おまえ、ちっさいなぁ。
東の国、イーストエルフィンのお話。
ドンドンドン! とドアを何度も叩く男性が一人居た。
「はいはい、こんな夜中にどなたかな?」
呑気な声で家主の男性が家のドアを開ける。
「夜分に失礼。イーストエルフィン第3王子、オーリックと申します」
「なんだって~? ごめん、もう一回言って」
「イーストエルフィン第3王子、オーリックと申します。不躾で申し訳ありませんが、匿っては貰えないでしょうか」
「うん、もっと大きな声で言って。聞こえない」
「不躾で申し訳ありませんが! 匿っては貰えないでしょうか!」
「あ~はいはい、良いよ。男ならもっと声出しなよ」
「私は初めから、かなり声を出してるつもりだったのですが。貴方の耳が遠いのです」
男性の家に入れてもらうと、オーリックは逃げてきた経緯を語り始める。
「隣の小国と、戦争がありまして。父上、つまり国王陛下が自らご出陣なされたのです。
そしてその隙を狙ってあの宰相がクーデターを……」
「ふーん」
「王族は捕らえるか殺せ、という命令があったのか私のところにも追手が来て……。
逃げる途中に森の中でさまよい、馬や部下さえも見失い、その果てにこの家を発見したということです」
「なるほど、ところでメシだしてやったんだからもっと食えよ」
机に置かれた皿には、サラダが山のように盛りつけられている。
「私にとっては、このぐらいの量が丁度いいんです」
ドンドンドン! ドアを叩く音がする。
「まずい、追手かもしれません。どこか隠れる所はありますか?」
「ああ、あるよ」
ガチャリと家主がドアを開ける。
「はいはい、こんな夜中にどなたかな?」
そこには黒色の鎧を纏った人間が5人居た。
「夜分に失礼。ここにオーリック王子は居ますか?」
「あんだって? もう一回言って」
「オーリック王子はここに居ますか? と聞いているのです! 居るんですか、居ないんですか!?」
「いや、いないよ」
「しかしですね、ここでオーリック王子の叫び声を聞いた者が居たのです。
貴方のような方だと、家に入られて気づかないということはあり得るのでは?」
「そうかなぁ?」
「いずれにせよ、家を捜索させてもらっても構わないですよね?」
「ああ、いいよ。でもなんでオーリック王子を捜してるんだ?」
「貴方には関係のないことです」
リーダー格であろう人間が指図をすると、その他の人間も男性の家にズカズカと入っていった。
2時間30分後。そこには汗だくになった人間が5人いた。
「くそ、これだけ探したのに、この家にはいないだと? 確かにいるという情報があったのに……」
「隊長、我々は偽の情報を掴まされたのでは?」
「あぁ、そうだろうな。この情報を流した奴は、鞭打ち刑だ。絶対にな!」
家主は呟く。
「おまえ、ちっさいなぁ」
隊長と呼ばれていた男はギッと家主を睨む。しかし、すぐに視線を元に戻す。
「だが、時間は無駄にはしていられん。王が戻ってくる前にこの国にいる王族の暗殺を完了させるのだ」
「「はっ」」
5人の人間は、夜の森の中に消えていった。
しばらく後、ひょこっとオーリックは隠れていた場所から顔を出す。
「匿ってくださいとお願いしたのが、貴方のような優しい巨人で本当によかった。
我々人間の二十倍はあるその体とその服でなければ、私が貴方の胸ポケットに入り、隠れることは出来なかったでしょう。
しかし分からないのが、何故あいつらは貴方の巨大な家だけを捜索し、貴方の服を調べなかったのか、ということです」
「焦って、小さいことにしか目が向かなくなったら、何事も気付けないものなのさ」




