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ようこそダンジョン商店へ~辺境から始める最弱ダンジョンライフ~  作者: エルリア


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2.そのペンを売ってみなさい

 魔族。


 確か魔王の下には複数の魔族が組しているという話だったけど、そんなのが目の前に現れるなんて誰が想像できただろうか。


 腕を一振りすれば嵐が起き、地面を殴ればマグマが噴き出す。


 もちろんそういわれているだけで実際は違うかもしれないけれど、そんな噂が立つぐらいやばいやつが何でこんな辺境にいるんだよ。


「あれ?固まっちゃった?」


「おやめなさい」


「は~い」


 現れた魔族は二人。


 最初に話しかけてきたのが恐らく偉い方で、もう一人はその部下と言う感じがする。


 気配だけで息をするのがしんどい、にも拘らず目を離せないのはその美貌がなせる業かはたまた男を虜にするそのスタイルのせいか。


 いや、マジでデカい胸だな。


 死ぬ前にせめてあの胸を揉む・・・いや、いっそのこと挟まれて死にたい。


「貴方」


「え?」


「貴方、一体なぜこんなところにいるの?」


 さっきまで息が出来ないぐらいの圧を感じていたのに、突然それが無くなり呼吸がしやすくなった。


 慌てて深呼吸を何度かしてからゆっくりと呼吸を落ち着かせる。


 ここで何を言うかで次の瞬間には死んでいるかもしれない。


 考えて話したほうがいい、そう頭では分かっているのになぜか口が先に開いていた。


「何故って、そりゃ辺境に行くためですよ」


「辺境?そこって何もないはずですよね、そんな所に何でいくの?」


「何もなくていいんだよ、商会の命令なんだから」


「商会・・・貴方、商人なのかしら?」


「一応は。もっとも、辺境に飛ばされるような残念な奴ですけどね」


 魔族を前に一体何を言っているんだと思ってしまうが、勝手に口が動いてしまうんだから仕方がない。


 もしかして自白剤のような感じで思っていることを素直に話す魔法でもかけられているのだろうか。


 でもそれなら真っ先に乳を揉みたいと叫んでいるはずなんだが・・・どうやらそういうわけではないらしい。


「じゃあ辺境に飛ばされるぐらい仕事が出来ないってことですか?」


「リサ、黙りなさい」


「はぃぃぃ」


 上司に怒られシュンとする部下、どことなくへっぽこ感がするんだがこういう部下を持つと大変だよなぁ。


 魔族を前にしているにもかかわらずそんなことを考えてしまうあたり、恐怖で頭がおかしくなっているのかもしれない。


 そんな俺を上司の方がまじまじと観察し始める。


 頭の上から足の先までゆっくりと目線で追った後、何かを思いついたのか難しい顔をしていたのに少しだけ眉が上がった。


「そのペン」


「え?」


「そのペンを売ってみなさい」


「ペンって、これか?」


「そうです、それを私達に売ってみなさい」


 突然の命令に頭の中が一瞬真っ白になる。


 この人は何を言っているのだろうか、そんな疑問が浮かんだあと頭の中で火花が飛び散り、一気に頭が回転し始めるのが分かった。


 これは千載一遇のチャンスだ。


 成功すれば生き残れるが、逆に失敗すると死ぬ。


 それだけの実力をこの魔族は持っている。


 なんせ俺は魔無しだからな、魔法で攻撃されれば即死は確定。


 なんなら跡形も残らないんじゃないだろうか。


 そうならない為にも、何としてでもこのペンを売らなければ。


 あの上司が指定したのは俺の胸ポケットに刺さっていた一本のペン。


 別に高価なものではなく、商会に属しているのならだれにでも支給される安物だ。


 すぐに先が折れてしまうので定期的に買い替えなければならないのが玉に瑕、でもまぁ事務所に行けばすぐに変わりがもらえるから・・・って、もう貰えないのか。


 これが俺にとっての最後の一本。


 それをどうやって売ればいいのだろうか。


「因みにいくらで売ればいいんだ?」


「そうですね、品質もそこまで高くありませんし銀貨3枚以上でいいでしょう」


「すごいな、見ただけでわかるのか」


「当たり前じゃないですか!」


 上司の方ではなく、何故か部下の方がドヤ顔をしている。


 上司が褒められたのをまるで自分の事のように喜んでいるような感じだ。


「なぁアンタ」


「え、私?」


「確かリサ・・・だったか。アンタにとってこの人はすごい人か?」


「当たり前じゃないですか!エリザベート様は魔族四柱のお一人!魔王様の期待を背負い日々人間どもをやっつけるべく頑張っておられるすごい人です!それでいて優しくて、笑顔が素敵で、それから・・・」


