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〈幕間〉スミス少年によるアーデン様観察日誌

キトリーの話に戻るとか嘘こきました。申し訳ありません。


※ただのギャグ回です。

アーデンの1番の友で側近だと思っているスミス・レイクイアは、最近のアーデンの様子を訝しんでいた。


「………」

「~~♪」


ある曜日の学習会が終わる頃、アーデンはとても機嫌が良くなるのだ。そしてーーー


「………殿下? どうして袖のボタンを外しているんですか?」

「ん? ちょっと、暑いからね」

「……そうですか」


服を着崩し始めるのだ。


はじめは蝶ネクタイだった。蝶ネクタイを緩めることは自分もましてや回りの男子もするので特に気にはしなかったが、何故か毎日ではなく、週の終わりでもなく、


(月と火の曜日? だけ?)


暑くも無ければ寒くも無いのに緩めること数ヶ月。次はシャツのボタンの一番上を外すようになった。そしてたまにカフスボタンを取る。袖の留め金を外す。靴紐を結び直したと思えばちょっと曲がっている。


どれも些細な着崩しなのだが、赤子の頃から常にピシッとした身なりのアーデンしか見ていなかったスミスは違和感を拭えなかった。


そしてとうとうその日がやって来た。




*****




「……いつかはこうなると思ってたんだ」


本日の学習会が終わり、皆が口々にアーデンに席を辞す言葉を述べ部屋を去り、アーデンでさえも帰った後だった。スミスは1人、窓を閉めたり机を拭いたりと部屋を整えていた。すると、


「ん? なんだ?」


椅子の下で何かがキラッと光った。スミスが近づいて拾ってみるとーーーそれはカフスボタンであった。スミスは一番近くの椅子をチラッと見た。


(アーデン様が使う席。王族特有の琥珀色を使った意匠……そして今日の着崩しポイント『袖のボタン』)


「これはアーデン様のカフスボタンだ―――間違いない」


スミスは確信を持ってそう思った。


そして、


「しょうがない。届けるか」


全くの汚れも曇りも無い親切心と善意を持って、ボタンを届けることにしたのだった。


のちの恐怖も知らずにーーー




***




スミスは()()()アーデンが学習会の終わりにどこに行っているのか知っていた。何故なら、図書館へ行く途中に何度か姿を見かけたことが有るからだった。


(―――女子も一緒のようだけど)


スミスの軽快に動いていた足がピタッと止まった。そして首をブンブン横に振る。


(僕としたことが! アーデン様が1女子と仲睦まじいなんてっ……! そんな! そんなはずは無いっ……!!)


スミスは激しい自己嫌悪に頭を抱え、床にうずくまった。


(無だ。考えちゃいけない……何も考えない……無になれ、無になれ……! よしっ!)


スミスは無心になることでどうにか邪心を霧散させると、今度こそ目的の西の庭に足を向けた。図書室へ行くついで、ちょっとした寄り道。そう思って足を進めているとーーー


「しんっじられない!!」

「だからごめんって」

「もっと真面目に探しなさいよ! 片方だけ無くしたら使えなくなるじゃない……!」

「新しく作るとか?」

「お金の無駄!! 無駄遣い!!」


憤怒の令嬢とへラッとした顔のアーデンが廊下を曲がってきた。驚きに足を止めたスミスに先に気づいたのは、アーデンであった。(令嬢は始終下を見ていてすぐにスミスに気づかなかった)


「やぁスミス。今から図書館かな?」

「はい殿下、先ほどぶりでございます」


アーデンとスミスが挨拶をする間に亜麻色の髪の令嬢は居ずまいを正していた。


「こんにちは」


にこやかな笑顔、そして発声。先ほどの怒気とは打って変わった令嬢の姿に、スミスは関心しながら「こんにちは」と挨拶を返す。


「レイクイア家のスミスです」

「キトリー・ハンフリーと申します」

「どうぞお見知りおきを」

「こちらこそ」


そうしてスミスは令嬢と握手をしようと手を動かしたのだが、今現在自分の手の内が借りた本とカフスボタンで塞がっていることを思い出す。そこで、握手をするのではなく、手を前に出して掌を開いた。


「もしかして、お探しものはコレですか?」


差し出された手を、令嬢は少し前屈みになってのぞき見た。そして、


「まぁ……! そうですわ。まさしくコレです!」


―――ここで、スミスはキトリーではなく、アーデンにまず見せなければならなかった。


ひょいっと、キトリーはスミスの手からカフスボタンを受け取った。そしてマジマジと意匠を見て肩の力が抜けたかのようにフッと笑みをこぼした。そして、


「ありがとうございます、スミス様」


最大級の笑みでスミスに感謝の言葉を述べた。スミスは可憐な笑顔を無意識にジッと見つめた。1秒、2秒……3秒……となる手前で視界が遮られた。スミスはびっくりして反射的に少し後ろに下がった。少し下がると、自分の視界を遮ったものが何なのかが分かった。


