第12話:氷の王の献身
甘いいちゃラブシーンが登場します。
作者のように発狂してしまうかもしれません。
「……はぁ、……っ、……あつい……」
視界が、熱に浮かされて白く霞んでいる。 昨日の雪遊びがよほど楽しすぎたのか、私の体は翌朝、嘘のように重くなっていた。頬は林檎のように赤く染まり、呼吸を吸い込むたびに喉の奥が熱い。
「……だから言ったのだ。貴様のような脆い生き物が、雪の上で跳ね回るなど、自殺行為だと」
すぐ側から、ひどく機嫌の悪い、けれどどこか焦燥を含んだ声が聞こえた。 重い瞼を無理やり持ち上げると、そこには寝室の椅子をベッドサイドに引き寄せ、私の手を両手で包み込むように握っているテオドール様の姿があった。
「テオドール、さま……。ごめんなさい、……せっかくの、お休み、なのに……」
「黙れ。喋るな。……謝る暇があるなら、一秒でも早くその熱を下げろ。俺を不安にさせた罰だ」
テオドール様は、いつもの冷徹な表情をどこへやら、眉間に深い皺を寄せて私を睨みつけていた。けれど、私の手を握るその大きな手は、驚くほど優しく、壊れ物を扱うように繊細だった。
「セバス。氷だ。もっと冷たいものを持ってこい。……いや、氷晶のハーブを練り込んだ冷湿布を。急げ」
「主様、すでにご用意しております。……それよりも、あまりアリア様に顔を近づけすぎると、彼女が緊張してさらに知恵熱が上がってしまいますよ」
扉の影で控えていたセバスチャンさんが、呆れたように告げた。 テオドール様は「チッ」と舌打ちをすると、セバスチャンさんからひったくるようにして冷湿布を受け取り、私の額にそっと乗せた。
「……冷たい。……気持ちいい……」
「……当たり前だ。俺の魔力を込めて冷やし続けた特製だ。……ほら、アリア。少し体を起こせ。……薬を飲ませてやる」
テオドール様は、私の背中に自分の腕を回し、ゆっくりと抱き上げた。 彼の体温はいつも低いけれど、今の私にとっては、その冷たさが何よりも心地よい。私は無意識に、彼の胸元に顔を埋めた。
「……っ、……おい、アリア。どこに顔を寄せている。……貴様、熱のせいで理性が飛んでいるのか?」
「……テオドール様の匂い、……好きです。……ひんやりして、……落ち着くの……」
私が熱に浮かされたまま本音を漏らすと、テオドール様は一瞬絶句し、その整った顔を耳まで真っ赤に染めた。
「……貴様、……本当に……。……セバス、貴様はもう下がれ。……ここから先は、俺一人で十分だ」
「かしこまりました。……どうぞ、存分に『献身』なさってください。主様」
セバスチャンさんが意味深な微笑みを残して退室すると、部屋にはパチパチとはぜる暖炉の音と、私たちの吐息だけが残された。
「……ほら、これを飲め。……苦くはないように、蜂蜜をたっぷり入れた」
テオドール様は、自分の唇で飲み物の温度を確かめると(吸血鬼に熱さは関係ないはずなのに!)、スプーンで私の口元に運んでくれた。
「……ん……。甘い……。テオドール様、……これ、美味しいです……」
「……ふん。……俺が貴様のために、最高級の蜂蜜を隣国まで奪いに……買いに行かせたのだ。美味くないはずがない」
一口飲むごとに、彼の手が私の頬を愛おしそうになぞる。
「……アリア。……俺を置いていくなと言ったはずだ。……こんな微熱程度で、死ぬような真似は許さん」
「死にません、よ……。……だって、テオドール様が、こんなに……優しくしてくださるんだもの……」
私は甘えるように、彼の指先に自分の頬を擦り寄せた。 すると、テオドール様は耐えきれなくなったように、私の額に自分の額をぴたりと重ねた。
「……熱いな。……こんなに熱くなって、……貴様の命は、どうしてこれほどまでに燃え尽きようとするのだ」
彼の赤い瞳が、至近距離で見つめてくる。そこには、獲物を狙う獣の鋭さはなく、ただ一人の女性を失うことを恐れる、不器用な男の情熱だけが宿っていた。
「……テオドール、さま……。……ちゅ、して……?」
「…………っ!?」
熱のせいか、それとも彼の優しさに絆されたのか。 私が大胆な甘えを口にすると、テオドール様は目を見開き、金縛りにあったように動かなくなった。
「……貴様、……自分が何を言っているか分かっているのか? ……俺は吸血鬼だぞ。……貴様のその柔らかな唇を、吸い尽くして、噛みちぎってしまうかもしれないのだぞ」
「……いいですよ。……テオドール様なら、……何されても……」
私はトロンとした目で彼を見上げた。 テオドール様の理性が、音を立てて崩れるのが分かった。 彼は低く呻くと、私の後頭部を大きな手で包み込み、ゆっくりと、けれど抗いようのない力強さで、その唇を重ねてきた。
「……ん、……っ……」
吸血鬼の唇は、冷たい。 けれど、そこから流れ込んでくる熱量は、熱にうなされる私の体さえも焼き尽くすほどに激しかった。
一度、二度。 角度を変えて、何度も、何度も。 彼は私の呼吸を奪うように、深く、深く、私を求めた。
「……アリア……。……好きだ。……愛しているなんて言葉では、到底足りない。……貴様のすべてを、俺の中に閉じ込めてしまいたい」
唇が離れた後、彼は私の耳元で、掠れた声で囁いた。 その独占欲たっぷりの言葉に、私の心臓は熱とは違う理由で激しく跳ねた。
「……私も、……私も、大好きです。……テオドール様……」
私は彼の首に腕を回し、再び彼を引き寄せた。 足元では、ユンが「お熱いことで」とでも言いたげに、ふんっと鼻を鳴らして、私たちの足元で丸まっている。
その夜、テオドール様は私が眠りにつくまで、片時も私の手を離さなかった。 私が眠りに落ちる直前、額に落とされた優しいキスと、「おやすみ、俺の愛しい花嫁」という囁き。 それは、どんな薬よりも、どんな魔法よりも、私の心と体を温めてくれた。
翌朝、熱がすっかり下がった私を見て、テオドール様は「……フン、俺の看病が完璧だったということだ。……お礼に、今日は一日中、俺の隣でマントを繕っていろ」と、相変わらずの不器用な命令を出した。
けれど、その瞳は、昨夜の情熱を隠しきれないほど、優しく私を見つめていた。
その日のノートには、こう記された。
『三月○日。 少し熱を出したけれど、世界で一番甘い夜になった。 テオドール様のキスは、少し冷たくて、でも心臓が止まるほど熱かった。 病気になるのも、悪くないなんて思っちゃう私は、やっぱり彼に毒されているみたい。 大好き、テオドール様。』
ありがとうございました....!




