第三話 温かい時間
次の日。
碧は教室にて自分の机の上に顔を伏して寝ていた。
ガラガラ
教室のドアが開いた。
その音に反応したクラスメイトは視線をその方向へと向ける。
すると皆が目を見開いた。
入ってきたのは西園寺さんだ。だがクラスメイトは西園寺さんを見て驚いた表情をしている。
そして寝ている碧の横まで歩き、立ち止まる。
周りのザワザワした声に碧は起こされた。
「小鳥遊君!.....」
西園寺さんの掛け声によって完全に目を覚ました。
声で西園寺さんだということは理解した。
(西園寺さん、来たのか。)
碧は目を擦りながら話し始めた。
起きたばかりなので、あくびをしながら目尻に浮かんだ涙を服の裾で拭う。
「ふわ~、西園寺さん。おはよ....?!」
碧は言葉を失った。体が石のように固まってしまった。
カチンコチンだ。
「西園寺さん?!どうしたの!」
「え、えへへ、」
西園寺さんの完全に顔が隠れていた前髪を赤いクリップ2個で纏めており、あれだけ長かった後ろ髪はピンク色のヘアゴムで結ばれ、ポニーテールになっていた。
クラスメイトが驚いていたのはその綺麗な顔にである。
普通、思わないであろう。地味な女子が実は美人だという事を。
西園寺さんは恥ずかしそうに頬を赤らめ、そっと目を閉じた。
「髪の毛。む、結んでみた。」
そう言って、照れくさそうに笑った。
碧は相変わらず固まっている。
「あのー...小鳥遊くん?もしもーし?」
西園寺は碧の顔の目の前で意識があるか確かめるように手を振る。
すると2秒後意識を取り戻した。
「は!あれ?!俺今意識を?!って西園寺さん?!なんで髪の毛まとめてるの?!」
碧は両腕をバタつかせ、オロオロしながら尋ねる。
「えっと〜、詳しいことは後でね。へへ、」
「わ、わかった....」
(いや、どうしたんだ?!は!まさかまたあの三人組からのいじめ?!強制的に顔を出すように言われてるとか?!いや、アイツラにメリット無いな。じゃあどうして〜!!!)
碧は顔を再び机に伏し、頭を抱えている。
何故か頭の中に外人のお兄さんが「OH NO〜!!」って言っているのが聞こえる。
幻聴だ。
自分で困惑していると、女子たちがキャーキャー言い出した。
(あ、この反応は....)
碧は女子の反応から次は誰がクラスに来たか分かっていた。
「おい、碧。朝から何頭抱えてんだ?ついに頭どっかに打っておかしくなったか?」
「ひでぇな!当ててねーよ!!」
「まぁ、冗談だけど。どうせ、徹夜でゲームだろ。」
「さすが、分かってるじゃん。」
長年一緒に過ごしてきた夫婦の感覚のような会話がそこにはあった。
すると西園寺がほっぺたを膨らませてジト目で二人を見つめている。
「夫婦か!」
「「違うわ!!」」
「ほら、夫婦じゃん。」
否定する言葉が一致した。その様子に西園寺は思わずツッコんでしまう。
「そういえば西園寺さん、今日は絡まれてないね。あの三人組に。」
光星が話しかけた。
昨日入学早々、西園寺をいじめていた3人組。碧と光星が一緒にいるからか、手が出せない。
いや、光星のおかげと言ってもいいだろう。
光星は何処にいようと必ず女子からのファンができる。そんな光星を西園寺と三人組のいじめに巻き込めば、ファンの女子たちが黙ってないだろう。
「俺らがいるからでしょ。しかも光星を巻き込めば他の女子たちが黙ってないし。」
碧は頬杖をつきながら話す。
「あんなに鬱陶しく思ってた女子たちがここで生きるとは。」
「光星、他の女子たちがいる所でそんなこと言っちゃ駄目だぞ。」
「分かってるよ。何年やってきたと思ってるんだ。」
碧は忘れかけていたことを思い出すような表情をした。
「あ、そういえば西園寺さんってケータイって持ってる?」
「あ、うん。一応....」
「連絡先交換しようか。一人の時、あの三人組に絡まれるかもしれないし。」
西園寺の表情が明るくなった。
「あ、ありがとう!」
三人はそれぞれ連絡先を交換した。交換し終わると、前の扉から先生がクラスに入ってきた。
「席につけ〜!!出席を取るぞ!!」
先生が叫ぶと、生徒たちは慌てて自分の席に戻った。
そのまま順調に授業が一時間目、二時間目と進み、昼休みになる。
光星は他の友達と一緒にお手洗いへ向かった。その隙に碧は西園寺さんの机の目の前に立つ。
「西園寺さん!それで、なんで髪の毛を結んでるの?!」
碧は西園寺に問う。今朝また後でね、とはぐらかされた事を再度聞く。
「言わなきゃ、駄目?」
西園寺は少し照れ恥ずかしそうに言う。
