27 ラウンドウェル その2
27 ラウンドウェル その2
「火の僧にとって、水は忌むもの。ここは忌地として施錠してあったはず」
シドの言葉はほとんど耳に入ってこない。
背に負ったものの引力が強まるのを感じ、心臓がドキドキしている。
「奴の匂いだ」
レイヴンがうなった。
「この、強い気」
ライラがつぶやく。
邪魔なローブを脱ぎ捨て、ロングナイフを握りしめて、ルオーは秋草の苑へ踏み込んだ。
窪地の反対側にあるのは、木の扉に閉ざされた洞窟。
扉に耳をあてると、かすかな人声が聞こえる。
施錠されていない扉をそっと開くと、岩をくりぬいた控えの間らしい細長い部屋。
その奥に、また扉。
声はその奥から聞こえてくる。
「・・・くく・・・くくく・・・」
勝ち誇った、笑い。
「そなたの養い子に出会ったぞ、竜王」
わずかに開いた扉越しに聞こえる、くぐもった声。
わずかに漏れる、光。
「あの貧相な子供が、ひょろひょろと伸びた若者になっておったわ。
眼の色変えてそなたを探し回っておったぞ。
なんと、二匹も竜を引き連れてな。
こんな所に隠されているとは、思いもよらぬであろうよ。
悔しかろう。会いたかろう。くく・・・」
祭具らしきものがいくつか並んだ棚のある、部屋の中央に佇むセネカ。
その前には、よく熾った火鉢。
床近く置かれたランタンの灯りが、おどろおどろしい影を壁に映し出している。
右に数歩、左に数歩。
良く慣れた動作で、そう広くない部屋を行き来する。
もう何度も、同じことを繰り返したことがあるように。
「だが、やっと事が動く。
火の大祭が終われば、愚かなモールの兵たちが、ロードリアスへ進軍するのだ。
崇拝する神の神像を、先頭に押し立ててな。
張りぼての像の中身が、かってのロードリアスの守護神、最強最大の竜王だとも知らずに!」
己の想像に酔ったように笑いながら、セネカはしゃべり続ける。
「あの子供を捕らえて鎖でつなぎ、共に行進させたいものよの。
そしてあの竜たち。二匹の竜たちは。
最初の実験台に、のこのこ現れおった、愚かな獣め」
足を止め。正面を見つめる。
「さあ、祭りの準備だ。
竜王。斃れた神よ。
火の大神への供物であることを、その身に刻み込んでやる」
火鉢から取り上げた、赤くなるまで先端を熱した鉄の焼き印を右手に。
左手に、床から取り上げたランタンを高く掲げる。
照らし出される、奥の壁。
そこに在るものが、ルオーの眼に映った。




