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狂想曲で踊りましょう

おさらい

国王:アーデンの祖父

王太子:アーデンの父

宰相:スミスの父(スミスはアーデンの幼馴染み)

国王の弟:キトリーの祖父(キンバリー公爵)今回初出

アーデンが出て行ってからしばらくして再び扉が開いた。3人は部屋の中に入ってきた人物に視線をやった。それは、国王陛下によく似た色合いを持つ御仁、キンバリー公爵であった。


「来たか」


兄である国王が公爵に声をかけた。


「何とも嫌な空気じゃな、早々に帰りたいぞ」


ガハハッと、部屋の中の辛気くさい雰囲気を一掃するかの如く男は笑う。空いている席に適当に座り、3人を見渡した。


「それで? アーデン様の件はどうすることにしたのです?」

「簡潔に言えば、王位からは遠ざかって貰うことにした」

「……さいですか」


想定内の答えだったのか、公爵は驚きもせず静かに頷いた。


「こんなにも恵まれているというのに、何が不満だったのですかね?」

「気づいていない振りはよせ」

「いや、まさかそんなに……ねぇ?」


口には出していないが、みなもそう思っているだろうと公爵はあんに込める。そこに王太子が意見を述べた。


「私は今までのアーデンの努力を1番理解しているつもりです。ですから、アーデンを王にした場合はキトリーを愛妾として抱えれば良いのではないですか?」


王太子の未練がましいほどの爆弾発言に、公爵が驚く。


「キトリーを日陰者にする気か!?」

「私はアーデンの能力が惜しいのですよ」


アーデンは10代前半から父に付いて仕事をしており、諸外国の大使や王族と面識がある。現在は王太子の代役も担っていた。手放したくない気持ちも分かる。だがそこへ宰相が水を差した。


「ただ楽をしたいだけだろうが、隠居も遅くなるしな」

「うぐ…」


ある意味図星を指された王太子は言葉が詰まった。


「キトリーはこの国の社交界の品位を保つために必要な娘だ。もちろん他国になどにもやれはしない。日陰者など論外だ」

「キトリーにはキトリーの役割があるからのぉ」


キトリーもアーデンと同じく、()()()()()で様々な教育をほどこされている。それは主に、第2王子の為に必要なものばかりであった。つまりキトリーは、アーデンの遊び相手ではなくて、ディオルの遊び相手として登城していたのだ。


「ここに来てまさか裏目に出るとは……」


大きくため息をこぼしたのは公爵であった。キンバリー公爵や夫人は、キトリーに第2王子妃として必要な教育を施したのだが、()()をアーデンが策をろうしてまで手に入れようとするとは思わなかった。


「と言うことは、アーデンが王になるとキトリーは弱点になってしまうのですか」

「キトリー嬢を通して付け入られることにも繋がるわけか…」


愛妾案をだした王太子が嫌なことに気づく。その言葉に宰相も何度目か分からぬほどのため息をついた。


アーデンが王位に近ければ近いほど、キトリーが何者かに攫われたり脅されたり、命の危険が高くなるというのだ。


「それを望まぬキトリーが、どんな行動に出ると思う?」

「……修道院に逃げ込むか、あるいは…自ら死を選ぶか……」

「キトリーならやりかねんわい」


王の質問に対し宰相がぽつりぽつりと意見を述べ、それを公爵が肯定した。想像するだけで億劫おっくうになる事案に、大人達は頭を抱えた。「なんと厄介な……」とつぶやいたのは王太子だったが、それはみなが心の中で思ったことだろう。


「ならアーデンにキトリーをやって恩を売っておいた方が良いのでは無いか? そうすれば引き続き王家のためにがむしゃらに働いてくれるだろう?」

「なるほど……ディオル様には出来ないことでも、アーデン様になら出来る。それに、玉座に座っているより遙かに動きやすい……か」


国王の案に宰相が即座に実益を測った。これなら出費も多いが見返りも多い。


「アーデンには王となるにふさわしい教育をしてきたのに……」

「こうなっては仕方ないさ。さて、他には?」


叔父であるキンバリー公にでさえ諦めろと言われ、王太子は観念した。その様子を宰相は横目に見つつ「よろしいでしょうか?」と声を上げる。


「キトリー嬢は元々ディオル様に娶らせる予定でしたよね? ディオル様は納得されますでしょうか?」


国の王太子なるものが国内の貴族と婚姻などしたら、他国からいわれの無い干渉を受けてしまう。従って、ディオルはクシャーナ姫との婚姻が必要になるのだ。キンバリー公爵は革命派筆頭、現王太子の妃は保守派貴族の推薦人、王太子の3人の弟たちは革命派・保守派、神殿に入らない代わりに中立派からそれぞれ推薦された人物を妻に娶っている。そして次は革命派の番なのだ。


「ディオルの恋心なんて人形遊びの延長みたいなものだろう。説得は容易いと思うぞ?」

「ディオル様は素直ですからなぁ。……はじめは驚いてオロオロするじゃろうが、周りでフォローしていけばいけるじゃろ」

「「……」」


誰もがディオルの普段の様子を思い出しておもった。


―――うん。大丈夫。


それにしても、と国王が切り出す。


「アーデンが、まさかキトリー欲しさにここまで愚かな振る舞いをするとは思わなんだ。婚約を打診したとき、あの子はすんなり受け入れていたよな?」

「えぇ、動揺はありましたが、顔合わせも手紙のやりとりもしていましたし、順調だと思いましたよ。キトリーとも会っていませんでしたよね?」

「絶対に会うなと言っておいたから、会っていないはずじゃぞ」


しかしキンバリー公は1人黙っていることがあった。幼いアーデンがキトリーに会っていた時間帯は、本来ならスミスもいるはずだったのだ。アーデンとスミスは一緒に勉学に励んでおり、その後に遊び時間が設けてあったのだから。


