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第二十二話「接近対決」

「はぁはぁ……はぁ」


 世界的ネットゲーム、イシュタルオンラインの街は眠らない。

 松明、ランプ、魔力灯、繁華街には様々な明かりと雑踏か溢れていた。

 その中を縫うようにゲームオーバーは駆け抜けていく。


「ゲームオーバーじゃん!」

「どうしたんだ?」

「ミス・ゲームオーバーのお出ましだ」

「何を逃げてんの?」

「神聖騎士隊から狙われてんだよ」


 こういう時に顔が知れているのは良くない。

 格好も目立つゲームオーバーを観て周囲の冒険者や街の者が騒ぎ出す。


「チッ!」


 舌打ちしながら後方に振り返るが追ってきているであろうリオン・ルージュは確認できない。


「追いかけてきてない?」


 雑踏を歩く冒険者達に隠れているのかもしれないと立ち止まり瞳を凝らすがやはりわからない。

 リオン・ルージュは百五十㎝をようやく越える身長、大抵の冒険者より小さい。

 こちらからも見えにくいが追いかける方も一苦労だろう。


「ネメシスッッッ!!」

「!!」


 ふと安心しかけた途端、雑踏の中から叫びと碧白い閃光が煌めく。

 咄嗟に横に跳ぶ。

 だが閃光はジャンパーごと背中を切り裂き鮮血を舞い散らせる。


「くぅぅぅぅぅっ!」


 地面に身体を打ちつけつつゲームオーバーは苦悶の声を上げた。

 リオン・ルージュの剣ネメシスの閃光が背中を切り裂いたのは間違いないが、これだけの人混みでそれをしたにも関わらず他の人間には全く影響が出ていない。

 閃光は人々をすり抜けてゲームオーバーのみを傷つけたのだ。


「ネメシス……天罰は降す相手以外は決して傷つけません、手応えがありました、仕留めてはいませんがかなりのダメージはあるはずです」


 自信満々の笑み。

 紅い鎧に身を包むリオンの歩みが引き裂くように人混みが開いていく。

 もちろん邪魔する者などがいる訳がない。


「ゲームオーバーとリオン・ルージュ、遂にやりあってるのか?」

「もう決着か? でも立ち会えるなんてラッキーだ」

「たまたまログインしてて良かった」


 騒ぎ立てる野次馬達。

 それらが道を開けていく先に地面に身体を臥せたゲームオーバーが……居なかった。

 そこにあるのは血だまりのみ。


「!?」


 眼を見開くリオン。


「バカ正直」


 自分を避けた筈の人混みから銃を握った手が伸び出て引き金を引く。

 四発の銃声。 


「くぅぅぅぅっ!」


 それらは全てに捉えられたリオンはその場から吹き飛び、身体は数メートルは後方に飛んで仰向けに倒れ込んだ。


「ネメシスの衝撃波は狙った相手以外を傷つけないのは何となく理解してたわ、宿屋の廊下で放った時にあれだけの閃光が床板一枚傷つけなかったのは観ていたから、味方討ちや関係ない人間や建物まで巻き込まずに透過する、早い話が盾を構えようが建物を隔てようが防ぎようがない、なかなか恐ろしいわ」

 

 銃を構えて人混みから歩み出るゲームオーバー。

 だが足取りはやや重い。

 ネメシスの衝撃波の透過能力予感していたお陰で直撃は避けたが確かにダメージは負ったのだ。

 

「なるほど……」

「なっ!?」


 呟いて立ち上がるリオン。 

 完全に倒したとは思わなかったが予想外の立ち上がりの早さ、今度はゲームオーバーが驚く番だ。


「正中線はこれで防ぎ、後は魔法力を宿した鎧に任せました……しかし一瞬の隙の間にあれだけ正確に四発も撃ってくるなんて、流石はミス・ゲームオーバー」


 リオンは宝剣ネメシスを構える。

 撃たれた瞬間に剣で身体の中心線を縦に護ったのだ。


「反応されたの? 参ったわね」

「こっちの台詞ですよ、逃げる際だというのにこちらの放った一撃を抜け目なく観察する辺りや躊躇なく周囲の人間を利用する所には私は到底かないません」

「誉め言葉に聞こえないわ」

「もちろん誉めてません」


 互いに構える。

 二丁のオートマチック拳銃と宝剣ネメシス。

 偶然居合わせた者達は黙って見つめる事しか出来なかった。

 ヤジなど飛ばせる相手ではない。

 動いた。

 先手を獲ったのは意外にも格闘武器を持ったリオンだった。

 素早い飛び込みからネメシスを横凪ぎに強く振るうが、ゲームオーバーはそれを上体を逸らすだけで躱す。


「チッ!」

「今までの相手の中で一番の鋭い剣捌き、だけど剣撃の軌道は見飽きたわ」

 

