47話 相棒8
「・・・・・・・・・」
生川の訃報を聞いてから3日が経った。その間、自己嫌悪と後悔に苛まれいていた。
「・・・・・・・・」
部屋で1人で座っていると膝に置いた拳の握る力が強くなる。
俺は何も出来なかった、やった気になって満足していた。あいつが我慢強いこと知っていただろう、ならもっとしっかり聞くべきだった、問い質すべきだった。じゃないとあいつは自分の内で貯め込んでしまう。他の人に迷惑を掛けないように、悟られないように。
「・・・・クソ!!!」
自分の両膝に自身の両こぶしを叩きつける、何かに当たってないと気が済まない。
「・・・・・何であいつが、こんな死に方を・・・・・・」
生川は自身の喉に銃口を押し付けて引き金を引いて死んだ、と現場検証をした在現団の団員は言っていた。現場に遺書があり、『桜、ごめん』と波打つ字で書かれており震えた手で書かれていたことが分かる。その他は変わった物は机の収納スペースに錠剤があり、それが二重底で保存されていた。
本来、このようなことは例え親しい者でも聞けないが、真実を知りたかった俺は生川の近く部屋の者に聞き、現場検証をした団員の特徴を調べ上げ、その者とコンタクトを取って、金を渡して知ることが出来た。本来、組織内の情報売買は禁止されているが、致し方ない。
錠剤、団員はストリップ包装で保存されていて、大体5,60錠はあったらしい。それが二重底で保存されいたのだ。間違いなくあいつが自殺した手がかりになるはず。
しかし、その錠剤が何なのか検証した団員も知らないらしく、これ以上調べたら上の連中にバレる可能性があり踏み込むと危険だ。
「・・・・・さて、行くか・・・・」
俺は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、制服を着用し、ある場所に向かった。
俺達が住んでいる寮の裏には団員の墓地があった。由安の本部は山奥にあり、本部の正面には慰霊碑がある、過去の団員達のために作られており、平の団員にとってはこれが墓の様な物だ。
平の団員には個人の墓を建てることはない、副隊長以上の階級の者は組織が本部が少し離れた場所に荘厳な墓を建ててくれるが、それより下の階級の者は用意してある遺書に墓を建ててほしいっという旨が書かれていて、その者の遺産に墓を建ててるだけの資金があれば建てられることがあり、その墓は今向かっている寮の裏にある墓地に建てられる。
しかし、ほとんどの者は遺書に書いていても建てられない。なにせ処理をするのは去過団の団員なのだが、手続きが多いためやらない団員が多い、それどころか遺産を自分の懐に入れる団員までいる。禁止されてはいるが、上の人達は大して問題視してないため、バレても注意や遺産の回収するだけで終わってしまう。
そのため、建てられている墓のほとんどは故人と親しかった者が実費また故人の遺産で建てられることが多い。
今向かっている生川の墓もそうだ、軟田がどうしても建てたいっとわざわざ自分の金で立派な墓を建てた。
「・・・お・・・・」
重い足で歩いていると生川の墓が見えて来た。既に軟田と第2班の班長遠間凛桜の姿があった。
「・・・・あ、智和」
「すまない、少し遅れた」
「ううん、気にしないで、来てくれてありがとう、きっと種恩も喜んでいるよ」
「そうだと、いいんだけどな」
俺は生川が好きだったパイナップルとみかんのドライフルーツを供える。
「へぇ~、無寺君、種恩の好きな物知ってたんだ」
お供え物を見た遠間さんは口角を少し上げて言う。遠間さんとは班長会議で何度顔を合わせていて、すれ違ったら挨拶する程度の仲だ。
「4、5歳の頃から一緒ですから、分かりますよ」
「・・・そうだったね、3人は同じ時期にここに連れて来られたんだっけ」
「はい、私と智和、種恩は年少から一緒ですから、本当に、長い・・・・・・付き合いで・・・・・・」
軟田は言い掛けたところで感極まってしまった。すかさず遠間は軟田に駆け寄り優しく背中を摩る。
「・・・・・・・」
軟田と生川は仲良しとそんな言葉では足りないほど関わりが深かった。2人はいつも一緒で訓練の時も食事の時も、互いに笑い合っている姿を毎日俺は見かけていた。
その姿はまるで本当の姉妹に見えるほどだった。
「・・・・・・うぅ・・・・・・・んん・・・・・・・くぅ・・・・・・!」
悲しくないわけがなかった、悔しくないわけがなかった、一番に近くにいたのに。助けられなかった。
「・・・・・」
つい、魔が差してしまった、軟田に歩み寄り、軟田の隣で屈み優しく頭を撫でた。
「!!! ・・・うぅぅ、うぁぁあああぁぁぁああああっぁぁあぁあん!!!」
「・・・・・何でもっと泣くんだよ」
それから、数十分、軟田が泣き止むまで俺と遠間さんは近くにいた。
軟田が泣き止み、落ち着いて去った後、俺と遠間さんは墓の前にただ立ち尽くしていた。
「・・・・・・生川は、相談、してましたか」
「・・・・・・・いや、してくれなかった、私も彼女が何かを抱えているは分かっていたのだけど、聞いてみても大丈夫ってとにかくそれしか言わなかった」
