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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
ハマール編
120/247

旅立ち

千夏は南国諸島に行くときに借りた本をすべて一度返却し、新たに本を借りた。

メインはハマールのグルメマップ。それから「メイドは見ていた!衝撃の事実」の最新刊だ。


あとは念のためにハマールについて書かれている本と、適当に王宮物の恋愛小説などを借りる。

本当はミステリーのジャンルの本が一番よいのだが、この世界では該当ジャンルはあまり好まれていないようで、見つけることができなかった。


ハマール行の当日。千夏は久しぶりに早起きして、アルフォンス達と王城前に転移した。

王城前には2台の大型馬車と、2列に整列した兵士達が待っていた。


兵士たちは全員お揃いの黒色の胸当て、手甲と足甲それに長めの長剣を腰に身つけている。

彼らは千夏達の現れるとざわざわとざわめき始める。


「まさか、あれがそうか?」

「馬鹿いえ。いくらなんでも女子供ばかりじゃないか」

「貴族もいるようだし、王城に用があるだけだろう」


じろじろと遠慮のない視線を千夏はスルーし、セラが集合場所にまだ現れていないことを確認する。


アルフォンスは久しぶりに貴族の正装姿で、グレーのスーツに臙脂のアスコットタイ。靴もピカピカだった。一応今日は初日だし、ハマール国王との謁見があるかもしれないのだ。


千夏とセレナも持っている服の中では比較的ましなものを身に着けている。

さすがに古着で会うわけにもいくまい。


リルは治療師の正装の白いフードを着ており、レオンはいつものエドと同じフロックコート姿だ。

タマは普段通りの格好でコムギを抱きかかえている。


王城の鉄門横の扉が開き、宰相とセラ、カトレアそして近衛騎士団長が中から出てくる。

それに気が付いた兵達は一斉にぴたりと口を閉ざす。

近衛騎士団長のマイヤーは居並ぶ兵士たちと千夏達一行を確認して頷く。


マイヤーは整列した兵に向かって、張りのある威厳に帯びた声で話しかける。


「これから我々は転移でエッセルバッハの西の国境に跳び、そのままハマール王国へ向かう。目的は魔族に対応するための技の訓練だ。ハマールの精鋭たちとの合同訓練となる。厳しい訓練となると思うが、お前たちならきっと会得できるはずだ」

「「「「はっ!」」」」


兵士たちのヤル気に満ちた応えを聞き、マイヤーは満足そうに頷く。

「ハマールに居る間はくれぐれも、エッセルバッハの名を貶めるような振る舞いは慎め。なにかあったら俺か、こちらの外交担当文官のトゥルー伯爵夫人に報告、相談すること。個人で勝手な判断をするな」