―――それは、アーデンの手の平だった。


「……殿下?」


アーデンの顔はいつもと同じにこやかな笑顔なのだが、どことなく黒い影がチラホラと見え隠れしていた。そして、ちょっと怖かった。


「見つめすぎじゃあないかな? ご令嬢に対して失礼じゃあない?? スミス??」

「ぅえ? あ、あれ??」


令嬢の機嫌が直ったと思ったら今度はアーデンの機嫌が急転直下である。いや、もはや絶対零度だった。スミスは心臓がバクバクと跳ね上がった。


「え? ……殿下?」


吹きすさぶアーデンのブリザードをどう回避すればいいのか、幼いスミスには思いつかなかった。体の半分が雪に埋まりガタガタと体が震えだし始めたその時―――助け船がやってきた。


「アーデン様。そんなことよりも、拾ってくれたお礼を述べてはいかが?」


助け船は目の前にあった。ご令嬢―――もとい、キトリー・ハンフリーが、アーデンの服の裾を引っぱり、アーデンの注意をスミスから逸らしたのだ。


「……そんなこと」

「私も不注意でしたわ。で、言わないのですか?」


キトリーの言葉によってスミスは冷静さを取り戻した。


(そうだ、自分はお礼を言われるのは分かるけれど、凄まれる筋合いはない!!)


話の根本を間違えるところだったとスミスは反省する。キトリーに振り返ったまま動かないアーデンだったが、そんなことを気にもしないキトリーはせっせとカフスボタンを付け直した。


「……ありがとう」

「順番!」


少女に叱咤されたアーデンは、いつもの貴公子然とした様子に戻って、「拾ってくれてありがとう、スミス」と言った。


「ど、どういたしまして……」


ぎこちなくスミスが言葉を返すと、キトリー・ハンフリーはスミスに声をかける。


「今日も図書館に行かれるのですか?」

「え? ええ……」

「どんな本をお読みに??」

「ええと、今は……」

「あら? その本は『ガリバー旅行記』?」

「まだ1巻です」

「私はまだ読んでもいませんわ。だって、まだ単語が難しいんですもの。もう読めるなんて、スミス様は勉強家なんですのね」


勉強が出来ても、自分は令嬢のようにスラスラ人に話しかけられないとスミスは思った。


(僕に足らないのはこういう所なんだろうな)


それを踏まえてスミスは会話を少し頑張った。


「同じ旅行記なら『ロビンソン・クルーソー』の方が読みやすいかも知れないです」

「へぇ……面白そう」

「良ろしければーーー」


これから一緒に図書館に行きませんか? とスミスは言いたかったのだが直感的にアーデンの顔をチラッと確認してみた。そして内心驚愕する。


(―――無だ! 何も読み取れない……!!)


またもや嫌な汗が背中に流れてきたスミスであったが、そこは令嬢の好奇心によって難は逃れた。


「ね、殿下。今日は図書館に行きません??」

「・・・良いね」


絶妙な間の後に続いたアーデンの肯定に、スミス少年は唯々(ただただ)安堵するのであった。






ーーーかくして、落とし物を届けるミッションは無事に終わった。しかし更なる試練がスミスを待ち受けているのだがーーーそれは、割愛しよう。









~~割愛された産物~~


ア「本借りる?」

キ「う~ん」

ス「王族以外は許可証と図書カードを作って貰わないと借りられないんですよ」

キ「まぁ、そうなんですの」

ア「……(知らなかった)」

キ「あら、スミス様ったら沢山の本を読んでいるのですね。カードが7枚」

ス「初めの頃は絵本ばかりです」

キ「でも、参考になりますわ」

ア「……(僕だってスミスに負けないくらいきっと沢山読んでる。だけど記録簿はここじゃないから……!)」

キ「う~ん。許可証が必要なら、借りるのはまた今度ですわね」

ア「僕も作って貰おうかな」

キ「殿下は作っちゃ駄目ですわ。どこで誰に見られるか分かりませんもの(ズバッ)」

ア「……(僕だけ仲間はずれ……)」

ス「見られては駄目ですか?」

キ「アクヨウされますわ!! アクヨウ!!」

ア「……(さみしい……からの嫉妬)」

ス「……(……殿下の視線が痛い)」






おそまつ!

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