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第六十七話 告白

「こらーーーー! 貴族と聖者共、さっさと出てこい!」

「蛮族の軍が攻め込んでるっての本当なわけ!? 早くあんた達何とかしてよ! 街の兵士は皆逃げちゃったのよ!?」

「てめえらだけ、アマテラスに逃げようってのか!? ふざけるな! この国が・・・・・・俺たちがこんな事になったのも、全部お前のせいだぞ!」


 月夜の元で、大勢の都民達が、この王城を取り囲んでいる。松明等の明かりを持っている物もいて、王城の周りは今までよりも、少し明るくなっている。

 その数は数万人にも及び、中には刀剣やスコップなどの凶器を持ち歩いている者もいた。中には元々王都内で働いていた、魔道士や傭兵の姿まである。


 王城周辺には深く広い濠で覆われており、上げ橋が上げられている今、外部から容易に侵入できない。

 これまでに何回か、船を濠において王城への侵入を試みるものがいた。中には魔法の心得がある者が、空から濠と城壁を飛び越えようとする者がいた。

 そういった者達を、城壁の上の兵士達が、銃砲や魔法を撃ちまくって、何度も追い払っていた。


「これはもう反乱だぞ! 鎮圧の軍はいつ出せるんだ!?」

「はっ? お前馬鹿か? あんなの今さら鎮圧なんてできるかよ・・・・・・」

「濠も城壁も無事だし・・・・・・このままここに立て籠もっていれば、大丈夫だよな?」

「でもさ・・・・・・その間に、討伐軍が王都まで押し寄せてきたら?」

「貴族だけ逃げようとしてるって言ってるけど、あれってマジ?」

「知らないわよ。聖王が死んだっていうけど・・・・・・この後どうするかなんて、誰が決めるのよ?」


 王城内の兵士達も、今はまだ城を守るために働いているが、彼らの動揺と恐怖も大きい。だからといって、他に逃げるところもない。

 このまま城内でも、いつパニックが起こってもおかしくない状態だった。


「おい、お前ら何をしている! 余が止まれと言っておるのだぞ下賤共! 早く余を、安全な所へ・・・・・・」

「うるせえっ、クソガキが!」


 ドゴッ!


 状況を受け入れられず、未だに下の者に横柄な態度をとろうとした、側室や王子・王女達が、兵士達に暴行される事案が、王城内の各地で起きている。

 さてそんな混沌状態の王城の、とある庭園で、右往左往していた兵士の一人が、ある人物の姿を目にした。


「ちょっと・・・・・・あの人、教皇じゃないの? 何で城内にいるの?」


 とりわけ高価そうな法衣を着ており、庭園の中を急ぎ足で進むその中年の男は、神殿から脱走して行方不明になった、ロア教の最高階位者であった。






 王城内の堂塔の一つ、本来は聖職者らを歓待するためのその場所。その中の隠し階段から続く地下に、教皇が足早へと降りていく。

 神殿の方から、どのような手段で、濠と城壁を乗り越えて、この王城内に彼が入りこんだのかは不明だ。何か魔法でも使ったのだろうか? いやそれ以前に、何故彼が、今敵が陣取っている、この王城に入り込んだ目的が謎であるが。


(アマテラスの屑共めが・・・・・・これで勝ったつもりか? 国がどれだけ荒れようが関係ない。私にはまだ奥の手があるのだからな・・・・・・)


 彼が降りた先の地下内には、貯水プールのような、妙な施設があった。魔法式の明かりがついた、城の大広間にも負けない地下空洞。地下鉄道のような石の壁が塗り固められたそれは、一見質素に見える。

 魔法の器具なのか、辺りには大きな水晶代や、魔方陣の書かれた大きなカーペットが、各地におかれている。各地の壁には、別の部屋へと続くと思われる通路が何本もあり、結構大きな施設であることが判る。


 その部屋の中央に、縦横五十メートルほどのプールのような窪地が、幾つもの魔方陣に囲まれながら、その広い地下室の中にある。

 そのプールの中には、液体が溜まっているが、それは水ではない。それは墨のような真っ黒な液体。臭いなどはないが、何やら視覚だけで、嫌悪感を抱いてしまいそうな色合いである。