「また後でねって言ったじゃん。」
「そうだけど.....」
西園寺は自分の髪を指先でくるくると弄り始めた。
「えっとね、その〜、今までは周囲の視線を隠すために前髪をおろしてたんだ。」
西園寺は理由を話し始めた。
「けど、小鳥遊くんが自分のことをかわいいって言ってくれた。小鳥遊くんにとっては突然出た一言なのかもしれないけど、私にとっては自分に勇気をくれる一言だったの。だから.....」
『ありがとう!』
西園寺さんは笑顔で碧に感謝を伝えた。
碧の頬が少し赤く染まった。そして照れくさそうに返事を返す。
「ど、どういたしまして。」
碧の視線は西園寺を向いていない。右斜下を向いている。
恥ずかしさを隠すように視線を逸らす。
その微妙な雰囲気の中、光星がお手洗いから帰ってきた。
「なにイチャコラしてんだ。」
「しとらんわ!顔を出した理由を聞いてただけ!」
「ふーん。まぁ、お昼食べるか。」
「そうだな。西園寺さんは何か持ってきた?」
三人は各自が持ってきたお弁当を自身のカバンから取り出す。
碧は黒い二段弁当、光星は保温ボトルに、弁当箱が一個。
そして西園寺はカバンからメロンパンとアンパンを各自一個ずつ取り出した。
「アンパンとメロンパン持ってきた。」
「あ、駅前のパン屋さんのやつじゃん!」
「うん、この前駅前寄ったから。」
「光星は.....なにこれ?」
「何って、うどんだけど?」
光星のお弁当箱には白いうどんの麺だけが入っており、保温ボトルにはスープが入っていた。
開けた瞬間、湯気が中からブワッと吹き出した。
「学校に麺類持ってくんなや。」
「お弁当に麺持ってくる人初めて見た......」
「そう?結構見ると思うけど.....」
光星は普通だと思っているらしい。
光星には少しおかしなところがある。
「まぁ、いいや。じゃあ手を合わせて、」
「「「いただきます。」」」
三人は手を合わせて、いただきますと言った。
「小鳥遊くん、それ自分で作ったの?!」
西園寺が碧の弁当を見て、驚く。
碧の弁当、一段目には米とふりかけが乗っている。そして二段目には、香ばしい香りを放つタコさんウィンナー、黄色い卵焼き、そしてポテサラが入っていた。
「ん?ああ、これ?うん。毎日自分で作ってる。親が朝から晩まで働いてるから無理させらんないし。」
すると光星が碧の事を指差し、興奮したように話す。
「そうだ、西園寺さん!碧のウィンナー食べてみなよ!めっちゃうまいぞ!なあ!」
「西園寺さん一ついる?」
「う、うん。いただきます。」
碧は自身の箸で弁当箱からウィンナーを一つ掴み、西園寺のパンのパッケージの上に置いた。
「さあさあ!」
光星が催促する。
西園寺はウィンナーを口の中に運び、噛んだ。
その瞬間肉汁が出てきた。口いっぱいに味が広がった。
西園寺の目が見開いた。
「美味しい!」
「だろ!こいつ料理上手なんだよ。」
光星は碧の背中をバンバン叩く。
「褒めすぎ....」
だるいうざ絡みを受け流すような返事だ。
その時西園寺は思った。
(ああ、いいな。これが友達ってやつなのか。温かい。人と食べるのがこんなに楽しいものなんだ。)
中学の頃、西園寺はいつも一人でお昼を過ごした。誰とも話さず、ただひたすら食べるだけ。
その日常を塗り替えすような温かさがここにあった。
昼休みが終わり、授業を受け、放課後になった。三人は一緒に下校しようと、下駄箱から靴を取り出す。
西園寺は自身の靴の中を調べる。
「どうしたの?」
「あ、うん。中に何か入れられてないか確認してただけ。」
そう簡単に拭いきれるものではない。
長年染み付いた習慣はそう簡単には消えない。
三人は靴を履き、学校の校門へ向かう。
すると校門に三人組が待っていた。
碧達はすぐに気がついた。西園寺をいじめていた三人だ。
「待ち伏せか?どうする、碧。」
「西園寺さんを左側に置く。俺等が壁になるように歩こう。」
「分かった。」
「二人ともごめんね。」
西園寺さんは申し訳なさそうな気持ちでいっぱいだ。
碧達は校門へ近づく。
碧と三人組の目があった。めちゃくちゃ睨んでいる。
(なんなんだこいつら。)
通り過ぎると奴らから舌打ちが聞こえた。
「チッ!」
そして碧達とは反対方向へ歩いて行った。
「西園寺さんのこと待ち伏せしてたな。」
「油断の隙もない。」
西園寺は現状に少し落ち込んだ様に見えた。
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