10、陳という男
その後、修人に対する上司の態度があからさまに、変化した。宮さんに対しても同様に、より厳しく、冷たくなっていった。耐え続ける二人。当然、勉強にも影響した。
「どうした?修人。最近、全然、集中してねーじゃねーか?」
アキラの兄貴は根気強く修人に付き合っていた。
「・・・何でもないっす、」
…ごめんね。修人君・・・、ごめんね、…
…何で、オメーが謝るんだよ、…
…ごめんなさい、ごめんなさい・・・…
…大丈夫、なんとか、なる、さ、…
…・・・…
バイトに出た。
タイムカードが、ない・・・。
事務所に確認した。
「さぁ、あるんじゃないですか?よく探せば、」
よく探して、見つけた。
ゴミ箱の中・・・。
「・・・・・」
二カ月後。
「修人、今日、終わったら、俺に付き合ってくれないか、」
宮さんだった。
バイトが終わり、宮さんと二人、街に出た。メイン通りから一本外れた通りに、その店はあった。本格中華料理店。重い扉を開け中へ入る。既に夕飯時は過ぎており、客は疎らであった。席に座り、宮さんが二品注文した。暫くして、出された料理。
「修人、食ってみろ」
食べてみた・・・。ん!!!これは!!!
「どうだ?日本中探しても、この味を出せるのは、師匠だけだと俺は思う。まぁ、日本人じゃないがな」
「・・・」
「台湾出身だが、もう日本での生活が長い、」
「宮さん、何で、俺をここへ?」
「待ってろ、」
暫くして、宮さんと一人の男がやって来た。
「師匠の陳氏だ」
「よく来たね、修人君」
二人の話はこうだった。来年、宮さんが陳氏からの暖簾分けで独立する。宮さんを助けてやって欲しい。もちろん、学業を優先してもらう。来年の暖簾分けまで、ウチで勉強してみないか、というものだった。
陳氏はこう付け足した。
「料理の味には作る人の心が表れる。人生が表れる。荒んだ心で料理をしても上達はしない。心を静め、無になる事、きっと、学業にも役立つ。助けてくれないか?」
正直、心が、揺れた・・・。




