16 残された人々 その3
16 残された人々 その3
洞窟の入口付近にはたき火の跡があり、奥には使い込まれた毛皮を張るための木枠や、肉を干す木組みなどが整然と置いてあって、長く使われている狩人のキャンプの雰囲気だ。
散らばっている数人の男たちも、入って来た青年にかるくうなずくだけ。
臣下、と言うより仲間同士と言った風情。
アルと名乗った青年は、慣れた様子で燠のそばに置いてある薬缶から熱い香草茶を注いで皆に回す。
「さて。いとこ殿。ここに来た理由を伺おうか」
「・・・火の僧の一人を探している」
アルはひょい、と眉を上げた。
「それだけ?」
「それだけだ」
他には、何もない。
「なんで?」
「なに?」
「ロードリアスの贋王を討つために、モールの傭兵の力を借りに来たのじゃないのか?」
話が、噛みあっていない。
「そんなことは、考えてもいない」
僕は、『黄金のハート』は、竜王様を取り戻したいだけ。
だいたい活動期のロードリアスに兵など出したら、魔獣に餌を差し出すようなものだ。
「あっはっはぁ」
アルという青年は笑った。
「それだけ?ほんとに?
じゃ、軍の上層部はとんでもないデマに振り回されてるんだ」
ロードリアスの遺児、ルオー王子がモールの国に潜入した。
母の一族ラウンドウェルを滅ぼし、八年前にはラクロア軍に雇われて竜王を倒した、モールの国に復讐し、傭兵たちを率いてロードリアスに攻め入り、簒奪者『火の一位』将軍であったザンダルーン王を打ち取るために。
「どこからそんな話になった・・・」
華麗なる復讐劇のシナリオに頭をかかえるルオー。
シルヴァーンを探すのがやりにくくなるばかりじゃないか。
資金も援助もなく、味方は二人の竜だけだというのに・・・。
「モールがそれを恐れているからだ」
一番現実になってほしくない事だから。
「この国には、もともと六つの公家があった」
ルオーたちを案内してきた商人、ヤンガスと、ジョン・ノースウッドというひげもじゃの大男が加わって、母の母国の事は何も教えられていないと言うルオーに、説明する。
「ラウンドウェル、ノースウッド、ランズエンド。アスタバル、モール、インリア。
それぞれ『初めの船』までさかのぼれる古い血統だという」
「モールとインリアはそれぞれ独自の宗教を持つ小さな集団だった。
一番大きな谷を支配し、軍事力もあったラウンドウェルが他の三家と同盟や結婚を繰り返し、頂点に立っていた。
二十五年前のロードリアス・ラクロア戦争では、ロードリアスがノースウッドの、ラクロアがアスタバルとモールの傭兵をそれぞれ味方につけ、戦わせたんだ」
「なかなか決着がつかず、結局ロードリアスの王が結婚を条件にラウンドウェルを参戦させ勝利を得た」
「だが美女と名高いグウェンダリナは、ランズエンドの王子と婚約していたからな」
「怒ったランズエンドが、モールと共謀してラウンドウェルに襲い掛かった」
「モールの民は火の神を信仰する独特の集団。
暗殺の技に長ける少数精鋭の兵を使い、ラウンドウェルの当主一家の暗殺をまんまと成功させたのだ」
「その頃にはモールの火の神の信仰がアスタバルとランズエンドの兵たちの間に広まっていてな」
「神の名のもとに膨れ上がったモールの軍は三国を併合した」
「私はラウンドウェルの第二皇子。
たまたま親戚筋のノースウッドに遊びに来ていて、一人だけ難を逃れた」
アルが目を伏せる。
「何度か追い込まれたが、数年前、影武者だった幼馴染が捕らえられ、処刑されたので、公式には死んだこととなっている」
「モールはラウンドウェル、アスタバル、ランズエンドを併合し、その全軍を掌握した」
「だが二十年たった今、様々な弊害が現れている」
「ここは元々貧しい土地だ。
六公家がそれぞれの谷を治め、各々の軍に細やかな対応をしていたからこそ、うまく機能していたのだ」
「独立不羈の傭兵たちは、扱いが難しい」
「権力が中央に集中し、モールと火の神殿だけが肥え太って」
「徴兵制が徹底し、働き手を失った地方は重税にあえいでいる」
「活動期に入り、国外へ出ていた傭兵たちが国に引き上げて来る」
「ロードリアスからは魔獣に追われた難民たちがなだれ込んでくるだろう」
「輸入に頼っていた穀物の供給も止まる」
そこまで言って、アルは客人たちを見回した。
「今が、反乱の好機だ。
そう、思わないか?」




