第二十四話「月下告白」
月明かりの差し込む平原。
涼しげな風が吹くと草が波うち音を立てた。
「お話にも決闘にも邪魔は入りません」
「そうね、どちらにもおあつらえ向き……だけどね」
希少アイテムによる転送先。
ゲームオーバーはリオンに頷くと彼女の足元に座り込んだ。
「まずはお話し」
月明かりに照らされる笑顔。
瞬時に銃を出現させられるゲームオーバー相手に武装解除は意味を為さないが、彼女の両手からは銃は消え失せている。
「……」
リオン・ルージュはやや面喰らう。
確かに話をするとは答え場所をいちいち用意はしたがここまでフランクに来るとは思わなかったからだ。
互いに武具を構えながらかを勝手に想像していたのである。
「どうする? それとも先に決闘? 私はこっちが先の方が良いと思うけど……」
「あなたは……」
少し変わってますね。
それは敢えて口にしなかった。
目のつぶり呪文を詠唱しての武装解除。
粒子に分解していくように朱の鎧は消え失せ、朱の布地のシャツに黒い長めのスカートにブーツという出で立ちに変わった。
「便利ね」
「え?」
「今の魔法よ」
「武装解除魔法、知りませんか?」
「あまりよくは知らないわ、解く所は始めてみたかも」
武装解除魔法に驚くゲームオーバー。
そんな彼女の態度がリオンには意外だった。
武装装着、解除の魔法のレベルはごく低い。
魔法とは殆ど縁のない職種を主に学んでいる者でもいちいち装備を着けたり外したりが面倒なのでという理由で簡単に取得できる。
更に発展して手に入れた武具や鎧の中から戦況や敵に応じて、装着種類を変える魔法は少しレベルが上がるが固定した装備を指定するそれは冒険を初めて二週間もしたキャラクターなら取得できる魔法である。
ジャンパーにTシャツ、ショートパンツというイシュタルオンラインの世界からはかけ離れた格好のゲームオーバーには銃の具現化出現能力さえあれば構わないという事だろうか。
「解く所は始めてですか?」
「着ける所は沢山見たわ、もしかしたら何処かで解くのも見たかもしれないけどね、目の前でちゃんと見るのは初めてよ」
なるほど……
世界屈指の暗殺者、ミス・ゲームオーバーの前で装備を解く者はそうは居なかったという事。
リオンはそう解釈してゲームオーバーが脚を伸ばして座った横に正座をした。
「脚を崩さないの?」
「小さな時から崩して座る事をしてこなくて、こうの方が落ち着きます」
「キャラクター設定?」
「違います、私自身ですよ」
「お嬢様なんだ?」
「友人にはそうからかわれる時がありますが大した家じゃありませんよ」
嫌らしさは感じない笑みにリオンも僅かに口元を緩めて首を振る。
「私はダメ、学校では座り方すら規則があるんだけどね、育ちが普通中の普通だから」
「学校でですか?」
「そう……厳しい学校でね、実はこういうオンラインゲームも禁止になるんじゃないかという話もよく出るけど今の所は何も無し、逆に古い分イシュタルオンラインを知らないのかも?」
「オンラインゲームを今の時代で知らない人は珍しいのでは?」
「珍しくなんてない、オンラインゲームなんて無くても死んじゃう訳じゃない、全世界で何千万とか自慢しちゃってるけど所詮はゲームじゃない、全世界の半数以上の人間はオンラインどころかテレビすら視ていないのが現実、何が全世界ゲーム、何が第二の世界なんだか」
その言葉にリオンは険を感じた。
ゲームオーバーというキャラクターに扮するプレイヤーは何処かでオンラインゲーム自体に特別な感情を持っていると感じる。
「ミス・ゲームオーバー」
「ん?」
「まず話を聞かせてください、あなたは今までターゲットにしてきた者達を興味がないと言い放ちましたね?」
「ええ……」
「何故ですか? シークレットレアによる精神自殺はもちろん知ってます、その蔓延を防ぐ為にあなたは強制ログアウトという抹殺行為をおこなってるのではないのですか?」
「違うわ」
柔らかな返事。
だがそれは断言だった。
ゲームオーバーの銃殺の行為はその向こうに相手を、そして新たに現れる恐れのある精神自殺者に向けられた者ではないのだ。
「精神自殺者にも家族や恋人、友人がいるわ、精神自殺者達はその人達をある意味見限り見棄て別世界に行こうとしている、見棄てられた人達はどうすればいい? 愛する人が死後の世界を選んだならともかく別世界で生きようとしているのよ、私はそんなの認めないわ、認めないからこの世界から抹殺するの、抹殺して追い返すのよ」
「ゲームオーバー、まさかあなたはその見棄てられた……」
瞳を曇らせて問うリオン。
「ええ、私も見棄てられた人間……大切な人が数ヵ月前にこの世界に消えたのよ」
ゲームオーバーはリオンの問いに強く首を縦に振り、
「私のミス・ゲームオーバーとしての行動は全て仮想という嘘っぱちな世界に逃げ込み、親しい人達を見棄ててきた勝手な人達を目覚めさせる為、そしてあの人に帰ってきてもらう為にあるのよ」
そう黒の瞳を鋭くさせたのだった。
続く




