表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/62

35  雷警報発令中

 雷がとめどなく降る草原を、勇者の子孫達とボスの組織の構成員達が歩き回る。

「何処にあるのよ!」

「広いよぅ」

 雷に打たれる恐怖に耐えながら探すが、欠片は見つからない。

 ガインと背負われたレイの二人は、草を掻き分け地面を調べた。

「無いな……」

 呟くガインの頭上で雲が光る。

「雷が来るよ!」

 ミイナの叫びを聞いたガインは、咄嗟に転がって雷を避け、額の冷や汗を手の甲で拭った。

「危なかったな。レイ、大丈夫か? ……レイ?」

 何故レイは返事をしないのか、と眉を寄せたガインに、ボスがレイの状況を教える。

「白目を剥いているぞ」

 ミイナが駆け寄り、回復魔法を掛けた。

「カンチ!」

「うぅ……」

 呻くレイの背中をミイナが杖で撫でる。

「しっかりして」

 と、その時、シータが空を指さして大きな声で皆に教えた。

「魔物だよぅ」

 シータが指し示す方角を見て、ミイナ達は驚く。

「こんな場所にまで魔物は出るの?」

「あれは……ライウンキだ」

 レイが掠れた声で言った。

 一見ただの雷雲のようだが、よく見ると目とツノがある。そのライウンキが雷を落としながら勇者の子孫達に近づいてきた。

「雷攻撃をしてくるぞ」

「魔物まで雷なのか」

 ガインが惨殺の短剣を抜いた。

「雷には雷だ。ライウ! ――う、ゴホッ」

 吐血したレイに、ミイナが素早く回復魔法を掛けた。

 レイの攻撃で一瞬地上に落ちかけたライウンキに、ガインが短剣を突き刺す。耳をつんざくような悲鳴を上げて、ライウンキは飛散した。

「雷だけでなく、雷系の魔物が出るのか」

 眉を寄せてガインが短剣を鞘に収める。

 顎に手を当てて、ボスが空を見つめて呟いた。

「もしかして『雷と共に』というのは、あの魔物が持っているという意味か……?」

 ミイナ達が「あ!」と手を打つ。

「そうかも。ボス冴えてるじゃない!」

「きっとそうだ。ライウンキを狩りまく――うげっ」

「惨殺者の出番だねぇ」

 ガインが顔を顰めてシータに抗議した。

「シータ、俺は惨殺の短剣は持っているが惨殺者ではないぞ」

 あはは、と笑いながら、興奮のあまり吐血したレイの為に、ミイナが回復魔法を唱える。その時また、

 ピカッ!

 と頭上で雲が光った。

 ミイナが悲鳴を上げたのと、構成員達がボスの身体に覆いかぶさったのは同時だった。

「ボスの仲間が、ボスを庇って雷に打たれたぁ」

 地面に蹲り荒い息を吐く構成員達の腕を、ボスが掴む。

「しっかりしろ! 小娘頼む」

 はいはい、とミイナが杖を掲げた。

「凄いね、ボスの仲間。カンチ!」

 よろめきながら立ち上がり、構成員達はミイナに礼を言った。

「いいなぁ。おいらも身を呈して守ってほしいなぁ」

 指をくわえて羨ましそうに構成員達を見つめるシータを、ボスが冷たくあしらう。

「シータは転がっていろ。そうすれば当たらない――かもな」

「酷いぃ」

 泣き真似をするシータの肩を、ガインが慰めるように叩いた。

「欠片を探そう」

 欠片はライウンキが持っている可能性がある。その為にはライウンキを狩らなくてはならない。ミイナがボスに訊いた。

「ねえ、ボスの笛で魔物も呼べないの?」

 ライウンキをこの場に集めて、一気に狩ることができれば早いのではないか。そう言うミイナに、しかしボスは首を振った。

「呼べない」

「なんだ、残念」

 ミイナが口を尖らせ、

 ピカッ!