 ここはどう見ても、教皇始め聖職者らを招くための、歓待部屋には到底見えない。教皇はその謎の液体を、まるで救世主のように微笑んで眺めていた。


(本当はこいつを使って聖王を脅し、いずれ私がこの国を掌握する予定だったが、こうなっては仕方がないな。討伐軍が押し寄せてきたら、あのアマテラスのサムライ共諸とも、こいつを使って・・・・・・)


 その教皇が何やら悪巧みしている中、この謎の部屋に突如彼以外の複数人の足音が聞こえてきた。

 地下であるだけに、その足音はよく響き渡る。教皇が振り向くと、手早く地上からここまで、階段を降りてきた者達が姿を現した。


「何だここは? 何故聖殿の下にこのような・・・・・・あいつは!?」

「やっぱり教皇だわ! 見間違いじゃなかったわ!」

「貴様は神殿から逃げたはずだ! 何故王城内にいる!?」

「どこかに隠し通路でもあるわけ!? だったらそれを教えない!」


 ここに駆け込んできたのは、十数人の兵士達。彼は武器を構えて、教皇を捉えようと近寄ってくる。教皇は最初は怯えたものの、すぐに観にくい笑みを浮かべ始めた。


「何故ここにいるのかって? それは勿論、この国を救うためさ!」

「何をほざい・・・・・・何だそれは!?」


 近寄ってきた兵士達も、その異様な液体を貯め込んだプールの存在に気がつく。その怪しい雰囲気に、教皇を捕らえようとする手が、一時止まる。


「これは魔道研究部が、私からの依頼を受けて作った、究極の魔人だよ。今はまだ休眠中だがな。研究部の奴らは、もう逃げたようだが、私ほどの魔道士ならば、これを操るぐらい容易い。この力を使って、反逆者だらけの王都と、諸国の蛮族共を潰す。そしてこの魔人を量産し・・・・・・」

「ふざけるな! 魔人などという、穢れた者の力など、誰がアテにする!」


 一時はその異様な存在に恐れをなした兵士達だが、教皇の言葉を聞いて、再度激昂しだした。


「穢れていようがいまいが、この力は我が国には必要なのだよ。それにこれは女神ロアもお認めになったこと。ならばお前らも、ロアの信徒として、そのお言葉に従い・・・・・・」

「ふざけるなと、二度も言わせるな! ロア教などもう知ったことか! もう百年以上も我らを騙しやがった宗教など、さっさと滅びるべきだ! アマテラスのサムライ様達が、我らのために必死に尽力されようとしている。ならば我らも、それに応えるまで! これから貴様と、貴族院の屑共を討伐軍に差し出し、諸国と和解を求める。そしてこの国は、今一度正しい道へと、歴史をやり直すのだ!」

「まさか・・・・・・蛮族共と馴れ合おうというのか? あのような穢れた者たちこそ、世界を破滅に追いやる異端者達だぞ!」

「蛮族と言われるべきなのは貴様の方だ! もうロア教の腐った声など、聞きたくもない!」


 兵士達が教皇を拘束しようと、再度歩み出る。それに教皇は、手に持っている魔道杖を構えだした。


「やれやれ・・・・・・ディークの神聖なる兵も堕ちるところまで落ちたものだ。これは私が再度、国も人も兵も、正しく導き直しやらねばな。言っておくが、この私が家柄と金だけで成り上がった者だと思うなよ。貴様らごとき私の魔法で・・・・・・」


 教皇が言い終わる前に、兵士達が一斉に教皇に斬りかかってきた。捕らえる気でいたが、教皇の魔法の力を感じ、即座に殺害せん勢いで突撃する。

 それに教皇の魔道杖の先端が、強大な魔力を放出して輝きだした。






 さてそんな地下での出来事は誰にも知られず、場所は王城内のニンジャ発着地点に戻る。


「ちょっと待ってよ勝太郎さん! 冗談でしょ? 何で私が・・・・・・」

「馬鹿みたいな頼みなのは判ってるよ・・・・・・でも今の状況だと、お前にしか頼めないことなんだよ・・・・・・。頼む! 事が済むまでの少しの間でいい! この役を引き受けてくれ!」


