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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
ハマール編
124/247

訓練開始

ハマールに到着した次の日から本格的な技の伝授のための訓練が始まる。

一時的にアルフォンスとセレナは《トンコツショウユ》のパーティから脱退する。

エッセルバッハ、ハマールの訓練兵あわせて20名と今回だけのパーティ《妖精の導き》に参加する。

これはもちろんシルフィンの声を訓練兵達にも聞こえるようにするためだ。


訓練兵を《トンコツショウユ》に入れてもよかったが、セラから勇者パーティに気軽に人を入れないほうがいいといわれたからだ。

新パーティの命名者はもちろんアルフォンスだ。

訓練兵達に向かってアルフォンスは鼻高々に、シルフィンを紹介する。


妖精が師匠だといわれても、訓練兵達には妖精の姿を見ることはできない。

(ビシビシしごくで!まずは走り込みや!)

どこからともなく聞こえてくるシルフィンの言葉に訓練兵達は、とりあえず素直に走り出したアルフォンスとセレナの後を追いかけていく。


「おい……。あれは何だ?」

訓練兵達に混ざって、小さな黒い子猫のような魔物と麦わら帽子をかぶった幼児が並走する。

「俺が知るか!それよりこのスピードでずっと走るのかよ!」

すでに全力疾走で走り始めたアルフォンスとセレナの後を、兵士達は必死に追いかけはじめる。

他のことまで気を回す余裕はない。


アルフォンスとセレナは王城を抜け、早朝の王都を門に向かって進んでいく。

すでに今日から訓練があることは王城の門番と王都の門番には知らせてある。

出ていくときはとりあえずノーチェックで通過できる手筈になっており、足を止めずにそのまま王都から出て外周に沿って走り続ける。


「あんなスピードで大丈夫なのか?」

王都の門番の一人が、凄まじいスピードで通過していった兵士達を唖然と見送る。

王都の外周はおよそ50キロ弱。一周回るだけでも大変だ。


外周のおよそ半分を越えたあたりから先頭の速度についていけずに、遅れ始める兵士が出始める。

その横を幼児と黒い魔物が追い越していく。

先頭を走るアルフォンスとセレナの息はまだ乱れていない。


(遅れてるやつはとりあえず足を止めるんやない。昼メシまで走るんや)

シルフィンからの情け容赦ない声がパーティ全体に響き渡る。

昼までってあと6時間もあるじゃないか。本気かよ!