「リサ」


「あ!申し訳ありませんでした!」


 上司・・・いや、エリザベート様の冷たい一言に正気に返り慌てた様子で頭を下げる。


 ふむ、本当はもっと情報を集めたかったんだが仕方がない。


 とりあえずこの人が魔王にも認められている魔族四柱?の一人という事がわかっただけでも大きな収穫、つまりものすごくヤバいってことだな!


 そんな人を相手にこのペンをどう売り込むか・・・待てよ?さっきなんて言っていた?


 頭の中でエリザベート様のセリフを思い出し、一つの作戦を思いついた。


 これならいける。


 パズルのピースがハマると同時に確固たる自信が心の奥底から沸き上がってきた。


「あー、このペンなんだが正直に言って銀貨3枚で売れるようなものじゃない。決して品質がいいわけじゃないし、それなりに使っているからそろそろインクもなくなるだろう。一見すると価値のないように見えると思うが、実はものすごい価値が隠れているんだ」


「そんな風には見えないですけど・・・」


「まぁそういうなって。あー、エリザベート様お手をお借りしても?」


「良いでしょう」


「ではこのペンを持ってください」


「持つだけでいいんですか?」


「持つだけで結構です。出来れば一分、しっかりと握ってください」


 俺のペンを受け取り、言われるがまま右手でしっかりとそれを握るエリザベート様。


 心の中でしっかりと60を数えた後、エリザベート様の目を見てからペン先をもって一気に引き抜いた。


「さぁさぁ、今このペンを買えばエリザベート様の体温を感じられるぞ!銀貨5枚、今を逃すと二度と感じられないとっておきのペンだ」


「えぇ!?」


「ほらほら、今にも温度が抜けていく、さぁ、銀貨5枚、銀貨5枚でそれを感じられるんだ。いいのか、もう二度とこのペンを持つことは無いんだぞ」


「二度と!?」


「当たり前じゃないか、こんなペンをエリザベート様が使うと思うか?もっと素晴らしいペンを使うはずだろ?にもかかわらず俺達が使うようなのを持ってくださったんだ。これは世界に一つしかないとっておき、とか話しているうちにどんどんと冷たくなっていく。いいのか、今しかないぞ!?」


「えー、じゃぁ、買います!」


「毎度あり!」


 そのまま彼女にペンを渡すと、嬉しそうにそれを両手で受取り自分の頬に押し当てた。


 うーむ、そんなにこの人の事が好きなのか。


 でもまぁ気持ちはわからなくない。


 王都にいた時も期間限定とか限定一個とかに弱い人は多かったし、自分の好きな人の物なら集めたくなるものだろう。


 今回はその気持ちを逆手に取ってみたのだが、どうやら成功したようだ。


「というわけで銀貨5枚で販売いたしました」


「え?あ!」


「先程『私達に』と仰いましたよね?なので、リサ様に販売させていただきました。これで如何でしょうか」


「こんなのズルい!」


「ズルい?私は言われた通りにペンを販売したまで。まぁ、エリザベート様のぬくもりは無くなっているかもしれないけれど、確かにそれはそこにあった。それは貴女も一緒に確認したはず。普段ならエリザベート様が持つことがない庶民向けのペン、世界に一本しかない物を持っているんだぞ?」


 そのまま売ればただのペン、だがそれに付加価値をつけるだけで同じものでも特別なものに変化する。


 俺達商人はただ物を売るのが仕事じゃない、いかに物に価値を付けて高く売るのかが重要だ。


 ひとまずエリザベート様に言われたことは達成したわけだが、ご本人は難しい顔をしたまま動かない。


 うーむ、ちょっとやりすぎただろうか。


「貴方、面白いわね」


「お褒めにあずかり光栄です」


「決めたわ、私と来なさい」


「はい?」


 いや、いきなり来なさいって言われても。


 俺はただ辺境に行きたいだけなのにどうしてそんなことになるのだろうか。

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