしめる。知らない場所に連れてこられたタマ達に優しくしてくれた人。千夏は彼女に深く感謝する。


「別に大したことはしてないよ」

女はにやりと笑う。どうやら貴族の子供が間違えられて捕まえられたのだろう。女は目の前の成り行きにそう納得することにした。

先程まで怒っていた千夏の表情が変わるのをクロームは見逃さなかった。


「こっちの女の罪状と刑期は?」

クロームが兵士達に尋ねる。

「はっ。窃盗罪です。刑期は一月です」

「一月か。それほど大したものを盗っていないようだな。この女も釈放しろ」

千夏の怒りが和らぐのであれば、女一人牢から出すのは安いものだ。

クロームの采配に千夏もうれしそうに笑った。




「どうにかうまくやったようね」

ガツガツと物凄い勢いでご飯を食べまくるタマとコムギを見ながら、セラはクロームに話しかける。

「ああ。我が国民に助けられたよ。同じ牢に入っていたものが彼らに優しく接したそうだ」

ちらりと千夏のほうを見てクロームは苦笑する。

千夏も安心したのか次々と料理を平らげていく。


「さっき言ったけど、2度目はないわよ」

セラはワイングラスを片手にクロームをじっと見つめる。

「わかっている。さっきまで生きた心地がしなかった。完全徹底させるよ。それでは失礼するよ」

クロームはそういって席を立っていった。

恐らくこれから兵士を集めてもう一度説明をするのだろう。


「おなかいっぱでしゅ。コムギ、特訓でしゅよ」

タマはフォークを置くと、寛いで寝そべっているコムギに声をかける。

「今日はとりあえず庭でやりなさいね」

千夏は、すぐにでも飛び出しそうなタマとコムギに声をかける。

皇太子宮の庭は広いので、訓練しても問題はないだろう。


「タマ、僕も特訓に参加するぞ」

お茶を飲んでいたレオンがタマに声をかける。

「レオン兄も一緒でしゅか。よかったでしゅね、コムギ」

「クー!」

魔物3兄弟は楽しげに庭へと出ていく。

昼の騒動のことがが何事もなかったかのように流されていく。

「じゃあリルは私と一緒に王都見学に行く?」

千夏はにこやかにリルに向かって話しかけた。



食後に再度女官長の先導で千夏とリルは王都に出る。

とりあえず、なにか変った食べ物はないかと千夏は露店街をぶらぶらと歩く。

「やっぱり魚関係は値段が高いね」

リルも露店を見ながら物価の確認をする。ハマールは山に囲まれた国だ。魚などは輸入に頼っている。

「魚がお好きですか?」

女官長がリルに向かって尋ねる。早速今晩のメニューに加えなくてはと考えているようだ。


「いえ、好きですけどそれほど食べたいわけではありません。ついこの間まで南国諸島にいっていたので魚ばかり食べていました」

慌ててリルは否定する。確かに向うを旅していた間は魚はかなり食べていた。千夏も特に食べたいということはない。

ふと露店で気になる店が出ていた。露店の前に出されている看板に「トンコツラーメン」と書かれている。千夏は脇目も振らず、その露店へと駈け込んでいく。


「へい、いらっしゃい!」

頭に布を巻いた店主が千夏に笑顔で挨拶する。

「ラーメンください」

千夏は屋台状の露店の席に座る。店主は手際よく麺をぐつぐつ煮たった鍋で茹でていく。

リルと女官長も千夏に追いつき、隣の席に座る。


「おまちどう!」

千夏の前にどんと店主は丼を差し出す。

「うわー、ラーメンだよ」

千夏は丼をもって一口汁を啜る。懐かしいトンコツラーメンの味に顔が綻ぶ。


「お客さん、もしかして日本人かい?箸使うかい?」

店主は2本の少し不揃いの箸を千夏に渡す。どうやら木を自分で削って作ったようだ。

「うん」

千夏は差し出された箸を使ってずるずるとラーメンを食べ始める。久しぶりに食べるラーメンはとてもおいしい。


「おいしいね。どうやってこの味を作ったの?こっちじゃ材料が違うでしょう?」

「俺は味覚を特化したスキルをもらったんだよ。いろんな食べ物を掛け合わせてこの味を出したんだ。正直トンコツラーメンと書いちゃいるが、豚骨は使ってないんだよ。がっかりしたかい?」

店主はリルと女官長にラーメンを差し出しながら、千夏に笑いかける。


「なるほど!私もそのスキルにすればよかった!」

千夏はラーメンをじっと見て唸る。


「他にもいろいろ向うの料理を再現したんだ。でも全部やるほど手を広げられなくてね」

「私にそのレシピを売って頂戴!金貨150枚でどう?」

千夏の勢いに店主は笑い出す。


結局金貨150枚で、数十のレシピを店主から譲ってもらった。セラが気に入って商売になった場合、売上の2割を彼に支払うと約束する。

また新しいレシピができたら、冒険者ギルド経由で千夏の元へ送ってもらうこともしっかりと約束する。報酬は別途別払いだ。


「変わった味ですね。でもおいしいです」

女官長はフォークでラーメンを上品に食べている。リルもパーティ名の由来となったトンコツスープを飲んで満足そうだ。

すでに2杯目を食べながら、千夏は彼から譲ってもらったレシピに目を通す。

なんと醤油まで再現していた。味噌のほうはまだいまいちでもう少しひねりが必要だと店長が答える。

千夏は早速、今晩のご飯に照り焼きチキンを女官長にリクエストする。


レシピに書かれたちょっと変わった材料があり、女官長は露店でその材料を買い求め皇太子宮へ配達するようにと手配する。

「夕食に出すには事前に料理長と話す必要があります。今日はここまでとして宮に戻ってもよろしいでしょうか?」

女官長にそういわれ、千夏は「問題ないです」とさっくりと答える。

王都見学は明日でもできるのだ。


その晩、皇太子宮で出た照り焼きチキンを食べたセラが、早速千夏へ商談を申し入れる。

エッセルバッハで照り焼きチキンが流行したのは、しばらく後のことだった。


ご指摘いただいた誤記を修正しました。

〇クローム ×クローク


前半と後半の話にかなり温度差が出てしまいました。

牢屋で出会った女の人はたぶんもう一回くらい出てくる予定です。

トンコツラーメンとテリヤキバーガーが食べたい・・・

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