マイヤーは隣に立つモスグリーンのドレスを着たセラに視線を向ける。

「みなさん、よろしくお願いします」

セラは笑顔で兵士達に挨拶する。

相変わらず公では偽名を通すらしい。


「それでは全員、馬車に乗車しろ」

マイヤーの掛け声で一斉に兵士達は馬車へと乗り込んでいく。

後ろの大型馬車に兵士達が収まると、セラが千夏達のもとへと寄ってくる。


「おはよう。あなた達の紹介はあとでまとめてやるから、とりあえず出発しましょう。この馬車に乗ってちょうだい」

セラは挨拶すると、さっさと馬車の中へ入っていく。

騎士団長に続いて千夏達も馬車の中に入っていく。


「それではお気をつけて」

カトレアは馬車の中を覗き込みにっこり微笑むと、2台の馬車を転移させる。


転移した先はゴツゴツとした岩に囲まれた窪地だった。

南東の方角に大きな気の気配が大量に蠢いている。


あまりの圧迫感に、警戒した千夏とタマはそちらの方向をじっと見つめる。

「ああ、あっちに竜の谷があるのよ。今回は寄らないけどね」

セラは千夏達の視線を追い説明をする。


「すごい。本当にいっぱい竜がいるのね」

千夏は動き出した馬車の窓からじっと竜の谷の方向を眺め続ける。

大きな気がうごめく中に、この前あった妖精王の気よりも大きな気がひとつだけある。

一体どんな竜なんだろう。


「ああ、行きたかったなー」

無念そうにアルフォンスががっくりと肩を落とす。

「行っても追い返されるのが関の山よ。彼らは人には興味がないんだから。それよりももうすぐ国境よ」

セラは見えてきた大きな城壁を指さす。


国境線に沿って作られた大きな城壁のすぐ近くにエッセルバッハ国境警備隊が駐屯する砦がある。

今日この時間に移動することは事前に連絡してあった。


ずらりと300人ほどの警備隊の兵士が並び、馬車の到着を待っていた。

本当は配備された5千人の兵が見学を希望したのだが、非番のもの以外は却下されたのだ。


彼らの目当ては勇者一行である。一体どんなつわもの達がなのか大いに興味があったのだ。


城壁で塞がれた大きな鉄門の前で馬車は止まる。ここで出国審査を行うのだ。

「久しぶりだな」

マイヤーは馬車を降りると、背後に部下を従えた警備隊長に向かって軽く手を上げる。


警備隊長も手をあげて、マイヤーの顔みてにやりと笑う。

「新兵のお守りか?マイヤー」

「馬鹿いえ、我が国の精鋭部隊だぞ」

2人は笑いあうと、がっしりと握手を交わす。


その隣では部下たちが手早く出国審査を始めている。

馬車からおりた兵たちは自分の身分証を渡し、気紋調査のマジックアイテムに手を載せる。


千夏達もそのあとに並ぶ。

ざわりと待機している警備兵たちが千夏達の風体をみて騒ぎ出す。


セラに続いてセレナがカードを警備兵に渡すと、カードを受けった警備兵が「勇者だ!」と叫ぶ。

セレナはびくりとその声に驚き身を縮こませる。


「嘘だろう!」

「や、本物だぞ!」

「こんなに小さいのかよ!」

わらわらと警備兵たちが集まり、次々とセレナのギルドカードを確認する。


千夏はその情景をみて、ラヘルでの結婚式を思い出す。

あちらでは信仰対象だったが、こっちの国でも興味が尽きないらしい。

自分も同じ目に遭うかと思うと気が重くなる。


警備隊長は拳骨でカードを持っている部下の頭を殴り、セレナのギルドカードを取り上げる。

気紋照合のマジックアイテムのスロットにカードを差し込むと、彼はセレナに手を当てるように指示する。


このマジックアイテムは犯罪歴がある場合は赤、カードに登録されている気紋と照合した気紋が不一致の場合は、オレンジ色に輝くのだ。

セレナがマジックアイテムに手を載せると水晶は青く光る。

間違いなく勇者だと確認される。


「「「「「「「「「「「おおおおおおお!」」」」」」」」」」

兵士達は怒号のようは低いうなり声を上げる。


順番にさくさくと警備隊長による照合を続けていく。彼は何も言わないが、兵士達は千夏達が勇者一行だと知っているので次々と突き刺さる視線が痛い。


まるで珍獣扱いだ。動物園のコアラもこんな気持ちなんだろうか。

突き刺さる視線に千夏はうんざりする。


本当はラヘルでの教訓をいかして別のカードで行きたかったのだが、今回は勇者一行がハマールで兵の鍛錬を行うことは噂になっている。勇者一行がエッセルバッハの国境を記録上通過しないでハマールに入るわけにはいかないのだ。


300人の警備隊に見送られて馬車で5分ほど進んだ先の城塞で、今度はハマールの入国審査だ。

こっちも物見高い兵士達が集まっている。


先程と同様に騒がれるが、突き刺さる視線の種別が違う。

エッセルバッハ側では驚きと猜疑の視線だったが、ハマール側ではほとんどが敵意の視線だ。


セレナはその視線を敏感に感じ取ってたのか、腰に下げた剣に手をかけて、いつでも臨戦態勢をとっている。

アルフォンスも丸腰である自分に危機感を感じているようだった。エドから剣を取り出してもらい、片手に握る。


入国審査を終えしばらく城塞から離れるまで、二人は剣の柄を握りっぱなしだった。


十分に城塞から離れると馬車また止まる。

ここからハマールの王都まで馬車で20日ほどかかる。転移で一気に王都まで移動するのだ。

転移先は王都に近い小高い丘の上だった。そこからは王都が一望できる。


「おおう!」

千夏は窓から見える王城に声を上げる。

王都の中央に白亜の大きな城が建っている。


エッセルバッハの堅牢な城とは違い優美なその姿に某映画会社の巨大なテーマパークの城を思い浮かべる。

もちろん大きさはあの張りぼての城の数十倍以上の大きさだ。


そしてその城の周りを小型の竜に乗り、槍を構えた騎士達が飛び回っている。

「あれが竜騎士か。意外と竜が小さいな。タマくらいか?」


想像していたものと異なったようで、少しがっかりしたようにアルフォンスは空を見上げる。

土色の小型の下位竜であるワイバーンは竜に比べて体が細く、どちらかというとトカゲに羽が生えたような形をしている。


「あれは竜ではない。単なる空飛ぶトカゲだ。知性もなにもない」

不機嫌そうにレオンはアルフォンスの言葉を否定する。


「でもあれだけの数がいるとなかなか侮れませんよ。私たちは空から攻撃ができませんし。ハマールでは騎士だけではなく、魔術師もあれにのって上空から攻撃をしてくるのです」


マイヤーはばっさりと竜騎士を切るレオンに向かって苦笑する。

いつ同盟が打ち切られてハマールに奇襲されるかわからないため、竜騎士についてはエッセルバッハでも研究されている。


「あなただったら、どうやってあれを倒す?」

セラは面白そうに笑い、レオンに尋ねる。


「いろいろやり方はあるが、目障りだから体中の水分を一瞬に抜き去る」

干からびたらそのまま失速して落ちるだろう。


レオンから大気中の水操作を学んだ千夏は、そんな使い方もあるのかと感心する。

意外と水魔法の応用範囲は広い。


「いいわね、それ。でもお願いだから今回の訪問ではそれをやらないでね」

セラに念を押され、レオンは黙り込む。


今回は客としてハマールに招かれているのだ。いくら気ままな竜(レオン)でも気に入らないの一言でそんなことをするつもりはない。


マイヤーは少しハラハラしながら二人の会話を聞いていた。

彼は魔族襲撃の際に現場の教会にいたので、千夏達の強さはよく知っている。


レオンはその時には見かけなかったが、今の話から高位の魔術師であることがわかる。

彼らが暴れでもしたらハマールに大きな打撃を与えるかもしれない。


そしてエッセルバッハは各国から非難される。

勇者である彼らにマイヤーは命令の権限は持っていない。


どうかこの国にいる間は大人しくしてくれよ。

マイヤーは祈るような気持ちで、勇者たちを見つめた。

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