腕試し
「まぁそうなると思っていたけどね。」
王都についたエッセルバッハの一行は、王との謁見もないままそのまま兵士の訓練場へと連れていかれる。
ここの国王は相変わらずだとセラは苦笑する。
訓練場ではハマール竜騎士団と皇太子であるクロームが彼らの到着を待っていた。
「「「「グゲァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」」」」
馬車からタマやレオンが下りてくると、その場にいたおよそ30にも及ぶワイバーンがバサバサと翼をはためかせ一斉に物凄い音量で鳴き始める。
突然の騎竜達の暴走に慌てて竜騎士たちがなだめるが、落ち着く様子は全くない。
千夏は耳を両手で塞ぐが、若干音が小さくなっただけでうるさいのには変わりがない。
らちがあかないと判断した竜騎士団長は、竜騎士たちにこの場を離れるように命じる。
逃げるように次々と飛竜は空に舞い上がっていく。
「あれがハマール自慢の竜騎士ですか。立派ですこと。」
少し静かになった訓練場で、セラは扇子を左右にゆっくりと振りにこりと微笑む。
「なっ!」
竜騎士団長は恥辱と怒りが入り混じった顔をセラに向ける。
相変わらず少しの隙でもみせようなら、ざっくりと斬りこんでくる幼馴染にクロームは苦笑いをする。
「竜達もあなたたちを歓迎しているようだ。ハマールへようこそ。私はこの国の皇太子のクロームです。」
クロームはエッセルバッハ兵団の前に進み出るとにこやかに挨拶する。
セラは皇太子に向かい優雅に一礼し、自己紹介を始める。
「私は、今回エッセルバッハの代表を務めますセラーズ・トゥルーです。よろしくお願いいたします。こちらは近衛騎士団長のマイヤーです。」
セラの隣にならんだマイヤーは軽くクロームに会釈をする。
クロームも怒りを必死に納めている竜騎士団長を紹介する。
「そして彼らが我が国の勇者パーティ《トンコツショウユ》のメンバーですわ。」
くるりとセラは振り返り、千夏達を一人ひとり紹介していく。
どちらの国の兵も外面は大人しくその紹介を受けているが、どう見ても勇者に見えないパーティの面々に猜疑心が強くなっていく。特に最後に幼児を紹介されればなおのことだ。
「今回は剣技の取得のため、こちらのアルフォンスとセレナが指導します。」
アルフォンスは貴族として教育された見事な外面で優雅に一礼をする。セレナは相変わらず尻尾を丸め、おどおどと会釈を返す。
「来ていただいて早速ではありますが、我々は勇者殿の強さを知りません。ぜひお手合わせをしていただきたい。」
竜騎士団長は胡乱気にアルフォンスとセレナを鋭い視線で見つめる。
「アルフォンスは着替えが必要ね。セレナ、あなたがお相手してあげて。」
セラはセレナに向けてにっこりと微笑む。
セレナはぎこちなく頷く。
小娘になにができるんだ。
竜騎士団長は侮蔑したようにセレナを一瞥し、その場に残った竜騎士団副長を呼び寄せる。
「万が一でも、あんな小娘に後れをとるなよ。」
副長のダストンは黙って頷く。彼はハマール竜騎士団の中でトップクラスの実力者だ。
ダストンは190センチを越す鋼のような体躯をしており、腰にぶら下げた剣は重さ30キロを超す鋼の長剣である。彼の必殺技は岩をも砕く。
彼も先ほどの竜騎士団を愚弄された一言でかなり頭に来ていた。
(一撃が重そうなやっちゃな。手加減したらこちらがやられる。全力でいけ)
シルフィンがセレナに発破をかける。
エッセルバッハから来た兵士達も面白そうに事の成り行きを見守る。
彼らも半信半疑だったのでこの一戦はとても興味がある。
生半可な実力で自分たちを指導するような勇者などいらないのだ。
セレナとガストンを中央に残し、全員が後ろに下がる。
2人が握るのは真剣ではなく木刀だった。あくまで勇者の実力を知るための模擬戦だ。
真剣でやる必要はない。
「それでは始め!」
竜騎士団長ががなるように試合開始を宣言する。
開始の合図とともに、ガストンはセレナに向かって走り出す。
セレナも重心を低くし、駆け寄ってくるガストン目がけて凄まじいスピードで迫る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ガストンは上段からセレナの頭上めざして剣を振りかぶる。
鋭く十分な重さを放つ一撃をセレナは軽く身をひねり紙一重でよけ、その低い体勢のままガストンの左足に剣を振りぬく。
セレナの鋭い一撃にガストンは顔をゆがめながらも、すぐに体勢を戻そうとするが、セレナは右足を軸にぐるりと体を反転し、低い姿勢のままガストンの背中に木刀を叩き込む。
背中がごきりと嫌な音をたて、ダストンはそのまま膝をつく。
戦闘のスピードが桁違いに違うのだ。
