1、修人
水面が荒れている。
ザブン!
「ハァ、ハァ、ゴポ」
ザブン!
「助け、ガポ」
ザブン!
「お父さ、ガブ、」
水面に向かってブクブクと泡が立ち昇って行くのを見た少女の動きが、止まる・・・。水中に引き込まれながら薄れゆく意識の中、涙と共に見たのは、お父さんやお母さんの顔、お爺ちゃんやお婆ちゃんの顔、そして最期に海生君の顔が浮かんで、消えた・・・。
六年後。
パパパ、パラリラ、パラリラ!
「そこのバイク!止まりなさい!バイク!止まらんか!」
爆音を響かせ交通の邪魔をするようゆっくり走っていた五台のバイクは、突然、散開した。猛スピードで逃げるバイク達。追うパトカー。
「クソ!俺かよ!」
修人のバイクのケツにピタリとつけ追うパトカー。
「止まれ!危ないから止まらんか!」
逃げるバイク。加速は止まらない。これ以上はマズイと判断したパトカーは追うのをやめた。ホッとした修人、スピードを緩める。ゆっくりとコーナーを曲がる。曲がる、曲がる?曲がれ、ない!コーナーリングが膨らみ、中央分離帯に接触、転倒、吹き飛び、対向車線の停車中の車に激突した。
…ねぇ、そろそろバイク卒業したら?そのうち死んじゃうよ。ねぇ、修人…
…美香…
…アンタは何度言ったら分かるの!分かってよ!分かってちょうだいよ!修人…
…お母…
…お前のコーナーリング、気合い入ってんよな!でもいつか、死ぬぜ。修人…
…アキラ…
…あ、あのぅ…
…ん?…
…大学、目指して、貰えませんか?…
…は?…
…○○教育大学…
…はぁー?誰だ?お前?…
…大学目指してくれるんだったら私が誰か教えます…
…別に、知らんでいいし…
…こ、困ります!…
…あはは。困れ…
…良いんですか?…
…何が?…
…死にますよ。あなた…
…なぬ?別に、死んでもいい…
…こ、困ります!…
…だから、なんなんだ?お前は一体?…
…やり残した事はないんですか?…
…あるよ。あるけど、俺は・・・いいや。別に・・・…
…後悔しますよ…
…別に…
…なんで、そんなに、なげやりなんですか!生きたくても!生きられない人もいるのに!…
…なんだ?泣いてんの?お前?…
…お願いだから、生きて下さい!…
…やだ!…
…私の為に生きて下さい!…
…なんで俺が?…
…お願い・・・生きて、下さい…
…泣いてんの?あはは。分かったよ。生きてやるよ…
…あの、大学は・・・…
…やだ!…
その電子音でナースが病室に駆け付ける。
「意識回復しました!先生を!早く!」




