ep.2 同じ穴のムジナ扱いは不本意だ
― 裏路地を数回曲がって地下に伸びた階段を下りると、ちょっとした地下街が収まっている。地上は魔獣に覆われているため、人間たちは生活圏である地上を離れて地下に拠点を作って暮らしているのだ。とはいえ開拓もままならない状況で地下帝国なんぞ築けるはずもなく、狭い土地に無理やり生活スペースを押し込んだ散漫さである。
出かける前よりも更に物が増えて見える入口に、ニコが顔をしかめる。
「はぁ、相っ変わらず、、、。あ、ちょっと!ハグマさん、ここらにあるもん全部あんたのでしょ!頼むから自分の部屋に持ってってくださいよ、これじゃ俺達一生階段生活なんですけど、、。」
偶々通りかかった男、改め拠点の汚染原因驚異の八割を占める大罪人を見つけ、階段下に積み重なった実験機材やら資料やらを抱えてそのままハグマの腕に押し付ける。
「んあ?あーごめんごめん。」
寝ぼけ眼で適当に頷き、ニコから受け取った混沌の極みを近くの椅子の上に全て置いてそのまま階段を上って地上に出ていく。
「、、、今あの人絶対僕に気づいてなかったよね、何日寝てないんだろう、ねえ聞いてきてよニコ、ねえねえ、ねえねえねえ。」
椅子から雪崩落ちて再び進路妨害に徹しているハグマの私物から、くだらないことではしゃぐアイドへと目線を移し、ニコは思考を遮断した。
◆◇◆◇
このクソ狭い拠点にも、一応『ヒーロー』なるものがいる。
「コルテット様!最近大型魔獣が出たせいでここの通りが使えなくてー、、、」
地図を見せるように開きながら、少し頬を染めた一人の女の子が駆け寄った相手こそ ――
「ああ、タベレ通りの鳥獣のことかな。それなら先刻討伐して戻ったところだ。次から使えるだろう、念のため一人では行かないように。」
にっこり笑って返すその顔立ちは、正に彫刻のような整合性を持っている。それにサラリと伸びた淡黄色の髪は、乙女心に王子様を想起させる見た目である。加えて180を優に超える上背と引き締まった体つき。
既に女性らから黄色い声援を浴びるには十分過ぎるのだが、コルテットが持て囃される所以は彼の『異質さ』にあった。
生まれついて、生存のために必要最低限の魔素しか体に保っておくことが出来ない。つまり、本来魔素の余剰分で行う魔法が一切使えない。いや、それだけなら何ら珍しいことではないのだが、彼の異質さは魔法が使えないくせにドカクソ強いということだ。生身に剣一本という装備で魔獣を易々と倒す、やっていることは諸君が特別なご都合能力無しでドラゴンを倒すのと全く同じである。 そんな奴が、容姿端麗。品行方正。ヒーロー扱いされない方がおかしいだろう。
女の子が仲間のところに走り去ってきゃあきゃあ言い合っているのを見届けると、コルテットの耳に忌まわしき雑音が入ってくる。
容姿よし性格よし強さよし、彼の『十全』が唯一崩れる相手
「 ― おいアイド!さっきから『ねえねえねえねえ』やかましいんじゃ!偶には大人しくしておけ!」
アイドを見つけた瞬間。コルテットが目を三角にしてズカズカ向かってくる。先程の王子様スマイルはどこへ行ってしまったのか。
いつものように絡みに来たコルテットを横目で確認するや否や、アイドは目を細めて意地悪くにんまりと笑う。
「おやぁコルテットさん、あんな離れた所から僕の声を聞きつけてやってくるなんて。まるで僕の帰りを聞き耳立てて待っていたように映りますが、紳士的な王子様キャラ守らなくて大丈夫ですかぁ?」
コルテットが図星を突かれたように目を丸くしたかと思うと、次の瞬間には火を噴いたように激昂し始めた。
「、、、な!そ、そんな訳無いだろうこの私が!!!!お前!お前こそ ― 」
「はぁ、図星図星、どんだけ暇なんですか?顔を見る度に何かにつけて僕に文句をつけてきますけど。」
アイドが溜息をついて呆れ顔になったかと思うと、再び口角がきゅっと上がる。
「あぁ、もしかして口喧嘩の練習をしたいので?コルテットさん口は滅法弱いですもんねぇ。でもお生憎、僕は貴方の練習に付き合うほどお人好しでは無いので、、、」
「ああああああ!!!だだだだ黙れっ私はお前のそういうところが気に食わないだけだ!お前の問題点を指摘してるだけでっ」
アイドの煽り言葉を遮り、一人で地団駄を踏むコルテットは、完全に癇癪を起した11歳男児のようである。
馬鹿にされた悔しさと混乱の余り、一人で騒ぎ出したコルテットを素知らぬ顔でガン無視し、アイドとニコは奥の自室に戻っていった。




