7話
―――コン、コン。
ガルバがドアをノックした。
先程までとんでもない顔で恍惚の笑みを浮かべていた闘技場のオーナーはがらりと表情を変えた。
その勢い、変面もかくや。
一方で、オーナーと話していた青年は、突然の来客に驚いていた。
というより、ダブルブッキングすんなよ―――と口に出さずに愚痴っていた。
「ほぅ、入り給え」
「失礼します。フィールド内にて未登録の少年を発見したため、連れて参りました」
ガルバはそう告げて、部屋の中に入っていった。
俺もそれに続いて入る。
部屋の中には、俺とガルバ、オーナー、そして騎士風の青年の四人がいた。
オーナーは、今この瞬間までその男と話していたようだ。
すると、オーナーがこちらに意味ありげな視線を向ける。
顔や身につけている制服を見ているようだ。
俺はどうすればいいか分からず戸惑う。
「まずはオーナーに自己紹介をしなさい」
「あ、あぁ。カイといいます、よろしくお願いします―――ところで、そちらの方との用事は?」
「いや、それは構わ―――」
「ダブルブッキング。私はまったく詳細を知りません。まぁ、お構いなく」
青年はオーナーの発言を遮って、冷淡に言った。
食い気味に言った。
ちょっと怖い。
その言い方は、怒っているときにする言い方だ。
だが、俺の話題を優先させてくれるらしい。
というか、目の下にあるクマがヤバい。
彼の気だるげそうな目の、実に二倍ほどの大きさをしている。
かなりの重労働なのだろうか。
現に今、こうしてオーナーと会話もとい営業をしに来ているのだから。
「すまないねぇ、副団長殿。だがすぐに終わるだろうから、この部屋に居てもらって構わんよ」
「そうですか。では隅の方で待機しておきます」
副団長と呼ばれたその青年は、部屋に残る意思を示した。
そして席から立ち、そこに座るようにと俺を諭した。
「カイ君、事情を説明できるかね?」
「―――はい。学校で居眠りをしていたはずが、フィールドの中で目が覚めて。そして目の前にはゴリラがいて、殺されかけたんです」
「ゴリラってのは、グリーンピースのことかな?あいつは看板モンスターだったのに、またもサイキックボーイにやられちまったよ」
「俺は彼に助けられました」
「それは幸運だったな。だがあのガキ、客寄せにはなるが、身体が弱いもんだから回転率が悪い」
少し憎たらしそうに、オーナーが言う。
客寄せだの回転率だので人間を評価するオーナーの姿勢には違和感を覚えた。
だがあの少年もまた、闘技場での戦いを望んでいるのだろう。
彼が勝ちにこだわる理由を知りたい。
「彼は、どうしてそこまでして戦うんでしょうか」
「あぁ―――奴は闘技場で生まれたんだ。具体的には、戦士同士の子供ってわけだ。戦いを求める血が濃いんだろう」
「そうなんですね―――」
彼に、そんな出自があるとは思わなかった。
生まれてから、視界に映ったものすべてが戦いだったのだろう。
俺には想像できない人生だ。
「ところでカイ君、君に帰る場所はあるのかい?あるのなら、ガルバに送り届けさせるが」
「あるにはあるんですが―――こんな闘技場、見覚えなくて。もしかしたら、遠い所まで来てしまったのかもしれません」
「そうかい。だがこちらとしても、君を無条件で預かろうとは思っていない。君の取れる選択肢は、ここで働くか、ここを出て帰る場所を探すか―――ここで戦うかだ」
俺は与えられた選択肢を吟味する。
そもそも、俺は別の世界に来てしまったのではないか。
巨大なゴリラや超能力は、俺の世界には存在していなかった。
じゃあここは、元いた世界―――現実世界とは別の世界だ。
それなら、自宅を探そうとしたって無駄だろう。
そして、戦うのもなしだ。
俺があんな怪物を倒せるとは到底思えない。
であれば、闘技場で働くべきなのか―――
「―――その前に、質問よろしいでしょうか」