静かな風が流れる中、俺から話を切り出した。やっぱり、話していなかった。
「・・・・遠間さんから生川はどうでしたか」
俺は遠間さんの目をじっと見つめて言う。
「・・・・珍しいね、君がそんなことを聞くなんて」
「すみません、嫌なら、大丈夫ですよ」
「いや、構わないよ、う~ん、あの子はとにかく良い子だった」
「そう、ですか」
訓練時、生川が教官に口答えした所を俺は一切見たことが無い。ただ粛々と訓練にこなしていた。だけどそこに熱はなかった。俺のようにあいつらを見返したいというわけではなく、機械のように命令されたからこなしているようだった。
「今までも良い子はたくさんいたよ、指示を聞き、その通り動く、あの子もそうだった、私の指示をよく聞くし、いつもっみんなにタオルや水を進んで渡してくれたよ」
「・・・・・・・・・・そうですね、訓練生の時もそうでした」
「・・・・だからこそ、貯め込んでいたんだろうね、悩みを、あの子が団長のお気に入りなっていることに、気づけなかった」
「・・・・・・・・」
来未団団長、時衛時貞。間違いなく歴代最低最悪の団長で体系は脂肪の塊のデブ。実力は一般団員と同レベルかそれより下、異能力は悪くないと聞いているが、努力を全くしておらず、運営の能力も皆無、そもそもすべて部下に投げ、もし気に食わない運営をしたら、口を出し買って推し進める。家柄だけで来未団にコネ入団し、暴君として君臨。
入団から十数年、功績はおろか、任務をろくにやっていなかったにも関わらず、父が先代の総帥という理由で来未団団長に就任した。もちろん、多くの者が反対したが、中心人物達は先代の総帥により粛清、処刑された。今も先代の総帥はご健在であり、時貞は暴君として暴れていた。
そんな時貞は多くの女性を囲っている。来未団団員はもちろん、他の団員達にも手を出しており、気に入った女性にはすべて手を出している。
その中に、おそらく、生川もいた。
「・・・・・・これはすべて、気づけなかった私のせいよ、あなたは気にしなくていいわ」
「・・・・・・・・ありがとうございます」
「いいよ、お礼何て、私はそろそろ行くよ、じゃあね」
遠間さんは俺を労わる言葉をその場を去って行った。
「・・・・・・・・」
それを見届けた後、俺はもう一度墓を見る、新品の墓は当然綺麗であるが、供えられいる7本の白い菊も同じぐらい綺麗だった。
「・・・・・・・・あいつか、軟田がこんなしゃれた花を用意できるわけないしな」
花を見ながら、そうこぼした。
それにしても、あぁ、本当に良かった。
遠間さんがああいう人で。
おかげで。
何の躊躇いもなく出来る。
あの目の濁り、俺が見逃すと思っているのか。
「・・・・必ず、恩は返すからな、生川」
あいつには、世話になったからな。
線香をあげた後、俺はゆっくり寮に戻った。
部屋に戻った後、俺はパソコンを開き、ある映像を見ていた。
「ぷはっああぁぁあぁ!!!! うめえぇぇえぇえええ!!!」
映されている映像は自室で団員と薄着でビールを飲んでいる遠間だった。まだ昼間だろうが、緊急の任務が来ることだってあるだろうに、まぁ,この人達は関係ないか。
「もう、凛桜飲みすぎだよ、明日任務あるのに、敗因が二日酔いとか笑えないよ」
「いいの、いいの、どうせあのエロ爺に言えば、別の日にしてくれるか他の班、無寺とかにやらせてくれるでしょ」
「あはははは!!! 凛桜ったら最低!!」
凛桜を笑いながら咎める一人の団員に対し、凛桜はげらげらっと下品な笑みを浮かべながら楽しそうに飲んでいた。
「・・・・にしても良く飲めるよね、自分の部下が死んだって言うのにさ、さっきまでその子の墓に行ってたんでしょ」
少し離れた場所で飲んでいた団員がふと凛桜に話し掛ける。
「あはははは、だから、でしょ」
その言葉に凛桜は部屋に笑い声を響かせ、団員に汚いであろう息を吹きかけて発する。
「あいつを殺したのは私なんだか、ね、あいつには腹が立ってからね、丁度良かったは!!!!! あはははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
下劣な笑い声で凛桜は告げた。
生川を殺したのは凛桜だった。
「いやあぁ、あいつにはホントにムカつてたのよねぇぇえ、良い子ちゃんアピールが一々腹が立ってね、だからね、紹介したのよエロ爺にね、丁度顔とスタイルが爺の好みだったからね、ホント運が良いわ、私」
これは好都合だ、酔っているせいか下種はぺらぺらっと聞いてもないのに語りだした。
「紹介してからしばらく経っても反応が薄くかったから、あんまり意味ないかぁぁああって心配なったんだけどで、2ヶ月前にやっと相談してくれてさ」
「あんた、がわだけは良いからね」
「そうそう、私以上に相談しやすい相手いないでしょ、しかも、ああいう子は1番身近な人達には言わないからね、私みたいなそこそこ信用できる人のほうがまだ話しやすいのよ」
「・・・・・・・」
そうだな、生川ならそうするだろうな。
「だから、親身に聞いたよ、辛かったね、怖かったね、私も実はお気に入りなんだよって、だから、渡したのよ、ピルをね、あの爺ゴムは付けないから」
