チャプター1 オレンジジュース
「セーラー服と雪女」からのスピンオフ第2弾です。
こちらは、本編読了後にお楽しみいただくと幸いです。
本編ともども、可愛がってやって下さい。
どうぞよろしくお願いいたします。
小学三年生の村田京子は、すっかり落ち込んでいた。
と言うのも、つい先日、愛犬コロを亡くした上に、3月いっぱいで、今の一宮市の家から引っ越すことも決まったからなのである。
小学校入学時から仲良くしてくれた友だちと離れ離れになるのは、とても寂しい。あれやあこれやで寂しいの二乗である。
自室で落ち込んで泣いていると、お母様がオレンジジュースを差し入れしてくれた。それはもちろん、京子の好物であったが、心は晴れない。
その猛烈に寂しい気持ちのまま、なんとなくジュースのグラスを手に取ると、一瞬にして中身が凍りついてしまったのだった。
京子は最初、何が起こったのか理解できなかった。
しかし、試しにグラスを逆さまにしても、中身はこぼれない。
それは完全に凍りついていた。
「コレは何?一体何だって言うの?」
グラスをテーブルに戻し、しばらく見ていると、ジュースが溶け始めた。
もう一度、グラスを握る。
今度は何も起きない。
「…気のせいだったのかしら?」
ジュースを飲み終わると、部屋を出て階下に行った。
台所でグラスを洗いながら、可愛いコロのことをつい思い出してしまう。
するとまた、洗っていた水がグラスの中で瞬時に凍りついた。
「わあ!」
驚いて、シンクにグラスを落としてしまった。
今度こそ、気のせいではない。
「どうかしたの?」
リビングに居たお母様が、京子の大声に心配してやって来た。
お母様が、凍ったグラスに気がつく。
すると、さして驚くことも無く、静かに京子に話しかけた。
「やはり、アナタにも現れたのね。」
「!?」
「そのチカラは隔世遺伝なのよ。だから同じものが、おばあ様にもある。」
「この冬休みに、京都の私の実家に行って、おばあ様からチカラの使い方を学ぶといいわ。」
「大丈夫。コントロールさえ上手くなれば、案外便利なものらしいわよ。」
「…そうなの?」
突然のことに、京子は半笑い、半泣きである。
「でも、これじゃあまるで雪女みたいじゃない。なんだか自分が怖い…。」
「失礼ね。ウチの家系はれっきとしたニンゲンよ!」
お母様が冗談めかして怒った表情を作る。
「とにかく、引っ越しの準備はまだ先だから、必ずお正月に行ってらっしゃい。いいわね?」
お母様に半ば強引に予定を決められ、京子はしぶしぶ祖母に会いにいくこととなったのだ。
「おばあ様、昔から、なんとなく冷たい雰囲気がして、怖くて苦手なんだよなあ。」
京子は、まだ気が進まないのであった。
コレが1973年12月某日のことである。