 その場は少々、ややこしい事態になっているようだった。先程逃走を図ったラファエルは、真澄に足を撃たれて、ロープでグルグル巻きにされて、そこら辺の適当なところに転がされて涙目になっている。

 見ると彼の周りも、彼と同じような状況になっている者が、何人もいた。これは後から、城の兵士達が捕まえてきた、貴族院議員達だ。

 王城内の者達。特に下級兵士を中心とした多勢の者達が、聖王府から勝太郎達の側に寝返っている状況。反乱は外の民衆だけでなく、王城内部でも発生していたのだ。


 さてそんなどう収拾をつけるのか、混乱した状況の中で、周りよりももっと混乱した状況で叫んでいるのはラチルであった。

 そのラチルに、勝太郎が頭を下げて、何やらかなり真剣な面持ちで、何かを頼んでいる。


「ていうか勝太郎さんは、どうしてこの国のためにそこまでするわけ!? もう私からの頼みは片付いたじゃない! それにあの大翔って男とは戦いたくないって・・・・・・」

「ああそうだな。俺も一時期諦めたが、あの時のカーミラの言葉のせいで、それもできなくなったよ。大翔とも討伐軍とも戦うことなく、事を収める方法が、実はあったんだからな・・・・・・。何故そこまでするのかというと・・・・・・俺個人の意地だな。大翔にしちまったことの償いのつもりで、今まで何でもいいから、何か善事をしようと思ってた。その大翔が生き返って、俺のしてることと対立したことで、その意義が大分薄れたが・・・・・・だからって、今更後には退けないんだよ。この城の兵士達も、俺達がこの国を救ってくれると信じてる。あいつらを見捨てたら、また俺は死んでも忘れられない後悔をしちまう・・・・・・」

「そんなのあいつらが勝手に期待したことじゃない・・・・・・」

「そう思わせるようなことを、こっちも判っててしてきたのは事実だよ。 それにそこの聖者達だって、この国を完全に捨てきれない奴も、いっぱいいるじゃないか・・・・・・」


 指摘された聖者達も、この様子を黙って見続け、そしてラチルに対して何かを期待しているような眼差しを向けていた。

 中には「さっさと言うとおりにしろよ!」と言わんばかりの、威圧的な目をしている者もいる。これを見てラチルも、大分萎縮していた。


 あの後で、ラチルに関して、ある重大な事実が明かされた。それは実は王政府では、多くの者が既に知っていた事実。そしてついさっき本人にも知らされて、とてつもなく迷惑に思った事実。

 だがそれは、この国を救う唯一の道を示すものでもあった。


「だ・・・・・・だからって、何も私を選ぶ必要もないじゃないの! この城には私と“同じ立場の奴”が、まだ山ほど残ってるわ。私の代わりなんて、そこら辺にいっぱいいるのに、どうして・・・・・・」

「残念ですけど姉さん・・・・・・それは多分無理です」


 そう声をかけたのは、何やら哀れむようで、そして他の聖者同様に懇願するような目を向けるルチルであった。


「実は姉さん達が、勝太郎さんを迎えにいってる間に、その人達と会ったんですが・・・・・・とてもじゃないですけど、こんなこと任せられるような性格の人達ではありませんでした。もしあの人達に、その役目を与えたら、その立場を利用して何を言い出すか・・・・・・」

「問題なのは性格だけじゃないぞ・・・・・・大衆がそいつを信じるかが問題だな。何しろ今までしてきたことが、あれだったからな。民衆の評判は最悪だよ。こうなると一番マシな立場なのは、今まで魔人狩りに協力して戦ってきたお前になるな」


