第34話:皇太子の説明責任
次話は明日19時に投稿予定です。
大陸の三分のニ以上を支配する最強の国家シクタルン帝国の帝都シクタルン、場所は玉座の間ではなく豪華な会議室、ここに集められた顔ぶれは帝国を動かしている人達簡単に言えばここで何かが起これば大陸はすぐにでも戦乱の時代に入ることになるだろう。
皇帝。
帝国三公爵。
そして、皇太子アルト。
形式ばった国の会議ではない。だが、軽い場でもない。
これは裁定の場ではなく――確認のための時間だった。
「では、まず最初にこれまでの経緯を説明します」
アルトはそう前置きし、話し始める。
最初にアルトが語ったのは、事実だけだった。
海洋国における塩の流通量のこと。
航路ごとの供給比率のこと。
価格の変動と、発生時期のこと。
アルトは、それらを一つの流れとして整理しながら説明する。
「これらはすでに調整が完了しています。
帝国編入を前提に、流通量は維持されています。
航路は分断せずに既存の比率を崩さないようにしています。
価格のみを段階的に帝国基準へ徐々に変更する手筈となっています」
それは、異常が起こったとかの報告ではない。
帝国編入が、現実に問題なく機能していることのただの確認だった。
「市場を混乱させず、反発を起こさず、
北の海を帝国の内側に組み込む。
そのための処理です」
公爵たちは、反論しなかった。
彼らにとっても、それは理解できる手順だったから。
「つまり――」
アルトは結論だけを最後に述べる。
「海洋国はもう帝国として、すでに帝国の流通構造の中にあります。
形式的な編入手続きが残っているだけです」
アルトによる説明が終わった後、会議室は静まり返った。
だが、それは緊張ではない。
確認が終わったことに対してのの沈黙だった。
最初に動いたのは、皇帝だった。
ゆっくりと椅子にもたれ、短く息を吐く。
「……問題はないな」
それは問いではなかった。
確認でも、裁定でもない。
了承だった。
三公爵も、それぞれ小さく頷く。
「市場を荒らさずに、ここまで収めましたか」
「力を見せずに従わせた、というわけですね」
「武を使わないでよくここまでやりましたな」
誰一人として、異を唱えない。
追加の指示も、修正案も何も出なかった。
この場にいる全員が理解していた。
――海洋国の件は、すでに終わった案件だということを。
皇帝は、アルトにゆっくりと視線を向ける。
「よくまとめた。 これで南北の海は、完全に帝国の支配下だ」
アルトは皇帝にゆっくりと一礼するだけだった。
誇ることも、安堵することもしない。
これは勝利の報告ではない。
統治が正しく機能しているという確認に過ぎないからだ。
そして、皇帝は静かに続けた。
「次は、晩餐会だな」
その一言で、場の空気が切り替わった。
海ではなく、今度は人と国が相手になる。
アルトは顔を上げる。
――説明の時間は終わった。
次は、帝国をどう見せるかの段階だ。
海洋国の編入は、ここで一旦幕を下ろした。