先程までおどおどした様子は消し飛び、悠然とセレナは倒れたダストンの頭の上で剣を静止させる。
あまりにも一瞬で決まった勝負に観客たちは唖然とする。
動きが遅いパワーファイターは、セレナにとっては敵でもなんでもないのだ。
当たらなければ意味がない。
わなわなと震える竜騎士団長の代わりに、クロームが「勝負あり!」と叫ぶ。
「背骨が折れています。」
治療部隊はすぐにガストンの治療を始める。
「お、もう終わったのか。」
馬車の中で着替えをしていたアルフォンスがひょっこりと馬車から降りてくる。
(ほんまこいつら走り込みしてたんかい?速度が足らん)
呆れたようにシルフィンが呟く。
じっとセラはクロームをもの言いたげに見つめる。
幼馴染であるクロームには「あんた、あんなのが訓練させた兵士なの?」と聞こえないはずの声が聞こえてくるようだった
竜騎士団長の顔をたてて竜騎士から勇者と戦う相手を出したが、そもそもそれが間違いだったようだ。
竜騎士団は軍で一番の発言力を持っている国王直属部隊だ。訓練させていたのはクローム直属配下の近衛兵であり、竜騎士団ではない。
「トール、お前なら彼女に追いつくことは可能か?」
側近である近衛騎士団長にクロームは尋ねる。
「たぶん行けると思います。」
生真面目に答える近衛騎士団長の言葉を聞き、クロームは頷く。
トールはセレナに向かって歩みよっていく。
「素晴らしい動きでした。私ともお手合わせをお願いします。」
彼はセレナに会釈して手合せを頼む。
ガストンとは異なりすらりとしたトールに視線を向け、セレナは頷く。
なかなか手ごわそうな相手だ。
2人は距離をとって互いに木刀を構える。
「始め!」
クロームの合図で同時に二人は駆けだす。トールのスピードはセレナとほぼ互角。
互いに動きまわりながら、縦横無尽に剣を合わせる。
セレナがトールの腕を狙って切りかかれば、身をよじってトールはそれを躱しながらセレナの腹部に向かって剣を叩き込む。すぐさまセレナは後ろに飛んでそれをよける。
目まぐるしく変わる攻守交替に観客は目が離せない。
トールは後方へと飛び、セレナから大きく距離をとる。
スピードは互角。だがパワー勝負ではセレナに軍配が上がる。自信があった自分の剛剣をあの細い腕でそれよりも凄まじい力で押し返す。このままでは最後は力で押し切られてしまう。
トールは体中の気を集め、木刀に力を貯めていく。
気をこめた木刀は通常の何倍もの鋭さを持ち、彼女の体に触れればたやすく腕を切り落とすことも可能だ。手加減したら負けることを感じていたトールに一切の躊躇はない。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
トールは重心を低く保ったまま、凄まじいスピードでセレナとの距離を一気に詰め、下段から剣を振り上げる。セレナはトールの攻撃に合わせてリフレクションブレイクを発動する。
「ぐはぁぁぁぁぁ!」
トールは強い衝撃で後方に弾き飛ばされる。自分の腹部から吹き出す血に彼の顔も濡れる。
リルを始め治療師たちが一斉にハイヒールをトールに向かってかける。
セレナはすぐに木刀をすて、トールに駆け寄る。
傷口はほぼ魔法によって塞がっている。大量の出血により顔は青白いが意識はしっかりしていた。
「大丈夫なの?」
セレナは心配そうにトールに尋ねる。
「私の負けですか。一体なにをあなたはしたのです?」
トールは自分を心配そうに覗き込む少女の瞳を見て尋ねる。
激突する瞬間、彼女のスピードが更にあがり手元がよく見えなかったのだ。
「あれが、今回みなさんに覚えてもらう技です。リフレクションブレイク。物理攻撃および魔法攻撃をも相手に跳ね返す。対魔族戦では必ず役に立つでしょう。」
口下手なセレナに代わりセラが答える。
クロームは唖然と倒れた側近と犬耳の少女を見つめた。
トールは自分自身の力によって倒れたことを理解する。
「魔法攻撃も跳ね返せるのですか。是非私にその技を教えていただきたい。」
トールはセレナの腕をつかみ、真剣に訴える。
冷やかし気分で観戦していたエッセルバッハの兵士達も、気を引き締め真剣な表情でセレナを見る。
やっと訓練に入れそうだわ。
セラはハマール兵やエッセルバッハの兵の様子を観察し、予定通りにことが進んだことに満足する。
今日はデモストレーションだけにして、本格的な訓練は明日からになるだろう。
そのあとクロームに魔法部隊を呼ばせ、出番がなかったアルフォンスに実際に魔法をも跳ね返すことを実証させる。
こうしてハマール初日の訓練はやっと終了し、千夏達は宿泊先である皇太子宮へと足を運んだ。
次回は固い話じゃなくてソフトなものを書こうと思っています。




