⑥
「俺、高校卒業したら抜ける。大学行くんだよ」
突然の言葉に、頭が真っ白になった。が、すぐに我に返り、詰め寄る。
「な、なんでだよ!?なんで急に」
公一がいなければ、メンバーは事実上解散になる。
だが深雪の本音は違う。
「急にじゃない。少し前から考えてたんだよ。親父には迷惑かけちまったからさ、高校卒業したら、少しは親孝行しないとならないしな」
深雪には親はいない。
その為、公一の言ってる意味が理解できなかった。
「それに、今はよくても、ずっとこのままじゃいられないだろ?お前も高校くらいは卒業しろよ」
「そんな事──」
できるはずがない。
深雪がこんな風にフラフラしている間、いつの間にか父親は消えていた。
高校に行く手続きをしてくれる相手も、そんな金もない。
義務教育すらまともに受けていない人間が、高校になんて行けるわけがない。
「多分、4年位は帰って来られない」
4年は長い。
深雪達が一緒過ごしたより1年も長い間、会えないのだから。
公一は何度か深雪に「高校には行け」と言い、去って行った。
止めたかった。
離れたくなかった。
これからもずっと、一緒にいてほしかった。
だけどそれを言葉にする術を知らなかった。
何て言えばいいのか。
どう言えばアイツを止められるのか。
そもそも自分に、そんな権利はあるのか。
「待てよ、公一!」
色々考えた末、深雪の口から出たのは、ただそれだけだった。
公一の脱退は、たちまち仲間内で騒ぎになった。
最も、アメリカの大学に行ったという事は知らないらしく、ただ行方不明扱いされただけだが。
親友を気取っていた笹川は何も聞かされていなかったらしく、キレて大暴れした。
「おい。テメェ、何か知ってんじゃねぇだろうな!?」
胸ぐらを掴まれ、眉を寄せる。
だが深雪も馬鹿ではない。
公一が深雪にだけ話してくれた事を、易々とバラしたりはしない。
「お前が知らねぇのに、オレが知るわけねぇだろ!」
そう叫ぶと、笹川は一先ず大人しくなった。
公一がいなくなった事により、仲間が少し減った。
まず、公一と高校が同じだった新道が抜けた。
それに続く様に、何かと深雪に突っかかってきていた香ヶ崎も去って行った。
残ったのは深雪と笹川を始めとする7人。皆、帰る場所も居場所もない。
なんとか高校を卒業した笹川は、更に悪どい事をするようになった。
記憶が間違っていなければ、恐らく笹川は、何人か殺しているだろう。
務所に入ってはいないから定かではないが。
そして正直な所、深雪自身も胸を張ってはいられない。
恐らく、殺してはいないとは思う。
だが、あれから深雪は、素手への拘りはやめた。