「え? そんな高い物渡していいの?」
由安は行為を任務以外ではしないように言っている、だから、避妊薬とゴムは買えないようになっており、任務で与えられるのも最低限のゴム、または即効性の高いが数時間しかもたないピルを2、3個のみ。なので、一応、物資担当の過去団団員に頼めば仕入れてもらえることは出来る。
しかし、こんなところだ、求める奴は多い、自然と値段は跳ね上がり、中々手に入らない高価な物になった。
「いやいや、渡すわけないでしょ」
「え、でも渡したって・・・」
「うん、渡したよ、偽物を」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やはり、か。
錠剤の形状は聞いていた、過去団団員が仕入れるピルと同じものだとすぐに気づいた。
「平の団員じゃあ、ピルはキツいからね、わざわざ知り合いの在現団の研究員に頼んで作ってもらったのよ、味も食感も匂いも同じのをね、そしたら、ぷふぅ、あの子は信用して飲んだろうなぁぁあ、それで、ぷふぅ、ぷあはははははは、あははははははははははは!!!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
堪えきれずに出る醜い笑い声を聞き、全てが分かった。
もし、団員が妊娠した場合、産むなら大金を払えば産むことができ、由安の訓練生になる。さらに金を払えば、一般の孤児院に預け一般人として生活させることも出来る。堕胎する場合、大金を払えば手術を行うことが出来る。
そして、産む産まないに限らず、大金が支払えない場合、組織の規則に反したことになり、腹の子供ごと処刑される。
大金は手術代でもあるが、上納金も含まれている。
子供を産んだ女団員に組織は決して優しくない、使えなくなったら躊躇いなく捨てる。
「あははははははははははははは!!!!!!!! やっぱり、良い子ちゃんぶってるやつを殺すのはさいっっっっっっっっっこうねぇえ!!!! あははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!」
「ちょっと、もう、笑い過ぎだよ、凛桜」
「もう、本当に不謹慎なやつ」
聞くに堪えない笑い声が響く中、凛桜の友人たちは笑いながらも酒を食らい笑い合っていた。
「・・・・・・・・」
やはり、女というのはげに恐ろしい者だ、ちょっと金を払っただけで友人の情報を売るとはな。正直、もう少し払う覚悟だったのだが、あっさり承諾して、カメラを仕込んでくれるとは。
「・・・・・・・・・・・」
見るに堪えない映像、溜息を零すと共にパソコンを閉じてしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クソが・・・・」
何で、生川はあいつに、追い込まれなきゃいけないんだ。
あいつは、正直暗殺者には向いていなかった。殺人を躊躇うやつだ、こんな裏の世界にいていい奴じゃない、少なくても優秀ではなかった。
でも、死んでいい奴ではなかった。あいつはいつも人を気遣っていたし、下の子達の相談に乗っていて面倒見も良かったから慕っている人もきっと多かっただろう。
なのに。
あの糞女は!!!!!
「・・・・・クソがあぁぁあああ!!!!」
思い出すだけで腹の中が煮えくり返ってしまう。机に当たってしまいひびが入ってしまった。
何で、あんな女に尊厳を踏みにじられなきゃいけないだよ、何で、汚されなきゃいけないんだよ。
あいつは、任務以外で悪いことなんて、一度もしてないのに。
「・・・・・・ちくしょう、ちくしょう・・・・・・・・・・・ちくしょう・・・・」
もし、この世界に神がいるのなら、そいつにはきっと目が見えなくて、耳も聞こえていないだろう。
そうじゃないら、何で生川を見捨てるだよ、何で糞共には天罰を与えないだよ。
「!!!! クソっ!!」
自分が嫌になる、こんな時に神頼みなんて。
でも。
「・・・・・・」
そう思わないと、本当に、心がどうにかなりそうだ。
だから。
俺のためにも、やらないとな。
それから、1週間後、来未団第2班班長、遠間凛桜が任務中に死んだ。
あるお偉いさんの娘を誘拐したマフィアのアジトの殲滅任務中、ターゲットのマフィアのボスを殺した直後、後頭部に銃弾を受け、脳を貫き、直後死亡。
遠間を殺した者はわかっておらず、現場のマフィアのアジトが薄暗い廃墟だったのこともあり、隠れて狙撃されてたと推測されたが、同伴していた数人の班員が遺体処理を命じられ、処理中に殺されたこともあり、誰も見ていない。
俺がこの情報を聞いたのはその日の朝。寮の掲示板で書かれていた。
聞いた直後、1人になりたくて部屋に戻り、ベッドに座った。
「・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・・」
分かってはいたが。
やはり。
「・・・・・・虚しいだけだな・・・・・・・」
そうこぼしても気持ちは変わらずはずもなく、無表情で俯いていた。
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