 最低限の動きで斬り込みを躱せば反撃の手番は当然、こちらにある。

 超至近距離から右手の銃口がリオンを捉え火を吹く。

 が……寸前にリオンの左手が伸び銃をほんの軽く横に押した。


「くっ!」


 当然、銃弾はあさっての方向に飛び去る。


「銃弾なんて真っ直ぐしか飛ばないほんの小さな点です、手元で数㎝ずれたら目標にはまず当たりません、見飽きなくても対処しますよ」

「そりゃ、なるほどっ……」

「こちらもっ」


 ゲームオーバーは二丁拳銃だ、左手の銃口を向けるが今度は右手に持ったネメシスがゲームオーバーの左肘に軽く触れる。

 触れる程度だ、いかな切れ味の剣であってもダメージはないが腕がぶれて銃撃には致命的な擦れが生じてしまう。


「こ、のっ!」

「これだけ近寄れば銃撃を避けるよりも銃撃自身を邪魔した方が有効、今度はこちらが頂きますっ! ネメシスッッッ」


 片手でのショートレンジからの斬り上げ。

 互いの手が触れようかという距離からネメシスのような標準的な刀身の剣を振り上げるのは至難の技だがリオンには十二分に可能な技術。

 だが剣は動きを止める。

 今度はゲームオーバーが左手でリオンの右手を直接押さえていた。


「なっ!?」

「お返し、直接斬るのはもちろん、ご自慢の衝撃波も剣を振らない限りは起こらないんでしょ?」

「こ……」


 ニヤリと笑うゲームオーバーに意識が高ぶりかけるリオンだが、ふと笑みを浮かべる。


「なるほど魔力の具現化能力による拳銃ですか、数瞬前まで両手に持っていた拳銃が無くなっている」

「ご名答、鋭いわね」


 ゲームオーバーの右手に再び黒のオートマチック拳銃が出現する。

 超至近距離から銃口が顔面に向けられるが、もちろんリオンも黙っていない、ネメシスを持った右手を相手の左手に押さえられている以上はやれる事は限られる。

 左手を伸ばし、拳銃を持つゲームオーバーの右手首を押さた次の瞬間だった、リオンの身体はグルンと回された。

 比喩ではない、その場で回転させられたのだ。


「!?」


 投げだった。

 手首をわざと捕らせての返し投げ。

 合気柔術の類いの技だ。

 流石のリオン・ルージュも知らなかった意外すぎるゲームオーバーの切り返し。

 リオンは冷たい石畳に背中から強く身体を打ちつける。


「ぐっ……」

「ゲームオーバー」


 決め台詞と共に見下ろしで放たれる銃弾。

 だが素早く頭を護るように上げられた右手の手甲に当たって弾かれた。 

 頭さえ撃たれなければ即ゲームオーバーはないと即座に護ったのだ。


「決め台詞まで言わせておいてしぶといっっ!」

「当たり前っ!」


 何度目かの舌打ちをするゲームオーバーに仰向けの態勢のまま剣を振り回すリオン、そのような状態ではスピードも乗らなくゲームオーバーはバックステップして容易くそれを躱すが元々当てるつもりはなく、その隙を狙ってリオンは立ち上がった。 

 仕切り直しに周囲が湧く。

 数メートルの距離での再びの相対。

 気安く距離を詰められる相手ではない。

 会ったことのないレベルの相手。

 相手が息を整えているのを承知で自分もそれを行った二人は互いの瞳を見合った。


「ミス・ゲームオーバー、本当にあなたは強い」

「あなたもね」

「もしあなたが反省して他の者をこの世界から排除する行動を止めるなら私の騎士隊に厚遇をもって迎え入れたい」

「手当たり次第殺しているつもりはないわ、私が倒しているのは現実を棄てて、この世界に逃げている人と私の邪魔をしている人達だけ」

「シークレット・レアによる精神自殺」


 ポツリと呟くリオンに頷くゲームオーバー。


「仮想の世界を現実からの逃避世界にする事は出来るけど、現実と取り換える事は出来ないわ、あなただって現実はリオン・ルージュではないのでしょう?」

「……」 

  

 返答はしなかった。

 ただリオン・ルージュのプレイヤーは数瞬、自分を振り返った。


「仮想世界から帰ってこない息子、親類、友人、果ては親まで居た……それはそれでと私は思う、本人の事には正直興味がないの」

「興味がない?」


 意外な言葉にリオン・ルージュはやや構えた剣を下げる。

 それでも戦闘状態を解いた訳ではない。

 その話をもう少し詳しく、という意思表示のつもりだった。


「そう、興味がない」


 意思表示が伝わったのかゲームオーバーも銃口をやや下げて周囲を見渡す。

 沢山の野次馬。

 ビッグネーム同士の対決を見届け話のタネにでもしたい者達だ。


「リオン・ルージュ」

「はい」

「なんだかあなたには少しだけ話してもいい気がしてきたわ、でも話すにしても話さずに闘うにしても野次馬に聞かれるのも、流れ弾に巻き込むのも避けたいのだけど……」

「ですね、討伐対象であることは変わりませんが、良いでしょう……場所を変えましょうか」


 ゲームオーバーの申し出にリオン・ルージュもネメシスを鞘に納め、小さな銀色の鳥の羽根のような物を取り出した。


「旅の銀羽根」

「超のつくレアアイテムだ」

「いいなぁ」


 周囲から声が起こる。

 旅の銀羽根。

 地点を登録すればかざして振るだけでパーティをそこに連れていってくれるアイテム。


「ルーラね」

「そう呼ばないでください、馬車や船があって馬車駅などが重視されるイシュタルオンラインではその行程を省いてしまうアイテムは滅多に無いんですからね、何だかお手軽感が出ちゃいます」


 よく呼ばれる通り名を言ったゲームオーバーにリオンはため息をついて、


「では二人で少し人の来ない所で話しましょうか」


 と、ゲームオーバーの手を取り銀色の羽根を軽く頭上で振った。




                    続く


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