 真澄までもが、皆の意見に賛同の意思を示す。やりたくもない役目を、勝太郎だけでなく、自分以外の全員から突然求められ、ラチルは立場的にかなり追い詰められていた。

 そして更に追い打ちをかける言葉を、勝太郎が突然口にした。


「それに・・・・・・俺が助けたいのはこの国の民だけじゃない。お前もだよ・・・・・・」

「私が? そりゃあ勝太郎さんには、何度も助けてもらって・・・・・・」

「今の事じゃなくて、もっと先のことだよ。もしこのまま大した成果も上げずに一生を送れば、お前もそこの聖者達も、死後地獄に堕ちる運命にあるんだよ。冥界の・・・・・・この世界の本当の神々の審判だ」

「・・・・・・えっ?」


 これに目を丸くして、口をだらしなく開けたのは、ラチルだけではなかった。勝太郎の突然の告白に、聖者達も似たり寄ったりの反応を示している。


「何よ、それ!? 私聞いてないんだけど!?」

「そりゃ気軽に言える事じゃないからな。これを聞いたのは、俺がこの身体を貰う前の事だ」

「はあっ!? 冗談じゃないよわ、何でよ!? 私が今まで聖王府に従ってたからなわけ? あんなの皆騙されてのことで、私らのせいじゃないじゃない!」


 呆けていたラチルは、現実を受け止めると、この不条理としか言いようがない話しに憤って、声を荒げる。


「確かに理不尽な話しだと思うが・・・・・・冥界の鬼神達が、そう決めちまったんだよ。言っておくが、地獄行きはこの国の民、皆だよ。多くの国を虐げることを、女神の示したことだと信じ込まされて、それを認めてきた奴ら、全員が罪人扱いなわけだ」

「国民全員・・・・・・ちょっといくらなんでもそれは・・・・・・」

「ああ、だが例外もいる。ルチルだけは、アマテラスでの功績のおかげで無罪放免だ。だからそれと同じ事をすればいい。この国全体が、これまで虐げた奴らに、生前からきちんと謝罪と贖罪の意思を示せばあるいはな・・・・・・。だからこの国が正式に諸国と和解しないといけないんだ・・・・・・」


 これまでディーク人の命など、どうなってもいいようなことを言ってきたラチル。だが今回の、死後の裁定に関しては、さすがに彼女はやり過ぎと思ったのか、大分引き攣っている。

 そしてこの話を聞いていた、聖者達もまた、話しを理解すると共に慌てだした。


「地獄ってそんな・・・・・・私達そこまで悪いことしたっての!?」

「ていうか勝太郎様、この世界の本当の神と会ったんですか!? ロアの女神とかのインチキじゃなくて・・・・・・。あなた一体何者ですか!?」

「嫌よ、地獄なんて! 何か善いことすれば、本当に免れるの!? だったら何でもするから、何をすればいいの!?」

「ラチルさん、お願いこの話し受けて! 何か手伝うことがあるなら、何でも教えてよ!」


 ロア教とディークの本性を知ってショックを受け、ようやく現実を受け入れ始めて落ち着いてきたところの、更なるショッキングの告白。聖者達は慌てふためき、一斉にラチルに詰め寄り出す。


(何これ・・・・・・どうあっても引き返せないわけ? ディークを見限れば、完全に解放されると思ったのに・・・・・・。私が助かるには、私自身がこの国のために、そこまでしないといけないっていうの?)


 自身の身の安全を否定され、完全に外堀を埋められたラチル。彼女は最初から、この国から完全に逃げるのは、許されない立場であった。

 その事実を知らされ、ラチルは悩むことすら認めらない事態を、少しずつ受け入れ始めたときに、ラチルの中である決意が固まった。


「そうね・・・・・・私も地獄行きなんて嫌だし。それに勝太郎さんがそこまで望むなら・・・・・・今までして貰った分を、きちんと返さないとね・・・・・・。でもそれなら・・・・・・ちょっと贅沢だけど、一つお願いをして貰ってもいいかしら?」

「何だ? 俺にか? 言ってみろ」


 彼女が目を向け、声をかけているの勝太郎。その勝太郎にラチルは、大きく深呼吸をし、そして決死の意思で、一世一代の告白をした。


「もし全部が上手くいったら・・・・・・勝太郎さん・・・・・・私と結婚して!」

「えっ? ああいいぞ」


 即答であった。

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