(しかし、ものの見事にスミスはいなかったな)


キンバリー公は薄々気づいていた。アーデンがわざとキトリーとスミスを会わせていないことに。


(あの頃から片鱗はあったのだが……まぁ、わしとしてはどちらに転んでも美味しいからな)


公爵はチラッとスミスの父親を盗み見る。息子からの報告でおかしいと分かっていたのは宰相も同じだろう。両者とも分かっていたのだ。


『王はぎょしやすい方が良い』


宰相は何食わぬ顔で首を傾げ、敗因を考える。


「クシャーナ姫は、顔つきは違えど髪の色と瞳の色はキトリー嬢と同じでしたのに…」

「わしらの思惑が露骨ろこつすぎたのも良くなかったかもしれんのぉ」


露骨すぎたと言われた国王と王太子は視線を合わせ、苦笑した。


「これ程未練があったとは、思いもしませんでしたよ」

「爵位の話など、アーデンの前でするべきではなかったな」

「……アーデンの初めての我が儘。叶えてあげましょうか」

「そうなるな」

「いやはや、こんな我が儘は金輪際(こんりんざい)勘弁願うわい!」

「「「違いない!」」」


ハハハっと場が笑いに包まれる。誰もが笑っている場合では無いと分かっているのだが、気味の悪い空気をどうにかしたくなってきたのだろう。


笑いが収まった頃に、国王が最後の仕上げに取りかかった。


「さて、クシャーナ姫が産まれた子供を利用して我が国に干渉する可能性はどれくらいかな?」


それに対し宰相が「姫の性格は従順と見受けられますが?」と返すが、王は首を横に振る。


「無いとは言い切れん」

「……ディオルに彼女をうまく扱う事が出来るでしょうか?」


王太子が不安な点を述べると、宰相と王は口を閉ざしたが、公爵の考えは違ったようだ。


「いや、むしろ彼女のような者は、ディオルのような純真な者と共にいた方が幸せであろう? 違うか? 仮面夫婦でいるよりは、愛し愛される方が裏切る可能性は低くなるだろう?」

「……なるほど、一理ありますね」


公爵は王太子の返事に満足そうに頷いた。そして、ここに来てようやく、国王はこの気味の悪さが何なのか気づいた。


「いや、まさか……? 我が弟よ、アーデンは一体どこからどこまで考えて実行したのだと思う?」


それを聞いた公爵は何回か目を瞬かせ、


「おお怖い。寒気がするわい」


と言って腕をさすった。宰相も「ここまでは無いでしょう?」と言いつつも若干引いていた。


そんなことは気にせず王太子は話を詰める。


「ディオルが王になるならば、周りが相当しっかりしている者で無ければならないでしょうね」

「そのしっかりしている者に、アーデン様を置けばよろしいのでは?」

「うむ、何とも心強いことだな」


ガハハッと公爵は笑った。もうこれ以上話し合うことはなかった。


「学園が出来たことにより官吏も優秀なものが多い」


3人にヒタと見つめられながら、王はめの言葉を告げる。


「アーデンでは無く、ディオルが王位に就くよう継承権の順位を変える。これは我らにも利があることだ」


静かに話す王の言葉に、3人はもはや頷くのみだった。


「此度の騒動そうどうの罰として」


「―――いかがかな?」






***






王位継承権第2位で、次期王太子として期待されていたアーデン王子。


王子はスパイの摘発てきはつや、事件現場に乗り込み我が身を傷つけることが多かった。


自分の身をかえりみない姿は王と成るにふさわしくないと国王に判断され、王位継承権の順位を1つ落とされる。それにともない、弟のディオル王子が王位継承権を第2位と前進し、兄の婚約者であったクシャーナ姫と婚約した。


アーデン王子は成人後『公』ではなく『伯』を賜るという、王族としては不名誉な扱いも受けた。しかし彼はそんなことなどつゆともせず、生涯を王家に捧げた。


彼はハンフリー子爵(のちのキンバリー公爵)の娘キトリーを妻に迎え、3男3女に恵まれる。キトリー夫人は社交界を牽引する貴婦人として名高く、沢山の子息令嬢が彼女の世話になり、教えをうた。人にも自分にも厳しい彼女の横にはいつも、笑顔の絶えない夫が寄り添っていたと言う。


ディオル王子は王と成った後も兄に様々な助言を求めた。革命派に属していながらも母親の後ろ盾は保守派。中立派筆頭の神官長エスタ、騎士団長カーダシアンとも交流のある彼は、何かと重宝された。


その他に、王子時代に懇意していた国々の縁を頼りに、それぞれの国との文化交流や新たな流通も推し進めた。彼が存命中は大きな争いも無く、平和な時代であったと言えよう。


平和な時代だからこそ様々な研究や文化が花開き、それによって技術の進歩、そしてのちの世に兵器が作られてしまうのだがーーーーそれは、彼とは関係のない話だろう。






次回→お姫様の失恋話

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