訓練兵たちは心の中で悲鳴を上げる。


「お、戻ってきた」

門から出ていったときと同じスピードで、兵士達が目の前を通過するのを門番は固唾をのんで見送る。

すでに先頭集団は半分くらいに減っており、なぜかそのすぐ後を幼児と黒い魔物が通過する。

「一体なんなんだ!」

門番は目をしばたかせ、茫然とたたずんだ。



千夏いわく、マゾな走り込みをすでに3時間ほどアルフォンス達がしている頃に、やっと千夏はベットから起き上がる。

今日はタマに起こされなかったのでついつい遅くまで眠ってしまっていた。

主寝室にタマとコムギいないので、他の部屋の中をうろうろと探し回る。

探している途中で、そういえばアルフォンス達の走り込みについていくと昨日タマが言っていたことを思い出す。


ベット脇のテーブルの上にある水差しを使って洗顔した後、カーテンを開けて外を眺める。

すでに日は高くなっている。

さすがにこの時間だと朝ごはんはないだろう。ならばエドになにか作ってもらえばいい。


あくびをしながら千夏が廊下に出ると、待機していた女官長が千夏に向かって「おはようございます」と一礼する。

慌てて口元を隠し千夏は、ばつが悪そうにごにょごにょと「おはようございます」とあいさつする。

「朝食はいかがいたしますでしょうか?お召し上がりになるのでしたら、お部屋に運びます」

女官長の問いかけに千夏は「いただきます」とすぐに返事をする。


「少々お待ちくださいませ」

女官長がそういって立ち去るとやけにサービスがいいなぁと呟き、千夏は部屋に戻る。

もちろんクロームの特別な命によって千夏は優遇されているのだ。

そんなことを知らない千夏はソファで朝食がくるのを待つ。


さて、今日はどうしようかと千夏はぼんやりと考える。

本当だったら鉱山に出かける予定だったが、タマはコムギを鍛えるのに余念がない。

たぶん暇であろうリルとレオンをさそって王都でもぐるりと見てこよう。


女官長は食事持って部屋に戻ってくるとそのまま千夏の食事の給仕を務める。

千夏は一人で給仕され食事をすることに慣れていない。

いささかテーブルマナーとして行儀悪いのだろうけど、一人で黙々食べ続けることができないので、女官長に適当に話しかける。


「うちの子たち朝ご飯は食べましたか?」

「はい。みなさんお食事はお済です」

「毎回大量にご飯を作るのは大変ですよね?なんだったら外で食べさせてきますけど」

何気なくいった千夏の言葉に女官長は慌ててそれを止める。

「滅相もございません。ぜひお食事は当宮でお食べください」

竜にひょいひょいと勝手に外に出て食事をさせるのは厳禁だ。


女官長の慌てぶりから千夏は女官長がタマ達のことを知っていることに薄々気が付く。

きっとセラが言ったのだろう。

「まずいですか?外で食べさせるのは?」

「はい。大変問題です。我が国には竜騎士団がおります。もめ事が発生してしまいます」

女官長は姿勢をただし、千夏の言葉に頷きながら答える。


ワイバーン達は昨日脅しをかけておいたから、タマ達に絡みはしないだろうが、問題は人間たちのほうか。

「ちなみにタマ達のことを知っているのは、どのくらいいるのですか?」

パンにバターを塗りながら千夏は尋ねる。

「クローム様と私だけです。他の者は知りません」

なるほど。それならば竜騎士団が絡んでくる可能性が高い。ここではタマ達に自由に狩りをさせるわけにはいかないようだ。


「午後はいかがなされますか?」

千夏の食事が終わり、お茶を差し出しながら女官長が尋ねる。

「せっかくなので王都見物にでも行こうかと思っています」

「それでは、私が案内させていただきます」

あてもなくぶらぶら歩くのもいいが、観光案内をしてくれるというなら、そのほうがいいだろう。

千夏は素直に女官長に甘えることにした。

「そうですか?お願いします」


案の定暇そうにしていたリルとレオンを誘い、千夏達は女官長を先導に王城を出る。

皇太子宮の女官長は王城の女官の中でも権威ある職らしく、王城を出るとき千夏達はノーチェックで出ることがきた。


すでに時間は10時を過ぎており、王都は人ごみであふれかえっている。

「人はこんなにいるのか」

レオンは南国諸島とは比べようがない人の多さに驚いている。

エッセルバッハではそのままバーナム辺境伯の屋敷まで、転移で飛んだので街の中を見ていないのだ。

「街の中心部にいけばもっといるよ。人とぶつからないようにね」

放っておくとそのまま立ち尽くして、見学していそうなレオンの手をリルが引いて歩く。


千夏達が今向かっているのは冒険者ギルドだ。到着報告をしなければならない。

早朝を過ぎたギルドの中は人が少ないはずだが、それでもかなりの人数が掲示板をみて屯っている。

千夏とレオンは少しすいている窓口の列に並び、順番を待つ。


順番がくるとレオンは千夏と自分のカードを受付に渡し、「到着報告を頼む」と依頼する。

今回はレオンが窓口とうまくやり取りができるかを試してみたのだ。

一応なにかあったときのために、千夏が付いている。


「はい、到着報告ですね」

受付嬢は到着報告のマジックアイテムのスロットにカードを差し込んでいく。

「未精算のものがありますが、清算されますか?」

受付嬢に質問され、レオンはちらりと千夏をみてから「頼む」と返答する。

レオンには清算とはなんのことだかわからなかったが、わからないからこそとりあえず頼んでみたのだ。

昨日のうちにセレナが到着報告とパーティ編成をギルドでしていたはずだが、未精算を受け取っていなかったようだ。


「サンドワーム12、ヒュドラ1、ストーンゴーレムが3ですね。あわせて金貨37枚と銀貨6枚です」

受付嬢が清算用マジックアイテムにカードをさし、討伐した魔物を読み上げる。

金貨と銀貨を目の前で数えたあと、受付嬢はそれを袋にいれレオンに渡す。

「冒険者ランクCとEですか?適正ではないですね?ランクアップ試験を受けますか?」

ランクAのヒュドラを討伐しているのだ、不適正も甚だしい。

さすがにまったくわからないレオンは千夏を振り返る。

「あー、パーティメンバー全員いないので今度にします」

千夏はレオンから渡されたお金をアイテムボックスにしまい、そう答える。


「チナツいまのはどういう意味だ?清算もよくわからないぞ」

到着報告の手続きの説明しか聞いていないレオンは、受付から離れてからチナツに質問をしてくる。

「あそこでお茶しながら説明するわ」

千夏はギルド内に併設されている食堂を指さす。


食堂でお茶を頼んだあと、千夏は簡単にレオンに説明を始める。

魔物を討伐するとお金がもらえること、冒険者のランクやそれにあった依頼を受注できること。

「レオンが人の世界でのお金が欲しかったら、魔物を倒したり依頼を受けたりすればいいのよ」

千夏は最後そういって締めくくる。

レオンは今は千夏達について人の世界を旅しているが、一人でも生活できるように教えておいたほうがよいと判断したからだ。


「お金はそうやって稼ぐものなのか」

レオンは納得したように頷く。本当は他にも稼ぐ方法はあるが、冒険者がレオンには一番わかりやすいはずだ。他の職業についてはおいおい時間をみて教えていけばいい。


「では自分の食い扶持だけでも稼いでこよう」

レオンはそういって席を立とうとするが、慌てて女官長がそれを引き留める。

「申し訳ございませんが、それはハマールではご遠慮ください。レオン殿は今は我が宮のお客人ですから、お金など気にせずにお寛ぎしてくださればいいのです」

「そうだよ、エッセルバッハに戻ってからにしたほうがいいよ」

自立することはいいことだが、今はまずい。千夏は女官長の言葉をフォローする。


「わかった」

2人に反対されたレオンは大人しく席に座る。

ほっと胸をなでおろした女官長は、次に行きたいところがあるかを千夏に確認する。


千夏はアイテムボックスからガイドブックを取り出してページをめくる。

「んー、闘技場かな。どんなところか一度みておきたいし」

「では、参りましょう」

女官長は店の清算をすますと、千夏達を連れて闘技場へと向かった。

評価・ご感想ありがとうございます。


ストーンゴーレムの報酬を忘れていました。レゴン前までのダンジョン分は清算は作中に出ていませんが、レゴンの冒険者ギルドで受け取っています。

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