29 邂逅 その2
29 邂逅 その2
岩窟をくりぬいた、奥の壁。
岩壁の中央に、斃れた神が磔にされていた。
竜王シルヴァーン。
失った右手を強調するように手足を拡げた形で全身に鎖をかけられ、交差させた二本の木に固く縛り付けられている。
左胸を貫く黄金造りの剣。
斜め下の槍傷にも、肩と背の矢傷にも、黄金の短槍が打ち込まれ、黄金の矢が深く突き立っている。
シルヴァーンを蘇生させぬための呪具だ。
「くそ、セネカのやろうの仕業か。
俺達のことをよくわかってやがる。
鉄の剣ならいつかは錆びて朽ちるが、この剣は黄金製だ。
これが心臓を貫いているかぎり、シルヴァーンは生き返る事など出来やしない」
震える足で近づいたルオーは、八年もの間探し続けた彼の竜王の顔に手を触れる。
血の気を失った顔は大理石の像のように力強く、美しかった。
冷たい頬。閉ざされた瞼。
セネカの靴で傷つけられ、痛々しく裂けた唇までがあの日のままだ。
全身にかかった薄い埃だけが刻まれた歳月を示している。
仮死・・・なのか・・・。本当に・・・?
レイヴンがそっと鎖を外し、倒れかかる竜王をルオーと二人で抱き取る。
抱きしめた身体の冷たさに青年はぞっとした。
だが、死後硬直ほどの固さはなく、肌も弾力を失っていない。
レイヴンが竜王の胸を貫く剣に手をかけ、引き抜いた。
血は出ない。
「ケッ、なまくらの飾り物だな」
短槍を抜き、背と肩の矢にとりかかる。
「なにやってんだ、手を貸せ、ライラ」
シルヴァーンの顔にぽかんと見とれて惚けていた少女が、はっと我に返り、駆け寄った。
全身の傷から異物を取り除いたのを確かめ、ルオーが切り落とされた右手をそっと近づける。
微かに磁石が引き合うような感じがして、八年間別々だった右手がぴたりとついた。
「これでいい。これでゆっくりと治癒が始まるはずだ」
レイヴンの声に、ルオーが深く息をついた。
「これで、シルヴァーンは生き返るんですね」
二人の竜の顔が暗くなる。
ここまで酷く傷ついた身体が再生するには、相当な時が必要だろう。
「・・・どんなに・・・時間がかかろうと・・・必ず・・・僕の竜王は・・・」
ルオーの声が、かすれ、途切れる。




