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竜王と黄金のハート  作者: 葉月秋子


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      32 崩壊

32 崩壊



 二十数年前、モールがラウンドウェルを征服した時、ラウンドウェルの王宮は火の神の大神殿に造り替えられた。

 当時、改修を命じられたラウンドウェル一と名高い建築家は、協力を拒み、処刑される。

 しかし拒んだ理由を尋ねれば、職人気質の老人はこう答えた事だろう。


「色石は熱に弱い」と。


 火の神にいけにえを捧げる、巨大な炉。

 華麗なモザイクに飾られた謁見の間の中央部の床をくり抜き、十数人の人間を一度に焼き殺せるほどの巨大な炉を設置しろと言われたのだ。


 強度よりも色彩を重んじて組み合わされた、様々な種類の色石は膨張率も違い、常温で使われることを前提とした石材は、高熱により急激に劣化する。


 処刑された男の跡を継いだ若い建築家は、命ぜられるままにモザイクの面を残し、炉の下部は地下の部屋までぶち抜いて大量の耐火煉瓦を敷き詰め、送風と排気のために、謁見の間を支える十六本の大石柱のうち中央の六本を取り除いた。

 更に玉座があった場所に華美な祭壇が造られ、黄金の巨大な神像が安置される。

 

 山を掘りぬいて作られ、地下が迷路のように入り組んだ王宮の、謁見の間の部分だけに、凄まじい重量がかかる事になった。


 そして冬場は氷点下となる王宮のその部分だけが、常に高温に熱せられて来たのだ。

 二十数年にも渡って。


 高温による劣化。過重によるひずみ。

 歪み。ずれ。軋み。


 しかし山全体から見れば一部の事でしかなく、あと二十年ほどならそのまま持ちこたえただろう。


 山の逆側、奥殿側からの、思いがけぬ圧力さえなければ。





 モールの市街地で戦う男たちは、突然湧き上がった雷雲が空を覆いつくすのに驚き、手を止めた。

 

 急に気温が低下し、耳の奥が痛くなるほど気圧が下がる。

 みるみる広がる、真っ黒な雲。

 雲間に光る、不吉な稲妻。


「なんだ、これは」

「嵐か、こんな突然に」

 不安に包まれた人々が、逃げ出そうかと思う間もなく。


 空が裂けるようなバリバリっという凄まじい音と共に、あたりが白光に包まれる。

 王宮の真後ろの山に、巨大な雷が落ちた。




 神殿の見事なモザイクの床が、波のように揺れ動く。


「総員、退避ーっ!」


 ジョンが叫ぶ声をかき消すほどの轟音と共に。


 生贄の大炉の、底が抜けた。




 地下の迷路が二層ほど崩落し、大量の煉瓦と、燃料の石炭が大穴になだれ込む。

 間引かれた大石柱が天井を支え切れず、揺れ動く。

 モザイクの床が傾き、縦横に罅が入って隙間が開く。


 反乱軍も、兵士も、僧侶も。

 すべてを放り出して、悲鳴を上げながら、広間の出口に走った。


 薄い紙が裂けるように、大穴から大きな亀裂が前後に走る。

 出口の方へ。そして祭壇の方へ。

 広がっていく亀裂を飛び越えて、外へ走る人々。

 次第に広がる亀裂に足を滑らせ、転落する人々。


 入り口付近にいた反乱軍は真っ先に脱出できたが、神像の加護を求めて奥に走った僧たちが取り残された。

 巨大な神像がぐらーりと揺れる。


 出口で振り返ったルオーの目に映ったのは。


 ゆっくりと傾いて、自らの生贄の炉の残骸に倒れ込む、火の神の黄金像だった。



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