 とまた雲が光る。雷は、ミイナの近くで欠片の捜索をしていた構成員に直撃した。

「あ、ボスの仲間が雷に打たれたよ。カンチダ。――大丈夫?」

 呪文を唱えて、無事を確かめようと倒れている構成員の顔を覗き込むと、構成員は顔を上げてミイナに笑顔を見せた。

「あ、ありがとうございます。姐さん」

「姐さん?」

 首を傾げ、ミイナはボスに視線を向けた。

「『姐さん』って何?」

「気にするな」

「ボスってすぐ『気にするな』っていうよね。気になるから訊いてるのに」

 ボスがまだ倒れていた構成員を立たせ、歩き出す。

「無視するとか最低」

 ボスの背中に向かって舌を出し、ミイナ達もライウンキを探すために歩き出す。

「見つからないな」

「疲れたよぅ……」

 広大な草原を歩き回るが、ライウンキは見つからない。もしかしてもういないのか。勇者の子孫達が弱音を吐き始めた頃、

「ねえ、ガイン」

 ミイナがガインの袖を引っ張った。ガインが振り向くと、ミイナは目を眇めて離れた場所を指さした。

「あのやたら低い所をふわふわ浮いている大きな塊って、もしかしてライウンキじゃない?」

 それにしては大きすぎるようだけど、と続けたミイナの言葉を最後まで聞かずに、ガインが剣を抜いて走り出す。

「あ、やっぱりそうだったんだ」

 惨殺の短剣が反応したということは、やはりライウンキだったのだろう。ライウンキも敵の存在に気づいたようで、猛烈な速さでこちらへと向かってきた。

「ライウ!」

 レイが杖を掲げて呪文を唱える。レイの杖から迸った雷撃がライウンキに見事に当たって飛散した。

「やった!」

「違う、よく見ろ小娘」

 倒したと思い喜んだが、それは違った。

「沢山いるよぅ」

 ライウンキは一体ではなく、複数集まっていたのだ。

 ガインとレイがライウンキの集団に囲まれた。

「やばい! ボス、パンパンして!」

「ああ。……ところでそのパンパンという言い方は何とかならないか?」

「いいじゃない、パンパンで。ほら撃って」

 ボスが銃を取り出してライウンキを撃っていく。ガインが刺し、レイが呪文を唱え、ミイナとシータは応援した。

「やった!」

 今度こそ、ライウンキは飛散した。

 静かに息を吐いたボスを、ミイナが見上げる。

「やっぱりいいな、パンパン」

「やらないぞ」

「貸してくれるだけでいいんだけどな」

「駄目だ。それより、いいのか?」

 ボスが、ガインとレイに向かって顎をしゃくる。

「あ……、カンチダ!」

 ガインとレイが血を拭いながら戻ってきた。

「すっかり血塗れだねぇ」

「そうだな。……すべてレイの吐血だが」

 ガインが頬の血を拭い、レイがミイナに手を伸ばす。

「ありがとう、ミイナ」

「え? ごめん、ちょっと離れて。新品の装備品が汚れるから」

「…………」

 レイが遠い目をし、ところで、とボスが仕切りなおすように話しだす。

「欠片はあったか?」

 ガインが首を振った。

「いや、ないな」

「あの魔物が持っているのではないのか……?」

「どうするのよ」

「疲れたよぅ」

 うーん、と考える勇者の子孫達。と、そこで構成員達が大声を上げた。

「ボス!」

「魔物の大群が!」

 勇者の子孫達が視線を向けると、先程よりも沢山のライウンキが少し離れた空中に浮いていて、威嚇するように雷を落としているのが見えた。

「あの中に欠片を持ったライウンキがいるかも!」

 ミイナの言葉に頷き、ガインとレイがライウンキに向かっていく。同時に構成員もライウンキに向かって行った。

「魔物覚悟ー!」

 叫びながら構成員は長剣で魔物を切り付け、やられてもやられても向かっていく。その様子を見つめ、ミイナが感心したように言った。

「ボスの仲間って、戦闘力はたいしたことないけど頑張るよね」

「そうだな」

 ボスが銃を構える。ミイナも回復魔法を唱えた。

「カンチ、カンチダ、カンチシロ! シータも手伝ってよ、ほら大回転!」

「えぇー」

 嫌がるシータをミイナが杖で突く。無理矢理転がされたシータが、勢いよくライウンキに向かって行った。

「頑張って――」

 ピカッ!

「――きゃあ!」

 目の前に雷が落ち、ミイナが身を竦める。魔物に夢中で、普通の雷雲を注意していなかった。

「大丈夫か、小娘」

「うん。でも怖か――あれ?」

 ミイナが首を傾げて地面に落ちているものを拾う。

「これって……」

 何処からどう見ても割れた茶碗のようなものが手の中にある。ミイナはボスを見上げた。

「聖なる欠片?」

「似ているな」

「…………」

「…………」

 ミイナとボスは顔を上げた。

「はあ!」

「うげえ!」

「魔物覚悟ー!」

「目が回るぅー!」

 魔物の群れと死闘を繰り広げる仲間達を、ミイナとボスは静かに見つめた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