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53  急展開

 どろどろ――聖なるどろっとしたものは、巨大化して城を突き破った。

 セイン国に悲鳴が響く。

「魔物だー!」

「どろどろしてるぞ!」

「勇気ある者は剣を手に立ち向かえ!」

「回復魔法が使えるものは怪我人の手当てを!」

「お母さーん! 何処にいるのー?」

 城の外まで脱出した勇者の子孫達は、巨大化した聖なるどろっとしたものと逃げ惑う人々を呆然と見つめた。

「……大騒ぎだな」

「……どうしようね?」

 城も民家も、瓦礫と化した。突然現れた物体に、人々の心は恐怖で満たされていく。

 セインは崩壊した。

「魔物として退治するか?」

 ガインの意見に、レイが小さく唸る。

「でもそれでは、魔王退治の手掛かりが無くなるんじゃないのかい?」

 ボスが鼻を鳴らす。

「あれが手掛かりになるのか?」

「もう退治でいいんじゃないかなぁ」

 とりあえず、この騒ぎを収めなくてはならない。

 攻撃をするか、と視線を交わす勇者の子孫達。そんな子孫達に背後から声が掛けられた。

「勇者の子孫達よ」

 振り向き、ミイナが声を上げる。

「あ 王様! 無事だったんだ」

 セインの王と宰相も、地下から無事に脱出していたようだ。

 王は、聖なるどろっとしたものを一度見上げ、それから勇者の子孫達に視線を戻して告げた。

「城の再建築代金及び国再建代金は、お前達に請求するからの」

 ミイナ、ガイン、シータ、レイが目を見開く。

「ええ!?」

「そんな……!」

 勇者の子孫達は、多額の賠償金を請求された。

「そんなお金ないよ……。ボスが払って!」

「払ってぇ」

 ミイナとシータの言葉に、ボスが舌打ちする。

「それよりも王、この惨状をなんとかしなければ国民が危険だろう」

 言いながら、ボスが懐から笛を取り出して音を鳴らす。悲鳴の中に笛の音が響き、すぐに構成員達が集まって来た。

「ボス、ご無事でしたか」

「良かった……」

 ほっとした表情で構成員達が言う。どうやら構成員達は、この混乱の中でボスを捜していたようだ。

「怪我人を救助し、セイン国民を避難させろ。それからソビに援助を要請しろ。あの巨大な魔物はオレ達が何とかする」

 ボスが命じると、構成員達が「はい!」と返事をして散っていく。

「なんとかするって……、どうするの?」

 困惑の表情を浮かべるミイナ。ボスは笛をしまい、代わりに片手銃を取り出した。

「知らん。だがどうにかしなきゃならないだろう」

「知らんって、そんないい加減な!」

 言い合いを始めるミイナとボス。そんな二人にガインが告げた。

「おい、こっちに来るぞ」

 勇者の子孫達は身構えた。

 聖なるどろっとしたものは、勇者の子孫達の前まで来ると、どろどろに崩れている口から何か言葉のようなものを発した。

「まほふほほとひひきまひょう」

「また呪文!?」

 聖なるどろっとしたものが、否定するように体を振る。

 ボスが銃口を聖なるどろっとしたものに向ける。しかしそれをレイが制した。

「待って。このどろどろは、僕達に何かを伝えようとしているんじゃないかな?」

「伝える……?」

 聖なるどろっとしたものが肯定するように頭を縦に振り、また声を発した。

「ま、ほぉ、ふ」

 勇者の子孫達が顔を見合わせる。

「うーん」

「確かに何か訴えているような……」

 聖なるどろっとしたものが頭を縦に振り、同じ言葉を繰り返す。

「ま、ほぉ、ふ」

「魔法?」

 聖なるどろっとしたものが体を振る。

「ま、ひょ、ふ」

 ガインが顎に手を当てて首を傾げた。

「もしかして……、『魔王』といいたいのか?」

 聖なるどろっとしたものの頭が肯定するように縦に動く。

「まひょふのほとひ」

「魔王の……?」

「元に、じゃないぃ?」

 魔王の元に、なんだと言うのか。

「ひきまひょう」

 勇者の子孫達が眉を寄せる。

「匹?」

「引き?」

「轢き?」

「行き、か?」

 その瞬間、勇者の子孫達は驚き顔を見合わせた。もしかして、聖なるどろっとしたものは……。

「魔王の元に行きましょう?」

 と言っているのか。

「魔王の元に、だと?」

「まさか今から?」

 聖なるどろっとしたものが、戸惑う勇者の子孫達を、辛うじて手の状態のもので掴んでぼろぼろの翼を動かす。

「きゃあー!」

「浮いた!」

 空に向かって飛び立とうというのか。

「ボス!」

 まるで魔物に捕らえられたかのようなボスの姿に、構成員達が慌てる。

「ボスをお助けしろ!」

 構成員達が一斉に集まってくるのと、聖なるどろっとしたものが大空に舞い上がったのは同時だった。



『二度目の空の旅はどろっとしていた。

 美しい景色もどろっとするほどどろっとしていた。

 もう自分自身さえどろっとしていたのかもしれない』(ガイン著、「あの頃を振り返る」より抜粋)



「高い!」

「落ちたら即死だ!」

「ミイナ、どろどろが崩れかかっている……!」

「嘘!?」

 聖なるどろっとしたものの体が、翼が、そして勇者の子孫達を掴んでいる手も崩れかけている。

「小娘、回復魔法を唱えろ!」

 ミイナが杖を握りしめて回復魔法を唱える。

「カンチ、カンチダ、カンチシロ!」

 しかし、聖なるどろっとしたものの崩壊は止まらず、高度が大きく下がる。

「嫌ー! カンチシロ、カンチシロ、カンチシタトイエ!」

 狂ったように回復魔法を唱えるミイナ。

 聖なるどろっとしたものは、かろうじてその姿を保ちながらふらふらと飛び続け、ミイナは声が枯れるまで呪文を唱え続けた。そして――。

「あれは……」

 高い山に囲まれた孤島が前方に見える。

「魔王の居る孤島か?」

「あれ、魔王の城ぉ?」

 孤島の中心に城が見える。

「島全体が黒いもので覆われているが、あれはなんだ?」

 空の旅で体力を奪われて瀕死のレイが、それでも気力を振り絞って魔王城を見つめる。

「恐らくあれが『膜』……結界のようなものだと思う」

 孤島に近づくにつれ、体に纏わりつくような嫌な気配が濃くなっていく。

「魔物だ!」

 大きな鳥のような魔物が、勇者の子孫達目がけて飛んでくる。

「ガイン、暴れるな!」

「体が勝手に動くんだ!」

 レイが杖を掲げ、呪文を唱える。

「ネンネ!」

 するとガインが、気絶したかのように突然眠った。

「ちょっとした衝撃ですぐに目覚める。急いで魔物を倒すんだ。――ライゲキ!」

「カンチシロ!」

 聖なるどろっとしたものに掴まれてあまり動けない状況で、それでもボスが片手銃で魔物を撃ち落とす。

「もふへんかひでふ」

「みんなぁ、どろどろが何か言ってるよぅ!」

 近寄ってきた魔物を殴り飛ばしながら、シータが叫ぶ。と、その瞬間、

「……え?」

「な……!」

「落ちる!」

「うわあ!」

 聖なるどろっとしたものが急降下し始めた。

「嫌、ぶつかる……!」

 聖なるどろっとしたものは『膜』を突き破り、勇者の子孫達は魔王の城がある孤島に墜落した。



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