3. 「今弾ける曲」
家についた俺は、ギターを弾いていた。
今、唯一弾ける曲。
曲名は忘れた。
父さんから教えてもらった曲。
歌詞は耳コピで覚えている。
家の中は誰もいなくて静かだ。
母さんは仕事に行っている。
父さんが事故で死んでから、母さんはずっと仕事をしている。
いつも忙しそうに・・・・・
「ただいま〜」
瞳が帰ってきた。
「水希!またサボったでしょ!」
「なんの事だよ」
「掃除よ!そ・う・じ!」
「俺を信じたお前が悪い」
「なによ!水希が嘘ついてるなんてわかってるもん!」
「じゃあ逃がさなきゃいいじゃん。つーか待つなよな」
「ふんだ!水希はどうせ面倒くさい事があると逃げ出すんでしょ!」
「わかってんなら待ってなくていんだよ。俺待ってる暇あったら早く帰ってこい」
「だって、もし水希が帰ってきたら困るでしょ?」
・・・・・お前、ホント悪役向いてねーよ。
子供の喧嘩みたいに叫んでくる瞳。
「愛しい」なんて思ってないけど、
なくしたら困るものだと思う。
今はまだ、自覚する勇気なんてないけど、
しなきゃいけなくなる。
そん時は・・・・・瞳に告る。
でも、それまでは普通に過ごしていたい。
決心がついたら、瞳に曲を聴かせよう。
少しハズいけどラブソングを。
でも、それは瞳の気持ちを知ることも意味する。
俺でさえ怖いもんな。
瞳も怖いだろう。
気持ちを伝えるのは。
まだ「愛」とか「恋」とかよくわかんないけど。
それでもやらなきゃなんない事がある。




