第32話:帝国内布告、世界の反応④
次話は明日19時に投稿予定です。
シドル大公国
――迷いなき従属、そして安堵
シドル大公国・大公執務室。
高窓から差し込む光の中、
一人の男が地図を見下ろしていた。
シドル大公。
王ではない。
皇帝でもない。
だが、この国においては、
すべての最終判断を下す存在だ。
机の上には、
シクタルン帝国から届いた正式国書。
封は、すでに切られている。
「……やはりな」
低く、納得した声。
地図の中央。
圧倒的な広さを誇る帝国。
その北東沿岸にあった海洋国が、
帝国領へと塗り替えられている。
大公は、視線を逸らさなかった。
「帝国は、
もともと最強だった」
「それが、
海を完全に手に入れた」
側近が、慎重に言葉を選ぶ。
「陛下……
我が国としては、
対応を――」
「必要ない」
即答だった。
「我が国は、
すでに帝国の保護下にある」
「今回の件は、
“新しい現実”の確認に過ぎん」
側近は、安堵の息を吐いた。
シドル大公国は、
帝国の属国だ。
だがそれは、
屈辱ではない。
選択の結果だった。
「他国は、
体面だの、独立だのと
まだ悩んでいるだろう」
大公は、地図から目を離さずに言う。
「だが、
我々はもう知っている」
「帝国に逆らうという選択肢は、
存在しないということを」
側近が、小さく頷く。
「祝宴への招待状も、
届いております」
「当然、出席だ」
「最大級の礼を尽くせ」
一拍。
「そして――
我々は、
早く動いた者の利益を取る」
その言葉に、
側近の目が鋭くなる。
「旧海洋国の港湾」
「再編される物流」
「帝国直轄になる前に、
協力姿勢を示す」
「我々は、
“従っている国”ではない」
大公は、はっきりと言った。
「帝国の中で、
役割を持つ国だ」
それが、
シドル大公国の生存戦略だった。
皇帝に逆らわない。
皇太子を試さない。
だが、
帝国の拡張に最も早く適応する。
「皇太子アルト」
大公は、その名を口にする。
「戦わず、
国を飲み込んだ存在」
「恐れる必要はない」
「理解し、
使われる側になるだけだ」
その判断に、
迷いはなかった。
この日、
シドル大公国は再確認した。
帝国は、
もはや“外の覇権国家”ではない。
世界の中心そのものだ。
そして、
そこに最も近い位置にいることこそが、
この国の最大の安全保障だった。




