9、転機
バイト先、上司二人に呼ばれる修人。
「修人、ちょっといいかな?」
…やべえ、何かしたっけ?俺?…
相談室に入る三人。
「修人、あのな、単刀直入に言おう。修人の三年間の頑張り、俺らは高く評価してる。調理師免許も取ったし、料理人としての腕もいい。だが、まだまだ学ぶべき事がある。そこでだ、これは特例だぞ。二つの道がある。一つは私から、もう一つはこの宮さんからだ。まず私から、私は修人をこの地区の本店勤務に推薦したいと思っている。これはもちろん、バイトじゃない。正社員として、本店勤務をしてもらいたい。これが一つ目の道だ。続いて宮さんから、」
「・・・、俺にゃ、世話になった師匠がいる。この街で店やってる。本格中華の店だ。なかなか弟子はとらない人だ。お前に興味持ってる。修人、この道でやってくなら、若いうちに、苦労しといた方がいい。どっちの道を選ぶか、よく考えろ」
「・・・」
「返事はすぐじゃなくても良い。二、三日考えるんだ。良い返事を待ってるよ」
「・・・」
自宅。
…修人君・・・…
…あぁ、分かってる…
…修人君・・・…
…大丈夫、…
…修人君、…
…大丈夫だって!…
…・・・…
「修人、それ、良い話じゃないの!」
「お母」
「なかなかないわよ。こんなチャンス」
「お母」
「あなたの人生よ。心のままに生きなさい」
「お母」
三日後、相談室。
「決めてくれたかい?修人」
「はい」
「どっちにするんだ?」
「・・・俺・・・、このまんまのバイトでお願いします」
「は?ま、待ってくれ、」
「俺!・・・やっぱ大学目指します」
「修人・・・。どうして?」
「約束、したんす。・・・大切な、約束っす・・・」
「しかし、だねー、君ー!」
「・・・」
宮さんがボソっと呟いた。
「・・・人にゃー、それぞれ、大切なもんが、ある・・・。金より、地位より、大切なもんが・・・。修人、お前にとって、大切な、約束なら、キッチリ、守れ・・・」
「・・・はい」




